IS~衛宮の娘は遥か高き宇宙を目指す~   作:明日香

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第7話「告白と和解と…」

 

 

戦いは終わった…。

一夏と鈴音は二人仲良く医務室送り。

どうやらザザムザーのクローに掴まれて握り潰されかけた時の後遺症を検査するためらしい。

今回は検査という形ですんだけどISの絶対防御が無かったらと考えるとぞっとする…。

ちなみに白式と甲龍はダメージレベルがBになっていた。

 

 

「今回は緊急時であることとアンノウンの捕獲に成功したことを考慮して厳重注意とする」

 

「「「はい、申し訳ありませんでした(フカブカ…」」」

 

 

そして、残った私達は織斑先生に説教を喰らっていた。

ちなみに織斑先生の指揮で行動していたセシリアは少し離れた場所で私達を見守っている。

やっぱりISの無断使用は罰則対象だよね…。

でも、思ったより罰がキツクなくてよかった…。

アルトリアにいたってはカタパルトを吹き飛ばしているし…。

それでもザザムザーの捕獲に成功した点で帳消しにされたから厳重注意程度ですんだ。

 

 

「マユ、大丈夫ですか?」

 

「う、うん…なんとか」

 

 

身体が重い…。

短時間の戦闘だったはずなのに私はかなり消耗している。

…うん、これは【投影】の負担と昨日徹夜でISの勉強をしてたせいだ。

アルトリアにはああ言ったけど正直キツイ…。

だけどここはしっかりと歩かないと…。

 

 

フラ…

 

 

「あれ?」

 

 

バタン…

 

 

「マユ!?しっかりしてください!マユ!マユーッ!!!」

 

 

あれ?足が動かない。

同時に目の前が真っ暗になっていく…。

意識も朦朧とする…。

ダメだなぁ…ちゃんと歩いて帰らないとみんなが心配するのに…。

アルトリアの声が聞こえるけど返事をすることが出来ない…。

もう徹夜なんてしないようにしよう…。

おやすみ…。

 

 

第7話「告白と和解と…」

 

 

◆ Side アルトリア

 

 

IS学園 医務室

 

 

チフユの厳重注意が終わった後、突然マユが倒れた。

マユは自身の限界を超えた動きで戦闘をしていました。

自身の限界を超えた動きをすれば必ず代償が降りかかる。

その代償が今になってマユの許に降りかかった。

なぜ私は今まで気が付かなかったのだ!

あの時のマユの動きを見ていて気が付かない筈がなかったというのに!

私達は保健室にマユを搬送してベッドに寝かせています。

 

 

「真優ちゃんが倒れた原因ですが…寝不足ですね」

 

「「「は?」」」

 

「おそらく徹夜で勉強した後に非常に激しい運動をしたために

 身体の限界を超えてしまって倒れてしまったのだと思います」

 

「真優はいつも私と同じ時間に寝ていた筈ですが?」

 

 

この医者は何と言った?

寝不足?

そんなバカな…。

マユは何か特別な出来事がない限りいつも私と一緒に午後の10時には寝ている。

だからマユが寝不足で倒れるわけがありません。

彼女はいったい何の根拠で…。

 

 

「なぜ真優の寝不足が原因だと?」

 

「実は今日の朝早くに自販機の前で真優ちゃんと会ったのですが真優ちゃん自身が

『ISの勉強に夢中になりすぎて気が付いたら朝になっていました』

と私に言っていましたから…。

まさか私も徹夜をした後にあんな激しい戦闘をするとは思っていなかったので…」

 

 

なん…だと…?

なぜ気が付かなかったのだ!?

光があればすぐに目覚めるはずなのに!

では、マユはどうやって私に気がつかれずに徹夜を…。

 

 

「たぶん、これを使ったんでしょうね」

 

「これは…眼鏡…?」

 

「これは…一見眼鏡のように見えますがこれはIS用の簡易ディスプレイです」

 

「なるほど、つまり真優はそれを使って徹夜で勉強をしていたんだな…」

 

 

まさかそのような眼鏡があるとは!

