【ガルパン】名探偵西住殿 Ⅳ号戦車消失事件   作:夏鳥 至

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第1話 事件です!

広い戦車倉庫はスポットライトのように天井からの光で一ヶ所だけが照らされる他は夜の闇に沈んでいた。

その中を金属が触れ合い軋み叩かれる音が響く。

大洗高校戦車道アリクイさんチームであり自動車部でもある四人がいつものように夜を徹して戦車の修理を行っていた。

「は~い、よちよち。ご機嫌治りまちたね~」

「ナカジマ、また赤ちゃん言葉出てる」

「え?本当?ホシノ」「出てたねー。な、ツチヤ」

「そりゃあもうバリバリです。ね、スズキ先輩」

「聞いてるこっちが恥ずかしくなるぐらいだったね」

そんな会話をしながら彼女たちは手を止めることなく修理を続ける。その手際はもはやプロ並みだ。

「そろそろ時間ヤバくない?」手を止めて腕時計を見るナカジマ。「ゲッ、9時半過ぎてる」

「明日から臨海学校で学校入れないから今日中に修理しないといけないのに~」ツチヤの細い目が吊りあがる、

「ちゃちゃっと済ませるよ!皆スピード上げて!」激を飛ばすホシノ。

四人の修理の手は人間技を越え、ボロボロだった戦車が瞬く間に綺麗になっていく。

――そして。

「「「「終わったーーーっ!」」」」」

ナカジマが再び腕時計を確認するとPM9:53。全ての戦車の修理が完了した。

もちろん、この後に不可能と思われる状況から“消失”したⅣ号戦車もそこにはあった。

「それじゃあ撤収!」

ナカジマの号令の元、自動車部メンバーは戦車倉庫を去っていった。

 

   ※   ※   ※

 

「ねえ、やっぱり風紀委員が夜の学校を見回りするのって違うんじゃないかなぁ?ソド子」

ゴモ代こと後藤モヨ子は震えながら前を行く風紀委員相談役の制服を掴んだ。

「ち、違わないわよ!学校に不審者が立ち入らないようにするもの風紀の仕事よ!」

ソド子こと園みどり子は断言しつつも若干声が震え、恐さを隠し切れていない。

「それは警備員さんの仕事じゃないかなぁ」

パゾ美こと金春希美は一人だけ恐がる様子もなく先頭を歩く。

「ちょっと!パゾ美!早いわよ!」

ソド子は怒りながらもパゾ美の左手に繋いだ両手をより強く握る。

風紀委員のカモさんチームは三つのおかっぱ頭を団子状態に繋げて校内を進んでいく。

三人はおどおどと歩き戦車倉庫の前に辿り着いた。

「次はここだね」

パゾ美が馴染みの戦車倉庫の前に足を止め、倉庫の扉を開ける。

日中は多くの戦車道仲間で騒がしい場所も、夜は闇と静寂に沈んで違うものに見えた。

「Ⅳ号、ヘッツァー、八九式、三突、B1bis、ポルシェティーガー、Ⅲ式中戦車、M3リー、全部揃ってるわね」

一つ一つ指さし点検を行うソド子にパゾ実がツッコミを入れる。

「いや、誰も盗まないから」

「分からないでしょ?鹵獲が得意な学校だってあるのよ?」

「継続高校さんの事を悪く言うのはやめようよ。助けてもらったんだから」

「ゴモ代、あえて出さなかった高校名を言わないで・・・・・・」

頭を抱えるソド子。ゴモ代はしまったと口を手をふさいだ。

「ここも鍵を閉めておくの?」

パゾ美の質問にソド子は「当然」と鍵束を取り出した。

戦車倉庫のタグがついた太い鍵を選び出す。

戦車倉庫の扉が閉じられ、ガチャリと音を立てて施錠が完了した。

ソド子が大洗高校のマークが印された懐中時計を取り出し時間を確かめる。

「午後10時5分、施錠確認っと」

 

   ※   ※   ※

 

それから3日後の夕方。

大洗女子高校のあまたある年中行事の一つ二泊三日の臨海学校が終わり、生徒たちは一旦学校に集められた後、新生徒会長の五十鈴華の「それでは皆さん、怪我の無いよう帰りましょう」という短い言葉で解散した。

