私はうつろ
名は体を表すとは良く言ったもので私は何もない、何も持ってない「虚ろ」そのものだった。
そんな私が恋をした。初恋、一目惚れだった。
いつも本とにらめっこしてばかりの紙と文字の世界が一気に色付いて見えた。
熱い鼓動を感じる。顔が熱い。頭の中は彼のことで一杯。
これはそんな地味な私の初恋の物語
高校2年生の冬休みが終わった。
もうすぐ3年生。春が近づいてきてみんな新しい学年、新しい生活に気持ちも浮わつき始めている中うつろだけが浮かない顔をしていた。
(はぁ…もうすぐクラス替え…折角はたろーくんと同じクラスになれたのに結局一言も話せないまま…もう少し私に勇気があれば…)
やっぱり私が地味なのがいけないのかなぁ…
どうしても受け身になってしまう。積極的になるなどハードルが高すぎる。
嫌われたらどうしよう…無視されたらどうしよう…
そんなネガティブ思考に支配される。いつものことだ。
いつもと同じ悩んでるだけで1日が終わる。今日もそのはずだった。
家に帰るため下駄箱で靴を履き替えようとしたとき一通の手紙が入っていた。手紙の裏には「はたろー」の文字。
(…え?………え!?!?!?)
最初、文字を見ても頭が理解しなかった。しかし段々と理解していくと身体が熱くなり鼓動も痛いくらいに感じる。
(えっ!?はたろーくん!?はたろーくんからのお手紙!?)
ど、どどどどうしよう!?と、とにかく家で読もう!うん、そうしよう
うつろは自分を落ち着かせなんとか無事に家にたどり着いた。
正座
手紙を前にしたうつろはあまりの緊張と興奮から部屋に入った瞬間に戸締まりを確認し服装を正して目の前に手紙、床に正座の姿勢をとっていた。
(すぅーーはぁーー)×3
よしっ!!
読むぞ!!
どきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどき
深呼吸をしたあと心臓バックバクの中、自分に気合いを入れて手紙をそぉ~っと取り出して恐る恐る目を開いて読む。手紙の内容は…
「うつろちゃん好きです
僕と付き合って下さい」
え?…え!?…うそ…え?…ほ、ほんとに…?
え、え、え……
ポタッ……ポタッポタッ………ポタッ
驚くうつろ。
書いてあることを何回も読む。何回も、何回も。それでも信じられずに頭が混乱する。
視界が滲み涙が零れる。
(あっ、手紙が…!)
手紙を汚すまいと涙を拭う。そして手紙をもう一度しっかりと読んで、胸に抱えて今度は笑顔で思いっきり泣いた。声をなるべく殺して。それでも声が溢れる。嬉しい。幸せ。ここまでうつろが感情を表に出したことはいままでなかった。それも幸せな感情など普段はほんの少し感じる程度だ。
(うっ……うっ…うぅ……)
落ち着いてきたときには結構酷い顔になってしまった。それでもうつろは(えへへ!)と笑顔で手紙をしまった。
翌日、うつろは顔を真っ赤にさせて登校した。理由はもちろん昨日の手紙。同じ教室にははたろーがいる。そう考えるだけで顔は赤くなり目線は下に落ちる。
(あぁぁ!どうしよう!?はたろーくんに聞いたほうがいいのかな!?でもいつ話し掛けよう!?)
この日1日うつろははたろーを見ては視線をそらし上の空で授業を受けていた。
そして放課後、帰るために下駄箱に向かうはたろーについに声を掛けた。
「あの!は、はたろーくん!ち、ちょっといいかな?」
緊張で声が裏返る。
「うつろちゃん、あの手紙のこと?」
「!!…うん、そう…昨日の手紙のことで話したいことがあるの…!」
「ここじゃなんだし少し場所を移そうか」
そう言うと人目の少ないところへ歩いていく。
そして目的の場所につくとはたろーは…
「うつろちゃん、僕と付き合って下さい!」
「!?」
直接はたろーに告白された。
もちろん返事はOKだ。元々手紙の返事をするつもりだったのだから。
しかしこれはダメだ。不意打ちだ。だって嬉しすぎる。また涙が零れる。
「は、は、はたろーくんは、わ、私でいいの?」
「もちろんだよ、うつろちゃん
ぼくはうつろちゃんが好きなんだ」
「わ、わ…私もはたろーくんのことがずっと前から好きでした!」
こうしてうつろちゃんとはたろーくんは恋人同士になれた。
雪が降りそうな重い空の下に少し早い春の報せが二人に届いた。