東方魔剣術少年   作:mZu

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第73話

異変の解決から三日、人里では謎の霊による騒ぎから解放されたとして、文々。新聞によって報道された情報を鵜呑みにしていた。他本当の事を知っているのは極一部、実際に地獄に行き、その経緯を知っている三人だけだった。

 

そんな浮き足立った人里に稲妻のように騒ぎを起こしたのは地獄の中にある組合の一角である頸牙組の組長である謎の女性だった。その姿は長い黒髪に赤いカウボーイハットを被りそこから眼光を周りに向け、首元に白いスカーフを巻いている。背中には大きな綺麗な色合いをした漆黒の翼が生えている見るからに強そうな人物、名は驪駒 早鬼という。彼女は今まで散々苦しめられた埴安神 袿姫という人間霊が作り出した神様が倒された事で自由に動けるようになった事とその人を仲間に引き入れようと動き出していた。

 

しかしながら、今回は少し違ったようだ。手当たり次第にぶつかっていったその先で確かに地獄には向かっていたが何も収穫のなかった人物にぶつかった。その人こそがある人の指示で旅に出かけたのはいいものの、本人と会ってしまっている、今のところ気の立っている人物だった。その人は黒髪のストレートで目を少しだけ鋭くさせている見るからに怒っているように見えるヒカルという人物だった。

今回のレミリアさんの話は意味が分からなかった。何かを伝えたかったのだろうが直接的には伝わりそうになかったので僕は今も気が立っている。お父さんは本当に強い、だからと言って代役として僕の前には立って欲しくはない。それで向かってみたが惨敗だった。背中を刺された挙句、今は何処にいるのか全く分からない。

 

そんな訳で気分を改めようと人里に散歩がてら来てみることにしたのだが、意外にも騒々しい。遠くからなのだが、人の悲鳴とそれに見合った声がしている。その声は少しだけヘビーなもので低い声ではあった。男とも取れるのだが何処か違う、そんな感想を一瞬抱いた。取り敢えず関わりたくないので僕から向かうのは辞めたのだが、相手の方からこちらへと向かってきた。

 

僕は今のところ、相手をしたいとは思わない。博麗の巫女や白黒の魔法使いとかが相手していれば僕には特に関係ない事として片付くのだろう。僕は一息、吐いてからゆっくりと川の側から立ち上がった。

 

「地獄に来たのはお前か?」

僕には関係のない事だ、関係のない事……。

 

「強そうだな。お前だろ?」

僕には関係ない事、そう僕には関係のない事だ。

 

「お前のことだよ?」

遂に右肩を掴まれた。僕には関係のない事だと振り払いたかったがもう叶わなくなってしまった。

 

「今は辞めてください。気が立ってます」

 

「地獄に行ったことは認めるんだな?」

 

「一応行きましたよ。ただ、恨みを買われるような事をした覚えはありません」

 

「恨み?いやいや。感謝しているんだよ。目の仇を倒してくれたからさ。それでウチに来ない?」

 

「誰かに組みするのは辞めました。追いたい背中がありますから」

 

「お前がウチに入るならいくらでも強くしてやるよ」

 

「あの人は無二の存在です。貴女で勝てるかどうか」

 

「そいつに会ってみたいものだな。何処にいる?」

 

「僕にも分かりませんよ。放浪の人ですから。今日のところは多くの人に迷惑をかけているのでお引き取りお願います」

 

「お前に惚れた!うちに来てほしい」

 

「それなりの力を見せてください」

僕は手軽な気持ちだった。向かってきたならそれはそれで構わない。そんな軽い気持ちだった。

 

「よっしゃあ!そう来ないとな」

一蹴。真っ直ぐな蹴りを当てる気もない感じで少しだけ逸らしている。それが僕には気に食わなかった。僕は左手でその右足を掴むと僕から離れるように押し出した。綺麗な脚で茶色のブーツの裏はガッチリとした滑り止めが付いている。

 

「当てる勇気もないんですか?」

 

「そうじゃねぇと面白くねぇよ」

その人はようやく楽しそうな表情をしていた。それだけではない。先ほどの蹴りで分かるのだが、並大抵の脚力はしていなかった。後ろを見ていればよく分かる。

 

「仕方ないので相手します」

後ろからの悲鳴はとてもではないものだった。それにしても青白く感じる肩出しとへそ出しの斜めの浮き上がるような白いラインの入っている端にフリルのついた服装でスカートは赤色を基調としたもので黒色のラインが浮き上がっている。

 

「にしちゃ、楽しそうだな」

ん?と聞いてくるその人には僕は特に耳を貸さなかった。聞いていてもそうでもなくてもあまり関係のあるようには思えなかった。

 

相手は高く振り上げた左脚を下におろす。

 

そこから一気に右脚がしなりを付けて回された。僕は後ろに避けていたが当たればその強烈な風圧でやられていたに違いない。現にその先にあった商店の前に並んでいた棚が倒れた。

 

その人は戻しながら、軽く左脚を飛び上がらせて細かい動きをする。お父さんとはまた違った脚の扱い方をしている。

 

左下右上右下真ん中下上左上

 

そしてその繰り返される高速の移動に何の意味があるのかと思えた時に攻撃として身を結んだ。

 

一瞬で行われたえげつない行為は軽々しく僕の想像を超えてきた。目で捉えられるほどゆっくりと放たれたはずなのにその風圧というのは僕の前髪が巻き上げられる程度には凄まじいものだった。それだけではなかった。その後に起こったの更なる旋風、次の一撃だった。

 

見えなかったというわけではないが、油断はしていた。そう言えば脚技はこんな風に連続で訪れる事がある。

 

