艦隊これくしょんー置いていく者、置いて行かれる者ー 作:きいこ
どちらも勢いで書いているせいなのですが。
何とも微妙な気まずさの残る朝食を終えた瑞鶴は出撃任務へ向かう、やはり自分が変わろうか…と金剛は申し出たが、出撃に支障が出るほどではないから大丈夫だと言って断った。
しかし旗艦は艦隊にとって重要な指令役、本来であれば大事を取って休むべきなのだろうが、加賀からああ言われた手前休みづらかった。
それに艦隊行動に重大な支障が出るほどの不調ではないのも事実なので、今日の任務をこなすくらいなら大丈夫だろうと瑞鶴は思っていた。
◇
「…はぁ」
そして現在、瑞鶴は自室のベッドに寝転がり、何度目か分からないため息を吐く。夕食を食べ終えたすぐ後なので“食べてすぐに寝転がると牛になる”というジョークを思い出したが、そんな事どうでもいいとばかりに落ち込んでいた。
「旗艦としては最低の結果だよ…」
瑞鶴はごろんとベッドの上で寝返りを打ち、またため息を吐く。彼女がこうも落ち込んでいるのは撤退により任務を完遂できなかったからではない。
今回は自分に原因があるが、それを差し引いても旗艦や随伴艦の大破、あるいは何らかの原因で出撃中の航行が不可能になった場合などで途中撤退の判断を下すことはままある。
別にそれらは艦娘の命を第一に考える旗艦の立場からすれば間違った判断ではないし、今回の撤退判断も相模から咎められる事はなかった。
「…流石にあんな風に言われたら…へこむよ」
それ以上に瑞鶴の心を抉ったのは、随伴艦の艦娘たちの表情や態度だ、出撃開始から帰投まで終始落ち着かない様子で瑞鶴の顔色を時折うかがってはボソボソと何かを言い合っていた。
『あまりヘマをしたら見捨てられる』
そしてそれはほんの偶然聞こえてきた言葉だった、赤城轟沈の件以来鎮守府の艦娘たちが揃って噂していたため、そういう風に思われていること自体は瑞鶴も何となく知っていた。
しかしこうして同じ艦隊内での出撃中に言われるとなると感じる言葉の重みがまた違ってくる、もちろん瑞鶴に随伴艦娘を見捨てるつもりは毛ほども無かったが、いざすぐ後でささやかれると言葉が心にまとわりつく。
そんな随伴艦娘たちの不安から来る注意力散漫が大破を出した原因のもう半分である。とはいえこうなったのも元を辿れば自分に原因があるので結局元凶は自分だが。
そして決定的だったのは大破したときの睦月の言葉…
『お願いします!見捨てないでください!』
これを号泣しながら言われたのだからたまったものではない。他の艦娘も同じ事を考えていたようで、同様に大破していた三日月と古鷹からも睦月ほどではないが必死に懇願去れたときは流石に
「やっぱりしばらく休んだ方がいいのかも…」
そんな事を考えながら瑞鶴はぼーっとベッドに寝ころんでいたが、いつの間にか眠ってしまっていた。
◇
「いやああああぁぁぁ!来ないで!」
自分以外の全てが切り離された暗闇の世界で、瑞鶴はまたもがいていた。足下には鈍色のスライムがまとわりつき、瑞鶴の身体を支配しようと這い上がってくる。
しかしどうあがいてもこのスライムに抵抗できないことを瑞鶴は知っている。経験がある人ならば分かるかもしれないが、物心付いたときから定期的に同じ内容の夢を見ることがある、その夢の内容は細かい部分で差異があるかもしれないが、大筋の内容と結末…つまり夢から覚める部分は変わらない。
しかもその夢の中で“前に見た夢だ”ということを認識できたとしても、何故か夢の内容に干渉することは出来ない、まるで予め定められた演劇の物語のように…こちらの意志とは関係なく夢の中の住民たちは同じ軌跡を辿り続ける。
