東方魔剣術少年   作:mZu

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第67話

「お父さん、剣を、抜いて下さい。」

戦いに終止符は打たれた。だが、僕の中での戦闘はこれからだった。標的は目の前にいて疲弊している。

 

ずるだとか、卑怯だとか、そういう評価はどうでもよくなってきた。それこそ、このような条件でもないと勝てる見込みが感じられないから。僕はやるしかなかったから。超えたい男がそこに居るから。

 

「そうか。まだ、敵はいたのか。」

お父さんはいつも通り飄々とした態度を貫いていた。その姿には感服するものだが追い抜かさないと。僕は強くそう思った。

 

「そうじゃない。僕はここでお父さんと戦いたい。」

 

「そうか。どこでそんな卑怯な手を覚えた。勝てば正義だとでも言うのか。」

お父さんの言い分は確かだった。少しだけ気だるそうにしているのが目に見えるのだが、それを気にしているほど暇があるわけでもなかった。それこそ何をしたら良いのか、僕には自分の考えが分からなかった。

 

「そうは言いません。でも、勝ちたいんですよ。こんなところで勝てないといつまでも追いつけない。卑怯でも何でも良い。」

 

「ここで倒したいか。」

 

「はい!」

お父さんは僕の顔をじっ、と見て暫く考えていた。それとも品定めでもしているつもりなのだろうか。残念だけど僕はそこまで簡単なものではないつもりだ。しかし、目力のあるお父さんには何となく恐縮してしまう。ほんの少しだけの反抗心が何処かで燻っているのかもしれない。

 

「そうか。」

少し重たい返事だった。特に変わらぬ表情を浮かべるお父さんは僕の中ではまだ読み取れない。乗る気なのか、それともそうではないか。どうせわがままなんだ。どのような返事だろうと受け止める気でいる。

 

「貴方の覚悟はよく分かった。して、その覚悟、どこまで続けるつもりだ。」

 

「僕が越えるまで!」

 

「しかと受け止めた。」

お父さんは唾を親指で弾きながら僕の方へと向かってくる。僕は少しだけ反応に遅れた。だが、来ることは予想はしていたので何とでもなったと言うところだろうか。

 

お父さんの右腰から放たれた一撃は僕の耳に当たりそうなところで止まった。最初から寸止めにするつもりだったのだろうか、そうでもなければこんなところを狙うわけがない。

 

逆手に持った刀をカバーするように僕は後ろに回した。お父さんは鍔迫り合いを好まない。移動し続けて相手の行動を封じ込めて一気に叩く。まともに勝負をしないと言うこのスタンスは僕も真似しているところだ。しかし、弱点があるとすればそれが同じような方になった時、遊びの技術が劣る方が負けると言うことだろう。柔軟な発想とその場しのぎではない脳の回転を必要とする。高度になればその思考が読まれないようにする。僕にはまだまだたどり着けそうにない領域であった。

 

「本気なんですね。」

 

「そうでもないと負ける。強くなったな。」

 

「ここでお父さんに認められても困ります。」

頰に入った掠り傷は僕の失態だ。そして何も困るような事はないはずなのだが、お父さんは逆手持ちをやめようとはしなかった。それが読み間違いをさせる手なのかもしれない。

 

「そうか。」

お父さんは短絡的にその言葉を発し、まるで便利な言葉のようにそれだけで終わらせた。お父さんが僕に向かって走り出す。

 

本気になっているのだと、お父さんが僕に対して敵意をむき出しにしているのだと、そう感じた時には間合いはかなり詰められていた。思考の隙を与えない、そして切り刻みに来る凶悪性を兼ね備えたその一撃を僕は唾で受け止める。

 

そして内角から襲ってくる一蹴りに僕は目を見開くことしかできなかった。僕はなす術なく一回転を強制された。そして一回だけ金属の擦れる音がする。

 

「見えない。」

 

「相手に言うものではない。して、どこでそのような技を覚えた。」

 

「何処でしょうね。」

本当に僕でも分からない。ただ、もうすでに見えていたのだ。お父さんが一蹴り浴びせてくるのだろうと、予見していた。単純な動きだった。まるで遊んでいるかのようにしているのが腹立つがこれくらいの実力差があると言われると言い返す言葉もない。

 

「そうか。」

次の一撃の準備を始めたお父さんは左右へと体を動かしながら近づいてくる。その動きの読めない事は確かだが、それ以上に何もできそうにないと本能が悟っている。

 

右だ。

 

一瞬で判断のついた僕だが、それでも間違えていた。正解は左後ろ。

 

回し蹴りをされるように足元をすくわれた僕は頭を地面に打ち付けそうになって腹に一撃重たいものを受けて、背中全体で地面の感触を味わった後で、左肩を外されそうなほどの威力の左脚蹴りを受けた。

 

その時に腕から外れた剣は暫く拾えそうにない。痺れるような痛みと感覚というものの麻痺がひどく相当なものではあった。

 

「ヒカル、一つ忠告しておこう。今の実力では勝てるわけがない。そしてこれで分かっただろう。」

地面に伏せていることしかできない僕に対して罵声を浴びせてきたお父さん。僕の中では悔しいが、言っている事に間違いはなかった。僕が未だに実力不足なのにどうして僕は挑んでしまったのか。

 

「分かりません。まだ勝てると思います。」

 

