東方魔剣術少年   作:mZu

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第91話

 妖怪の山での吸血鬼の噂を椛さんに聞いてから早数日。やはり、警備の厳重さからか、中々侵入はしていないようで主に人里での被害が多かった。多くは自警隊の失血だが、偶に仕方なく出掛けた住民が襲われている場合もある。そして皆が寝静まった夜だけではなく、誰かの目がありそうな昼間でもその被害は出ているらしい。

 

 僕はそれを上から見下ろしていた。ここ最近妖怪の山から降りていないからだ。ふと気づけば誰もいなさそうな森の中で一人で技の練習や基礎体力の向上のための運動を行なっている。最近ではこれが日課となっていた。

 

 朝、椛さんのところで食事を摂ってからすぐに走りに向かう。決して平坦ではなく、起伏のある場所で木々の隙間を縫うように走っていく。それをあまり居ない参拝客の迷惑にならない形で山を回り続けていた。いつも適当な道のりで何処に向かっているのか偶に分からなくなる。それでも何とか戻って身体を川の水で洗い流した昼間、そこから技の練習に入る。一ノ技、ニノ技を中心に行なっている中で六ノ技、八ノ技を練習していた。これは対人でのみ発揮されるものであるが形だけなら何となく出来るようになった。それは夜、椛さんに見て貰っている。

 

 一日は大体それで終わってしまう。腕は重たい、脚はまともに動きそうにない。それでもやっぱり前に進む必要はあるので我慢できる範囲で続けていた。根性とかそういうのを試されているように思える。ここ数日、椛さんの本気というのは見ていない。実際のところ、どこまで近づけているのかは知る由もない。ただ手応えだけはある、技がうまく扱えるようになったという。それでも手が届く範囲にいるのかと聞かれたら僕は全くと答えるだろう。

 

 肩を落として、今日も帰路についていた。身体はだいぶ疲れていた。それでも椛さんは我関せずのように接してくれる。優しいのか、厳しいのかそれが判断つかない。頃合いを見て出てきた茶碗一杯のご飯とお碗一杯のすまし汁。これだけは常に用意されていた。それ以外は特に助けがあるようには思えなかった。

 

「どうやら近頃、この辺りまで吸血鬼が来そうです」

 突然の話だったが、大体分かっていたことだったのであまりそのような感じは出さずに答える事にした。

 

「見つけたんですか?」

 

「その通りです。もうそろそろ調整に入らないといけなくなりましたね」

 と言う椛さんではあるが僕には何か違うことを考えているように思えた。他人の考えなど詮索しても何も分からないので深くは入り込むつもりはないが何処か違うと思える点はあった。

 

「いつも通り過ごしていれば良さそうですね」

 

「少しだけ量を減らしてください。少しだけですよ。今回ばかりは分かっている厄災ですから」

 やけに楽しそうにしている椛さんはやはり何か考えているようだった。僕には何をしようとしているのかは理解できるものではなかったがそれはそれで良かったと思っている。

 

 何となく安心してご飯とすまし汁を食した。朝と夜、これしかないが自然と身体の調子は悪くない。何か混ぜているのだろうかと疑いたくなるがそれも判断する材料は何もない。味わいは特に気にするようなものでもないのでそのままにしておく事にした。

 

「さて、と。私は食器を片付けますが今日はどうしますか?」

 

「技だけ確認したいです」

 

「分かりました。軽くやっておきましょうか」

 椛さんの口からはそれだけが聞こえていた。僕は横になって背伸びをすると間抜けた声を出していた。どうも気が抜けているのかどうしてもこのような声が出てしまう。決してそんなことはないと信じたいけどそれがかなわないのは分かっている。これ以上何も言うことはなかった。

 白い砂利と整備された道、そしてその先にある大きな木製の建物。階段が何段かあるその先にあるその建物はその土地の中での本殿とされる場所だった。その前でその住人である三人が立っていた。紫色の髪をしている背中に注連縄を背負っている赤色の服装をしている八坂 神奈子さん。緑色の髪を一房にまとめたのを右肩に乗せた白い巫女の服装に身を包んでいる東風谷 早苗さん。そしてこの中では一番小さい身長である黄色の髪をしていて丸い目をつけた帽子を被っている曳矢 諏訪子さん。

 

 その間に今回の事件の台風の渦である人がいて、僕達が居た。ふとした瞬間に椛さんに連れられて来た場所であるがまさかここにするとは思ってもみなかった。妖怪の山の山頂、少し前に建てられたとされている守矢神社の境内で五人に囲まれた渦中の人はその状況に戸惑っていた。

 

「なんだい、こりゃ。面白いことになってきたじゃないか」

 その人は白い肌をしていて痩せ細ってはいないが綺麗な身体のラインを作り出していた。胸元は大きく開いる黒色のドレスを着ていて女性としてのそれを見せびらかしていた。脚は左側にスリットという切れ込みがある。髪は黒色のセミショートである。武器という物は特に持っておらず、拳かその伸びた爪での攻撃となると予想される。ただ、レミリアさんのように魔力で生み出す場合は考慮しない。

 

「此処に来るには少し早いじゃないか。とっとと出直してきな」

 神奈子さんは敵を目の前にしても特にするような事はない、恐らく攻めてきたら相手するのだろうがその目からはやる気のなさが伺える。それに比べると早苗さんは変にやる気を出しているのが変に面白かった。諏訪湖さんは特に反応はなくカエル座りをしたまま少し笑みを溢している。土着神としての自信はかなりのものなのだろう。最強の更に上をいく、なんて事もあるかもしれない、何を言いたいかは僕も分からない。

 

「お前らの血を吸えば私は更に強くなれる。早く寄越しな」

 椛さんは此処で変に笑いを堪えていた。完全に劣勢の状況だし特に構える様子もないので僕も何をしようか迷っていた。

 

「おいおい。もう少し楽しもうよ」

 子供をあやすかのような笑みをしている不気味な神奈子さんは目の前の人に何もしようとはしなかった。御柱なら先制くらいにはなると思う。

 

「残念だけどそんな暇はない。早く血を寄越せよ」

 

「お前の世界ではどうだったか分からないが此処では吸血鬼はもう間に合っている。早めに帰りな。此処で五人倒しても弱い部類だからさ」

 一種の宣戦布告ではあるが本人がその気は全くない。それどころか蔑みも入り始めたのかもしれない。ある意味では怖いがこれが本来の姿だと言うのならこちらからは何も言えない。

 

「神奈子様、諏訪子様、此処はこの人にやらせましょう」

 本当に軽いノリで言い出したのは僕の右隣にいる椛さんだった。そんな素っ頓狂な発言に笑いながら承諾する二人、それを見ていた中心の人は困惑していたが僕の姿を見てニヤリ、と嫌な笑みを出した。この中では確かに背は低いし弱いだろうがそこまで露骨なのは受けつけられる気がしない。

 

「お前が?楽しくなさそうだな」

 そう言っていられるのもそこまでだろう。勝ってこい、と言われているような気がするので僕はその場で構えていた。誰に勝つのか、それは一つしかない。此処で石に躓いている暇はない。

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