これでベッドにもぐられたら私でも気が付きません…。

マユが大事ないと知って安心したのかホウキとセシリアはやれやれと溜息を吐きました。

私もマユが大事ないようで安心しましたがマユに説教をしなくてはいけませんね。

マユが無理をして心配するのは私達なのですから…。

 

 

「お、真優はもう大丈夫なのか?」

 

「一夏。検査はもういいのか?」

 

「ああ。俺も鈴も問題なかった。白式が守ってくれたおかげだな…」

 

「そうか…よかった…」

 

 

どうやらイチカとリンインの検査が終わったようですね。

あのような巨大なクローで掴まれていたのだから心配だったのですが

二人とも問題が無かったようでなによりです。

ISの絶対防御はすさまじいものですね…。

私の全力の一撃も見事に耐えきったのですから。

本当に、このISを作り上げた博士はとてつもない天才でしょう。

 

 

「…なあ、箒。今日の夜八時に寮の屋上まで来てくれないか?」

 

「…ああ。わかった」

 

 

…?

ホウキはイチカとなんの約束をしているのでしょうか?

見たところかなり真剣な表情をしていましたけど。

なんでしょう…。

凄く確認をしなければいけない気がします。

真優の看病は後から来るシンに押し付けて私はこっそり二人を追いましょう。

 

 

◆ Side 楯無

 

 

IS学園 生徒会長室

 

 

「あ゛~…疲れた~」

 

「はしたないですよ。お嬢さま」

 

「処理が色々と面倒だったのよ~…」

 

 

アンノウンの襲撃の処理が終わって生徒会長の仕事をしていた私はテーブルに突っ伏していた。

虚ちゃんは「はしたない」と言って咎めてくるけど今はテーブルから突っ伏したままでいたい。

IS委員会の目が届かないうちにアレの残骸を回収しなければならなかったから

急ピッチで外の処理をしていたのもあるけど

なによりも私を精神的に追い詰めていたのはあのシン・アスカが言っていたことだ。

 

 

3時間前

 

 

『あくまでその無人機とこのテロリストは捨て駒に過ぎん』

 

『え?ISを捨て駒ってどんな軍事力を持っているのよ!?』

 

『少なくともISは“繋ぎ”程度の認識でしかないのは確かだ』

 

 

こいつらはシン・アスカの戦闘データを収集するために使われた捨て駒らしい。

なんでも今回IS学園を襲撃してきた組織はISなんか捨て駒にすぎないらしい。

その組織の主戦力は第1アリーナを襲撃したアンノウンと言っていた。

その組織にとってISは自分達の主戦力の配備が完了するまでの“繋ぎ”でしかない。

もしその組織が主戦力の配備が完了したらISの時代が速攻で崩れ去ると…。

 

 

『…ナニソレコワイ』

 

『そいつらは白騎士事件を起こした本当の黒幕だ』

 

 

え?白騎士事件ってあの篠ノ之博士が引き起こしたわけじゃなかったの?

だとするととんでもない組織だわ…。

世界中の基地を一瞬でハッキングし、同時にミサイルを発射させたのだもの。

味方なら頼もしいけど敵ならこの上なく厄介な組織ね…。

だけど、そんなことよりも、もっと恐ろしいものがあった。

 

 

『そして、奴等は自力でISの大量生産も行える』

 

『…は?なにその夢物語のような話は』

 

『疑うのももっともだ。だが、この無人機のコアを見ればわかるはずだ』

 

『無人機のコアって…なっ!?』

 

 

あの時、彼に言われたとおり無人機の残骸の中で中枢部が剥き出しになっている

残骸を見つけて中枢部を調べてみるとこの無人機は全てISコアが動力源だった。

これならISを捨て駒にする理由がわかった。

いままで盗まれたり行方不明になったりしたコアの数は両手で数えられるほどだ。

なのにここにある無人機の残骸の数は30。

つまり彼が敵対している組織はISコアの量産など造作もないこと。

元々ISのコアは篠ノ之博士にしか作れない物だ。

自分の子供も同然であるISを捨て駒に利用している組織なぞに

篠ノ之博士は手を貸さないだろうから自力で量産しているのだろう。

そしてその組織はIS以上の強さを誇る兵器の開発に成功しているということ。

さらに彼の話だとその組織はIS委員会と深い関わりがあるということ…。

正直、逃げ出したかったわ…。

 

 

「うー…今日はもう部屋に戻ってゆっくりしたい」

 

「ダメですよ。今日の夜は今回の襲撃関する報告を政府に提出しなければならないのですから」

 

 

マジで良いニュースプリーズ…。

マジで自由時間プリーズ…。

マジで休みプリーズ…。

マジで癒しプリーズ…。

このままじゃあお姉さん、過労で死んじゃうわ!

