もう背中は遠い。
それでも追いかけるべきその背中はある種の目印を僕に見せつけていた。その力は今まで忘れていたこと、そして他の次元へと飛べる一種の方法となっていた。
僕にとってそれは追いかけるべき背中なのだろうがどうしても嫌悪感がある。だが、肩を並べられるようにはなりたい。それなら早くこの壁を超えていく必要がある。その為に手を差し伸ばしてはくれた、と思う。
「お前じゃねぇよ。彼奴に興味が湧いてきた」
「まず僕に勝ってから言ってくださいよ」
「弱い奴には興味ない」
その人はそのように僕に対して言葉を吐き捨てた。しかし、それはもう間違いとなっている。
「そう言っていられるのもこれまでですよ」
「あぁ?やってやろうじゃねぇか。そこまで言ったんだ、何かあるのか?」
「何も。ただ思い出したことがありまして」
「面白れぇ。やってみな」
「それでは遠慮なく」
僕の中での構築は決まっている。それをいつ、どのように引き出すのかが一番重要となってくる。考える事が多いがお父さんはいつもそれをやってのけている。
相手の回し蹴り。上へと持ち上げられた右脚は僕へと向かってきているのだが、何かと遅く感じる。
僕は後ろへ回り込んでから左脚を自分の持っている刀身に触れさせながら前へと蹴りだした。
確かな当たり。そして、確かな呻き声。
それは今までとは違うという事の証拠でもあった。
「ふっ、中々やるじゃねぇか」
「まだまだですよ」
「へっ、やっぱお前が気に入った!」
その人の速さはそこから尋常ではなくなった。戦闘において手加減がなくなったのと同じ瞬間に興味という血管を拡大させようとする脳の働きが同時に起こった。
僕は先に右半身を下げようとした。
そこを見逃さなかったその人は左脚を出して少しだけ角度をつけていた。それは丁度僕の胸の辺りに当たりそうな感じだった。股関節がかなり柔らかいのだろう。
僕はそれを右腕の剣で止めながら逆手持ちをしている左腕を上に振り上げた。
かなり体勢は悪かったのだが、カウボーイハットくらいは弾くことはできた。それがどうしたと言われたらどうという事はない。だが、僕はその勢いのまま、前転をしておいた。
相手は弾け飛んだカウボーイハットには目をくれず、僕に対して思い切り蹴りを見舞う。その蹴りは速く、僕も相討ちをとって何とかその威力を抑える事で精一杯だった。お父さんと同じようにした割にはその威力は据え置きとなっていた。
相手の蹴りの勢いは一番重たかった、故に後ろに転がる他なかった。
その人は走り出して僕に対して渾身の飛び蹴りを繰り出そうとしていた。癖で立ち上がってしまった僕は……。
飛び上がった相手の右脚の下を膝を力を抜いて折り曲げて地面に着地して思い切り振り回した、両手に持っているその剣を。
向きなんて気にしているわけにもいかなかった。
何が起こったのかは僕は目を閉じていたので何とも分からなかった。
相手の悶絶する声とともに軽く落ちてきた右脚が僕の頭に当たった。それは自然に落ちてきたようで痛い、とオーバーリアクションする程度だった。
僕は状況把握のために目を開けた。その人は……。
膝を折り曲げて地面にペタン、と座り込んでいた。その様子はまるでかよわい女子のようで僕は軽く手を差し伸べた。
「んぅ」
息を漏らすようなその声に僕は本当に何が起こったのか理解が追いつかなかった。しかし、その人は立ち上がるような事はない。
少しだけ涙ぐんだ目で僕を睨みつけてはぐっ、とスカートの裾を強く掴んでいた。
本当に僕は何をしたのだろうか?一人では回答は出てこない。