艦隊これくしょんー置いていく者、置いて行かれる者ー 作:きいこ
気になるゲームがたくさんあって今年は当たり年かもしれませんね。
「…以上が出撃中の出来事です」
帰投後、瑞鶴は提督室で今回の出来事を事細かに報告する、当然赤城を置いて行ったことも含め、詳細に。
「…分かった、ご苦労様、書面での記録も必要だから後で報告書の提出を頼む」
瑞鶴の報告を聞いた横須賀鎮守府提督、
「……あの、提督、今回のことは、本当に申し訳ありませんでした、どのような処罰でも受けますので…」
「何度も言わせるな、お前は旗艦として立派に役割と責任を果たした、誰かに責められるいわれはない」
「…………」
「そもそも旗艦命令制度なんてモノを作ったのは俺だ、お前が最善だと判断した結果が赤城の放棄なら、俺に異を挟む権利はない、それにその決断が簡単なものじゃなかったって事くらい、俺でも分かる」
「提督…」
「だからお前は毅然としていろ、自分の決断を後悔したら、それこそ赤城に対する侮辱に他ならない」
相模はそう言うと、今日は早めに休んで気持ちを整理するよう瑞鶴に言い渡す。
「…ありがとう…ございます…」
瑞鶴は一礼して提督室を後にするが、最後までその表情は曇ったままだった。
「………………………」
瑞鶴が立ち去ったのを確認すると、相模は机の引き出しを開け、中から写真立てを取り出した。
「…赤城」
そこには顔を綻ばせて笑っている相模と赤城が写っていた、特に赤城は左手薬指にはまっている
「…頼む、瑞鶴の事を…どうか見守ってやってくれ」
相模は祈るようにそう呟くと、再び写真立てを引き出しの中に戻した。
◇
「…流石にもう広まってるか」
提督室を後にした瑞鶴は早速自分の下した決断に対する
廊下で他の艦娘とすれ違う度に自分を指さしてはひそひそと何かを言い合っている、自分が赤城を見捨てたことはすでに鎮守府中に広まっているらしい、赤城が帰投していないのだから当然といえば当然だが。
「これじゃあ毅然としていろって言われても、難しいかもね…」
瑞鶴は溜め息を吐きつつ食堂へと向かった、あんな事があった後なので正直食欲は湧かなかったのだが、何か食べなければ元気も出ないし気持ちも切り替えられない。
(って、そんなのは所詮言い訳ね、じっとしてたら自責の念に押しつぶされそうだから、無理にでも何かして切り替えたいだけなのに…)
瑞鶴は自嘲気味に口の端を少しだけ吊り上げて笑うと、カウンターにいる間宮に適当な軽食を注文する、間宮は瑞鶴の表情から何かを察したのか、同情的な視線を送ってくる、自分を理解してくれているようで救われたような気になったが、同時にいたたまれない気持ちにもなった。
食堂にいた艦娘たちも同様に様々なリアクションを瑞鶴に向けてくる、指を指してひそひそと陰口を叩く者もいれば、赤城と仲の良かった艦娘などからは怨磋のこもった視線を向けてくる者もいる。
(こりゃ、
「瑞鶴…!」
そんな事を考えながら料理が出来るのを待っていると、食堂に見知った艦娘が入ってきた、青を基調とした弓道着をまとい、セミロングの黒髪をサイドテールにまとめた艦娘…正規空母の加賀だ。
(早速お出ましか…)
加賀はかなり興奮しているのか、呼気は荒く見るもの全てを射殺しそうな勢いの鋭い眼孔を瑞鶴に向けている、怒っているのだという事は誰の目から見ても明らかだった、理由は十中八九
「加賀先輩…」
瑞鶴は気まずそうに目を逸らすが、すぐに思い直して加賀に視線を戻す、加賀は瑞鶴のもとへ向かうや否や胸倉を付かんで勢い良く詰め寄った。
「どうして…!どうして赤城を見捨てたのっ!」
加賀はそうシンプルに問いただした、赤城と加賀はほぼ同じ時期に横須賀鎮守府に所属した同期で、当時はまだ航空戦力が十分といえなかった主力艦隊を支え続けた、言わば掛け替えのない戦友とも言える存在だった。
