少女達と白い犬の物語   作:バロックス(駄犬

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たった3話しか投稿してないのにお気に入り数と評価バーに変化が!?
まさかハーメルン読者の中には大神スキーがいるのか!?

ラストはたかしー、ざ・ヒロインたかしー。大神をゲームクリアし、ゆゆゆい二周年放送終えてからの投稿だぜ!


この物語はたかしーが神様と密接な関係になって、神様にとって特別な存在となるキッカケを作ったお話。


いつか桜の下で

 神社とは。

 この日本に存在する固有の祭祀施設の事だ。

 『じんじゃ』、『かみやしろ』と呼ばれ、その祭祀対象は八百万の神であり、人から動物、河、山、湖、沼と非常に多彩だ。

 

 

 神社と名がつくだけで、とても固っ苦しいイメージを想像して、好んで近づく者などあまりいないだろう。

 ましてや、こんな雨の日に遊びを目的に神社に来る物好きなどいるのだろうか。

 

 だが、そんな物好きが世の中にはいるのである。

 

 

 

「あーめあーめふーれふーれかーさんがー」

 

 奈良県某神社、その拝殿内から聞こえる少女の声。

 

 

 艶のかかった赤毛の少女が、拝殿の階段に腰掛けていた。

 その側にはピンク色の傘が置かれており、脚をぶらつかせながら歌うその少女の姿は何かを待っているようであった。

 

 

 高嶋友奈は神社で遊ぶことが好きな珍しい小学生だった。

 特に理由は無い。強いていうなれば、神社全体の雰囲気が静かで、それでいて心安らぐような空間だったから、だろうか。

 

 

 友奈は別にぼっちとかではない。地元にはちゃんと友達がいる。

 だが、神社で遊ぶときはいつも一人だ。 時間がある時や、ふと考え事をしたい時、一人で遊びたいときはこの神社で遊ぶ。そんな子だった。

 

 

「まだ来ないのかな~、シロちゃん」

 

 そう呟く少女は口にした者を心待ちにしているようだった。

 一人で神社の境内で遊ぶ友奈はここ最近現れるようになった『シロ』という白い犬と一緒に遊ぶようになっていた。

 

 ちなみに名前の由来は白い犬だから、『シロちゃん』。そんな単調的な名前。

 最初であった時、お腹を空かせていたのか、友奈にも聞こえる大きさの腹の鳴る音を聞いて、たまたま持っていた魚肉ソーセージをあげてから懐いたのか、友奈が神社に遊びに行くとその犬は決まって現れるようになったのだ。

 

 

「今日のあの子のごはんは……どじゃぁん、明太ソーセージ! シロちゃん、喜んでくれるかなぁ……」

 

 

 その犬がやって来た時の為に用意しておいた今日の餌をポケットから取り出す。

 冷蔵庫にあった今日のおやつを持ってきたが、あの犬はお気に召すだろうか。

 犬はとても食欲旺盛な犬なので、差し出した餌が大抵食えるものであれば喜んで食べるから、その心配は杞憂に終わるだろうが。

 

 

 

 友奈が空を見上げれば、未だに曇り空から降り注いでいる雨が神社の境内を濡らしていた。

 普段、あの白い犬と遊んでいる時は晴れだったこともあってか、一向に降りやまない雨に、友奈は天の神様から嫌われてしまったのではないかと思ってしまう。

 

 

「……むー」

 

 

 不機嫌さを表したかのような唸りが友奈から発せられる。立ち込める暗雲を見つめては、まだ止まぬか、と祈るばかりであった。

 

 

 『神社で雨に降られるということ』、それはどういう事なのか。

 一説によると、それは神様に歓迎されているサインだという。この神社の神主からはそういう話を聞いたのを友奈は思い出した。

 

 

 これではせっかく神様に歓迎されているとしても、友奈としては目的の犬と遊ぶことができない。

 余計な事をしてくれる神様もいたものだとさえ、友奈は思ったのだ。

 

 

 もともと、今日この神社に遊びに来ることも躊躇っていた。

 家を出ようとした矢先、急に降り出してきた雨はまるで、友奈を神社に行かせないかのよう。

 

 

 だが、人類には雨を凌ぐために生み出された英知、ビニール傘がある。

 母親がいつだったか買ってくれた傘を玄関先で見つけ出しては、長靴に履き替えて鼻歌を混じらせながら友奈は雨の中を駆け出して、神社にやって来たのだ。

 