 

「終わった~~~疲れた~~~」

生徒会室に入るやいなや新生徒会広報・武部沙織は一人掛けソファーに座り、目の前のテーブルに突っ伏した。

「臨海学校のついでに泥んこプロレス大会と遠泳大会とスイカ割り選手権と花火大会までやりましたからね」

前生徒会から引き継がれた無茶な数の行事をタイムスケジュールに組んだのは新生徒会書記・秋山優花里だった。

戦車道チームの仲間の協力もあり何とか全ての行事をこなし、さすがの彼女もグロッキー気味だ。

「私も寝る」生徒会でもないのに冷泉麻子もソファーに体を横にした。

「あんたは何もしてないでしょ」沙織がすかさず返す。

「あらあら、皆さん、はしたないですよ」言いながら華も心労と疲労を隠せず生徒会長の椅子に体を預ける。

そんな疲労困憊(1名を除き)のあんこうチームのメンバーに給湯室からお茶を持ってきたのは、戦車道隊長の西住みほだ。

「みんな、お疲れさま」

「そ、そんな!西住殿にお茶を持ってきて頂くなんて!」

みほに心酔する優花里が体をしゃちほこばらせる。

「大丈夫、これぐらいやるよ。それより、みんな、新しく生徒会になってすぐにここまで出来るって凄い!」

「うぇへへ~西住殿に褒められちゃいました~」

テーブルにお茶と干し芋とみつだんごを並べ、みほは自分も一つ干し芋を頬張った。

「でも、色々イベントあって私もちょっと疲れちゃったから、今日の戦車道の練習はやめておこうか?」

「それはいけませんっ!!」

優花里がいきなり立ち上がり、握りこぶしを掲げる。

「戦車道は一日にしてならず!ただでさえ2日間練習できなかったんです!今日から始めるべきです!さもないと・・・・・・」

「さもないと?」

優花里がググッと顔を近づけた迫力に押され、みほは逃げるように体を反らした。

「戦車成分が足りなくて私が死んでしまいますぅぅぅ」

「あ、あはは・・・・・・」

優花里は涙を浮かべているがみほは苦笑いだ。

「でも気分転換にもよろしいかもしれませんね」

いつの間にか生徒会長の椅子から皆の座るソファへと近づき、みつだんご3本を食べ終えていた華が言った。

「そうかな?」

「そうだよ!バーンと主砲撃ってむしゃくしゃした気持ちもどっかにやろう!」

乗り気ではないみほに対し沙織はノリノリだ。

「武部殿、どうして怒ってらっしゃるんですか?」

小声の優花里の問いに麻子が目をあけて答える。

「臨海学校中に他校の男子とバケーションでの出会いを期待してたけど、ウチの高校以外誰もいなかったからだろ」

なるほど、と声には出さず納得する優花里。

「でも、みんな疲れてるのに無理して怪我でもしたら・・・・・・」

みほが口にした瞬間。

 

バーーーーーーーーーンッッッ!!

けたたましい音を立て突然、生徒会室の扉が勢いよく開いた。

 

大野あや「せんぱーい、戦車乗らせてくださーい」

宇津木優季「やっぱり私たち、戦車が恋人、みたいな?」

山郷あゆみ「戦車に乗らないと一日が終わった気がしなくて」

丸山桂利奈「かっとばすぞー」

澤梓「みんな、もうちょっと静かに!」

丸山紗希「・・・・・・」

一年生のウサギさんチームがわちゃわちゃと入ってきた。

「え、ウサギさんも?」

驚くみほ。さらに。

 

磯部典子「西住さん!戦車の練習しましょう!」

近藤妙子「キャプテンが練習してくてウズウズしてるんです」

河西忍「私たちも練習したくてたまりません」

佐々木あけび「練習を!どうか練習させてください!」

元バレー部のアヒルさんチームも気合いを入れて飛び込んでくる。

 

おりょう「頼もう!」

左衛門佐「生徒会長殿に申し上げたき儀がござる」

カエサル「どうか我々に戦車の練習をさせて欲しい」

エルヴィン「戦車に乗る事こそ砂漠の狐の本分」

歴女のカバさんチームも生徒会室に乗りこんできた。

 