 

 

◆ Side 真優

 

 

???

 

 

ん?

どこだろうここは…暗くてよく分からない。

まるで誰かの視点に立っているような…。

あそこに立っているのは…アルトリアとシン?

ああ、またアルトリアの夢か…。

前に同じような夢を見た時にアルトリアとシンが過去に自分達が体験したことを

夢という形で見ることがあると言っていたからこの夢は二人が実際に体験したことなんだろう。

そして、ここは…もしかして冬木教会?

 

 

ガキィンッ!!

 

 

『なぜ、わたしの願いを理解してくれないのですか!?

 貴方だって過去にやり直したいと願ったことがあるはずでしょう!!』

 

『願ったことがあるからこそ…俺はお前を止めるんだ。セイバー…』

 

『アーチャー!!』

 

 

アルトリアとシンが殺し合いをしている…?

信じられない…。

あの2人はアルトリアが一方的に喧嘩を売ることはあっても

殺し合いをしたりすることはなかった

なのに、私の目の前にいるアルトリアとシンは互いに殺そうとしている。

どうして殺し合おうとするの?

 

 

『貴方は…貴方は過去に家族も!守りたかった人も!戦友も!信念も!

 そして、帰る場所すらも失ったはずなのに何故なのです!?』

 

 

ガァンッ!キィンッ!ズガァンッ!!

 

 

『過去を変えるということは共に過ごした人々の死が無駄になる。

 いや、それだけじゃない。セイバー、君がやろうとしていることは

 セイバー自身が生きてきた道全てを捨てることなんだぞ!!』

 

『な、なにを…!!』

 

『そして!』

 

『っ!?』

 

 

ドスッ!!

 

 

私は二人を止めたいと思った。

だけど身体が動かない。

互いに一歩も引かない二人は剣を振るいながらお互いの思いをぶつけていた。

だけどシンの言葉に動揺したアルトリアが大きな隙を作った後、シンは…

大ぶりで剣を振りおろしたけどアルトリアに振り下ろされることはなく…。

代わりにアルトリアの持っている剣がシンの胸に突き刺さっていた…。

 

 

『え?』

 

『俺と君との出会いも…君とマスター達との出会いも…

 君の幸せを願った人の想いも全てが消えるんだぞ…』

 

『あ、ああ…あああ…』

 

『俺が伝えたかったことは…それだけだ…』

 

 

ガク…

 

 

『ごめんなさい…ごめん、なさい…!!』

 

 

シンの胸からはおびただしい量の血が流れ、アルトリアの顔にシンの血が付いた。

シンを突き刺したアルトリアが泣いている。

アルトリアは泣きながら剣を突き刺したシンを抱きしめながら泣きわめいている。

まるでそれは恋人に許しを乞うような少女のようで

胸を突き刺されたにもかかわらずアルトリアを優しく抱きしめながら

泣きわめくアルトリアをあやしていたシンの姿は恋人の全てを許した少年のようだった…。

 

 

――――――――

 

 

IS学園 医務室 真優が倒れてから6時間後…

 

 

「う、うーん…」

 

 

あれ?

ここは…IS学園の医務室?

あの生々しい夢は覚めたみたいだ。

西側の窓から見える景色は少しオレンジ色に帯びている。

うーん、綺麗な夕日だ…。

って、夕日!?

 

 

「夕方ァッ!?(ガバッ」

 

「ようやく目を覚ましたか」

 

「あ…シン?」

 

「無理をするな。徹夜した後の身体に投影魔術を掛けたんだ。負荷は相当掛かっているはずだ」

 

「う、うん…」

 

「次の週まで学園は休校になった」

 

「え?休校?」

 

「ああ」

 

 

慌ててベッドから飛び起きると用務員の服を着たシンが

ベッドの隣に配置されている椅子に座っていた。

時計を見ると五時になっている…つまり六時間も寝ていた…。

私を心配して面倒を見てくれていたらしい。

それにしても明日からしばらく休校か…。

身体を休ませるのにはちょうどいいけどアリーナが使えないから

インパルスの操縦訓練を出来ないのが痛いな…。

せっかくの専用機なんだからしっかりと慣らしておきたかったんだけど…。

 

 

「真優、ひとつ言っておくことがある」

 

 

シンは真剣な表情で私を見ている。

シンがこういった顔をするときは私に何か忠告をする時だ。

今日のことを考えるとシンはなにを忠告したいのかすぐにわかった。

たぶんシンは…

 

 

「あまり別の誰かの戦闘の記録を自分自身へ【投影】するな」

 

 

…うん。言うのはわかってた…。って、あまり?