 

 それが、間違った選択だったとは知らずに。

 

 

 

 

 

「……? シロちゃん?」

 

 友奈が見据える先の茂みが小さく動いているのを見た。

 ガサガサ、と小刻みに動いては徐々にそれは境内の方へと近づいてきている。

 

「今日も来てくれたんだ!」

 

 先ほどまでの不機嫌顔が嘘だったかのように、友奈の表情に太陽のような笑みが戻る。

 茂みから今にも顔を覗かせんとしているそれは、きっとあの白い犬に間違いない、と友奈は信じて疑わなかった。

 

 

「シロちゃ――――」

 

 

『キキッ』

 

 友奈がその口を固まらせた。

 まさか、茂みの向こうから現れたのが自分が思っていた白い犬ではなく、猿のような生き物だったことに。

 

 

 その姿、猫背であるが故に友奈よりも低いだろう。

 異様に長い腕と緑色の皮膚、

 顔には梵字のような模様が掛かれた布のお面。

 

 背に背負った竹の棒は何に使うのか想像が付かない。

 

『この辺りだべか?』

『んだんだ』

 

 

 しかも、その生き物は一匹ではなかった。

 明らかに人語を口にするその生き物はぞろぞろと茂みより現れてくる。 その数、あわせて6匹。

 

 

 その集団は何かを探すように境内を歩き始める。

 それを見ていた友奈はその集団が明らかに異質な物だと理解して、近くの柱の陰に隠れるように身を寄せた。

 

 

 しかし、肩の部分が柱の陰から少し見えていたのが災いし、境内にいた集団の一匹が声を上げる。

 

 

『キキッ!!』

 

 今度は人語ではなく、獣のような声。

 それが何かしらの合図か、共通の言語なのか分からないが、集団は一斉に友奈がいる拝殿の方を向いたのだ。

 

「え、…な、なに……、こっちを見てる?」

 

 異形の生物が、同時にこちらを見る、その行為に小学校低学年の友奈が恐怖を抱くには十分だった。

 震える足で柱の陰から身を晒し、一歩、二歩と拝殿の奥へと後ずさる。

 

 

『キーッ!』

 

 一匹がまた声を上げた。

 すると一斉に緑の生き物は動き出して、拝殿を目指して境内を駆けていく。

 

 

 逃げなきゃ。 

 

 

 その時の生き物たちの纏った雰囲気が只ならぬものだと感じた友奈は慌てて走り出したが、

 

「あうっ!」

 

 今だに震えが止まない足で急に走り出そうとしたためか、拝殿内で盛大にこけてしまう。

 その間に拝殿内に入り込んだ緑の生き物たちは、あっという間に友奈を取り囲んでしまった。

 

 

 転んだ友奈が顔を上げると四方八方に緑の生き物たちが。

 よくよく見れば、生き物たちの頭には小さいツノのようなものが付いている。

 

「お……おに?」

 

 友奈はもしかしたら、と予測する。

 この集団は猿ではなく、その正体は鬼。しかもその小ささから小鬼なのではないかと。

 

 そんな思考を巡らせていたのも束の間、友奈を中心に円に展開した小鬼達はじりじりと近づくように、円を縮小させていく。

 

 

「……っ!!」

 

 友奈には見える。

 小鬼達の腕から先にある黒い爪が。

 

 垂れた小鬼の爪が拝殿内の床とこすれ、キィ……キィ…と耳に残る音を残す。

 

 それが徐々に近づくにつれて、友奈の心は次第に恐怖に染まっていった。

 

「こ、こないで……!」

 

 このまま動かないでいたら、何をされるか分からない。

 恐怖から逃れる一心で床を這うに動き出そうとした友奈だったが、

 

 

『キッ』

『キキッ』

 

「きゃっ!?」

 

 二匹の小鬼が友奈に飛び掛かっては、その両肩を掴み、体重を乗せて床へと密着させる。

 小鬼たちの力はかなりのもので、友奈がどんなに振り解こうとしても一向に動くことは出来なかった。

 

 小鬼は二人掛かりで友奈を起しては、羽交い絞めのように拘束すると、

 

 

『キキキッ』

 

「ひぅ…! やめて…さ、触らないでっ!」

 

 残った3匹が、友奈の身体に触れ始めた。

 何かを探すように、または、その肉の感触を確かめるように、

 

