東方魔剣術少年   作:mZu

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雪は夏に降る(?)
第88話


 ーーあれから四日、椛さんは僕の稽古をつけてくれてからそれだけの月日が経った。今では、身体の動きは概ね元通りとなっている。椛さんからは休憩を取るように言われたが実際のところ、隠れて技の練習を行なっていた。だが、何も言われないところを見るとどちらか二つだと思っている。知っていてわざと何も言わない事にしているのか本当に何も知らないのか、その二つだろうがとても気になる。

 

 だが、今日出かけた目的は技の練習というわけではない。幻想郷の南側、その中に迷いの竹林という謎に包まれた場所に向かう。其処には永遠亭という診療所があり、現在その場所では三人気になる人がいる。先日、首筋から何者かに血を吸われて失血した人達だ。僕としては不安で不安で仕方ないという程ではないが、お世話になった人であるので少なからず気にしている事にした。今日はその為に一言だけ椛さんに伝えて僕は出かける事にした。

 

 僕が現在身を置いている妖怪の山の南側、その場所に人里と呼ばれる集落がある。集落といって大きな街のようなものでとても賑わっている印象がある。そのはずだが、何かに襲われたかのように閑散とした雰囲気が漂っていて不気味であった。恐らくと言うほどでもないのだが、吸血鬼が原因なのだろうと思っている。それほど一人襲われたにしては大袈裟なような気もするが紅魔館の件を考えると無理もないような気がしてきた。

 

 人一人、通らない通りを駆け抜けていく事何十分か、見知らぬ誰かに声をかけられた。その人は全体的に青色の髪していて奇妙な形をした黒い帽子を被っている。半袖の白いシャツに青色のシャツを重ね合わせていてその丈はくるぶし近くまでになっていた。そして右手には何やら盗人を捕まえるような先が胴体にハマるようになっている棒を持っていた。長さは僕の身長はないほどだが、少々持ちにくそうなものだ。

 

「お前は?ヒカルだな。少し話がある」

 どこで知り得た情報なのか、そして右手に持っている棒を構えながら近づいてくる、怒りに満ちている表情を浮かべて、何も思い当たる節のない、その人の行動に僕は道を変えようとした。

 

 それでも棒を投げてまで進路を塞ぐほどの丹念を見せられたは僕もその場に止まるしかなかった。

 

「今回の吸血鬼について何か思い当たる節はあるか?」

 

「何もないです」

 

「ケプリとの関係は?」

 

「ただの友人、です」

 

「本当に何も知らないのか?」

 だんだんとしつこくなってきたがそれを口に出せるほど簡単なものではなかった。何か異常に怖いのだ。僕が何をしたのだろうか、と悩むほどには。

 

「知らないです」

 

「それなら、それを証明できるものは?」

 

「何もないです」

 

「今から何処へ向かう?」

 しつこい質問攻めに僕はどうしようか迷ったが逃げるなんて選択肢はなかった。それが出来そうな雰囲気でもなかったと言うのが一番しっくり来るだろう。目の前の人があまりにも怖い。

 

「永遠亭です」

 

「一人でいけるのか?」

 

「何回か大丈夫ですよ」

 

「何を目的に?」

 

「それを答える前にどうして僕を犯人かのように質問するんですか?」

 

「それはだな。怪しいからだ。突然現れた二人が今回の件を手引きした恐れがある。それを確かめたい」

 

「そう言うなら僕が何か出来そうに見えますか。父親にも勝てない非力な人ですよ」

 

「そう言うことは聞いていないが、聞いていないが。うーん、お前のいう通りかも知れん。申し訳なかった。それでこれから何をしてくるのだ?」

 

「レミリアさんと咲夜さん、パチュリーさんがどんな感じなのか診にいくだけです」

 

「そうだったか。それは済まないことをした」

 その人はそう言って踵を返して何処かに向かった。それこそ、新たなる獲物を探しているかのように。僕は其処で見るのを辞めて永遠亭への道を急ぐ事にした。

 

(流石、青年の子供ではある。もう少し探りを入れてみようか)

 修行がてら走っていた人里で僕は微妙に迷子になった。あまり迷う事のない場所であるが少しだけ考え事をしていたらどうやら感覚に頼ってしまい、そのまま走っていた結果、こうなったらしい。不覚な事この上ないが道は分からないわけでもないのでそのまま進む事にした。

 