意外だ…。

てっきりこれ以上自分自身への【投影】を使うなと言われるかと思っていたけど…。

シンって過保護っぽそうだけど…。

 

 

「別人の人格を自身に【投影】するならともかく戦闘記録くらいなら肉体の消耗だけで済む。

 どうしても、自身の身体を削ってでも何かを成し遂げたいのなら俺は真優を止めはしない。

 力がなくて大切な人を亡くす奴を見るのはもうごめんだ」

 

「シン…」

 

 

シンは私が【投影】を使うことを許してくれた。

力が無いために大切な人を失う人をこれ以上見たくないと言った。

シンは過去にいったいどんな体験をしてきたのだろうか…?

ただ、今の私にわかることは彼がとても悲しい経験を何度もしてきたということ。

そして、アルトリアとシンは嘗て殺し合いをしていたことだけだ…。

 

 

「…シン、アルトリアとは仲直りしないの?」

 

「仲直り、か。起こった原因は見当がついたが当のアルトリアに会ってもすぐに避けられてな…」

 

 

あ、多分は子供じみた意地でシンに会うことを拒んでいる。

私としてはアルトリアと仲直りしてほしい。

さっき見た夢が現実に起こった事ならもう二度とあんなことになるのはいやだ。

あんな悲しい殺し合いの果てにようやく仲良くなれたのにまた仲が悪くなるなんて悲しすぎる。

なにが悲しくて大切な人同士の殺し合いを見なくちゃいけないのか…。

 

 

「よし、決めた。今日の夜八時半に寮の屋上で二人を会わせて仲直りさせる」

 

「は?真優、アルトリアは俺との接触を避けているんだぞ?」

 

「関係ない。アルトリアには少し屋上で話をしようって言うから」

 

 

二人も本当は仲が良いはずなのに単なる意地の張り合いで私達に心配させないでほしい。

今日の夜の八時半に寮の屋上で二人を会わせて仲直りさせる。

シンが私に異論を言うけど今回ばかりは異論を認めない。

私は仲が悪い二人など見ていたくない。

だって二人ともお互いのことが好きなんだから!!

そうでなきゃあの夢で見たアルトリアが大粒の涙を流しながらシンに謝らなかったし

刺されたシンもあんな穏やかな顔でアルトリアを許さなかったはずだ。

 

 

「あ、おい!」

 

 

よし!そうと決めたらまず実行だ!!

後ろでシンが私を呼び止めようとしているけど今の私には関係ない。

二人を仲直りさせると決めたんだから誰が何と言おうと止まらない。

まずはアルトリアに会いに行こう!!

 

 

◆ Side 一夏

 

 

IS学園 学生寮 屋上 ザザムザー襲撃から九時間後…

 

 

「………」

 

 

…遂に、この時がきた。

あの時…六年前に箒へ言いたかった言葉…。

それをここで言う。

ああ、月が綺麗だ。俺の想いを箒に告白するにはもってこいだな…。

 

 

「…すまない。待たせたか?一夏」

 

「いや、俺もさっききたところだ」

 

「話とはなんだ?一夏」

 

「ああ。とても大切な話だ」

 

 

どうやら箒が来たようだ。

…緊張する。

拒絶されてしまったらという恐怖を感じる…。

だけど言うと誓ったんだ。絶対に箒に俺の思いを伝える。

俺のなけなしの勇気を使って俺は箒への想いを口にする。

 

 

「え…?」

 

「箒…俺はお前のことが…好きだ」

 

「え?え?え?」

 

「そして、俺は箒のことを…愛している」

 

 

…やっと言えた。

俺が六年前に箒と再会した時に言いたかった言葉をやっと口に出せた。

初めて出会った時も同じ師匠の許で剣の腕を磨き合ったことも

千冬姉と束さんがいない時に二人で今の師匠に出会った時も

喧嘩をした時も仲直りした時も同じ部屋で同じ布団で一緒に寝た時も

俺の隣にいつも箒がいたから今でも色褪せない大切な記憶だ。

俺は箒が好きだ。

俺は箒を愛している。

もし箒に嫌われていてもこの想いは絶対に変わらない。

 

 

「………………………」

 

「ほ、箒…?」

 

 

箒が固まっている…。

でも箒の性格ならばすぐに返事をする筈なのにまったく返事が返ってこない。

やっぱり俺なんかじゃ嫌だったのだろうか…?