 その爪に皮膚が掛からないように、程よい力加減で友奈の身体をまさぐる。

 途中で爪がカリッ、と掛かると小さく感じるこそばゆさに、友奈の身体が震えた。 

 

 だが、それよりも恐怖が先行して声を上げる事が出来なかった。

 やがて小鬼は何かを見つけたか、友奈のポケットから何かを取り出す。

 

「そ、それはダメ…っ! それ! シロちゃんの……っ!!」

 

 小鬼が手に持っているのは、友奈が白い犬の為に家から持ってきた魚肉ソーセージだった。

 小鬼はその細長い包を見るや、まじまじと見つめてはその袋を爪で器用に切り裂き、

 

 

 中の魚肉を一気に口の中へと放り込んだ。

 

 

「ああっ!!」

 

『♪~♪』

 

 身を捩ってその小鬼から逃れようとする友奈を余所に、

 ソーセージの味を堪能した小鬼はその美味に酔いしれているようである。 

 

 

「ひ、ひどい…ひどいよ……!」

 

 

 怒りよりも先に涙が出た友奈。

 こんなひどいことがなぜできるのか。 良心の欠片もないのか。そう思わずにはいられない。

 

 悲しみに暮れる友奈を、小鬼たちが見つめては口を開く。

 

 

『へへ、この女食ってもいいべか?』

『や、やめ!大事な生贄(ニエ)の子を勝手に食ったてなったら…!』

『我らが主……”オロチサマ”がなんと言うか……!』  

『で、でも腕一本くらいなら……』

『た、たしかにそれなら…』

『死なねぇ程度によぉ』

 

 突如として意見が合致したのか、小鬼達の視線が友奈の身体を凝視する。

 その注がれる視線に含まれる意味深な熱に、友名は悪寒を抱かずにはいられない。

 

 

 やがて一匹の小鬼が友奈に近づくと、その二の腕の部分の服を力ませに引きちぎった。

 

「いやっ!」

 

 ビリッと破かれた部分からは友奈の健康的な白い肌が露わになる。

 小鬼は顔を寄せると、舐めるようにその腕を見つめ―――、

 

 

「――-ひっ!?」

 

 

 

 べろり、と小鬼はその舌で腕を舐めたのだ。

 

 

「いやあああああああっ!!」

 

 

 蛇のように這う舌が肌に伝える不快な感触に友奈が叫ぶ。

 皮膚をなぞるように、粘着性を含んだ小鬼の涎は生温かく、友奈の白い肌を覆うように汚していく。

 

 

 ざらついた舌が深く腕を舐め上げると、友奈の背が氷水を流しこまれたように背筋が震えた。 

 

 

『”オロチサマ”は若い少女のニクが好物――、ニエとして選ばれることを光栄に思うんダナ』

 

 

「こわい、やめ…て! いや、…いやだよぉっ!!」

 

 オロチとは誰なのか、ニエとは何のことなのか。

 それを問う事すら頭に浮かばない程に、友奈の思考は恐怖で満たされていた。

 

 

 助けを懇願しても誰も来ない。 神主は今日は買い出しのため不在だ。

 父も母もこの場所に自分が来ている事を知らない。

 

 

 誰も助けに来れないという事実に、友奈は泣き叫んでは絶望する。

 涙で顔を濡らして、その表情は絶望の色を濃く残す。

 

 

『いただきます♪』

 

 

 布のかすかな隙間から見えた牙が妖しく光る。 その小さき少女の柔肌目がけて、

 絶品のごちそうを頂かんと、小鬼が牙を突き立てようとした時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 

 高嶋友奈は目を疑った。

 自身が見据えた目の前の光景に。

 

 

 4,5メートルほどの木が友奈の前に生えてきたのだから。

 

 

『ゲ……ッ…フゥッ』

 

 友奈に齧りつこうとした小鬼の真下から生えてきた木。

 小鬼の身体は易々と持ち上げられ、天井と木で挟まれてしまい、潰されるような圧力に身動きが出来ない。 

 

『な、なんだべ!』

『木が生えてきたど!』

 

 

 前触れも無く、急に生えてきた木に小鬼たちは思わず友奈の拘束を離してしまう程に慌てふためいた。

 

 

 

『ガルルルル……』

 

 小鬼達が状況を理解できないでいると、拝殿の入り口から低い唸り声と共に入り込んでくる者がいる。

 

