【ガルパン】名探偵西住殿 Ⅳ号戦車消失事件   作:夏鳥 至

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第2話 捜査会議です!

「というわけで、捜査会議を始めます!」

どこからか用意した鹿撃ち帽を被りパイプ(もちろんチョコ製)を咥えた探偵セットを完全装備して優花里が宣言した。

「本格的だね・・・・・・無駄に」

「よろしいじゃありませんか。まずは形から入るのも」

沙織と華の言葉に「いや!」と割って入る声。

「鹿撃ち帽にパイプというホームズのアイコンは挿絵作家が作り出したもので、原典にはそういう表現はない!」

立ち上がって珍しくテンション高く言いきった麻子に皆が圧倒された。

「麻子さん、シャーロック・ホームズ好きだったんだ」

みほだけは変な所に感心している。

「いや、そういう訳ではないんだが・・・・・・」

顔を赤らめて麻子は再び椅子に座った。

 

「えーっと、話を戻しますね」

生徒会権限で借りた会議室に集められた戦車道チーム全員に優花里が説明を始めた。

「今日、臨海学校から帰ってきたら、戦車倉庫からⅣ号戦車が姿を消していました」

ホワイトボードの下の方に13日17:00と書き入れる。

「戦車倉庫にⅣ号があるのを最後に見たのは風紀委員の皆さんです。これが10日の午後10時5分」

今度は中央にカモさんチームのマークを描き、その横に10日22:05と書いていく。

「先程、秋山さんと一緒に鍵の貸出簿をもう一度確認しましたが、11日から13日の間、誰にも戦車倉庫の鍵は借りられていませんでした」

華は戦車倉庫の鍵を握り優花里に頷く。

「倉庫の鍵はもう一本だけ。それを持っていたのは風紀委員の皆さんですが、三人とも臨海学校に参加されていました。その間、鍵が盗まれるような事はありましたか?」

優花里の質問にソド子・ゴモ代・パゾ美が揃っておかっぱ頭を横に振る。

「私が責任を持って肌身離さないでいたわ」胸を張るソド子。

「そして今日、私が鍵をお借りして、扉を開錠して開けたら、Ⅳ号が無くなっていた。あらあら、これはどういう事でしょう?」

華は頬に手を当てて首をかしげた。

「鍵の閉まっていた倉庫からⅣ号が忽然と消えていたのです。つまりこれは」

「密室からの消失事件!」

とっておきのセリフを麻子が横取りしたせいで、優花里はガクッと崩れ落ちた。

「そういえば麻子、よく本読んでるから、ミステリーとかも好きだったっけ」

沙織が言うと麻子は「まあ、一応」と隠れた趣味を自らバラした恥ずかしさに沈んでいる。

「だったら麻子がこの事件、解決しちゃいなよ!名探偵みたく!カッコいいじゃん、それ」

沙織の煽りに麻子はまんざらでもない様子だ。

「じゃあ早速捜査を始めよう!」

「・・・・・・それは面倒臭い」

ガタッ!全員がずっこけた。

「何でよ~!麻子だって名探偵やってみたいんでしょ?」

「私はアームチェア・デティクティブが好きなんだ」

何それ、と聞く沙織に優花里が解説する。

「アームチェア・デティクティブ。日本語にすると安楽椅子探偵。つまり、捜査は警察や助手に任せて自分は推理だけする探偵のことです」

「自分では動きたくないってこと?」

沙織の冷ややかな目にも麻子は指と脚を前で組んで動じる気配はない。

「あんた、やる気あるんでしょうね?」

「もちろんだ。既にいくつか仮説を思いついている」

「えっ?本当?」

沙織はぐっと両手を握って目を輝かせた。

「私の推理を検証していけば、いずれ真実に辿り着ける」

麻子は不敵に笑い、とっておきの言葉を放った。

「不可能を消去していって最後に残ったものが、いかに奇妙であっても真実なんだ」

 