そう思った瞬間、箒が口を開いた。

 

 

イメージBGM:Fate/stay nightより Sorrow

 

 

「すまない…。あまりにも嬉しかったから夢だと思ってしまった」

 

「え?」

 

「ああ。私も一夏が好きだ…。愛している…」

 

「箒…」

 

「ふふ…この言葉を聞くのにかなり時間がかかってしまったな…」

 

「ああ…本当に待たせたな…」

 

 

…ははは。

馬鹿だな俺は…。

箒は六年前に再会した時からずっと俺のことを想ってくれていた…。

なのに俺は【自分なんか愛される資格もない】と言って箒の想いを無視し続けていた。

だけど…そんな日々は今日で終わりだ。

俺は箒に俺自身の想いを伝えることができた。

そして、箒も俺の想いを受け入れてくれた。

 

 

「こんな…私でもいいのか…?」

 

「もちろんだ」

 

「一夏ぁ!!(ダッ」

 

「箒!!(ギュッ」

 

 

俺と箒が互いに抱き締め会う。

お互いの胸の鼓動だけが聞こえる…。

ようやく…俺と箒は恋人になることができた。

もう絶対に離さない。

例え世界の全てを…千冬姉と束さんを敵に回しても俺は箒を守り抜く。

それが…俺の…織斑一夏の絶対不変の誓いなのだから…。

 

 

◆ Side 鈴音

 

 

IS学園 学生寮 屋上付近 箒と一夏が結ばれた直後…

 

 

「まったく…よーやく告白したわね」

 

 

遠くから二人の様子を見守っていたけど、どうやら二人は無事に結ばれたみたいだ。

正直ガラじゃないけどこのままほっといたら告白できないうちにまた別れていただろう。

一夏の奴も自分は誰かに愛される資格が無いって言っているけど

そんな資格は誰が決めたのよ?

確かにあの一件は一夏にとってトラウマなのは間違いないのだろう。

だけど、一夏の周りには千冬さんや箒のように一夏を愛してくれている人がいるし

あたしや弾達みたいに一夏のことを大切な友達だと思っている人もいる。

 

 

『一夏。そんなにもあの箒って子が好きなんだったら告白すればいいじゃない』

 

『な、何を言っているんだよ!?箒が俺のことを…』

 

『アンタ達同室なんでしょ?もし箒が一夏の事を嫌っているのだったらすぐに追い出しているわ』

 

『う、確かに…』

 

『だったらウジウジ悩んでないで当たって砕けろの精神で逝ってきなさい!!』

 

『ちょっ!?逝くって失敗すること前提かよ!?』

 

『告白なんてそんなもんじゃないの?とにかく逝ってきなさい!!』

 

 

だからあたしは一夏を後押しした。

一夏はもうこれ以上自分を責め続ける必要はない。

一夏は幸せになるべきだ。

…本当ならあたしが一夏を幸せにさせたかった。

 

 

「さてっと、あたしはそろそろ寝る準備をしようかしら!」

 

 

でも、一夏が好きになったのはあの箒って子だ…。

悔しいけどあたしじゃ一夏を幸せにすることができない。

だけど彼女なら一夏を幸せにすることができるはず…。

いや、寧ろ幸せにならないと許さない。

なんたって一夏はあたしが惚れた男なんだからね!

 

 

◆ Side シン

 

 

IS学園 学生寮 屋上 一夏が箒と結ばれてから10分後…

 

 

どうやら箒は一夏君と結ばれたようだな。

…まったく、真優がいきなりアルトリアと仲直りをさせるから寮の屋上で待っていろと

言われて屋上に待機していたら一夏君が屋上に来るとは…。

なんとかばれないように気配を消して隠れていたが…

 

 

「………まったく、居心地が悪いったらありゃしない」

 

 

まさか一夏君の一世一代の告白を間近で見るはめになるとは…。

他の女子連中は喜んでデバガメしていただろうが俺にはそんな趣味はない。

だから居心地が悪いったらありゃしない…。

この告白は二人が皆に言うまでの間は黙っておくことにしよう…。

…ん?

