神と人の物語だから多分合うんじゃね?と思って作ってみた。 本篇を始める前の練習作品。
季節は春。
桜も散り始める五月下旬、ほんのり温かさを残す風と共に道路を駆ける一人の少女の姿がある。
金色に近しい髪を揺らした少女は角を大きく曲がりある場所へ辿り着いた。
「ひーなーたー!」
少女、乃木若葉。小学六年生。
あどけない声を上げた若葉の声は公園の芝生にてちょこんと座りこんでいる一人の少女へと届く。
「あ、若葉ちゃん。ようやく来たんですね」
「うむ。待たせてすまなかったのだ」
若葉の幼馴染、上里ひなた。
背を向けていたからか、ひなたは顔だけを向けるようにして砕けた笑みを浮かべる。
同じ小学校に通う幼馴染の二人。
今日は公園でたくさん遊ぶのだと約束していたのだ。
「さぁどうする、ひなた! 何して遊ぶ? 追いかけっこか? かくれんぼか?」
若葉が目を輝かせながら提案する内容はほとんどアクティブなものばかりである。
ひなたと遊ぶことを心待ちにしていた、というよりはこの広大な芝で動き回りたいという気持ちの方が強いのか。
「なんなら私の鍛錬をひなたも一緒に―――」
「し―――」
二の句を告げようとした若葉の口を閉ざすように、ひなたが自身の唇に手を当てていた。
よく見れば、ひなたはどうして自身に背を向けていたまま話をしているのか。その態勢が若葉は気になっていた。
なんだ、どうした、と言おうとして、ひなたの背から覗き込むようにすると、
『クゥ……』
犬がいる。
純白の白い毛並の犬が、ひなたの膝上でくたり、とその身を預けて寝入っていた。
「な、なんだひなた。その犬は」
「この子ですか?若葉ちゃんを待っていたら急に現れて―――」
下手すればひなたや若葉よりも大きいのではないかと言える体躯の犬に脅える若葉。
ひなたは逆で、寝入っている犬の毛を優しく流れに沿って撫でる。
「気づいたら私の膝で眠っちゃったんですよ」
「なんという間抜けそうな顔の犬だ。この犬め、ひなたが困っているだろう、起きないか」
「あっ、駄目ですよぅ若葉ちゃん」
手に腰を当て、眠っている犬に声をあげると、ひなたが止めた。
「こんなに気持ちよく眠っちゃってるんですよ? 無理やり起こしたら可哀想です! しずかに、しずかーに」
「うぅ……しかし、そこは私の……ひなたの膝上は私の……」
至極もっともな意見を言われて、若葉は言い淀んだ。
本当は幼馴染の膝上にごろりと寝転がっているその犬が羨ましくてたまらなかったからだ。
いつでもひなたの隣は自分。そう思っていた若葉は幼馴染を犬という動物に奪われてしまうと危惧したのである。
ましてや膝上は、若葉がひなたに耳かきをしてもらう時にいつも身を預ける場所だ。この公園でも若葉は時間があったら耳かきをお願いしようと思っていたくらいである。
「よしよーし。いーっぱい、寝てていいんですからねー」
『クゥ……』
「ぐ、ぬぬぬ……」
幼馴染が自分以外の小動物に夢中になっている。
その光景を目にし、小学生にして嫉妬心に駆られた若葉は、
「えーい!」
犬の尻尾を思いっきり掴んだ。
『ギャン!?』
「きゃっ!?」
犬にとって尻尾は敏感な場所である。
それを思いっきり掴まれた犬は痛みというよりは、驚いたような声を上げて飛び上がった。
『ガルルル……』
明らかに低い唸り声を発する犬。
犬は自分の快眠を邪魔されたことにさぞご立腹している様子だった。
「ふっ、間抜けな貌がちょっとはマシになったじゃないか―――」
相手が動物相手でもこの間抜けそうな顔をした犬に、鍛錬を積み重ねている自分が遅れを取るはずがない、と自負してやまない若葉。
「勝負だ犬っころよ、私のひなたを賭けて―――」
「若葉ちゃん!」
いざ尋常に勝負と言おうとした矢先。
ひなたが若葉の前に立ち塞がるように立った。
「なんてことするんですか!! 若葉ちゃんが動物相手にそんなことするなんて思いませんでした! ひどいです!!」
「ひ、ひなた……あ、あの…わ、私は…だな、その、ひなたの事が……」
普段滅多に怒るような事がない幼馴染の姿に圧された若葉はせめて思いだけでも伝えようと試みる。
全てその犬を羨んでいたからだ、と。