「まずは最初に言っておきたい」

さっきはホームズアイコンを否定していたのに、いつの間にか優花里に鹿撃ち帽を借りた麻子はゆっくりと全員を見回した。

「犯人はおそらく、私たち戦車道履修者の中にいる」

「ええっ!!」と驚きの声が会議室の中を埋め尽くした。

「何でよ!麻子は仲間を疑うの!?」

一番大きなリアクションをした沙織が反発した。

「そもそも普通の人が戦車を盗もうなんて発想するか?」

沙織はふくれっ面で何も返せない。

「しないだろ。それにⅣ号を盗むことができたってことは、動かすことができたってことだ。そんなこと戦車道履修者以外できるか?」

「それは・・・・・・・確かにそうかも」

頷いて納得の声を上げる澤梓とは異なり、沙織は膨れっ面で麻子に言い返す。

「自分はマニュアル見てすぐ運転できたじゃん」

「いやいや、そんなことできるの麻子さんだけだから。西住流《ウチ》の道場でもマニュアル見ただけで動かせた人はいなかったな、さすがに」

みほが苦笑いを浮かべて言った。

「犯人はこの中にいる。その前提で推理を進めていきたい。反論は?」

シーン、と誰も反論を出さない。

「じゃあ、最初に確認しておきたいことがある。カモさんチーム、前に来てくれ」

 

「なんで私たちが疑われなくちゃいけないのよ!」

ソド子が文句を言う。風紀委員の3人が揃って会議室の前方に並べられた。

「疑っている訳じゃない。確認だ。ソド子は臨海学校の間、戦車倉庫の鍵を肌身離さず持っていた。間違いないな?」

「当然でしょ!」ソド子は鍵束を取り出しジャラリと掲げる。

「ソド子がずっと鍵を持ってたよ」

「うん、間違いない」

ゴモ代とパゾ美が言うと、「ふふーん、どうよ!」とソド子は得意満面の顔だ。

「ええ~、でもそれって、風紀委員全員で嘘ついてたら意味無くないですか~?」

「風紀委員全員が共犯、とか~♪」

大野あやと宇津木優季の指摘に「何よ!私たちが嘘をついてるって言うの!」と怒るソド子。

「それはあり得ない」

麻子が断言した。

「嘘をつくなら夜の見回りの時に鍵をかけ忘れたと言えばいい。そうすれば密室になんてならないで、誰でもⅣ号を持ち出せるから、自分たちに疑いがかからないで済む」

「冷泉さん・・・・・・」

自分のピンチを助けてくれた麻子にソド子は感謝の目を向けた。

「ソド子、鍵を近くで見たいから貸してくれ」

ソド子は頷いて鍵束を預ける。麻子はその中から一つを選び出し、

「これが戦車倉庫の鍵か。五十鈴さん、同じかどうか確認したい。そっちの鍵も見せてくれ」

「はい、どうぞ」

麻子の両手に一つずつ握られた鍵。それは全く同じ形をしていた。

「間違いないく同じものですね」

優花里が言うと、全員が賛同の声を上げて頷いた。

「かなり特殊な鍵だな。複製するにしても数日かかるだろう」

「へぇー。冷泉さん、見ただけで分かるなんて凄いね」

麻子の観察眼に小山柚子が称賛の声を上げた。

「確かに、その鍵は特注で、複製するには一週間ぐらいかかるって聞いたな」

参謀の威厳を発して情報を付け加える河嶋桃。

「そんな長い時間、鍵が無くなっているのが誰にもバレないなんて事はありえない。つまり鍵の複製はされていないということだ」

麻子は鍵束を掲げてソド子に見せる。

「ソド子、この鍵束は本当に臨海学校の間、肌身離さず持っていたのか?」

「もちろんよ!寝る時もずっと持っていたわ!」

麻子の問いにソド子は胸を叩いて答えた。

「お風呂の時も?」

「え?それは・・・・・・」

自信満々だったソド子の態度がいきなり変わった。その反応を見て麻子は察した様子で、

「ぴよたんさん、確認したい事がある。前に来てくれ」

 

「な、なんだぴよ?」

「ボ、ボクたちが晒し者になるなんて・・・・・・」

「普段注目をあびないから、皆の視線が痛いもも・・・・・」

ぴよたんだけ指名されたはずが、アリクイさんチームが互いを押し出すようにして前に出てきた。

「臨海学校のお風呂はクラスごとだった。そしてソド子と同じクラスの3年生はぴよたんさんだけ。間違いないな?」

「そ、そうだっちゃ」

麻子は全員に見せるように、鍵についたタグを掲げた。そこには『戦車倉庫』と記されている。

「例えば、戦車倉庫の鍵に似たものを用意して、タグを付け替える。または、タグも似たものを作ってもいい。そうして、ソド子がお風呂に入っている間に本物の鍵と入れ替える。これなら、臨海学校の間でもこの鍵は使える」