 

 犬だ。

 雨でその白い毛並からはひたひたと雨水が拝殿内の床に垂れる。

 

 

 びちゃり、びちゃりと水を含ませた足音ともに現れたその犬を友奈は良く知っていた。

 

 

 

「し、シロ……ちゃん?」

 

 

 言葉が疑問形だったのは、普段見ている犬の姿が大きく異なっていたからだ。

 白い毛の顔から身体にかけて朱色の隈取りが走り、

 背には藍色の鏡が浮遊し、時計回りに回転している。

 

 

『ガウウゥッ!!』

 

 

 犬はまだ動ける五体の小鬼を睨むように身を低くすると敵対を露わにしながら吠える。  

 小鬼はその威圧感にビビり、一度は腰を引かせたが、

 

 

『犬にビビるなや!』

『一匹だで!』

 

 数に物を言わせて、背に持っていた竹の棒を取り出すと一斉に犬に向かって襲い掛かる。

 

 逃げて! と叫ぼうとした友奈だったが。

 

 

 犬に襲いかかったうちの四体、その小鬼の身体が真横から一直線に並ぶようにして真っ二つに『両断』された。

 小鬼の斬られた跡をなぞれば、その空間に『一閃』が駆け抜けたかのよう。

 

『―――なッッ!!?』

 

 運よく、その『一閃』の”射程から外れていた”小鬼の一匹は既に絶命して両断された仲間を見ては、数歩後ずさり。

 両断された仲間はその身体が地へと着くとそれぞれが一輪の花を咲かせた。不思議な光景だった。

 

 

 残った一匹は周囲に仲間がいないことを分かった上で確認し、再度犬に向けて竹棒を振りかざそうとしたが、

 

 

『ガウ……』

 

 その犬の鋭い眼光に射竦められ、腕おろか、身体を動かすことが出来ないでいた。 

 そして次の瞬間。

 

 

「きゃっ!!」

 

 

 突如として拝殿の外、雨風で白濁する景色を稲妻が引き裂いた。

 地に響く音と共に打ち鳴らされた『迅雷』が拝殿内の小鬼を目指して駆け抜ける。

 

『ドッヒェェッ!!』

 

 雷の轟音に驚いた小鬼は反射的に竹棒を離すと、拝殿に入り込んできた雷はその竹棒に直撃。

 激しい音と共に爆ぜた竹棒に小鬼は尻餅をついては目の前にいる白い犬を視界に捉える。

 

 

 まるで先の生えた木も、小鬼の両断も、雷の軌跡もこの犬が起こしたかのように錯覚したその小鬼は息を呑み、恐れた。

 

 生えた木の上にいた辛うじて『まだ生きていた』小鬼が床に落ちると、その小鬼を背負い、

 

『ニゲロォォォ!!』

 

 拝殿内から飛び出しては、一目散に境内を駆けて行った。

 小鬼が外へ逃げ、茂みまで走る間も『迅雷』は鳴り響き、逃げた小鬼を追いかけるように境内の地面を穿っていた。

 

 

 

『……フンッ』

 

 どこまでも追尾してくる雷に尻尾を巻いて逃げていった小鬼達を犬は見送って、荒く鼻を鳴らした。

 あれだけ手酷く打ちのめしてやれば、もうここにはこないだろう、そう確信した矢先、

 

 

「うわぁぁんシロちゃぁああんっ!!」

 

 犬の身体にしがみつく様に、友奈が飛びついてきた。

 体格差、人間の少女にド突かれるように飛びつかれたが犬は物ともせずに友奈の身体を受け止める。

 

「うぅ……こ、こわかったよぉぉ!」

 

 涙でぬれた顔を犬の体毛にぐりぐりと押し付ける。

 

 犬も雨で濡れているから体毛で涙を拭おうとしてもそれは無駄な行為であるが、身を凍らせるほどの恐怖を体験した友奈にとってその犬の存在は雨で濡れている身であっても安心させてくれる何かを与えてくれた。

 

「ぐすん……」

『アウ……』

 

 当の犬は少女に抱き着かれて悪い気はしなかったのだが、流石にそろそろ離れろ、と思ったのか首をもどかしく動かして友奈にその意思を伝える。

 だが友奈は絶対に離さないといった意志を固く見せるように更に首の周りを締め付けてくるので、

 

 

「きゃっ!?」

 

 

