もう夕暮れというには十分な時間が経っていた。僕は河原に座り込んで水の流れる音とこの葉の揺れる音を耳の中に入れながら時間を過ぎるのを待っていた。永遠亭からここまで来るのはさほど時間はかからなかった。それだけ速く飛んできていたのもあるのだが意味があったのかと言われるとそれは何もなかった。それに気付いたらここにいた。それに嘘はない。誰がいるだろうとここに居たがにとりさんも雛さんも姿は見えなかった。仕方なく僕は剣を手に取り、素振りに明け暮れた。
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それから夜を迎えようとしているところで椛さんが迎えにきてくれた。哨戒は大変疲れるだろうがその素振りを見せてこない。とても優しい笑顔で僕に話しかけていた。こうして見れていれば何ら変わらない女性に見えるのだが、お父さんとの戦闘は狼だった。あまりにも変わっているので多分その内間違える可能性がある。
「お疲れ様です。椛さん」
「今日は一日中、剣の素振りをしていたんですか?」
「いえ、朝のうちに一言伝えようと紅魔館に向かいましたーー。それで今日は大変でした」
今日、僕が辿っていた道筋を伝えておいた。到底、椛さんが共犯だとかそういうふうにも思えなかったからだ。そもそもやる理由は思い当たらない。
「白い肌の吸血鬼ですか。私は見ていませんね。報告しておきましょう」
椛さんは僕の言葉を信じてくれるようで追加で報告してくるらしく先に家の中に入る事にした。
そこそこ広い部屋に僕一人で居た。だが、これは椛さんは今まで体験していた事なのである意味感心した。手入れも何もかも大変だろうが問題ないのだろう。あれだけしっかりとしている訳だし、多分だけど。
今日は何かと大変なことが起こっていた。永遠亭と紅魔館を二往復。そして此処から紅魔館へ向かった距離もある。良い鍛錬ではあったがそれでもそれをそのまま受け取れるほど僕は簡単ではなかった。美鈴さんや咲夜さんやパチュリーさん、レミリアさんを襲った吸血鬼。レミリアさんの話によれば白い肌とはだけた黒いドレス、青色と思われる瞳。その人にレミリアさんは対峙していても噛まれた。誰が何のために血を吸ったのだろうか。レミリアさんだけなら同族狩りがありえるが他の三人も加えるも無差別としか考えられない。それに人里でも一人だけ同じような傷を受けていた。一体何の為にそのような事が行われたのかは何も理解出来ていない。こうやって待っている間にも誰か襲われているのかもしれない。これからが吸血鬼が動きやすい時間帯となる。そうやって云々考えている内にゆるゆると椛さんが家の中に入って来た。
「報告終わりました。少しだけ待っていてくださいね」
そう言いながら近くに持ち物である盾と大剣を置くと台所で米を洗っていた。
「そう言えば、その吸血鬼のおかげかせいなのかは分かりませんが守谷神社に人が押し寄せているようです」
椛さんは作業の途中でも平然と話をしてくる。僕は囲炉裏のあるところから外に出るための土間に足だけをつけて座って対話をしてみる事にした。
「誰もが怖いからですよね」
「そうでしょうね」
ザザッー、と米を洗った水を流す音が聞こえる。それから再度水を入れてから石で出来た窯に載せて火を付けていた。それは手慣れているようで簡単に行なっていた。それから火の調節をしながら段々と大きくしていた。
「もしかしたら大きな異変が起きそうです」
「それはどういう意味ですか?」
やはり分かる人には分かるのだろうが、あからさまだと言えばその域を超えない事態は起こっている。
「その吸血鬼はとても強そうなんですよ」
「影響は少なからず残るかもしれないですか?」
「それは今のところは何も言えません」
椛さんは手で何かをしているようだったが何をしているのかは分からなかった。空気を送っているにしては手でやるのは非効率的だと思う。それでもやっているのだからそれで良いのだろう。
「そうなると博麗の巫女が動きそうですね」
「出てくるでしょうね。ですが、今の代にそれほど期待していません。それこそ貴方の方が頼りになります」
それはそれでどうなのだろうかと思うがいつ動くか分からないよりも何となく動いてくれそうな人の方が良いという話なのか、頭を張り巡らせてみたが答えは出てこなかった。
「それともしかしたら今日の事態がこれから利用されるかもしれません。哨戒は怠れませんね」
「参拝客に紛れてくるとかですか?」
「それは何とも。そういう訳で明日から訓練始めましょうか。どこまでついて来れるか楽しみですよ」
その言い方はとても怖かったのだが、期待されているようにも感じる。勝手な思い違いであるかもしれないが言葉の通りなのかもしれない。
「分かりました。早くリベンジしたいです」
「楽しみにしてます」
それだけ言って調子が良くなったのか何も話さなくなった。それだけではなく何か考えているようで何も言うことができなかった。それはそれで構わないが二人居て黙っていると言うのは何か別空間に生きているように感じて個人的にはとても寂しい。
考えても仕方ないので土間から離れて抜刀の練習をしていた。音は聞こえているだろうが何も言われない限りはそれだけで良いのかもしれない。本当に良いのか僕は了承も何もされていない訳だが。