白い霧に包まれた湖、其処にはいつもならもっと多くの妖精の声が聞こえている。この時間ならもう騒がしくても何も不思議ではない。朝早い時間に掃除を終わらせてから遊びに出ていく妖精たちは僕がこの近くにある館に住んでいる時から知っている。そのはずだが、何か違うのだ、雰囲気というのか違和感を覚える。
それでも進んでみる事にした。レミリアさんに一言伝えたいことがあるからだ。僕は剣を抜いてから思念を込める。ふわり、と浮かんだ僕の身体はそのまま前に進んでいく。そうなるように僕が操作しているわけだがこの感覚はなかなか慣れない。だが、こうしないと湖の中に浮かんでいる紅魔館には入れないのでこうするしかなかった。
と言うわけで紅魔館まで、昨日まで部屋を借りていたところまで来たのだが、雰囲気はいつもよりも陰湿としていた。赤くて高い壁にそれよりも高い館が見えているのだが、今は何か笑いがこみ上げてくるほどに可愛らしく感じる。それをいい風に捉えていいのか、逆に捉えるべきかは置いておいて門の近くに降り立った。別に館の中に直接入っても問題はないのだろうがそうしようとは考えても実行したことはない。
いつも通りなら眠っている門番が起きて一言挨拶をしてくれると思っていたが、今日はがっつり寝ていた。地面に横になっていてうつぶせに倒れている。首筋がほんのりと赤くなっているのだが、それがどうかと言われるとなんとも言えなかった。それだけだと言えばそれで終わる。取り敢えず、これでも門番としての役割は果たしていると思うので放っておく事にした。
木製の扉を開けてから広がっているのは中庭だった。緩やかなカーブを描いている二本の道の真ん中には園芸場がある。そこには様々な花が咲いており、色んな表情を僕に見せていた。花の種類が分かったら良かったのだが、それほど知識はない。僕はさほど急いでいないのだが、早めに入っておく事にした。
館の中は静かだった。今日は誰も居ないかのようで掃除をしている妖精も居ない。昨日今日で遠くに出かけているようなことでもないとは思うのでいるとは思うのだがいつもなら現れるメイドは居なかった。あの人は時間停止で僕の前に現れる。そして一言二言伝えて本職へ戻る。いつ休んでいるのか等、そこら辺は謎だが、確実に僕よりも随分と長い時間を生きていると思っている。そのはずだが、迎えられることもなく誰か居るとも思えない雰囲気、何か違う。
そう思った僕はすぐさま探してみる事にした、銀髮の三つ編みをした冷淡な目の持ち主で鋭いナイフを太ももにいつも携えている青色の服装をした咲夜さんというメイドを。
一階の廊下、自分の部屋のある左側から一部屋ずつ勢いよく扉を開けていった。途中、咲夜さんと呼びかけながら走り回っていたが収穫は特になく帰ってくる事になった。
少し疲れたが何かあった後ではいけないので右側も間髪入れずに向かっていった。こちら側は食堂はパチュリーさんのいる大図書館で降りる螺旋階段があるが自分の部屋より使用回数と使用時間は少ない。それでも真っ直ぐな廊下なので難なく進むことは出来た。
左右ともろうそくの明かりに灯されている薄暗い道だが見落としたところはなかった。それに壁までは向かっていた。ふと、思ったが此処は無限に広がるかのような大きさがあったような気はする。故に全てを見ることは不可能だった気がする。それを行なっていたのは咲夜さんなので……。
ふと、上の方を見ていた。赤いカーペットの敷かれている大広間とされるこの場所から二階や三階へ登るためにある螺旋階段がある。半円の半分を描くように造られた螺旋階段の上で伸びている人影を発見した。丁度手すりと角度的な視覚の制約があるが何となく咲夜さんだと思われる。半身しか見えないので何とも言えないのだがそれにしては何となく咲夜さんの特徴を捉えているような気がした。
本当なら怒られそうな程埃を立たせながら螺旋階段を登った。その音はかなり響いたのだが、壊れていないという事を願いたい。
「大丈夫ですか⁉︎咲夜さん」
青い服装に銀色の髪、咲夜さんだと信じて声をかけた。
一瞬の沈黙。
石のようなものを叩いているかのような反応の後で反応を見せた。
「お……さま……けて……い。……しは……から」
掠れた声だったで全くもって聞き取れなかったがこれだけは聞こえた。だからと言って意味は全くもって浮かんでこないのでどうしたものか考えものである。僕はお嬢様を助けてほしい事と咲夜さんの安否について言っているのだろうと推測してみたが余計に嫌になった、何も出来なさそうな自分に。
取り敢えず、肌が青白い恐らく平常とはかけ離れた咲夜さんの体をよく見てみる事にした。そうすると、首筋だけが赤くなっているのがよく分かった。それだけなら別に良かったのだが何処か眠たそうにしているのがとても気になった。
其処で誰かに診てもらおうと思い、咲夜さんを背負うと螺旋階段を降りながら永遠亭に向かおうと思った。永琳さんならなんとか出来るのではないか、という軽い憶測だ。だけど、他に頼れそうな人はいなかった。兎も角僕は咲夜さんを背負いながら素早く移動していく事にした。