ひなたの事を取られるんじゃないかとつい手が出てしまった、と。
私の事もちゃんと構ってくれよ、と。
「若葉ちゃんなんて知りません!」
「―――っっ!!」
胸に突き刺さる幼馴染の言葉に、若葉は思わず逃げるようにしてその場から駆け出してしまった。
「……言いすぎちゃった」
心を痛めたのは若葉と同じく、ひなたもだった。
芝に膝を着いて、自身が口にした彼女を遠ざける言葉の数々を思い返しては後悔だけが残り、その表情に影が差す。
すると白い犬がひなたに近づき、その頬をぺろりと舐めた。
「ん……あぁ、元気づけようとしてくれてるの?」
『ワン!』
一吠えがまさしく返事をしているようだったので、ひなたはその犬の頭を撫でながら続ける。
「まぁ、とても賢いんですね……ごめんなさいね、ウチの若葉ちゃんが……」
『アウ?』
とぼけたように首を傾げるその犬を見て、ひなたは笑った。
「うふふ、不思議なワンちゃんですね……ごめんね、ワンちゃん。私、若葉ちゃんの所に行って、謝らないと」
そう言って立ち合がったひなた。
しかし、当の若葉は一目散に駆け抜けていったのでどこに行ったのかが分からない。この公園もかなり広いこともあってか探すには時間が掛かりそうだ。
どうしようか、と悩むひなた。次の瞬間、
「きゃっ!? な、なに!?」
先ほどの白い犬はひなたの背後に近づくと服の襟首を咥えては、ひなたの身体を力強く引き、その勢いで空へと放り投げる。
数秒程宙を舞ったひなたはまるで大道芸のように白い犬の背に跨るように着地した。
白い犬はひなたを乗せると、その重さをものともしない軽やかさで走り出す。
「ま、まさか……若葉ちゃんのところへ?」
『ワン!』
白い犬は力強く大地を駆ける。
少女を一人背負い、重さなど物ともせず、馬のような速さだ。
そして犬に乗っていたひなたは気付かなかっただろう。
その犬が走った場所の草花が命を吹き込まれたかのように著しく成長を遂げ、その花びらを開かせていたのを。
一方その頃、若葉は木の上にいた。
別に朝ドラのヒロインに憧れた訳ではないし、バカだったわけでもない、理由があった。
「ほーら、猫。いま助けてあげるからな」
木の上にいた猫のもとへと若葉がよじ登りながらその距離を縮めている。
最初はただ泣いているだけだと思った若葉だが、いつまでも泣き止まなかった猫を不思議に思い、異変に気付いたのだ。
「まさか、猫が木に登って降りれなくなることがあるとは」
『ニャー』
猫自身、気付いたら降りれなくなっていることがあるという。その時はとてつもなくパニックなのだとか。
若葉は猫を恐怖で刺激しないように、あやすように近づいてはその震える身体を抱きかかえる。
猫は若葉に抵抗することなく、その腕の中にうずくまった。
「はは、いい子だ」
『ニャン』
若葉は辺りを見渡す。
そこから見えたのは公園を一望できるほどの高さだ。
掴みやすい木の構造だったのが幸いしたか、若葉でも簡単に上までよじ登る事が出来ていた。
普通の人間なら高過ぎて見下すのも恐怖に感じるが、若葉にとってはどうということはない。むしろ絶景を見れたことに心を躍らせているくらいだ。
『ミィ……』
「お、おい……寝てしまったのか? 困った奴だ」
高い所にずっといた為か緊張していたのだろう。
若葉に抱かれ、安心した猫はその腕の中で小さく寝息を立て始めた。
よく見れば、猫は子供だった。
「やれやれ、起こすのは野暮だな……そうか、私はなんてことを……」
すやすやと眠る猫を見て、若葉は自身が今、先ほどのひなたと同じ状況だという事に気付く。
それは同時に、自分が犬に対して取った行動がいかに惨めで、恥ずかしい事が理解することが出来た。
「あの犬に謝らなければならないな、ひなたにもだ」
そう笑みを浮かべて若葉は猫の身体を撫でる。ふさふさとした毛並みはとても肌触りが良く、気持ちが良かった。
猫は寝かせておくとして、ここからどうやって降りよう、いつの間にか若葉も気づいたら降りれなくなっていた猫と同じ状況になっていた。
そんな事を思っていた時である。
「わかばちゃーん!」
『ワン!』
