紫色の服装に短めの薄いピンク色のスカート。白い靴下と革靴を履いている紫髮の艶やかな女性、鈴仙さんと紅魔館までやって来た。雰囲気は来た時と変わらない。何も代わり映えもしないのを確認したところで僕達は紅魔館へと向かっていた。湖の孤島に建てたのは明らかな設計の不具合だと信じている。
「紅魔館なんて初めて入ります」
疲れと恐怖が入り混じった気の入っていないようなその声は今の状態をよく表していた。そういう僕も多少なり緊張しているが身震いするほどではない。
「大丈夫ですよ、僕は先導します」
「お願いします」
それを聞いてから門を通って、中庭を通って館の中へと入り込んだ。一階は調査したことを伝えて二階へと一緒に行動することにした。途中、横たわっていた美鈴さんは起き上がっていだが意識は朦朧としているようでかなり体調はきつそうにしていた。
「薄暗いですね」
「吸血鬼の巣窟ですからね」
二階も一階と変わらず、ろうそくに照らされた赤いカーペットの敷かれているだけの廊下の左側に各々の部屋がある。大体は妖精の使っている部屋だが、偶に倉庫のようになっている部屋はある。
「怖くないですか?」
「慣れたものですよ。それに地獄にも行ってますので余計に」
間違ってはいない、ただ鈴仙さんの反応はガタガタと顎を揺らしていそうな反応だったので何か申し訳ない気持ちになった。それから三階へと階段を歩いていった。二階のどこかの扉から上に伸びている階段がある。ここら辺は咲夜さんが定期的に変えているらしいが僕はよく知らない。
それから三階に登ってから一階、二階とは大きさの違う扉を開けていた。紅魔館の右側にある四つの部屋で三番目の扉を開けた時に探して来た人が見つかった。特に荒らされた様子はなく綺麗に色々なものが置かれている。その中でレミリアさんだけがいつも白い肌を更に白くさせて倒れていた。咲夜さん、美鈴さんと同様に首筋が異様に赤くなっている。それは永琳曰く、誰かに噛まれたような傷跡で小さな穴が確かにあった。とても小さくて深そうな穴を中心に赤くなっている。吸血鬼の仕業ならば血をここまで集めて来ているということだろう。それでここは炎症か何かを起こして赤くなっている、と僕は考えた。それを鈴仙さんに話すと間違い無いだろう、と憶測での話ではあるがそのような話になった。
鈴仙さんは素早く背負っていた背中にいっぱいの大きさの木箱から包帯を取り出した。そして傷口を塞ぐ何かをつけてから巻きつけた。何か厨二くさい格好になった。僕はそれから床に倒れ込んでいたレミリアさんを背負ってからゆっくりとこの部屋を出た。状況を保持しておく必要があるかららしいがこれだけに何か調べられそうな予感はしなかった。ただいつも通りの休憩時間を楽しんでいただけの部屋にレミリアさんが床で倒れていた。一箇所だけ不自然に距離のある椅子があるが其処に座っていたのだろう。そして、誰かが来てレミリアさんがそれに驚きながら応対した。そして首筋を噛まれて血を吸われて倒れた。言ってみれば簡単な話だが、不可解な点はある。レミリアさんが弱かったのか、相手が強かったのかそれは結論は出さないでおこう。
「次は一階へ向かいましょう」
僕はレミリアさんを背負って一階へと階段を降りた。そして、何事もなく一階の大広間へと辿り着いた。その間に誰か居るような雰囲気はなかった。何となくだが、紅魔館をここまで陥れた人は何処かに出ていってしまったようだ。
「捜索したはずですよね」
「確かにそうですけど螺旋階段の下だけは見ていないです」
「それは地下空間はまだ見ていない、という事ですか」
紅魔館の知らない鈴仙さんにはそんな感想になると思っていた。厳密に言えば彼処は地下空間ではなく、紅魔館の中を利用した異空間である。理解出来なければ紅魔館と同じ高さ、大きさの地下空間があると言うことでもいい。
「そうですね。問題ないと思いますけど。彼処には怖い人が居るので」
「えっ、それはもしかしてフランさんですか?」
「知っているんですね。それはなら話が早いです」
「青年から話を聞きました。とても怖いなんて言ってましたね」
「本当に暴れたらそうでしょうね」
僕も実のことを言うとまだ怖い。能力は一部見せてもらったがそれだけで本気なんてものは見せてもらっていない。そう考えると真価を見たことはないのである。
「うっ、ちょっと待ってくださいよ」