ねこにゃー「や、やっぱりゲームだけじゃなくてリアルの戦車もプレイしたいにゃー」

ぴよたん「戦車道が無いとウチら引きこもりだぴよ」

ももがー「それだけは、それだけは回避するもも」

ゲーマーのアリクイさんチームが後ろに隠れて侵入している。

 

「みんな・・・・・」

皆のやる気を見たみほは笑顔を浮かべた。

「こりゃ、やるしかないね~」

生徒会室の扉の所に姿を現した小さな影。元生徒会長・角谷杏がニヤニヤしながら言った。

「会長!」振り返る全員に「元、ね」と訂正を入れる杏。

「お前たち!自主的に練習に励もうなんて!よくぞ!よくぞここまで成長してくれた!」

号泣する河島桃に「桃ちゃん、泣きすぎ」とハンカチを貸す小山柚子。

元生徒会のカメさんチームも揃い、室内は満員状態だ。

「それでは皆さん、練習に行きましょう」

ザワついた中をみほの声が通り、一気に場が落ち着く。

「パンツァー・フォー!!」

「オオーーーッ!!」

みほの掛け声一番、全員が腕を振り上げた。

 

華が貸出簿を記入して職員室から借りた戦車倉庫の鍵を持ち向かう途中、カモさんチームとレオポンさんチームも参加し、結局、大洗女子高校戦車道チームの全員が戦車倉庫の前に揃った。

華が鍵穴に鍵を差して回し――ガチャリ。重い音と共に施錠が解かれた。

扉がゆっくりと開いていくと歓声があがる。

 

――しかし。

 

「・・・・・・あれ?ない」

みほのつぶやきの通り、倉庫内にⅣ号戦車の姿は影も形も無かった。

「奥に停めたんだっけ?」

確認する沙織に麻子が首を振る。

「一番手前に停めた。それよりなにより、あそこだけ不自然に間が空いてるだろ」

言葉通り、整然と並べられた戦車の中、一ヶ所だけ戦車一台分の間隔があいていた。

「そんな!私の大切なⅣ号戦車が盗まれたってことですか?!」

何よりも戦車を愛する優花里が顔を蒼ざめさせる。

「そんな・・・・・・」

ソド子がふらふらとⅣ号戦車のあった場所へと近づいていく。

「10日にはあったのに・・・・・・」

「それは本当か?ソド子?」

麻子の問いかけにいつもなら「私は園みどり子!」と訂正するソド子が言い返すことなく頷く。

ゴモ代も何度も首を縦に振り「あの時は確かにあったのに」

パゾ美もそれに同調して「10日の午後10時頃には絶対にありました」

「えっ!?10日!?」

アリクイさんチームのナカジマが大きな声を上げた。

「私たち自動車部で、10日の午後9時50分頃まで戦車の修理してたよ!」

他の自動車部メンバーも頷く。

「あなたたち!そんな時間まで校内に残るのは校則違反よ!」

ソド子がアリクイさんチーム4人を指さす。

「戦車の修理をしてくれてるんだから、それぐらい見逃してあげればいいんじゃない」

パゾ美の反論にソド子が「ぐぬぬ」と声を詰まらせた。

「話を整理しますね。つまりⅣ号が盗まれたのは10日以降・・・・・」

みほが考えをまとめながら呟く。

そこに意外な方向から意外な言葉が入った。

「それはおかしいです、西住さん」

華が手に握っている戦車倉庫の鍵をみほに差し出して見せる。

「この鍵は臨海学校の間、誰にも借りられていません。先ほど貸出簿に記入した時に確認しました」

「他に鍵は無いの?」

沙織の問いに華は顔を曇らせ答える。

「風紀委員の皆さんに見回り用に1つ。他にはありません」

「そして、風紀委員は私たちと一緒に林間学校に参加していた」

麻子の確認にカモさんチームは肯定の頷きを返す。

「だから風紀委員の鍵も使えない」

「えっ?それじゃあ・・・・・・」

みほは戦車倉庫をぐるりと見回して、明確になった謎を言葉にした。

「鍵が閉められていた戦車倉庫からⅣ号が消えちゃったってこと?」

 

 

 

つづく

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