ここは畜生界。強き者がその欲望のままに食い荒らし、弱き者はそれを指を咥えて見ているしかないという世界であった、のだが今はどうやら数組の巨大組織によって支配されている世界へと塗り替えられてしまったようだ。動物霊が単独では勝ち目はなく何処かに組する事でしか生き延びる手段はなかった。
そしてどの組からもこき使われている奴隷とも呼べる霊、力は弱いが手先が器用な霊長類の霊である。つまるところ、人間の霊だ。彼らは霊長園という種が絶えないように保護する目的で建てられた施設ではどの組も争いの事は忘れた。抵抗する術を持たない霊長園で保護されている霊はここで一生を過ごすしかなかった。
ーーしかしそれは失敗だった。霊長類の霊は信仰というものを依代に偶像というものを作り上げた。信仰心を持った霊は何事も恐れることはなくなり、今まで四つの組織で支配していた畜生界では新たなる脅威として君臨した。原因は何の力も持たないと侮った霊を一箇所に集めた事だった。
このままでは廃墟と化すだろう。それを止めるために地上から人間を連れ出して宗教戦争というなんとも馬鹿げたようなそうでもないような大胆な作戦を企てた。そこで、動物霊は地獄経由で地上を目指して仲間となりそうな人間を集めていたーー。
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赤色の地面と赤い煙のような灰のようなもので覆われているこの世界で僕は一人だった。元々一人で来ているのでこうなるのも仕方がないのだろうが知らない土地であるので心細いということはなくはない。そして何か障害となるものがないのもまたそれはそれで怖いものがある。自分の周り全てが敵のようにもまた別の存在とも言えなくもない。それがどれだけの重圧を生むのかは体験しないと想像し難いだろう。僕はその渦中にいる。
歩いていく道の途中で見覚えのある服装をしている人物とその前で威張り散らしている人がいた。赤色の服装で黒色の髪をしている。右手には木の棒に白い紙をつけた大幣と呼ばれる道具を持ち、独特なその服装は巫女と呼ばれる神に仕えるものが身につける服装。博麗 霊夢、それが彼女の名だ。そしてその前にいる人、金色に近い黄色の角に濃い緑色とそこに肌色を多く混ぜたような色をした尻尾がある女性がいた。髪はこの空気で分かりにくいがツノと同じような色合いをしていると思われる。僕は無用心にも近づく事にした。
「霊夢さん、お久しぶりです」
何処か見下している節のある目線を僕に送るその人は背中に大きめな緑色の甲羅を背負っていた。角の生えた亀のような甲羅を背負っている彼女は見るからに動きにくそうだった。
「甲羅を背負っているのは少しばかりか辛くないですか?」
「わざわざありがとうございます。貴方様のような方に出会えてとても光栄よ」
「アンタ、気をつけなさいよ。私はちょっと動けないわ」
その霊夢さんの発言を聞いた時に僕はどのように反応するべきか分からなかった。今の所、そのような気配はないのでとてもではないが霊夢さんがやられそうな気配が全くない。
「どうなされましたか?何処か具合でも悪いのでしょうか?」
言葉と態度がちぐはぐな彼女は緑色と青色を混ぜ合わせたような色合いのスカートに鎖骨の辺りを四角形に露出させた水色のシャツを着ている。僕から見て左側には赤い紐で縫い合わせているかのように羽織っている。そこに肌色濃い水色のリボンが上の方に一つだけ付いている。
「まぁ、その空気です。仕方ないものですよね」
「私は吉弔 八千慧です。鬼傑組の組長をしています。以後お見知り置きを」
「僕はヒカルです。よろしくお願いします」
「ところで、何か動物霊はお連れになっていないのでしょうか?」
「それは僕も探しているんですよ。何やら力を貰えるそうですね」
「何らかの動物の力は得られるようになっております。貴方様はそのようなお力をお求めなのでしょうか?」
「はい。そうです」
相変わらず人を見下したようなハイライトの消えた目をしているのが気になるが僕は気にしない事にした。そのような人ならば、言うまでもないだろう。
「ならば、私がまとめている鬼傑組に所属されませんか?もし、宜しければ私が直々に使ってあげますよ」
この言葉を言う時だけは何故か力んでいたのだが、その理由は特に分からなかった。僕からすれば急に力を入れて話してきたので何があったのか、と疑問に思った。
「結構です。自分が信じる道を歩きます」
「入りなさい。私の奴隷として使ってあげるわよ」
「何を言っているんですか?」
思ったことをそのまま僕は口に出した。それがどうやらかなり響いたらしく、吉弔 八千慧さんはその場で膝から崩れてしまった。
「最大の力で能力を使用したのにどうして効かないのよ⁉︎」
「聞く前に私は貴方に反抗する意思はありませんよ」
僕はそう言ってその場を離れる事にした。もうここにいる理由は特にない。
「霊夢さん、もう少しここに居ますか?」
「そうね。そうさせてもらうわ」
それ以上、僕が何か言うこともなかった。
○
「気になるわね」
その人は不敵にも笑った、まるでおもちゃを見つけた悪ガキのように。