東方魔剣術少年   作:mZu

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第76話

この先にお父さんがいるのは間違いないのだろう。その事実に何の曇りもなく信じる事はできるのだが、何を見せようとしているのかは全くと言って分からなかった。此処に守矢神社があるのは知っている。前に訪れて求婚まがいの事をされてから近寄る事はなかったがそこへ行かせようとしているのだろうか。それと単純にいつから僕の事を見つけて、早鬼さんとの戦闘を傍観していたのだろうか。聞くのは無駄なのだが気になることではある。

 

「ワオォォォォォォーン!」

甲高い声がこの少し上から聞こえてきた。その声は何かを知らせるような気もしたが、それは警鐘の代弁のようだった。何かが起こっているとしか言えなかったが僕は行くしかなかった。お父さんなら何かと興味が湧く事柄なので会える確率はかなり上がる。もう川岸からは離れてその場所へと直行した。

 

そこに道なんてものはなく、どこまで進んでも何も変わることのない森であったが明らかに不自然に空いているところとほんの少し草の焦げた匂いがしているところへとたどり着いた。そこには案の定、お父さんと目を鋭くさせている白い毛で覆われた細長い丸みのある尻尾を強く降り回している人がいた。右手にはラーさんにも似た大きな太刀を持ち、歴戦の強者なのかその刀身には鈍い血の色が付いていた。手入れはしているのだろうがこべりついて落とせなくなってしまったということなのだろう。服装は黒色の膝下の丈のあるスカートに赤い紅葉が描かれている。上は毛皮のようにふわふわしていそうな半袖の衣服を身に纏っている。真っ白な髪に赤い小さな帽子をかぶり、それは山伏を彷彿とさせる。

 

多分なのだが、この人が先ほど遠吠えを挙げていたのだと思われる。間近で見ると何処からそんな声が出ているのか不思議で仕方がない。それほどに小柄な気はする。しかし、だ。

 

その割にはとんでもない殺気を放っているので僕は脚が後ろへと行こうとしているのを感じた、それはちょうど防衛本能に近い。頭の中で考えるまでも自分の命が危ないと言っている印なのだがそれよりも気になる存在がその前にはいた。その人は顔立ちはさっぱり分からないのだが、後ろで一つに結んでいる黒髪と灰色の服装、そして腰に携えている刀を見間違える事はなかった。

 

この人が僕を人里での戦闘中に空気を読まずに此処に呼び出した張本人だ。

 

「とても怖い表情していますけど何かありました?」

 

「少し暇つぶしをしようと犬と叫んでいたら怒ってしまった」

軽快にハハ、と笑ってから急に真面目な表情をしたのか声が低くなった。

 

「楽しそうだよな」

いや、そんな次元ではないと返したかったがそんな余裕はなかった。それはまるで轟音、僕の髪を振り上げたその風は一人のノーモーションから放たれた一撃だった。今まで棒立ちと言っていいほどの状態だったのに。まるで状況は一変した。

 

白い髪をしている赤い小さな帽子を被っているその人はお父さんの二盗の前で出せる限りの唸り声をあげていた。この人から放たれたのだ、先ほど心臓を一瞬だけ握り締められたほどの風を感じたあの一撃は。とてもではないが勝てるなんて思えなかった。そして僕を嘲笑うように二人の世界に入り込んだので僕は側で見ている事にした。

 

軽くお父さんが弾かれた、いや相手の力を利用して間合いを開けていた。そうでもしないと間に合わないのだろう。

 

その先、白髪の人が一気に距離を詰めていた。その速さは人間の出せるものではない。人間よりも上位の種族であるのは言うまでもなかった。神、と言っても半分くらいは冗談で済ませる事はできるだろう。それで済んだらいいけど。

 

相手の横薙ぎにその力を利用してお父さんは地面を滑り出していた。それはそうしたというよりかはそうせざるを得なかったようにしか見えなかった。本当に相手の力というのは馬鹿なのだろうがしっかりと狙いを定めている慎重な一撃でもあった。

 

「やるか」

お父さんの独り言、その瞬間には僕に見せたことのないような姿を見せ始めた。それはまるで動物。本能に解放された人間はその力を使って全力の戦いを挑んだ。その姿は一瞬だけ見間違えるほど。

 

一瞬の金属音。

 