 犬はその場で身震いした。

 全身の水分を勢いよく飛ばし、跳ねる水に驚いた友奈の拘束が一瞬緩んでは顔を隠すようにして一歩距離を取る。

 

 

 数秒程の身震いの後、犬は落ち着いたのか床に座り込む。

 それでも全身はまだ濡れたままで、毛並はぼさぼさだ。

 

 

 一方、友奈はというと、

 

「ご、ごめんね……ま、まだ震え…止まらなくて…」

 

 震える声と共に、友奈は小鬼に舐められた腕をぎゅぅ、と握りしめていた。

 危機は去ったが、味わった恐怖は未だに抜け切れていないのか、怯えで瞳が揺れている。

 

「さ、さむいよぅ……」

 

 友奈は全身を濡らした訳ではない、舐められたのも腕だけだ。

 それなのに、顔は風邪を引いた時のように唇は蒼ざめ、身体は震えている。

 

 

 

 この時、友奈は自分の身体の周りを『ドス黒く、邪悪な念を込められた瘴気』が漂っていたことに気付いていない。

 

 

 

 だが犬は瞬時にしてそれを察したのだろう。床に膝をついた友奈の周りをくるくると歩き回った。

 

 

「だ、大丈夫だよシロちゃん…こ、こんなのへいき、だから…」

 

 

 そんな犬に心配を掛けまいと友奈は気丈にも笑みを作って見せる。

 その表情とは正反対に、身体は震えと寒気を隠せない。

 

 

『アウッ』 

 

 

 友奈の顔を見つめた犬は、何も言わずに拝殿の外に向かって走り出した。

 境内に飛び出した白い犬は、先ほど身震いをして水分を飛ばしたばかりの毛並みを再び土砂降りの雨の中へと晒す。

 

 

「どうしたの、シロちゃん……」

 

 足元から悪寒が駆けのぼり、刺すような顫動に耐えながら、友奈も犬を追いかけて拝殿の出口までその身を動かす。

 

 

 犬は暗雲立ち込めるその空をひたすら睨んでいた。

 鋭い眼光とともに低い唸り声を上げては、怒気を孕んだ声で吠える。

 

 

「あ……っ!」

 

 

 そして友奈は理解する。何故、犬が空へ向かって吠えていたかを。

 雨風を吹き降らし、地を濡らす暗雲が姿をゆっくりと変え始めた。

 

 

 それは大きくうねり、顔のようなものを浮かばせては、その顔に繋がる様に、雲が首の形を作り出す。

 

 

 鰐のような顔が八つ。

 大きく形を変えた顔はその巨大な口を開き、

 暗雲へと繋がる様に長い長い首が揺れ、

 断片的に浮かんだその姿は龍を思わせる。

 

「っ……!!」

 

 その姿が友奈にははっきりと見えた。

 姿が見えるという事、それは明確な狂気と恐怖を友奈に与える。

 

 

 先ほどまでとは段違いな寒気が身体を遅い、余りの不快感に行き苦しささえ感じてくる。

 それと同時に、友奈を取り巻いている『ドス黒い瘴気』が一層濃くなった。

 

 

「はぁ…っ、はぁ……っ、う、うぅ……っ!!」

 

 胸を押さえ、その場にうずくまる友奈を見た犬は全てを理解する。

 なるほど、やはり貴様が原因か、と。

 

 

 

 白い犬は振り子のように首を振っては、その暗雲が広がる空へ首を向けると同時に、咆哮を放った。

 

 

「し、シロちゃん……?」

 

 友奈の目を疑うような光景。

 犬の咆哮は、地を震わせ、空を割らんとするほどに響く遠吠えであった。

 

 

 山に響けば、反響して木霊するような、

 海に響けば、海面が躍る様に波打つような、

 空に響けば、聞き覚えのある者は思わず振り向いてしまうような、

 

 

 そんな力を持っていると思わせてしまう遠吠えであった。

 

 

 するとどうだろう、犬の身体は一層輝きを増したかと思うと、

 それに呼応するように、暗雲をかき分けるように一筋の陽光が顔を覗かせた。

 

 

 その陽光は瞬く間に広がり、先まで広がっていた暗雲と姿を現していた龍のような雲はその光明を避ける様に消え失せていったのだ。

 

 

 太陽は昇る。

 灼熱の存在、『光明』の意味を知らしめる太陽がその姿を空へと再び現した。

 