 

 

「ど、どうも、シン。奇遇ですね」

 

「………アルトリア。君もか」

 

 

…どうやらデバガメをしていたのは俺だけではなかったようだ。

しかも俺の様な事故ではなくアルトリアは故意にデバガメしていた。

…昔に女扱いされるのを嫌がっていた奴とはとても思えないな。

アルトリアが女の子らしさを取り戻しつつあることを喜ぶべきか

彼の騎士王がデバガメをするようになったことを嘆くべきなのか…判断できないな。

少なくとも円卓の騎士の連中は嘆きそうだが…。

真優がいない様子からして今頃真優はアルトリアを探して学生寮中を探し回っているだろう。

 

 

「………」

 

「………」

 

 

き、気まずい…。

ここまで気まずいのは第五次聖杯戦争時に凛と共に士郎の家に住むことになり、

アルトリアの悲鳴を聞いて駆けつけて着替え中のアルトリアを見てしまった時以来だ…。

…どうやらブリテンに居た頃はGを見ていなかったために驚いたらしいが。

…周囲には誰もいない。

だが、よく考えれば今がチャンスだ。

他の生徒達にデバガメされる前にアルトリアに謝っておこう。

 

 

「その、なんだ、アルトリア。悪かったな…」

 

「…いえ、私も大人気なかったです」

 

「言い訳かもしれんが彼女を部屋に泊めたのは彼女の体調を考えてのことだ。

 やましいことはまったく考えていない」

 

「…そうですか。そうですよね。貴方もシロウに似て困っている人を見過ごせない人柄ですから」

 

「そう言ってくれると助かる」

 

 

…どうやらアルトリアと和解出来たようだ。

アルトリアも意固地になりすぎていた自覚があったらしい。

あの出来事はもう二度と体験したくないし見たくないからな。

若干衰弱気味の少女を保護したことに怒るほどアルトリアは狭量じゃない。

しっかりと事情を説明すれば納得してくれる。それがアルトリアの良さだ。

 

 

「…ただ、このままだと負けた気がするので一つシンに要求します」

 

「…なんだ?」

 

「………抱きしめてもらってもいいですか?」

 

 

ただ、アルトリアのことだからただでは引き下がらないだろうから

何かしら要求をしてくると思ったが【抱きしめてくれ】…か。

箒と一夏君を見ていて羨ましくなったのだろうか?

…まあ、気持ちはわからないでもないが。

おそらく箒と一夏君の姿を見てあいつらのことを思い出したんだろう。

…確か最後にアルトリアを抱きしめたのは聖杯戦争を終結させ

アルトリアの説得という最後の役目を果たして消え去る直前に抱きしめた時だな。

なら、迷う必要はない…

 

 

イメージBGM:PSO2より 永遠のencore:オルゴールversion

 

 

「…わかった(ギュッ」

 

「ん…」

 

「…世界は、大きく変わったな。アルトリア」

 

「そうですね…。シン」

 

「あの時はこうして君を抱きしめることなんて出来なかった」

 

「はい…。ですが今はこうして貴方を抱きしめることができる…」

 

 

俺はアルトリアを抱きしめた。

…思えば俺達の聖杯戦争が終わってからずいぶんと時が経った。

二十年の時が経ち、桜達も立派な大人に成長し、

受肉を果たしたサーヴァント達もそれぞれの人生を営んでいる。

世界の有り様も悪い形にではあるが大きく変化した。

そして、聖杯戦争で俺達が殺し合う必要はない。

本当に、世界は大きく変わったな…。

だけどこの平穏を崩そうと目論む輩がいる。

だから俺は…俺達はその脅威から真優達を…世界を守り抜く。

そのためにこの世界へ現界したのだからな…。

 

 

 




どうも明日香です。
今回は箒と一夏の恋人としてのスタートとアルトリアとシンの和解?が中心の話になりました。
と、いうわけで一夏は箒とくっつきました。それ以外のカップリングが見たかった方は申し訳ありません。
鈴音も一夏が好きでしたが一夏が好きなのは自分ではなく箒だと気が付いていたため、一夏の背を押す役割を選びました。彼女はまた別の誰かと恋をしていくでしょう。
尚、話には出ていませんが鈴音の両親は離婚しておらず、鈴音が中国へ帰った理由は後々に話の中へ組み込む予定です。
また、本作の楯無は原作の楯無より人間味が強い設定になっていますのでご了承ください。
さて、次回からは一夏と箒の実家編となります。この話で一夏の剣の師匠が登場します(もう誰だか分かっているでしょうが(笑))。
では、こんな文でも楽しんでいただけたら幸いです。

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