その擦れたか、どうかと言うギリギリのところで二人は戦いを行なっていた。お父さんは相手の力一杯の一振りを得意の剣術でいなしていた。相手もそれに騙させることもなく攻撃を続けていく。

 

綺麗な一振りだった。

 

相手の大剣が地面に辿り着いた頃にはお父さんはその攻撃をかわして背後を取ろうとしていた。しかし、それを見えていたかのように左脚で軽くお父さんの刀の一撃を止めていた。その下駄はそこについている板が長めで体勢を保っているだけでも大変そうだった。それで今回は止めていた。

 

そこから自分の持っている大剣を振り下ろしつつお父さんに向けて右脚を上から下へと向けて放った。それを避けたお父さんは後ろへと脚を振り上げていた。

 

前転で地面にたどり着き後ろを振り返る。

 

後ろ向きに転がったことでそのまま体勢で居続けている。

 

二人はそれからタイミングを伺うように黙り込んでしまった。二人には言葉という道具を失ったかのようになっているのが不思議で仕方がなかったが僕としては先ほどの出来事が頭の中で整理するにはちょうど良い時間となっていた。しかし、お父さんについて来れる人は意外にもいるのかも知れない。

 

お父さんは相手に対して少しだけ間合いを開けようとしていた。しかし、それを潰すように相手を動いていた。左右で動きながらお互いの距離を縮めないようにしている。不謹慎かも知れないが気があっているのかも知れないと言う感想が頭から離れそうにない。

 

相手が少し後ろに構えてから特に関係ないところへその大剣を振っていた。当たる間合いでもないのに何が起こったのかと言えば地面がえぐれた。ボン、と爆発でも起こったかのように土ぼこりが上がった。

 

かと思っていたら二人が再びぶつかりあった。

 

一瞬の金属音、そして一方が足を地面に擦り付けている音。

 

地面を蹴り出して更なる追撃を与えようとしている相手にお父さんはその下を通り抜けた。

 

それは相手を見逃したと思ったがそうでもなかった。そこから反転に倒立をしたような勢いで片手で振る。それに意味はあったようでお父さんはその軌道上に居なかった。避けた代わりに後ろにあった木に大きな傷が入り込んだ。何かがあったのだろうがあまりにも二人のレベルが高いので真理に辿り着けるのにはそれなりの時間がかかりそうだ。

 

二人でお互いを見つめ合い、ニッコリと浮かべた後で二人とも形相を変えていた。

一瞬の出来事ではあるがそれだけでも周りがどのようになっているのかそれはなんとなく理解できた。

 

破裂音と共に二人の脚が地面を抉っている音が聞こえていた。そして世界は風のあるだけの世界となった。

 

「息子、楽しかったか?」

 

「いや、うん。えっと、そうですね」

 

「そうか」

 

「ところで相手はどのような方なんですか?」

 

「それは私が」

先ほどの獣のような声からは想像出来ないような可愛らしい声だった。それはまるで少女だった。

 

「私は妖怪の山で哨戒をしている天狗の犬走 椛です」

 

「それで今回妖怪の山に来た理由だが、息子を預けてみようかと思った。それだけだ」

 

「要は懐かしいから遊んでいたと言うことですか」

 

「その通り。後はこの犬に任せている。俺はこれで帰る」

 

「犬じゃないです。狼ですよ」

 

「そうか」

その冗談のつもりにも聞こえるようなことを言ってこの場は去ってしまった。お父さんが居なくなってから場が持つ感じはなかったが向こうから話しかけてきた。

 

「青年の息子さんですね。お会いできて嬉しかったです」

 

「お父さんがお世話になってます」

今回はそんなところだった。お父さんとはある時に出会い、剣術指南役のような事をしていたという。悩みがあった時に聞いてあげたりしてあげたそうで気の置けない間柄ではあったようだ。それにしては何か無礼な態度ではあったような気はするがそれは二人の間では普通のことなのだろうと思えた。

 

「しかし、人任せでよくそのように育ちましたよね」

 

「その意味は?」

 

「いえ、特に気にしないでください。私の独り言です」

そう言う椛さんだったが実際のところは言いたいことは分かっていたが変に認めたくはなかった。あそこまで自由気ままなのはどうかと思っている。真似したいとは思わない。

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