そんな赤城を瑞鶴が見捨てたと聞いたときは流石の加賀も耳を疑った、きっと何かの間違いだ、あの赤城が轟沈したなど、きっと何かの…何かの…。
「先輩…」
怒り、悲しみ、絶望、そんな色々な感情がない交ぜになった目で見つめられ、瑞鶴は胸が締め付けられるような気持ちになる、しかしここで自分が折れてはいけない、自分たちを守って轟沈した赤城のためにも、そして何より旗艦としての責任を果たすためにも、毅然としていなければならない、あの決断だけは後悔してはいけないのだから…。
「赤城先輩は大破により自力での航行は不可能、自分含め他の随伴艦も大破ないしそれに近い中破、そして敵艦隊の戦力も自軍より格上だった、そんな状況下で赤城先輩をみんなで庇いながら撤退するのは無理だと判断して、赤城先輩を置いていきました」
瑞鶴は提督にも話した当時の状況を加賀に説明した、淡々と、事実だけを述べるように…。
「そんなの…!旗艦のあなたがもっと何か考えれば別の手があったかもしれないでしょう!それに赤城が艦隊のみんなにとって、特に提督にとってどれほど大切な存在だったか…!」
「分からないんですか!?あの時の赤城先輩は足手まといだったから置いていったって言ってるんですよ!それが分からない加賀先輩じゃないでしょう!?」
つい、本当につい反射的に口から出てしまった言葉だった、口にした瑞鶴本人もハッとした顔になるがもう遅い、今の加賀にとってその言葉は禁句にほかならなかった。
「っ!?」
刹那、顔に強い衝撃が走って視界が大きく揺れ動く、それが加賀に殴られたのだという事にすぐには気づかなかった。
「あなたの…!あなたのせいで赤城が!」
倒れた瑞鶴に馬乗りになった加賀がさらにもう一発入れようとしたとき、加賀の振り上げた手が止められる。
「もう止めなさい」
振り返ると、1体の艦娘が加賀の腕を掴んでいた、サラサラの長い銀髪を揺らし、裾の短いドレス風にアレンジされた
「…少し頭を冷やした方がいいわ、あなたは正常な判断が出来ていない、今のこの状況がその証拠よ」
金剛は冷静な口調で加賀を諭す、加賀も少し熱くなりすぎたのを自覚したのか、そそくさと瑞鶴の上から退くと、食堂を出て行ってしまった。
「大丈夫だった?」
金剛は屈んで右手を差し伸べ、瑞鶴を引っ張り起こす。
「…すみません、ありがとうございます、金剛さん」
瑞鶴は引っ張られながら申し訳無さそうに言う、殴られた頬はまだ痛んでおり、時折ズキズキと刺激が神経に痛覚として訴えかける。
「いいのよ、それよりさっきのアレ、言い方としてはあまり感心しないわね?」
「…自分でもあんな言い方をするつもりは無かったんですけど、気が付いたら口から出てて…」
金剛がジトっとした視線を向けながら指摘すると、瑞鶴は肩をすくめて縮こまる。
「…あまり気負わない方がいいわよ、こんな事気安く言えないのは分かってるけど、あなたが旗艦として色々な苦労をしてることも、時にはそういう決断が必要になるって事も、理解してるつもりだから」
「…ありがとうございます、でも…どれだけ言葉で取り繕っても、私が赤城先輩を置いていった事実は変えられませんから…」
瑞鶴はそう言って金剛に軽く礼をすると、出来上がったサンドイッチを持って食堂を後にした。
「…思いつめなきゃいいんだけどね」
金剛は心配混じりに溜め息を吐くが、その心配が近い未来現実となることに、この時はまだ気づくよしもなかった。
次回「悪夢」
その記憶はどこまでも、いつまでも絡みつく…。
今回の金剛はまた少し姿が変わっています。
ちなみに金剛を頑なにゲームの姿で出さない理由ですが、単純にあのエセ口調を再現出来そうにないからです。