東方魔剣術少年   作:mZu

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第99話

珍しく霧が晴れた湖の向こうには大きな赤い色をした壁が特徴的なとある館が姿を現した。血の色とも似ているそれはある意味ではその威圧感と趣味の悪さを示していた。その中には僕がお世話になった人がいる。恐らく、何か思うところはあるだろうが僕はその先を急ぐ事にした。

 

相変わらず、居眠りをしている門番を通り抜けて、綺麗に整備された庭園を通ると重厚感のある扉を開いた。中には人は居ない。正確に言えば、物音ひとつない状態である意味気味の悪い空間になっていた。しかしながら、僕は一言謝りたいことがあるのでその中へと入る事にした。中は赤いカーペットが敷かれていて左右には洞穴のように続くろうそくだけが揺らめく廊下、目の前には左右に大きく膨らんだ二階に行くための半円の半分の螺旋階段。上には煌びやかなシャンデリアがあるだけで何か問題がありそうには見えなかった。汚れを感じることのない空間は誰かの手によって整備されたようにも見えるがその本人は何処にも見当たらない。もし、見つからなければその時は主人から何か一言伝えてもらう事にしよう。

 

誰もいないような館で僕は二階へと行くために螺旋階段を登り始めた。段に敷かれたカーペットはふかふかで足を踏む音はそれでかき消されていた。無音というのが一番合っているが空気はビリビリとしている。ここは僕以外が居なくなった世界だと感じても仕方ないほどに乱すものはない。それは二階に昇った後で廊下を歩いてもその状況は変わらなかった。椛さんには外で待ってもらっている。変な誤解を生まないためと念を押しているが千里眼の能力で視ているとの事。あまり交流のない上に今回の件であまり良い感じではないようだ。それも仕方がないものだとは思っている。そして、それを直接見てきたのは椛さんなのだろう。

 

とある二階の廊下にある扉から階段を登った先で大きめな扉を見つけるとその扉を叩いた。中からは入るように促されたので入る事にした。

 

「あら、咲夜じゃないのね」

中の部屋に置かれているテーブルにはマカロンやケーキなど紅茶に合うスイーツが段重ねに置かれていた。そこで紅茶を啜るのがこの館の主であるレミリア・スカーレットだ。青色のショートヘアで頭には白いナイトキャップを着用している背中から黒い羽が生えている。種族は吸血鬼、今回の件の犯人である種族でありながら被害者でもある。

 

「すいません」

 

「別に謝る事はないわよ」

レミリアさんは軽く笑いながら僕に席に着くように勧めた。

 

「それにしても何か用?そんなに震えなくても食べたりしないわよ」

 

「前に会った時に話しておくべきだったのですが、勝手に紅魔館から出ていったりしてすいませんでした」

 

「あぁ、そうだったのね。その辺りは貴方の父親を知っているから別に気にしていないわ。一年帰らなかった事もあるのだからこの程度、どうという事はないわ」

レミリアさんは本当に軽く笑っていた。しかしながら、それが冗談と言える確信はなく、レミリアさんの言葉を受け入れるしかなかった。

 

「それでいつ戻るか分からないです」

 

「何かやりたい事があるの?」

 

「はい」

 

「そう書いてあるわ。何か大きな敵と戦いたいようだけど幻想郷にいたかしら?黒い毛に二本の剣、それと人型のようね」

レミリアさんの運命を見ることの出来る能力は僕のこれからを見ていたようだった。それでもそれ以上に気になることはある。

 

「息子として超えたいだけです。その為に今は妖怪の山に居ます。倒せるまではのんびりしていられません」

 

「分かったわ。また、来たくなったらいつでも来なさい。部屋とあの書物とも言いにくい知識の集合体は残しておくわよ」

 

「分かりました。失礼ですが、僕はここで帰ります。外で待たせている人が居るので」

 

「そう、また寂しくなるわね」

 

「すいません」

 

「鬱陶しいわよ。やる事があるなら胸を張っていなさい。少なくとも私はそんな姿見たくないわ」

 

「それでは、倒せたらまた会いましょう」

 

「貴方の努力次第でどうにもなるわ。最善を尽くしなさい」

レミリアさんはそのように僕を応援しているようだった。それで構わない。

 

「はい」

僕はその返事をして、席を立つと一礼してからこの部屋を出た。それから椛さんと再会するまではそう長くはなかった。

あまり身体を使わせまいと椛さんには持ち運んでもらっているがもう一つわがままを言いたかった。そのわがままは別に大層な事ではない。単純な疑問として僕の中で生まれていた事だった。本当に簡単な話、僕はどうして生きているのか?