若葉の真下、地面の方を見るとひなたと白い犬の姿があることに気付いた。
いつの間にこっちまで来たのだろうか、そんな事を思いながら、若葉はひなたの呼ぶ声に応えて見せる。
「おーい、ひなたー!」
「わ、若葉ちゃん!? あ、危ないですよぅ! 落ちたら死んじゃいますよぅ!」
「大丈夫だひなた。 昇るのは簡単だったんだ、降りるのだって――――」
若葉が降りようと下の枝に降りようとした時だった。
ずるり、とスニーカーの裏面が滑り、若葉の態勢が崩れた。
「わっ!」
両の手が猫を抱いていた為に塞がっていた若葉は他の枝を掴むことも叶わず、真下へと落下。
身体のスピードが急速に上昇し、重力に従って若葉は地面に吸い寄せられる感覚から、これが『落ちる』ということなのだと理解した。
地面が近づく、近づきつつある自身の死に若葉は思う。
ひなた、すまない、と。
「きゃああああああ!! 若葉ちゃぁぁあん!!」
ひなたの絶叫が響き、身体が地面へと激突するのを避けられないと悟った時、思わずひなたも、若葉も目を瞑った。
「え?」
天国へとたどり着いたと思った若葉が目を開くと、そこには見慣れた大地と両の手で目を覆うひなたの姿があった。
何故だ、どうして生きている、と不思議に思う若葉が自分の体中に何かが巻きついている事に気付いく。
「これは……蔦?」
若葉の腕程に太い蔦が、その身体に二重三重に巻きついていて、落下の勢いを殺し、地面に激突することなくぶら下がるだけになっていた。
「こ、こんな蔦……この木には無い物だ……一体…」
木を登っている時には見なかった蔦。
それは四か所の枝から生えるようにして伸び、若葉の身体を支えていた。
しかし、時間が経つと蔦は力を失ったように撓れて、若葉の身体が落ちるが地面すれすれまでの距離間で拘束を解かれた身体は地面にぽん、と痛みも無い程に落ちたのだった。
「わかばちゃあああああん!!!」
「ごふ――っ!?」
地面から立ち上がった若葉の右肩辺りに衝撃、ひなたが泣きながら抱き着いてきた。
完全なる不意打ちに踏ん張りの効かなかった若葉の身体がそのままひなたに押し倒される。
「死んじゃったかと思った! もうだめかと思った! うわああああん!!」
「いてっ、いてっ、い、痛いぞ……ひなた」
「若葉ちゃんがいなくなったら私……わたし…酷い事言ったこと謝れないじゃないですか!!」
「そ、そのことなんだが……ひなた、私が悪かった……」
「え……」
若葉の胸をぽかぽかと叩く連続パンチが止まる。
「あの犬が羨ましかったんだ。 ひなたの膝は私だけの、その……居場所だからな。 だから、あの犬にそれを奪われて悔しかったんだ」
「私も……酷い事言っちゃいまいした。 ごめんなさい……」
「お前にも謝らなければな。 済まなかった」
『アウ?』
若葉が犬に謝ると、犬は首を傾げては口を開ける。
まるで『なんのことだよ』、と言っているかのようだ。
それを見て、若葉がくすり、と笑う。
「お前、変な犬だなぁ」
「ほんとですね……でも不思議な子。 若葉ちゃんがここにいるのが最初から分かってたみたい……」
「そうなのか?」
「はい!あとこの子の背中に乗って走って来たんですよ!凄い速さでした! 馬のようです!」
「なんと!わ、わたしも乗りたいぞ! いいか、犬っころ!」
『ワウ』
好奇心に染めた顔の若葉に対して、犬は胸を張った。どうやら了承してくれたらしい。
若葉は犬の背に乗った。
「す、すごい力持ちだな。 そして走れるなんて……」
『ワウ!!』
小学生の女子ということもあるか、それでも人間一人を背に乗せて走れる犬など中々いない。
白い犬はその軽やかな動きで地を走り、時には跳ねて見せた。
そしてその度に、
「あぁ! 犬と戯れる若葉ちゃん素敵です! ……記念に一枚!」
高速で携帯のカメラで若葉を激写するひなたがいたのは言うまでも無かった。
その後はひたすら若葉はひなたと遊んでいた。もちろんその白い犬とも。
若葉とひなたで代わり番こに犬の背に乗っては走り回り、
ボール投げをしたり、
水遊びをしたり、
とにかく思いつく遊びを実行して楽しんでいた。犬も人と遊ぶことに慣れていたのか、若葉と混じって遊んでいた。