鈴仙さんは意外にも気が小さいらしい。僕はその様子を見ないようにして背を向けていることにした。
「行きましょう」
「では、行きましょうか」
僕の言葉で二人は地下空間へと向かった。
○
此処には本が所狭しと置かれている。その全てに防御魔法がかけられており、ちょっとやそっとの事では傷がつかないようになっている。ただ、先人のおかげで燃えた本は何冊かあるらしい。何をしていたのだろうか。
地下空間、基大図書館は静まり返っていた。しかし、そちらの方が通常通りだった。此処には魔導書を読んでいる女性と本の整理を行なっている司書、それから偶に訪れる金髪の少女くらい。後は咲夜さんやレミリアさんが何らかの用事があって訪れる。本の種類は魔導書はもちろん、童話や料理本、大体のものなら何でも揃っている。紅魔館の各々の趣向を汲み取って本を増やしたところこうなったらしい。
この光景は僕は慣れていたが鈴仙さんはふと足を止めていた。螺旋階段で降りた先、天井を見上げるような高さの本棚もある。それは普通ならあり得ない高さになるので常人が見ればこうなるだろう。
「広いですね」
呆然とした表情からぽつり、と出ていたその言葉は正にその通りだった。僕はその声にふと笑って階段を降りた。大図書館は一階と二階に分かれている。一階には魔法を試すための広間が用意されているため広くスペースが取られている。
僕がそこまで降りてから気づいたことと言えば誰もいないと言うことだった。それはある意味、異変が起こったと言うことを示している。此処で日々から魔法の研究に明け暮れているパチュリー・ノーレッジがいつもの机の上で魔導書を開いていない時点で気づくべきだったのかもしれない。それと司書を務めている小悪魔は居なかった。あの人は居たり居なかったりするが基本的には何処かに居る。
「一階の本棚を見て回りましょう。それと更に奥に進みましょう」
図書館の下に元々レミリアの妹であるフランドールが監禁されていた場所がある。だが、僕は足を踏み入れたことはない。それが気がかりである。
「分かりました。別行動をとった方が早いですけど、どうしましょうか?」
「辞めましょう。僕に知識がありません」
「そうしましょう。私も流石に人の敷地を理解しているわけではないです」
そう言うがまた別の理由があるのだろうと思ってその場では黙っていた。後で復讐、みたいなことにはならなくてもそれに近いことが起こるかもしれない。
「そうですよね。早めに回っていきましょうレミリアさんの容体が気になります」
「了解です」
鈴仙さんは短い回答で終わらせた。何か経験があるのだろうか、腹を決めると凛々しく感じる。それは僕の錯覚だと思うのだが、如何なんだろうか。
それから本棚の周りを歩きながら誰か居ないか探していた。縦方向と横方向に歩きながら誰か居ないか確認していたが見つからなかった。どうやら探していたところには居なかったらしく、反対側を探すことにした。
そこでも探したが見つかることはなかった。その途中で地下室で迎えそうな場所を見つけたので入り込んだ。中はとても暗かった、遠くにろうそくがあるだけで道なんて覚えていられないほどだが道自体は簡単なものでずっと右に曲がっているだけだった。僕も何となく不安はあったがそれを言っていても進む気がしないので前、厳密には下方向へと急いだ。
途中、変な滑りがあったりしたが気にしない事にした。大体は想像できるからだ。きゅっ、としてドカンとできるあの能力、恐るべし。
最後に辿り着いた扉に手をかけたところで変に緊張した。僕は一度扉から手を離していた。鈴仙さんの居るであろう後ろを向いて一言、二言伝えてレミリアさんを預かってもらった。そして僕は右腰に携えている剣を抜いて扉を開けた。誰か居ると言うのは感じ取れていた。
中は意外にも明るかった。ただ、点々とろうそくが置かれているだけのこの場所からすれば太陽といっても過言ではないと思う。その代わり、居たのは二人。感覚で話しているが誰かが誰かを抱え込んでいた。それに動く気配は全くない。それだけではない。何か違うもののようにも感じる。
「あ、ヒカルだ。いっらしゃい」
随分と軽い口調で居るのはフランドールさんだろうと思う。金色の髪をサイドで結んでいる少女でレミリアさんの妹である。赤色のドレスを着ていて背中からは羽が生えている。そこには七色の宝石のようなものがついていて煌びやかに光を放っている。
