とにかく、その日は自分に与えられた部屋で一人、横になる事で英気を養っている事にした。明日からはそれなりに扱かれる覚悟はできている。それに、されなくともそうするつもりでいる。まともに剣も持てないようでは勝てる者にも勝てそうにない。
早朝、ある人がここに訪れた。僕もこの時ばかりは早めに起きていて昨日やっていた事を繰り返し行っていたところだった。それ以上はどうにもやれなさそうだが、基礎的なところから始めてみようと思う。風を感じる、と言っても目に見える訳でもないので流れる方向やそのものの気配を感じていた。それこそやれるわけもない途方もないものだが、それはここまでで学んでいる。いつになったら勝てるだの、言っている暇があるなら何かやっていた。現に、身体も十分に動かないのにこうやって立ち、風を感じていた。
「似てきましたね。嬉しいです」
「椛さん。来ているのは分かっていました」
「三ノ技、使い始めたようですね。それは風の流れから相手の気配を感じ取るものです。そして、一瞬だけ見えては消えていく代わりに全ての範囲を察知出来ます。もちろん、力量に合わせた範囲と濃さですが」
三ノ技 凪は要するに索敵のための技だ。前にも説明を受けていたので分かってはいたが使い分けは必要そうな気はする。本当に一瞬しか理解出来ない、その代わりどの方向に誰がいるのかは何となく察知出来る。今は多分、永遠亭を囲めるのが限度なのだろう。気づいてから声をかけられるまでそれほど時間は有しなかった。
「それでも使えるようになったのは私としては嬉しいものです。これからも支え続けますから」
「その気持ちを無下にしたい訳ではありませんが、要りません。自分で立たせてください」
「言うようになりましたね。それなら、早く私を倒してからにしてください」
「そうですね。頑張ります」
僕としてはちょっとした軽口、それでも椛さんはまた違う場所を見ているようだった。
「二人とも、是非ご飯を食べていってください」
「いえ、遠慮しておきます」
白いウサギ耳、紫色のミニスカートをはいているブレザーを着用した学生のような服装をしている鈴仙さんは僕たちの事を朝食へ招待したが椛さんは少し考えてからそのような判断をした。僕としては何方でもいい、なんてわがままを言うつもりはないがそんな所ではある。食べられるならそれでも良いし、早めに身体を鍛えておきたいといえばその言葉に二言はない。相手の行為を無下にするか時間をほんの少しだけ失うかそれで悩んでいる。
「折角ですから、英気を養えるように昨日、食材を揃えてきたんです」
鈴仙さんは必死になっていた。僕もここまでされては断りたいとは思いたくない。
「椛さん、食べてからでも良いですか?鈴仙さんを含めた永遠亭の皆さんの行為を無駄にしたいとは思わないので」
「そうですね。私はもう済ませていますので貴方はゆっくりと食べていてください」
「分かりました。少しだけ待っててください」
僕は椛さんを置いて鈴仙さんの後ろをついていった。椛さんは少し微笑んだ感じで僕の事を見送ると縁側に座って時間を潰そうとしていた。
○
食事には鰻はもちろん、レバーや果物など栄養に偏りがないと思われるものを多く食べていた。そうお腹に入らないと思っていたが基本的にあっさりとした味わいのものが多かったので心地良い満腹感を得られた。流石に全て平らげることは出来なかったがそれほど用意してくれた鈴仙さんには感謝しかない。なので、平謝り同然の角度で永遠亭の皆さんに頭を下げた。
その帰り道、空を飛ぶと言うことを許されなかったので歩いて帰る事にした。付き添いには椛さんがいる。どうやら、永琳さんからは側に居てあげることを条件に今日退院するのを許可したらしい。その事については何も疑問がないがそれほどの作用がある薬を処方されていたとなるとなぜか微妙な気分になる。安心感は何処へやら、と言う状態。
「椛さん、あの後どうなりました?」
あの後、それはいわば、僕がカディング・スカーレットとの一戦の後、どのようになったのか。それについては誰からも聞いていなかった。
「博麗 霊夢と八雲 紫があの場に来ましたが何の成果もなくそのまま帰りました。貴方はちゃんと勝っていましたよ。その代わり、左腕の打撲、身体の著しい疲労をとるために永遠亭では心肺停止の一歩手前まで身体機能を落とす代わりに回復を促す薬を投与してもらいました」
「霊夢さんはその後どうしてますか?」
「それは耳に入っていませんね。恐らく、評判は大分落ちているでしょう、真実を知っている人の中では」
「少し行きたい場所があるのですが、先に行っても良いですか?」
その言葉に椛さんは不可でも可でもない返答をした。好きにすると良い、そんな回答だった。その代わり、今日中に会おうとするなら私が付き添う事は承知して欲しいとも。その事については分かっていた事だった。今日のところ、体の動きが悪いのは自分でも分かっていた。永琳さんの薬の効き目は三日程で打撲を治し、身体の疲労を取り除く代わりにある種の倦怠感はあった。それはこんなに距離があったかと疑問になるほどの広さを実感した時に感じた。
「それなら、紅魔館に行きましょう」
「はい。とてもお世話になっていましからね」
「それだけではないですけどね」
僕は軽くそれだけを言ってから椛さんに抱えてもらう形で迷いの竹林と森の合間から紅魔館へと向かう事になった。