 鬱蒼とした薄気味悪い森で普通では見られないような木の形、色とりどりのキノコが生えていて何があったのか、それを疑ってしまうほどだった。そんな奇妙な姿をした森、通称魔法の森と呼ばれているこの場所では友人が暮らしている。黒い屋根をした六角形の筒のような建物が隣接している家がある。その場所は少しだけ視界が良くなっていて作物を栽培している。その家に住む主人にどういう訳か知らないが間借りしているらしい。気に入られたという事にしておこう。

 

 此処では紫色の煙のような何かはなく、綺麗な空が上には広がっている。丁度この辺りだ。

 

 僕は黒い屋根の家の扉を軽く叩いていた。大抵の場合は居ると思うがすれ違っていたりすればまた今度の機会にしようと思った。居ないのだろうと思って踵を返そうとしたその時、そっ、と開いた扉からは白い顔色をしている男が現れた。不審そうに開けたその表情が柔らかくなるのはそう時間がかかるものではなかった。

 

「久しぶりだ。調子はどうだ?」

 白い髪をしていて灰色の服装をしているその男性は少しだけ疲れているようだった。それにも関わらずこのように聞いてくるので僕も変な風に話してしまった。

 

「これはこっちが言いたい事ですよ」

 

「何かあったか?」

 

「人里に向かったら大変でしょう。白い肌の吸血鬼が人里で悪さをしているようです」

 

「それは俺がそう言う人に見えると言うことか?」

 友人同士だからこそ言葉を無理に選ばなくてもよかった。だからこそ、冗談めいた口調で吸血鬼などと言える訳だ。

 

「冗談ですよ」

 

「あながち間違いでもないから別に気にしてない」

 どうやら人里には行っていたらしい。僕も久しぶりに人里には入ったような気がするので頻度はそう変わらないのかもしれない。

 

「立ち話もあれだ。……中で話そう」

 白い肌の吸血鬼に間違えられそうな友人はそのように言っていた。僕も流石に疲れていたので茶の一杯でも飲もうと思った。友人の計らいで家の中にお邪魔した僕は最初に見えた景色に足が立ち止まった。

 

 中には無数に並んだ人形がこちらを向いていた。大小様々なのだが、その全てはただ一点を見つめていた。その先は玄関先で全ての人形が僕の事を見ていた。

 

「慣れないか。まぁ、早く入ってくれ」

 ケプリさんはこの環境には慣れてしまったらしい。毎日のようにそのよう場所に居れば僕が部屋を借りていて食事が出てくると言うのが当たり前と思えてしまう……それと変わらないような気がしてきた。

 

「久しぶりね。いつぶりだったか忘れちゃったわ」

 人形と変わりない雰囲気のある少女、アリスさんは部屋に大きく陣取っているテーブルの上で人形を作っていた。細かな針仕事なのでケプリさんはここで集中力を鍛えているのかもしれない。とても上手いと思う。

 

「そこまで期間は空いてないと思いたいですけど」

 ここ一週間ぶりだと思っている。それでも長いような短いようなそんな気はしている。

 

「そうだったわね。それで今日は何か用があってきたの?それとも偶々寄っただけ?」

 意味のあるような言い回しをしているアリスさんは何か僕を試しているようだった。それで僕はどう答えようか迷っていたがあまり変わりはないと思う。確かに用はあったがそれは偶々通りかかったので出来ただけでここに来るのが目的ではなかった。

 

「両方です。偶々寄って人里で何かされなかったか聞いてみようと思ったんです」

 

「そう。ちょっとあれは私も酷いと思っているわ」

 アリスさんは右手に持っていた針をテーブルに置いて一つため息を吐いていた。テーブルには手乗りの大きさの人形が転がっている。縫っている途中だったので左肩の縫い口から糸が出ていて針の柄にある穴に入っていた。

 

「俺も同感だ。偏見もいい加減にしてほしい」

 ケプリさんも不機嫌そうに答えていた。確かに白い肌をしているとは言え、それだけで犯人と同等の扱いを受けているのは何か違うと思っている。

 

「それだけ今回の件は非常に危険なものなのでしょうね」

 

「そう言われても何が起きたくらいは話して欲しかったわね」

とアリスさん。顔立ちとは裏腹に黒い感情がそこからは出ていた。

 

「僕が知る限り、紅魔館の住人が三名やられました。それで今から永遠亭に向かおうと思ってます」

 

「それは大変ね。私たちの心配しているよりそちらに向かってあげたら?」

 とアリスさん。それに同感して強く頭を縦に振るケプリさん。ほとんど無言の圧力というのを感じた、今は確かにここで長居している訳にもいかなかった。少し後ろめたさもあるがその場は一旦帰る事にした。ケプリさんとは次はやろう、と言われたがその約束はいつ果たされるかそれは分からない。

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