 空から刺しこまれた太陽の光は、不浄の力によって蝕まれていた地を浄化するように神社一帯を照らし出す。

 草木と境内に浮かんだ水滴、水たまりに反射して輝く一帯はまるで再び命を吹き込まれたようだった。 

 

 

「……きれい」

 

 

 命が生まれ変わり、新たに誕生する瞬間を見たような美しさを友奈は感じた。

 いつの間にか、友奈を取り巻いていた『ドス黒い瘴気』も消え去っていたようである。

 

 

「あれ?なんだろう、今すっごく身体が軽いよ!」

 

 まるで憑き物が落ちたか、重い荷物を下したかのように身が軽くなるのを友奈は感じた。

 先ほどまでに感じていた震えは嘘のようになくなり、身を蹲らせていた寒気がなくなるとともに、太陽の光が身体を温めてくれている。

 

 

 

 あのまま友奈を放っておいていたら、その瘴気に自我を食われ、幼き命を散らしていただろう。

 その恐ろしい事実に、当の本人である友奈はまったく気づいていないのだが。

 

 

 文字通り、健康体となった友奈を見て、犬は境内に大きく聳え立っている一本の木へと視線を移した。

 

 

 大きく聳え立つそれは、既に時期を過ぎ、華を散らしてしまった桜の木。

 犬は最後の仕上げとばかりにその桜の木を見据え、

 

 

 吠える。

 先ほどよりも短い遠吠えだ。

 

 

 すると、その遠吠えに応えるように、華を散らした桜の木が桃色の光に包まれると、その全体に美しく、瑞々しい『桜花』を咲かせたのだ。

 

 

「ええっ!? なんで!? どうして桜の花が咲いてるの!?」

 

 今見ている光景が夢かとばかりに驚く友奈。

 この桜の華の最盛期は既に過ぎており、用事があってその桜を見れなかった友奈は来年にまた持ち越しだ、と考えていた。

 

 そして、今咲き誇っている桜は見頃と言っても差し支えない程の美しさだ。

 来年まで見られない、そう思っていた友奈だったが、目の前で咲いている桜を見て、自然と笑みが浮かび、限りない喜びに満ちたのだ。

 

 

「すごーい! ねぇシロちゃん!もしかして、シロちゃんがやってくれたの!?雷も太陽も桜の華も!」

『アウ……?』

 

 友奈の問いに、首をかしげる犬。

 恍けているのか、その意図は犬と人間故に測りかねるが、

 

「そうなんだ! シロちゃんってもしかして……神様?」

 

 まるで自身の問いが見事的中したかのような笑みを浮かべる友奈。

 言葉が通じない故に起きた誤算、人とは業の深い生き物である。

 

「もしかして、お日様の神様なの? 太陽出してたし。 あ、でも桜を咲かせたんならお花の神様かも」

 

 

 どっちだろう、と友奈は腕を組んで思考を巡らせている。

 

 

 直感的に浮かんだことを口にしている友奈だが、その答えを明かす者はいない。手段も無いが、

 友奈の直感は馬鹿に出来たものではなかった。『既に答えは出ている』ことに友奈本人は気付いていない。

 

 

 友奈がどっちか、と悩む間に犬は空を見つめる。

 犬が見つめるのは、あの邪悪な暗雲が消え去っていった方角だ。

 

 

 先ほどまでの恍け顔が嘘のように犬は神妙に、何か使命を見つけたかのような貌になると、その方角にゆっくりと歩き出した。

 

「まって!」

 

 歩き出した犬を呼び止める声。友奈のものだ。

 

 

「どこか行っちゃうの・・・・・シロちゃん?」

 

 胸の辺りに手を置き、悲痛そうに顔を歪める友奈に、犬は答えない。

 ただ黙ってその場から去ろうと歩き始める。

 

 

 それは、犬にとっては当然のことである。

 この世界に起きつつある異常な現象、それを探索すべく犬はあの邪悪な雲を追いかけるのだ。

 どんな危険が待っているかは分からない、それに心優しき少女を巻き込むこと出来ない。

 

 

 故に、脚を止めずこの場を去る、それ以外の選択はあり得ないかった。

 その鉄の意志を持った犬が去ろうとするのを何かが止めた。

 

 友奈が犬の首のあたりに抱き着いていたのだ。

 いつの間にか乾いていた毛並みの柔らかさを、太陽のような香りを感じながら呟く。

 

