三途の川だが、正直小町さんがこちらに来るのを待って渡し賃を払えば楽なのかもしれないと思えた。それほど広く、果てしないものだった。そして変わらない景色に段々と自信がなくなってきた。僕は迷路にでも迷ってしまったらしい。
「三途の川に生身の人間とは凶暴な魚にでも引き摺り込まれたのかな?」
頭には赤い角が二本生えていている。大きさは手で掴めそうなくらいだろうか。牛のような耳が付いていて真ん中で黒と白に分かれていた。僕から見て右側が黒、左側が白だ。完全に分離した袖には薄い灰色にも似た黒色のまだら模様をした白色のものが着用している。胸元に黄色のものをつけていて下側には毛皮のよう白色のファーが付いている。同様にスカートの部分も裾の部分に同じようなものが付いている。
「別にそういう訳でもないのですが。」
「じゃあ、どうして?」
「動物霊に力を貸してもらおうと。」
「あぁ、そういう事ね。あまりお勧めはしないよ。」
「その理由だけでも聞いても?」
その人は後ろから伸ばしている赤い尻尾を振りながら少しだけ考えている素振りをしていた。本当に考えているのかについては本人に聞いて見ないとわからない。
「そもそも地獄はそういう場所だよ。ここで引き返して欲しいんだけど。」
「それが出来たら良いんですが。折角強くなれそうな機会なのでここは押し通させてもらいます。」
「そんなこと言って本当は怖いじゃないのかな?」
「まぁ、確かに。でも仕方がないんじゃないですかね。元々、僕もその事は覚悟していました。」
「覚悟の上、か。行きなよ。生きている状態で地獄に行こうとするとは。想像するだけでも身震いがするよ。」
「それでも超えたい人が居るんです。ここでは引けませんよ。」
「その目、良いね。折角だから案内しよう。」
僕はその人についていく事にした。その人の名前は牛崎 潤美。牛鬼という種族でこの辺りを縄張りとしている鬼であるらしい。前は人間を襲っていたのだが幻想郷では禁止になったので長らくそのような事はしていないらしい。
それから時折、このあたりにいる巨大魚を釣って幻想郷に売り捌いているらしく、それで生計を立てているようだ。僕はその話を聞きながらどれだけ紅魔館に甘えているのかを痛感した。
「いきなり物騒な場所に案内するとは。さては鬼畜だな。」
「今に始まった事ではない。」
黒髪の男が少し笑みをこぼしていた。
「何を言っても遅いということだ。まぁ、良かろう。」
白髪の男は仕方がなさそうにしていた。前々から振り回されていたのか、今では何とも思わなくなってしまったようだ。
「ここが三途の川だが、見たことのない人が居るものだ。」
少し話を聞こう、と黒髪の男が歩いてその人に近づいた。全体的に白色の服装をしている。
「この先は地獄です。ここで引き返すことをお勧めします。」
「そうか。それは困った。が、俺は少なくとも毎日が地獄のように退屈な日々だ。今更本物を見れるなら行きたくもなるだろう。」
「どんな神経しているんですか。」
「すまない。俺は元々興味ある事にしか行動を起こせない人だ。仕方ないだろう。」
「行けばいいじゃですか。」
「そうか。だ、そうだ。行こうか。」
「申し訳ないことをした。」
白髪の男がその人に一礼して飛び去った黒髪の男を追いかけていた。どちらが上司なのかは疑いがかかる。