「そうか。それは楽しみだ。」

もう左肩は壊れているような気はしてならない。でも握れないというわけでもない。まだ使える、そして生きている。

 

お父さんは完全に立ち上がっていない僕に十分に待った、と言わんばかりに一撃を与えようとしている。動きなんて目で追っていても仕方がない。今まで戦っていた幻想郷の人たちとはまた違うスタイルを持つお父さんにはどうしても勝てるわけなかった、目だけなんて。

 

耳や鼻、目だけではない外の情報を受け取れるものを全て使う事にした。ただ、すぐに使えるなんて思っていない。

 

僕は自身の目の前で剣を交差させて一気に押し出した。

 

横一線に放たれた風の元素を含んだ斬波により大きなもので答えたお父さんは勢いをそぎ落とされた感じで僕の元へとやってきた。これなら!

 

素早く戻して右腕を振り直す。金属音で一回。そして重たい音が一回。

 

僕は左腕で不安定な足のバランスをとりながら放つ。もう一度金属音。

 

こうなれば拮抗していた。

 

お父さんと僕は右足というものしか地面には触れていなかった。それ以外は相手の攻撃を止めたり、止められたりしながら絡み合っている。ここからどうすることもできなかった。

 

どちらかが体勢を崩すか、それとも隙を見せるか。

 

僕は内側へと持って行こうした。それを阻止しようとお父さんは外側へと押し続ける。もうなんとなく分かっているのだろうか。肉を断たせて骨を切る。詰まる所そう言うことだ。例えお父さんの一蹴りを受けたところでたじろぐぐらいなのだろうが、こちらからは血を吹き出す可能性のある一撃を与えることができる。

 

しかし、その計算は簡単に外された。一気に内側へと戻された僕の剣たちはお父さんの一蹴りを受けてくれたのだが、さらなる一撃がくる。その一撃には流石に受けられない。もはや感覚だった、予想というべきなのだろうか。

 

剣で軌道を遮り、こちらの右腕を振った攻撃を与える。それは止められて相手からの左腕を腰を使って振られた一撃を受け止める。

 

横を確認しながら、上を気にする必要があるのだが、この時でも考えるのはやめた。どちらが力を抜いても良くて良いかなど今はどうでもよかった。何とかしてこの状況を続けさせないと。お父さんもそのようには考えているのだと思う。

 

「貴方には足りないものがある。」

 

「実力でしょう。」

 

「いや、オリジナリティーだ。俺の真似をしても追いつける訳がない。」

 

「そんなことを言ってもお父さんほど強い剣士はいなかった。」

 

「そうか。まだ会っていないのか。あの人は厄介だ。気をつけるべきだ。」

その人は誰だかわからなかった。ただ、お父さんが強いと断言していて厄介なのだと評している人物がいるという事実はこの時に初めて知った。何と言えば良いのだろう。

 

その時だった。ぼん、とお父さんの剣から小さな爆発が起こったのは。

 

僕は間近で受けたのでもろにくらってしまった。それだけにその場から離れざるを得なかった。ただ弱点は分かった。接近戦には弱い。その代わり、少しでも離れようとすると剣の間合いに入っていれば斬ってくる。相反する気がするがお父さんには苦手であるらしい。それは僕も同じなのだろう。

 

水と氷と風。そして陰の元素を使っている。そのことはよく分かった。ただ、何がどのようにしてその原理を引き起こしているのかは何となくだけ覚えている。あの机の上に置かれている紙束の中にはそれに繋がりそうなものがあったような気がする。

 

「そんな簡単なものではないですね。」

 

「そうか。」

少し悲しそうに応えるお父さんがどうしても可哀想に思えてきた。何がどのような気を起こしているのか、そんな計算式のようなことは考えたくはないがそうなるしかない。

 

お父さんが地面を踏みしながら僕の元へと歩いてくる。その遅さは死のカウントダウンだと言われてもおかしくはなかった。ただ、ただ、

 

今はそれが面白くて仕方がない。僕はもう狂ってしまったのかもしれない。

 

「やってられないですね。」

 

僕はすぐに左腕の剣を斜め下に振り下ろした。丁度僕の右脚のつま先に当たりそうな角度。

 

それをお父さんは垂直に当ててきた。右足のかかとで刀身を弾いた。しかし、そこで終わるようなことはしない。右腕が残っている、僕は思った。胴体がガラ空きだという事に。

 

しかし、もう遅かった。軽く押された僕は左脚をよく踏みしめた右足の回し蹴りで左頬に強い衝撃を受けた。そのおかげで軽く脳震盪を起こしたのか、何となく意識が現実に向いてくれない。

 

だが、容赦無くお父さんの折りたたんだ右足が渾身の一撃と言わんばかりに僕の腹部に食い込むように入り込んでいた。丁度鳩尾を当てられたらしく、一瞬だけ呼吸が出来ず、受け身なんてものは取れなかった。そして急に入り込んでくる空気に僕はむせた。その時に赤い液体が赤い地面にこぼれ落ちる。そして力なく地面に伏せていた。立ち上がろうとしたが人間として必要なことをしただけで僕は地面に伏せてしまった。

 

やっていられない、無謀なんてことはわかっていた。けど、こんなに実力差があるなんて。いうことの聞かないこの身体はまるで僕のものではないかのようだ。

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