その後も不思議な事は続けて起こっていた。
どんなに若葉がボールを暴投しても、突如風が吹いては、ボールが若葉の手元に戻ってきたり、
ひなたが転んでもその場所だけ以上に草木が生い茂ってクッションの代わりになっていたり、
水遊び中、蛇口から垂れた水が軌道を変えて若葉に突然かかったりと、
その現象が偶然なのかそうではないのか、若葉には全く持って分からなかった。
―――――
―――
――
「何をしているんだ? ひなた」
お昼くらいになったころだろうか、ひなたが手を合わせていることに若葉は気付いた。
「お祈りしているんですよ」
「お祈り?」
はい、とひなたが頷いた。
「今日ここで、若葉ちゃんが怪我もせず、私と仲直りさせてくれたのって、なんだか神様がどこかで手助けてしてくれたみたいじゃないですか」
そうだな、と若葉は思う。
木からの落下した時に巻きついた蔓や遊び中に起こっていた現象などは人為的でないにしても、なにかしらの意図を持っているような気がしてならない。
突拍子も無く起きるその事象はさながら魔法のようで『神がかった』ものと言い表してもおかしくないだろう。。
「もし神様だったら、その優しい神様に感謝のお祈りをしなきゃって」
「そうか。 なら、私も祈らねばならないな」
姿形のないモノを人は崇め、祀る。
二人が生まれる以前よりも遥か昔より行われていた儀式、『祈り』。
手と手を合わせて、日ごろの行い、今を生きている事へのありがたみを感謝する、たったそれだけでも祈りとなるのだ。
祈りを終えた若葉が周囲を見渡すと、あの白い犬が居なくなっている事に気付いた。
「そういえば、あの犬っころは?」
「あらあら、どこ行ったんでしょうか。これから一緒にお昼ご飯も食べようと思っていたのに、残念です……」
しゅん、と落ち込んだひなた。思えば、あの犬と一番遊んでいたのはひなただった気がしたのを若葉は思い出す。落ち込むほどに、楽しかったのだろう。
「――! 若葉ちゃん、あれ!」
「あ、あれは……」
何かに気付いたひなた。
彼女が示す方向はさっきまで二人で遊んでいた芝。
若葉が目を見開いた。そこにはさっきまで共に遊んでいた犬の姿があった。
だが、その姿は若葉たちが見た犬の姿とは異なっていた。
昼の陽光に照らされた白い毛並は銀色のように輝きを放ち、
顔と身体には赤い隈取が走り、
その背中には原理は分からないが、蒼い雲の縁取りの鏡がゆらゆらと浮いていた。
その犬が歩くたびに、地面の草木は成長を遂げ、小さな蕾は花を開かせる。
白い犬が吠える。
もとより晴れだった太陽はより輝きを放ち、その白の毛並みに反射するようにして同じような輝きを纏う。
白く、温かく、太陽の如きその身は見る者全ての瞳を奪う。 その姿はまるで―――、
「かみ、さ……ま?」
若葉が一言を呟いた瞬間、犬は走り出した。
一陣の風が吹く。それはまるで命の息吹のように吹き荒れ、その犬が駆けた道に美しい色とりどりの花が咲いていた。
一目散に駆けていく犬の姿が見えなくなってからも、若葉とひなたは数十秒程無言のまま、走り去っていった方向を見つめていた。
やがて二人は顔を見合わせて、呟く。
凄い物をみた、と。
「また、どこかで会えますかね……?」
ひなたが呟く。その言葉に答えるように若葉が、
「さぁな……だが、あの犬の事だ。 いきなりフラッと現れてくるかもしれんな。 あの間抜けな顔を晒して……その時はまた一緒に遊んでやらないとな」
「ふふ、じゃあ今度は食べ物でも用意しましょうか」
「そうだな、その方がアイツも喜ぶだろう」
そう言って、二人は笑みを浮かべ、犬が去っていった方向を見つめていた。
二人の少女達の胸にその犬との思い出は深く刻まれるようになる。
それは数か月後、人類にとって『バーテックス襲来』という天災が起こり、
勇者と呼ばれる少女と神々が繰り広げる長い長い戦いの中で、
白い犬の伝説は人々の心と歴史に、300年間語り続けられることとなる。
アドベンチャーゲーム、大神。ぜひ皆プレイしてみよう(隠さないダイマ)
目標、西暦組全員のストーリーを書く。
ちなみに、アマ公は性別不明。公式では「わんこ」となっている。