「此処にパチュリーさんは居ますか?」
僕は聞いた。そして、返答は意外なものだった。
「今、膝を貸してるよ。とても辛そうなんだ」
「それはフランさんがやったわけではないですよね?」
当たり前のことだろう、と思ったが一応の確認だった。現に今のところまだ状況は掴めていない。
「見えてないの?私がやるわけないじゃない」
少し怒り気味で答えていた。それもそうだろうと思いながら僕は光に目が慣れてきたところで目を開けた。そこには赤色の大きなベットに座っているフランさんとその膝で横になっているパチュリーさんが居た。いつも気分が悪そうにしているが今は本当にひどい状態になっていた。紫色の長い髪で縦方向に紫色の線が薄い紫色の生地に入っている服装をしている。そして頭にはナイトキャップを被っている。今は頭ではなく、目の方に被っている。
「フランさん、パチュリーさんは首筋は赤くなってますか?」
僕はそう聞いた。それは美鈴さん、咲夜さん、レミリアさんに見られた症状のようなものだった。見た感じに肌の白さも何となく似ている。ただその距離は遠くてそうだと言える確証というのはなかった、パチュリーさんが色白であることも加味して。
「うん、なってるよ」
フランさんは意外にも簡単に答えてくれた。その言葉から何処か違うものを感じるのだが。
「早く永遠亭に連れていきましょう」
僕はフランさんに声をかけたところで変化しているように感じた、フランさんの狂気というのを防いでいた蓋が外れたということが。僕はその場で立ち止まって間合いを空けていた。来るならそれでも良い、そのぐらいの気持ちで剣を抜いていた。元々不安定なのだ、だからこそ自分の気持ちが抑えきれなくなって何か変な事になる。それを僕たちは見ているしかなかったので長年此処で監禁されていたらしい。
「ねぇ、私はどうしたら良いのかな?」
「美鈴さんは無事そうなので一緒に紅魔館を皆が帰る場所を守っていてください」
「そうやってまた大事な人を奪うの?」
「そんなつもりはありません」
と言いつつ、何となく本当にそれをしているような気がしてきた。気がする、だけなのだが僕の心は縄でキツく縛られているように痛かった。僕はどのようにすれば良いのか分からなかった。
「嘘だ。取り返しのつかない事になるんだ」
「それは、ないです。と言うか僕は防いでみせます」
「そんな事言って私から何を奪うの?」
「だから何も奪いません。何でしたら永遠亭に来ますか?」
「それはやだ」
わがままだと、簡単に切り捨てることはできる。だけどそれをすればフランさんはどうなるのだろうか。僕は息を一度吸ってから吐いた。
「貴女は紅魔館の主人の妹として此処に生を受けた。主人なき今、やる事は大体理解しているはずだ。誰に任せて自分は何をするのか、俺は代理としてやらせてもらう。こうやってお父さんは言うのでしょうね。ゆっくりで良いです。フランさんはレミリアさんの居ない今、どうやって耐えるかそれを考えてください。味方は意外と居ると思います」
僕はお父さんの気持ちになって言葉を繋いでみた。その結果だ。僕にはとても不本意なのだが、あの無尽さは偶に見習うべきだと思える。何事も彼を揺さぶることができないあの神経の図太さは並大抵の人間が持っているものではない。僕はその子供として何かを引き継いでいると思う。
「そんな事、言われても分からないよ」
「美鈴さんは多分無事でしょう。あの人なら少しぐらいなら頼ってみても良いのではないですか?それにレミリアさんよりも頼りになりそうですよ、フランさん」
「そんなこと言われても、私は何もしてこなかった」
「それで良いじゃないですか。何もなければ居るだけでかまわなさそうですし。咲夜さんに出してもらった紅茶を飲んでいるところしか見たことないですよ」
僕は少し笑いながら言った。少し馬鹿にしていると言えば、そうかもしれないがそれで安心するなら僕のやっている事は間違いではないと思っている。
「分かんないけどやるよ。少しは手伝ってくれる?」
「善処します」
僕は明快に答えた。実際のところ、紅魔館のために何か出来るとは思っていない。それよりもその先、誰が紅魔館をこのようにさせたのかが気になる。僕はそう言う腹積りだった。帰り際、美鈴さんに会ったが何事もなく眠っていた。