静かな風の中で揺れる竹林。その中に一軒、和風建築された建物が一軒だけある。その建物は皆から診療所として利用されているが正直、人里で軽い処置を受けてから出ないと来れなさそうな辺境にある。この辺りは迷いの竹林と言われて成長の早い竹が壁のように生えている上に地面の独特な傾斜によって何処に向かっているのか分からなくなる。それに加えて昔は見ることができないように施された結界まで張られていたらしい。
永遠亭と呼ばれるこの建物には僕は用がある。三人の怪我した人が療養を行なっているからだ。今回、騒がせている吸血鬼のお陰様で。
「元気そうですね」
永遠亭の中にある広い池とそこに架けられた赤く塗られた橋には見覚えのある人が立っていた。サイドの長い銀色の髪をしている。そして今は診療着に着替えているので分かりにくいがメイドを務めている人だった。
「お陰様でね。それにしても不覚をとったわ」
咲夜さんは僕の顔を見るなり、頬を赤らめていた。取り敢えず、メイド長として今回の件は不覚をとられているのでそれを助けられたのは嫌だったのだろう。
「そんな事もないと思いますよ。次の機会に挽回しましょう」
「それもそうね。そういう事にしてあげるわ」
「後の二人はどこに居ますか?」
「お嬢様とパチュリー様は寝室に居ると思うわ。詳しいことは永琳に聞いて頂戴」
「待ってますからね」
僕は一言残してこの場は一旦後にした。
○
次に僕が向かったのは永遠亭の中でも診療者の布団が並んでいるところ、その中でも個室とされているところだ。基本的に知り合いしか入室出来ないようにされているがそれはないのと同等でもある。
「そうですよね?」
「簡単に入れるものね」
青色のカールのかかっている短い髪と口元から溢れる魅惑の牙、その貫禄からはかなりの実力者である事を匂わす。何故、負けたのかは分からないが。
「これだから幻想郷なのでしょうね」
「そうだと思うわ。それでどうして貴方はそこまで平然としていられるのかしら」
「何か問題でも?」
「もう良いわ。減るものでもないし」
紅魔館の主人であるレミリア・スカーレットは布団の中に下半身を埋めながらその場で固まっていた。まだ日は登っているので外に出たくはないのは分かるがそこまでする必要はあるのかというほど布団で体を隠している。
「そうですか。元気そうで何よりです」
「ところで、紅魔館の方は大丈夫でしょうね?何かあったりしない?」
「そこは仲間を信じてあげてくださいよ」
僕から言える事はこれぐらいしかない。それ以外に言えることといえば最近の事情は全く知らないと自白することぐらいだ。
「そういう事にしておきましょうか?ええ」
「それではここで帰りましょうか」
「早いお帰りね。そう急ぐ事もないわよ」
「僕には勝ちたい人がいるので。やれる事はやらないと」
「貴方の運命は簡単なものではないわよ」
ふふふ、と軽く笑うレミリアさんは妙に未来のことを知っているようだった。運命を見ることができる、というのはあながち嘘でもないのかもしれない。
元々無理難題を勝手に押し付けているのでそれはもう絶対に逃れられない事なのだろう。それくらいはもう分かっていることだった。
「それは今に始まった事ではないです」
僕はそれだけを言ってレミリアさんのいるこの部屋から離れた。運命を見る事によってある程度は見透かされているのだろうがそれは知った事ではない……と思っていたい。