 

「また……会えるよね?このまま会えなくなるなんて、私……いやだ」

 

 片腕で身体を抱きしめ、空いているもう片方の手で背中の毛を撫でる。

 不思議と温かさを感じる少女の手に、犬は心が絆されるの感じた。

 

 

 ゆっくりと時が流れるような感覚。

 犬は心地よさを感じながら、少女の手で撫でられるのを甘んじて受けた。出来るなら、このまま少女の手に撫でられていたいと思う程に。

 

 

 だが時は時間はどんなにゆっくりと感じても、それは永遠ではない。

 始まりがあれば終わりがある様に、犬の身体は友奈の手から離れるように前へ進み始める。 抱きしめる友奈を強引に引き剥がすことなく、ゆっくりと。

 

 

 友奈も無理に止める事をしなかった。

 名残惜しさを感じながら最後まで毛並みを撫でていた手がそっと離れる。

 

 

 小さく揺れては落ちていく桜の花びらが作る道を歩く犬。

 一瞬だけ足を止めて振り返ると、

 

 

「だいじょうぶ……私、泣かないよ!」

 

 

 そう言い張る友奈だが、既に目尻には涙が浮かんでいた。

 それでも太陽のような笑顔は崩さない、それが犬にとってはとても印象的だった。

 

 

「また、会おうよ……いつか」

『ワンッ』

 

 笑顔で見送る少女に応えるように、犬は一度吠え、駆け出した。

 瞬く間に神社を抜けだした犬は次第にその姿を小さくし、消えていく。

 

 

 散りゆく花びらが、神社の境内を彩る。

 友奈は別れによる悲しさを感じたが、すぐに目に溜めていた涙を拭うと犬が走っていった方角へ今できる精一杯の笑みを作った。

 

 

 友奈は思うのである。

 

 きっと、どこかで会える、と。

 

 

 それはいつになるか分からない。

 明日か、一週間後か、一年か、十年か、もしかしたら百年以降かもしれない。

 

 

 

 途方もない時間が掛かるかもしれないが、

 それでもいつか、『友奈』はあの白い犬と巡り合う気がしてならなかった。

 

 

 

 大切な祈りが届くように、と。

 穏やかな風に揺れる桜を『高嶋友奈』は見つめる。あの犬の無事を願い続ける。

 

 

 

 変わらない想いがあるのならば、きっと私たちは出会えるだろう。

 

 

 

 

「……いつか、桜の下で」

 

 

 『運命の日』を迎えるその時まで、友奈は待ち続ける。

 いつの日か再会を願って。

 

 

 

――――それが少女と神が交わした『約束』。

   これは三百年という時を経ても尚、不変であり続けた永遠の『誓い』の物語、その序章である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ストーリー要約。
・たかしー、緑天邪鬼さんに囲まれて、ぐへへされかける。
・空に現れた大蛇神様の雲。 これがたかしーの不調の原因。勇者の章でいうと、ゆーゆが天の神から受けた呪いの焼印みたいなやつ。アレ放っておいたらマジで死んでた。*呪いをかけた理由(美味しそうだから僕のところに来て食べられよ?)
・アマ公、陽光を使って追い払う。まだ力を取り戻してないのか、大蛇神様、あっさり逃げた。
・桜の木、アマ公の世界でいうところの賽の芽。どっかの大蛇神様のせいで神社が若干タタリ場化していた。桜花によって土地に力が戻り、タタリが浄化される。
・アマ公、何故か復活してる大蛇神を追いかける旅に出る。(あの蛇野郎逃さねぇ、つーかなんでお前生きてんの?あの時完全にオッさんが屠ったよね?)
・たかしーとアマ公がまた会おうと約束する。シリーズにおいてアマ公と「友奈」の因果関係が作られる。

そんな勇者になる前の幼女たちをアマ公が筆技で助けるという物語でした。さりげなく、このアマ公はゲームクリア後です。
サブタイトルと後半の文章にある一文、大神ファンの人なら気づいてくれるはず。 ヒントはとある曲の歌詞から。

本編は現在製作中。
まさかのプロローグでキツさを感じている。大神風にプロローグ作るの大変なんだよ・・・・やばい、辛い、投げ出したい、誰か俺の祟りを払ってくれ。

感想、意見など、なんでも待ってます、アドバイスでもなんでも頂ければと嬉しいです。
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