「ええっ?そんなことウチがやったって?」

少し涙目のぴよたんに「可能性の問題だ」とさらりと言い放つ麻子。

しかし。「意義ありっ!だにゃー!!」

某裁判ゲームのごとくねこにゃーが指をつきつけた。

「ぴよたんは臨海学校の間、クラスの人と一緒にお風呂に入っていないんだにゃー!」

麻子もそれに乗っかって「なにぃぃぃ!」と派手なやられモーションをとる。

「お風呂は毎日に入らないと汗臭くなってしまうぞ!」

「さすがに女子高生が2日間もお風呂に入らないのはどうかと・・・・・・」

「私たちなんてシャワー込みで1日5回は入ってますよ」

磯部典子・佐々木あけび・近藤妙子の的を外れた発言に「いやいや、そういうことじゃなくて」とツッコミを入れる河西忍。

「お、お風呂には毎日入ってたぴよ。ただ、クラスの人と一緒じゃなくて、アリクイさんチームで入ってたんだっちゃ」

「何でよ!ちゃんと決まった通りクラスの人と入らないといけないでしょ!」

規律を守る風紀委員の使命を暴走させるソド子をゴモ代とパゾ美が抑える。

「だって、3人でゲームしてたらついついクラスの入浴時間過ぎちゃって・・・・・・」

「だから、皆が寝静まった後、こっそり3人で入ったもも」

「つまり、ぴよたんに鍵のすり替えは不可能だにゃー」

はっはっは~、と声を合わせて得意がるアリクイさんチーム。一方。

「そ、そんな・・・・・。私ともあろう者が、お風呂に入っていないクラスメイトがいた事に気付かなかったなんて・・・・・・一生の不覚・・・・・・」

orzの姿勢でズ~ンと落ち込むソド子。

「と、とりあえず話を元に戻そうか」

脱線しそうな所をみほがまとめる。

「お風呂の間に鍵を付け替える事はできなかった。だからぴよたんさんは犯人じゃない」

 

アリクイさんチームが席に戻ったところで沙織が「ハイ!ハイ!」と手を上げた。

「他に鍵を付け替えられるタイミングは無かったの?」

「確か、泥んこプロレス大会の時は、風紀委員の皆さんはレフリーをやってましたね」

臨海学校のしおりを確認しながら優花里が言う。

「レフリーの衣装なら鍵束を持てますね。プロレスの衣装なら持てなかったと思ったんですが」

「会長のプロレスの衣装、きまっておられました!」

「ありがと、かーしま。でも今はその話は置いておこうな」

河島桃の脱線を角谷杏が強引に戻した。

「遠泳大会の時は.ソド子さんは記録員をされてました」

優花里の発言に麻子は怒りをあらわにした。

「他人には泳ぐよう命令しておいて自分だけ楽してたのか!」

「ち、違うわよ!」

「じゃあ何だ!」

「あ、足がつかない所で泳ぐのが怖いの!」

「それは・・・・・・すまん」麻子のボルテージが一気にMAXから0へと下がる。

優花里は「話を戻しまして」とジェスチャーを挟んだ。

「ソド子さんは水着ではなく制服のままなので鍵束は持っていました。最後に花火大会です。生徒全員が浴衣に着替えたので、その際にならすり替えるタイミングがあったかもしれません」

「浴衣に着替えたときも、ちゃんと持ってたわよ!」

ソド子はタブレットを操作して写真を表示させた。

そこには浴衣姿のソド子が写っていて、帯にしっかりと鍵束がぶら下がっていた。

「これでは鍵のすり替えのタイミングは無い、ということですね」

優花里の台詞に笠にかかってソド子はふてぶてしく言い放った。

「どうよ!風紀委員の仕事は完璧でしょ!?」

「そうだな。これで一つ可能性が消えた」

麻子はホワイトボードに「風紀委員の鍵」と書き記し、上から二重線を入れた。

その表情は「だんだん面白くなってきた」と言わんばかりに笑みを抑えられていない。

「じゃあ、次の仮説に行くか」

 

 

 

つづく


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