 

正確にはあの勝負の結末は何も知らない。その代わり、何も起こっていない幻想郷では何らかの方法で倒されたのだろう、今回の元凶は。

 

「椛さん、守矢神社に行きたいです。あの時、何があったのか神奈子さんや諏訪子さんの口から聞きたいです。もちろん、椛さんからも聞きたいですが、三人から一気に話を聞かせてください」

 

「良いですが、覚悟はありますよね?」

椛さんの反応は異様なほど間があった。山彦のような反応速度に僕は少しだけ身を縮こませた。それに、もう一つ気になることといえば、先ほどの覚悟、という言葉。

 

別に覚悟がないというわけでもない。それは何に対するものなのかは何も知らない。ただ、早苗さんを斬ろうとしていたらしい時にとっさの受け身で左腕を打撲しているという事ぐらいは知っている。後は必死だった、生きて勝つ為に。

 

「何に対するものですか?」

 

「それは彼処で行った事に対してです」

 

「すいません。何も覚えてません」

 

「防衛本能が働いただけですか。分かりました。先に話を通してから向かいましょう」

それから椛さんは話すことはなかった。僕は何も心当たりがないので黙って守矢神社に着くのを待っていた。途中、下に見えていた人里は段々と南へと追いやられて森が広がっていた。もう妖怪の山には辿り着いたのだろうと感じたがそれでも疑問が取れることはなかった。

 

僕は少し乱暴に守矢神社の鳥居の前に放り出された。別にその事について怒りはこみ上げないが、もう少し丁重に扱えなかったのだろうか。なんて思う。僕は立ち上がる事は出来てもぶら下げられているというだけでも疲れを感じているのか立ち上がってから呆然としたまま時間を過ごしていた。もう何も起こりそうにもない。参拝客も少なければそもそも誰かいるような気はしない。僕の視界には境内の様子は見えなかった。

 

「ヒカルさん、私が背負うので早く来てください」

聞いたことのある声だった。少し気が抜けているのか誰なのかは判別出来ないが、大体の察しはついていた。足に当たる刃が気になるがその事は相手はそれほど気にしていないのだろう。それに僕も多少の辛抱をしている事にした。

畳の敷かれた本殿の内部には大きな長机が一つ。上には茶菓子と思われる煎餅と急いで作ったのか湯気の立っていないお茶が相手側に置かれていた。取り敢えず何処かタイミングが悪かったのだろうと思う。

 

「いただきます」

僕は目の前に出されたお茶を啜っていることにした。こう味のついた飲み物を飲むのは久方ぶりだと思う。永遠亭でも食欲は湧かなかった。正直、水で良かったので白湯にしてもらっていた。

 

「それで、結末が知りたい、だったか。話すには話すが本当に何も覚えていないのだろうな?」

紫色の髪で背中には大きな輪をしている注連縄をしている赤色の服装をしている神、八坂 神奈子は僕に聞いてきた。

 

「はい。正直、誰がカディング・スカーレットを倒したのですか?」

 

「それはお前がその手で倒した」

 

「本当ですか?」

 

「ええ、それは見ていました」

椛さんは神奈子さんの話に肯定した。

 

「うん、そうだね」

黄色の神、茶色の帽子に目の付いている蛙のような見た目をした幼い少女でありながら土着神である曳矢 諏訪子は少し楽しげにしていた。いつも通りといえばそれに尽きる。それに椛さんが僕の意を汲み取ってくれたおかげで三人が返事をしてくれるらしい。

 

「それで、その人はどうなりましたか?」

その質問には誰もが口を噤んだ。僕は何か触れてはいけない逆鱗に触れたのかもしれない。だが、これは僕が知りたい事なので話してはもらいたい。

 

「お前が四肢を切り落とした後で首をへし折った。自我を失っていたというのなら、仕方ないのかもしれないが感心はしないな」

 

「それで早苗も少し引き篭もってるんだよね」

 

「はぁ、これが真実です」

僕がなぜそのような事をしたのかは全く分からない。気が触れていたというのならば、もうそれは狂気でしかなく、側から見た光景は惨たらしいものだったに違いない。それで早苗さんが気を病んでいるのならば、それは僕の責任に他ならなかった。僕はそこから言葉を出すのをためらった。何を話したら良いのか、それは分からない。だからと言って早苗さんのことを聞きたくてもそれを許してはくれるのだろうか?だが、そうしないとどうにも前に進めなかった。

 

「あの、早苗さんは、どうしてますか?」

 

「活動自粛にしている。無理に引っ張り出しても治らんものは治らん。安定するまでは今のままが一番良いだろう」

 

「本当は助けて貰っているはずなんだけどね」

 

「これはこちら側の責任です」

 

「この事態は僕の所為なのですね」

 

「そう気に病む必要はない。殺し合いとは元々こんな物だったのだ。早苗はそれに慣れていないだけで」

そう言いながらも神奈子さんは目を逸らした。僕もそれ以上は聞くことはできなかった。一言、今回はすいませんでした、と平謝りをして二人には誠意を見せることにした。二人の慌て方はそこまで酷いものではなく、僕を窘めてくれた。こういう時の上に立つ長者は頼りになる。それだけは感じた。それから僕は力なく立ち上がると椛さんの介助を受けて歩いて帰る事になった。椛さんは後で話してくれたがとても話かけられるような状態ではなかったらしい。それでタイミングを失ってそのまま歩いていくことになった。

 

その後、僕はもう一度一人で守矢神社へ向かい、早苗さんに再会した。少し頬を赤らめて顔を青白くする様は相反する二つの感情が入り混じっているのを感じた。それでも僕はそこで謝罪をしたが早苗さんは大丈夫、とその言葉を言って僕の頭を撫でた。

 

いきなり四肢をもいで首をへし折った僕の行動を見て少しだけ血の気は引いてしまっただけとの事だった。僕はどこまでいってもこういう人たちには敵わないのだろうと思う。これまでを支えてくれた人、これからを支えてくれる人、ここからを支える人、その全てに。僕は感謝を述べる事しか返せる手段は無さそうだ。

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