やっとの事で此処まで来たのだが此処は空という中に存在しているのか、それともその先にある物なのか。平面でしか空を認識してこなかった僕にとっては未知の世界であり、あろう事か月へと向かっている。状況が全く理解出来ていないのだがどうにかなるだろうと自分でも思う楽観的な蜂蜜のように甘い考えでいる事にした。
しかし、真っ暗とも言えないが明るいのかと思うとそうでもないが薄暗いと言うことでもない。管の中にいると言う感覚はあるが周りは暗く、何があるのかは白い粉が付いている事以外は全く分からないが別に困るような事が起こるわけでもない明るさは同時に持ち合わせていた。
「月までもう少しね。」
僕の前を先行している霊夢さんはそのように呟いているのを僕の耳が聞いていた。それ以外の情報は特にないのだがお父さんは月に行った事はあるのだろうか。関係ない事ではあるのだがどうしても僕は考えてしまった。
「あの白い丸い物がそうなんですか?」
僕は聞いてみた。月といえば、満ち欠けがあり、日に日に形が変わる不思議なものである。それがこのような何もないような真っ白な球体であるはずがない、と勝手に思い込んでいた。
「そうよ。見たことはないのね。」
「そうですね。」
「仕方ないわよ。中々行く機会なんてあるわけ無いんだから。」
少し気怠げに聞こえた霊夢のこの話は何処か別の場所に意識が置いてあるようで素っ気ないのものだった。簡単に言えば、集中している人が発するから返事。
「誰かと思いきや博麗の巫女と、知らない男が一人。面白い組み合わせだけど強い悪夢を見ているなんて不運だね。」
誰だろうか、と思ったがその人は見た事にない人だった。ショートの青い髪であるが赤いナイトキャップに幾らか入り込んでいるので本当の長さは判別する事は出来なかった。黒と白のワンピースでわたのような塊がいくつも付いていると言う服装をしている。そして何故か尻尾が見えているのだが僕たちとは違う種族であるのかそれとも装飾の一部であるのかは全く判断はつかない。
「って、生身!もしかして生身!?」
僕はよく知らない。だが、特に何かしたと言う事はないのできっとこの人が言う通りなのだろう。と言うわけで僕は霊夢さんに視線を送っているだけだった。
「生身かな?」
ぎこちなさそうに話すだけの霊夢さんに覇気というのは感じない。一人の少女であった。
「生身でこんな世界に来るなんて何かの罠に嵌ったのかな。それとも、ただの頭足らずの人?」
「罠なんてそんな事は、ないでしょう。月の都に向かっているだけよ。」
僕はその事については何も知らない上に、霊夢さんに連れてこられた。最後は自分の意志だったから特に文句は言えないが今思うとだいぶ危ない事をしていたような気がする。
「月の都、ね。良いでしょう。その悪い夢は私が処理しましょう。」
後ろに隠していたと思われる本をパカッ、と開くと先程見たことのあるような弾が現れた。
「貴方の槐安は此処にある。」
この管の所で現れたこの人がどのような人であるのかは皆目見当がつかないがきっと悪い人ではないと思われる。僕は霊夢さんとその人の間に入ってみる事にした。
「辞めません?何をするのはよくわかりませんけど。」
僕は何となく遊びとは見えなかったあれを行うのかと思っていた。結果としてその予想は外れていないと思っている。
「大丈夫ですよ。私が貴方の凶夢を処理しようとしているだけです。心配する事はありません。」
その人が何処か眠たくなる声で話していたが僕にはどうしてその気にはなれなかった。
「でも、物騒な事を始めようとしていませんか?」
僕は二人の間に入りながらも何をしているのだろうか、と思っていた。止められる自信はないし、止めようとも思っていない。
「そんな事はしないよ。今はゆっくりと眠ると良いよ。」
「隠語ですか?これから私が撃つ弾に当たって眠りにつくと良いよ、と。何かおかしくありせん。」
「まぁ、良いよ。現実を受け入られないよね。」
その人はうんうん、と頭を縦に動かしていた。それがどのような意味を持つのかは知らないが青色の弾が尾を引いているのを見たときには僕の体は自然と動いていた。
「そうやって強引な手に出るんですね。当たる事はないと思いますよ。お父さんの弾で慣れてます。」
「アンタはきっとその遺伝子を持っているのね。やってみなさい。」
後ろから聞こえる霊夢さんの声は微かなものであるが寂しいような悲しいような、そんな感情を感じてしまった。それは霊夢さんが僕のことを心配しているのか、単純に面倒くさいだけなのかこの時の僕には何も分からなかった。
「ああ、面倒な事になるよ?良いかな?」
「特に心配していないです。」
「まぁ、良いか。」
その人の弾は更に続けられる。尾を引いている青い弾が目の前を覆ったが僕の目では特に問題ではなかった。お父さんの方がもっと濃密な弾の配置をしてくる。そしてそれは後ろから音もなく忍び寄る。
そこに合わせてきたのは紺色の虫のような動きをしている弾の集まりだった。その間を通り抜けられるのかは疑問だったが僕は避けようとも思えなかった。この空間では体の力に合わせて微妙に動き続けるのだがその慣れないことを加味しても特に問題となるようなものではなかった。
「何も処理できなかったけど、そんな事は我関せずと言う感じだね。行きなよ、凶夢とか現実の方がそれらしいよ。二人さん、月の都へと向かうそうだけどこれよりもひどい凶夢を見る事になるけれど十分覚悟してくださいね。現世から夢を見ている者達よ。」
その人はもう僕に対する攻撃はやめていた。僕としては被害とかその辺りのことは何もわからないが怪我を負った訳でもなければ負わせたわけでもないので気にしないことにした。
「行きましょう、霊夢さん。通してくれるそうです。」
「よく判らないけど、夢の世界を介してやっと月へと行けるようね。」
霊夢さんはそのように言った。
「汝、凶夢を打ち砕いてきなさい。」
「分かりました。善処します。」
僕は夢の中で出会ったこの人にその言葉を返した所で今は月の都へと向かう事にした。正直な所、どうなるか分からないがさほど大きな事にはなっていないのかな?