【ガルパン】名探偵西住殿 Ⅳ号戦車消失事件   作:夏鳥 至

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第3話 密室トリックです!

「冷泉さん、コピーならよろしいとの事でした」

華の手の中には職員室から持ってきた鍵の貸出簿のコピーが握られていた。

先程、麻子の依頼で華に鍵の貸出簿を持ってきてほしいと言われ、生徒会長権限で貰って来たものだ。

「現物は借りられないか。そりゃそうだな」

麻子はひとりごちながら会議室内を一瞥した。

「10日に戦車倉庫の鍵を借りたのは一人だけ、か。澤さん、前に来てもらえるか?」

 

アリクイさんチーム同様、澤梓にくっついてウサギさんチーム全員が揃って出て来た。

「な、何でしょうか・・・・・・」

オドオドする澤梓だが、他の一年生たちは、

「ウチのリーダーを疑うんですか!」

「新生徒会もおーぼー!」

「梓、私たちは絶対にあなたの味方だからね」

「黙秘権を使ってやる!弁護士を呼べ!」

「・・・・・・」

ワチャワチャと強気だ。

「この職員室の貸出簿によれば、10日に戦車倉庫の鍵を借りたのは澤さんだが、間違いないか?」

「はい」

「梓、自分から鍵を借りに行くなんて、責任感っていうのが出てきたよね」

「やめてよ!あや!」

「でも、10日に鍵を借りた事と、その後に戦車が盗まれた事が関係あるんですか?」

山郷あゆみの問いに麻子が頷き、鍵の貸出簿のコピーを見せた。

「貸出簿の表記は『十日』。つまり10日以降に借りて一旦その日付を記入し、後で気付かれないよう一の桁の数字を消す」

麻子は紙にシャーペンで『十一日』と書いた後、消しゴムで『一』を消した。

「こうすれば記録上は10日に借りたように見せかけられる。貸出簿には時刻を記入する欄が無い事を利用したトリックだ」

「なるほど~!」

「優季ちゃんはどっちの味方なの!」

手をポンと打った宇津木優季に坂口桂利奈がムスっとお冠だ。

「確か、貸出簿に書く時ボールペン使ったよ。簡単に訂正されないように気をつけてるんじゃない?」

ナカジマのもっともな言い分に1年生たちが揃って頷く。

「じゃあ消えるペンを使ったとか~」

「さすがにそれは無理だろ」

「小学生の推理クイズじゃないんだから」

ツチヤとホシノとスズキの掛け合いをスルーして、

「だったら、偽の貸出簿を作って、記入する時にすり替えた、という仮説もある」

麻子の言葉にねこにゃーがガタリと立ち上がった。

「ジェバンニが一晩でやりました!」

某漫画の有名なセリフに皆がポカンとする。ねこにゃーは「ゴメンナサイ・・・・・」と俯いて席に戻った。

「でも、麻子さん。こうしてコピーでしか頂けないのですから、本物は職員室から持ち出せないでしょう。そっくり同じ物を作るのは無理があるのでは?」

華が麻子の手のコピー用紙を手に取り言った。

「新会長は梓の味方してくれるんですか!」

「さすが新会長~」

「新会長に選ばれるだけのことはありますね」

「よっ!五十鈴新会長!」

ウサギさんチームに新会長を連呼され、「あらあら」と華は照れた様子だ。

と、その時、ずっと黙っていた丸山紗希が澤梓に何やら耳打ちした。

「そっか!紗希、頭いい!」

澤梓は丸山紗希の肩をガッシリ掴んだ後、対峙するように麻子の方に体を向けた。

「あの、冷泉先輩。いいですか」

先ほどまでオドオドしていた澤梓だが、うって変わって落ち着いた様子で反論する。

「戦車倉庫の鍵を借りた時に貸出簿を記入したのは、私たちじゃなくて先生なんです。ですから、日付を誤魔化したり、消えるペンを使ったり、偽の貸出簿にすり替えたりできないんです」