右脚をすくわれた僕はその力をいなして外へと逃した。正直危ないところだったのかもしれないがそれでもかなりの痛みは残ってしまった。

 

「まぁまぁ、かな。それと、腰についているそれ使わないの?」

 

「それなりの礼儀ですよ。気にしないでください」

恐らくは剣のことなのだろうが抜く気にはなれなかった。お父さんのように刀もいなす事が出来るなら僕にも出来ないことはない。

 

「そうなの?勝てば正義だから。そんな一銭にもならない事、辞めな」

 

「そうですか」

すっ、となんとなく外れていくものがあった。それが何かは分からないが一種のリミッター解除のようにも思える。

 

「さぁ、もっと楽しもうぜ」

その言葉を合図に双剣を僕は抜いた。黄色の刀身はお父さんから譲り受けたものであるが何があるのかは全く分かっていない。

 

ゆっくりと右手の中でしっくりと来る形になるように縦に回してから握った。そして反対の手も同じように回してから前に構えた。左手を逆手持ちにさせてから下に降ろす。右手は前でそのまま構えたままだった。

 

「変な構え方だね」

ぼそり、と呟いたその時には相手は素早く動いていた。空いていると思われている左半身を狙われたが素早く右手を反応させて寸前で止めさせる。そしてその上を逆手持ちをしている左腕が通り、相手に着実な威圧をかけた。その刀身は相手の首筋スレスレで止まっている。もう少し腕が長ければ届いていた。

 

相手はそれを見て焦って後ろへと飛び退った。その姿を見て僕は追い打ちをかけようとは思えなかった。体勢を整えるが意外にも早かった。

 

「やるじゃん。良いよ良いよ」

 

「もう少しでその首落とせたんですけどね」

 

「気に入ったよ。だからもっと本気で戦うよ」

その言葉通りに速くなった。距離の詰め方から攻撃に転じる時のその速ささえもそれなりのものだった。それだけにいくら頑張ろうとも届きもしないように感じた。

 

水の中でゆっくりと手を伸ばした時に水面に届かないと思えたあの時、もう少しなんて考える余裕さえなくなるあの焦り。それが一瞬で込み上げてきた。

 

右半身に重心を傾けてから両手でこれ以上こちらに来ないように剣を向けた。それが間違いだったのかもしれない。

 

左脚を大きく飛び上がらせた膝蹴りに僕は受けなかったにしろ、反射的に飛び上がった。そこの無防備な状態を狙った右脚の回し蹴りはやはりまともには受けられない威力を持っていた。それ以上に僕が油断していて弱過ぎた。

 

僕は吹き飛ばされて近くの家に軽く体をぶつける形になった。そして相手も同じように転んでいる。

 

「結構やるじゃねぇか」

あの時、綺麗には入らなかったが左脚を縮こませて相手の膝に右脚の蹴りを威力を大体そのまま与えた。両者が地面についた状態から素早く立ち上がり、左足で行われた低空の回し蹴りを前転しながらその上を通り抜けてから後ろを振り向いた。

 

「これぐらいではまだまだですよ。もっと強くならないと」

 

「お前は目の前も見えなくなったのか?」

相手の右脚を使った蹴りは振り上げるようなものであった。僕はその軌道を予測して左足を後ろに滑らせてそれを避ける。だが、もう少しその先も見ておくべきだった。僕の腹部を一本の太い柱のようなものが当たった。しかし、柔らかくしなりのあるそれは僕に対してとても大きな損傷を与えた。背中から地面についた僕はその先で左脚を付けた片膝立ちで立っているしかなかった。

 

意外と効いた。まさかとは思っていたがここまで来ると流石にきついものがある。

 

「意外と弱かったかもね」

その人のその笑みは確かに見下すようなものだった。地獄に行ったのは真実だが、だからと言ってこのような仕打ちになるとは思いもしなかった。どうやって逃げたら良いのだろうか、と考えていたところである人が見ていた。その人は灰色の衣服に身を包んでいる黒い髪が特徴的な男だ。屋根の上で見覚えのある色白の男性と共に居た。

 

「どうした?戦闘中に視線をずらすとはだいぶ余裕だな。……ん?」

 

「見つかったか。もう少し見ているつもりだったがそれも面白い」

その人は屋根から慣れた動きで降りるとゆるゆると衣服を動かしながら歩いてきた。

 

「お父さん?」

 

「それは後だ。それで貴方が俺の息子を倒そうとしている人で間違いないか」

 

「違いない。それにしてもお前も強そうだな」

 

「そうか。だが、辞めておけ」

 

「それは聞き捨てならないな」

地獄から来たと言っているその人はお父さんと対峙するなり、何かに目覚めたように気分が高ぶっていた。

 

「そうか。妥当だと思っているのだが」

 

「なら、そうさせてみな」

その人は走り出した勢いで右脚の回し蹴りを放つ。お父さんは、軽く振り回した脚に刀を合わせていた。

 

倒れたのは、お父さんに蹴られた人だった。地面についた瞬間に力が入らなかったのか、右膝を地面につけていた。

 

「勝ってこい。妖怪の山で待っている」

そう言い残していったお父さんは妖怪の山のある北側へと向かっていた。だが、僕は一番気にしているのはそれではなくて、目の前の事だった。

 

「待て。まだ勝負はついてねぇ」

お父さんは全くの無視。ここまで卑下な扱われ方は今までなかったと思う。それほどに慈悲のない完全な逃げ方だった。

 

「そうですね。再開しましょうか」

僕はその哀れな人に微笑みかけてあげることにした。】

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