スライムは瑞鶴の下半身全体を覆い尽くした後、口の中から侵入して体内を侵蝕していく、これも瑞鶴がどれだけ抵抗しても防ぐことが出来ず、身体の中を引っ掻き回されるような猛烈な不快感が全身を襲う。そしてその時に決まって聞こえてくるのが…
『瑞鶴…どウしテ…』
『オイテイッタノ…?』
赤城の悲しむような、あるいは恨めしいようなあの声だ。
◇
「っ!?」
瑞鶴は勢いよくベッドから飛び起きると、息を弾ませて辺りを見回す、時計を見ると午前1時半を少し過ぎた頃だった。
「…そっか、あの後寝ちゃってたんだ…」
瑞鶴がそう呟いたとき…
「うっ…!」
スライムに体内を侵蝕されたときの感覚がフラッシュバックし、猛烈な吐き気に襲われる。
瑞鶴は慌ててトイレに駆け込み、胃の中身を思い切りぶちまけた。
「はぁ…はぁ…はぁ…赤城先輩、文句言いに来るならスライムじゃなくて普通に来てくださいよ…」
瑞鶴はゲホゲホとえずきながら軽口を叩くが、侵蝕時の感覚が中々抜けず、しばらくトイレに籠もることになった。
◇
それから一週間が経ったが、瑞鶴は依然としてあの夢を毎晩…いや、眠る度に見続けていた。その度に飛び起きてはトイレに駆け込むという、考え得る限り最悪なルーチンワークというおまけつきだ。
「…そうか、そんなことが…」
「えぇ、なのでしばらくの間お休みをいただけないでしょうか、こうも寝不足での出撃が続けば艦隊行動に深刻な影響が出るかもしれません、私だけならともかく、随伴艦娘の命がかかっているとなれば尚更…」
瑞鶴は相模に事情を話し、臨時休暇の相談を持ち掛けていた。その目元には睡眠不足を主張する隈が浮かんでおり、現状があまり良くないことを表している。
寝不足での出撃はこの一週間で少しずつ慣れてきてはいる(本来であれば望ましくないことだ)が、やはりそれに伴う旗艦艦娘としてのパフォーマンスは目に見えて低下しており、これ以上は危険と判断した。
「分かった、しばらくの臨時休暇を許可しよう、旗艦の代役はこちらで調整しておくから、ゆっくり休むと良い」
相模は“寝不足”を理由に休みの申請をした瑞鶴に怒るわけでもなく、むしろどこか申し訳なさそうな表情でそれを許可した。
「…すみません、自業自得による結果であるにも関わらず、身勝手なお願いを…」
瑞鶴がそう言って頭を下げようとするが、相模は右手を挙げてそれを制する。
「それ以上は言うな、お前は休むことだけ考えればいい」
相模からそう言われた瑞鶴は謝罪とお礼、ふたつの意味で礼をすると、提督室を後にした。
「…今日もまたあの夢を見るのかな、だとしたら眠りたくないなぁ…」
またあの赤城スライムに襲われて、身体と脳を支配され、そしてトイレに駆け込む、考えただけで憂鬱になる。
「…あんな夢、早く見なくなればいいのに」
瑞鶴はそんな愚痴を言いつつ廊下を歩くが、ふと足を止めて考える。
もしその夢を見なくなったら、自分の中から赤城を見捨てたという罪の意識が消えてしまうという事なのではないか?。
罪の意識が消えてしまうということは、あの時赤城から言われたことやそれに対する自分の決意、それら諸々が自分から失われてしまうのではないか?。
「…だったらいっそ、このままでも…」
すり減っていく心と寝不足で足りなくなっている頭が、瑞鶴をありもしないネガティブの崖下へと容赦なく突き落とす。
次回「同じ立場」
本当にその人の立場に立って考えたことがあるか。
自分の小説ではよく人が吐くなぁ、と今更ながら思います。