仮説を一つ一つ否定していく澤梓のに目は、ウサギさんチームを導く頼りがいのあるリーダーの力強さがあった。

「すっご~い。梓、かっこいい~」

さっきは麻子の説に同意していた宇津木優季がコロリと態度を変えて拍手する。

「つまり貸出簿の通り、澤さんが鍵を借りたのは10日だった」

麻子はホワイトボードに「鍵の貸出簿」と書き、上から二重線を入れた。

「疑ったようで、悪かった。すまん、謝る」

頭を下げる麻子に澤梓はまたオドオドとなる。

「そ、そんな、顔を上げてください」

「いや、私の気持ちが収まらない」

「そんなぁ・・・・・・」

といったやりとりがしばらく続いた。

 

「次の仮説を検証したい」

ウサギさんチームが元の席に戻って落ち着いたところで麻子は言った。

「そもそも戦車倉庫は完全な密室だったのか?という仮説だ」

「完全な?麻子さん、どういう事?」

みほの問いかけに麻子がニヤリと笑みを浮かべて答える。

「ミステリーの定石として、密室が出たら抜け穴をまず疑うべきなんだ」

その言葉に歴女チームが反応した。

「おお!抜け穴!」

「歴史を紐解けば、堅牢な城には抜け穴が用意されているもの!」

「逃げ延びて再起を誓うのも一つの策」

「歴史のロマンぜよ」

しかし、盛り上がる四人に優花里が水を挿す。

「でも、普通の倉庫に抜け穴がありますか?」

「抜け穴のようなもの、でいいんだ。例えば、換気用の窓があるだろ?」

「麻子ー、換気用の窓からじゃ体が入らないよー」

確かに換気用の窓は通らなそうな沙織の胸を自分のものと見比べて「嫌味か!」と麻子が声を荒げる。

「お前のように出すぎてなければ通れるだろ」

「だとしても、どこから戦車を盗み出すの?人がやっと通れるような窓から?」

「その通りだ」

「ええ~!無理だよ、そんなの!」

「無理じゃない。それが可能な人たちがこの中にいるだろ?」

麻子は一番前の席の彼女に声をかけた。

「そうだな?レオポンさんチーム」

指名された自動車部の四人が会議室の前に来た。

「いやー。私たちが疑われるとはね~」

皆の前に立ち、頭を掻きながらナカジマが言う。その隣にはスズキ、ホシノ、ツチヤも揃っている。

「すまないな。仮説を検証したいんだ。疑っているわけじゃない」

「分かってるよ」

頭を下げる麻子にナカジマは笑顔で応じる。

「自動車部の技術があれば、Ⅳ号戦車をバラバラに解体して換気用の窓から持ち出すことも可能じゃないか?」

「うーん、戦車をバラバラにする、か。考えた事もなかったよ」

ナカジマは困り顔だが、どこかしら楽しそうだ。

「鋳造じゃないから解体はできるかもしれないね」

「でもエンジン部分は難しいかな」

「まずは砲身をどうにかしないと」

考えた事も無いⅣ号戦車解体計画に自動車部の技術者魂が燃え上がる。

そこに「待って!」と割って入る声。

「冷泉さん。レオポンさんチームの四人も臨海学校に参加していたわよ」

ホラ、とソド子がタブレットに写真を表示させて見せた。

送迎のバスに興味津々のツチヤ。泥んこプロレスでダブルラリアットを決めるスズキとホシノ。遠泳大会で先頭集団の中を泳ぐナカジマ。花火大会で揃いの浴衣を着る四人。

次々と臨海学校に参加した証拠が映し出される。

「行事の合間に臨海学校を抜け出して戦車を解体したなんて、さすがにありえないでしょ」

ソド子は勝ち誇った様子で満面の笑みを浮かべた。

麻子は悔しそうな顔を見せず、冷静に話を切り替える。

「だったら、戦車は堂々と倉庫の扉から出ていったとしか考えられない。」

「まったくもう!冷泉さん!もう忘れたの!私たちが盗まれる前のⅣ号を確認して鍵をかけたって言ったでしょ!どうやって扉から出ていくのよ!」

ソド子が腕組みをして憤慨するのに合わせてゴモ代とパゾ美も腕を組む。

「ソド子、お前たちが確認したⅣ号だが、本当に本物だったか?」

「え?」と風紀委員の三人のおかっぱ頭が揃って傾く。

「Ⅳ号の絵や等身大の模型を準備して、既に盗んでおいた本物の代わりにおいておく。そして風紀委員の見回りの後、換気用の窓から入って夜のうちに解体した。これなら短時間で可能だ」

「影武者を使ったということだな」

「否、空蝉の術でござる」

「ひなちゃん直伝のマカロニ作戦だろ」

「いや、そこはジャスパー・マスケリンじゃないか」

「「「それだっ!!」」」

歴女たちが第二次世界大戦中に行われた欺瞞作戦について話し合っている間に麻子がソド子に迫った。

「ソド子、お前たちが見たのは間違いなく本物のⅣ号だったのか?」

「そ、それは、私は目視しただけだから・・・・・・」

確たることが言えないソド子はたじたじとなる。と、そこへ。

「・・・・・・あの、私、触ったよ?」

ゴモ代がおそるおそる手を挙げて言った。

「あの見回りの時、たまたまⅣ号に触ったよ。間違いなく鉄の感触だった」

「よくやったわ!ゴモ代!」

ソド子はご機嫌でゴモ代の背中を叩いた。

「風紀委員が見回りの時に確認したのは本物。つまりⅣ号は22時の時点まで盗まれていなかった、という事か」

麻子はホワイトボードに「抜け穴」「偽物」と書き、その上から二重線を入れた。

 

「次はもっと大掛かりな仮説を検証したい。ソド子、この中で臨海学校に参加しなかったチームがいるか?」

「えっ?ちょっと待って・・・・・・」

ソド子はタブレットを確認する。

「・・・・・アヒルさんチームが参加していないわね」

「私たちはやってません!」

「冤罪です!」

「濡れ衣です!」

「ノットギルティーです!」

呼ばれる前にアヒルさんチームの四人が会議室の前に出てきた。

「いいか?お前たち!この苦境も根性があれば跳ね返せる!」

「「「はいっ!キャプテン!!」」」

円陣を組んでいるアヒルさんチームに麻子が声をかけた。

「だから、あくまで仮説の一つだ。それも一番実現性の低い可能性のな」

「偽物説もかなり実現性低かったけれど、それ以上なの?」

みほの問いかけに少し躊躇しながら麻子は頷いた。

「小説ならあり得るが、現実にはちょっとな・・・・・・・」

「もう!グダグダしてないでスパッと言っちゃいなよ!」

沙織が発破をかけたことで踏ん切りがついたのか、麻子は重い口を開いた。

「倉庫そのものを解体して、Ⅳ号を盗み出した後、再び建てたとしたら?」

「えええ~っ!そんなのアリ!?」

沙織が大きなを上げた。

「ミステリー小説の中ではアリだ」

「でも、たった四人で倉庫を解体して建て直すって、無理じゃない?」

「・・・・・・四人が主導で他に協力者がいれば不可能とは言い切れない」

沙織の反論に麻子はちょっと苦しそうに答える。

「ですが、2,3日では難しいのでは?」

「・・・・・・壁の一部や扉を外すだけでもいい。それなら期間は短くて済む」

華の反論に麻子はより苦しく答える。

「いえ、壁や扉に細工の後は見られませんでした」

「・・・・・・だ、だったら天井だ!天井だけ取り外してそこから・・・・・・」

優花里の反論についに麻子の答えが途切れた。

「そこから戦車を盗み出すなんて、大掛かりすぎて無理だよね」

みほの追い打ちに麻子はぐうの音も出ない。

「・・・・・・だから実現性が一番低い可能性だって言ったんだ・・・・・・」

顔を真っ赤にしてむくれる麻子。一方、疑いの晴れたアヒルさんチームは、

「やりましたね!キャプテン!」

「完全勝利です!」

「ひとつのサービスも取らせませんでした!」

「よくやったぞ!お前たち!」

と自分たちの手柄のように大はしゃぎだ。

動こうとしない麻子の代わりに沙織がホワイトボードに「倉庫の解体」と書き、その上から二重線を引いた。

 

 

 

つづく

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