IS~衛宮の娘は遥か高き宇宙を目指す~   作:明日香

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第8話「一夏と箒の師匠と月下の出会い」

 

 

ふふ…。

今日は七年ぶりに私の実家である篠ノ之神社に帰る日だ。

それも一夏と一緒に顔を出すのだ。

楽しみでしかたない。

さすがに二人きりとは行かないが師父に真優達を紹介できるというのも楽しみの一つだ。

そのせいで一夏と一緒に集合時間の二時間前に集合していても別に問題ないだろう?

 

 

「ああ、早く集合時間にならないだろうか…」

 

「そういや師匠のところに顔を出すのも一ヵ月ぶりだな…」

 

 

私は一夏と一緒に集合時間になるのを今か今かと待っている。

一夏も私と一緒に師父に会えることが嬉しいらしい。

だから早朝の鍛錬もいつもより熱が籠ったし、充実した内容だった。

周りが何やら妙な目で私を見ていたがそんなもの私達には関係ない。

ん?こちらに誰か来ている。あれは…シンか?

 

 

「あ、シンさん」

 

「まったく…集合時間よりも二時間も早く来ているとは君達は遠足が楽しみな小学生か?」

 

 

開口一番小言を貰った…。

でも楽しみだからしょうがないじゃないか!

今まで私の実家に戻る機会なんてなかったのだし!

それに師父に一夏と結ばれたことを報告するのだ。

別に早く準備をしていてもおかしくない!アルトリアだって似たような状況だと

集合時間よりも早く来るにきまっている!

 

 

「早く起きるのは別にかまわないが鍛錬をする時は時間と周囲のことを考えるべきだな。

かなりの数の苦情が出ていたぞ」

 

「「うぐ…」」

 

「苦情を伝えに来たのが俺だから良かったもののもし織斑教諭なら一撃貰っているぞ?」

 

「「はい…」」

 

 

グウの音も出ない…。

どうやら寝ていた他の生徒達を起こしてしまったようだ…。

確かに少々熱を入れすぎたかもしれない。

これからは気をつけるとしよう…。

他人に迷惑をかけるのもそうだが千冬さんの一撃を受けるのはいやだからな…。

だが、それでも気がはってしまう…。

早く真優とアルトリアも来ないだろうか…?

 

 

第8話「一夏と箒の師匠と月下の出会い」

 

 

◆ Side アルトリア

 

 

IS学園 真優とアルトリアの部屋

 

 

「これで準備よし…っと」

 

「マユ、出発の準備は出来ましたか?」

 

 

奴等の刺客を撃退してから二日が経ち、マユはなんとか普段の体調を取り戻しました。

そんな時にホウキとイチカからの誘いでホウキの実家へ行くことになり、

私達はホウキの実家へ行くための出発の準備をしていました。

とはいっても日帰りの予定なので準備にかかった時間はそんなにありませんでしたが。

持っていくものは財布とスマートフォンとリリィだけですからね。

マユの持ち物も私とほとんど変わっていません。

違うのはリンの遺品であるペンダントとシロウの遺品であるドックタグが持ち物の中にマユの加わっているくらいですね。

 

 

「マユ、そろそろ時間です。行きましょう」

 

「そうだね。いってきます。お父さん、お母さん」

 

 

少し早いですがそろそろ集合場所である校門まで行くとしましょう。

マユは棚の上に飾られているマユ達が写った写真の中にいるシロウとリンに声をかけてから先に部屋から出て行きました。

その姿を見る度にシロウとリンを殺し、マユの人生を破壊した者への怒りがこみ上げてきます。

マユが先に部屋から出ていて助かりました。

今の私の顔は怒りに満ちていますから…。

 

 

「アルトリア~。早く行くよ~」

 

「は、はい。わかりました。いってきます、シロウ、リン」

 

 

マユがドアを開けて私を呼びに来ました。

どうやらマユを待たせすぎたようです。

私は慌ててマユに返事をすると写真に写っているシロウとリンに挨拶をして部屋から出ました。

あまりホウキ達を待たせるわけにはいきませんからね。

さて、今日も頑張りましょうか!

 

 

◆ Side 真優

 

 

IS学園 校門前 部屋を出発してから10分後…

 

 

「やっと来たか。おはよう、真優」

 

「おはよう、真優。待ってたぜ」

 

 

出かける準備を済ませてアルトリアと一緒に集合場所である校門に行くと既に箒達が待っていた。

しかも「やっと来た」という言葉が正しければ大分前から待っていたということになる。

あれ?もしかして私達が悪いの?

集合時間より十分早く来たのに…。

あ、箒の隣に立っているシンが露骨に溜息を吐いた。

つまり私達は悪くない…んだよね?

 

 

「ごめん。三人とも、待ったかな…?」

 

「この二人は集合時間の二時間前から待っていたバカだから気にするな」

 

「二時間前とは…ホウキとイチカは遠足が楽しみすぎて早く来すぎた子供ですか?」

 

「「うぐっ」」

 

 

あ、二時間も前から待っていたんだ。

そりゃかなり待っているよね。

でも今回は二人が悪い…のかな?

箒と一夏もグウの音が出ないようだし…。

ちなみにシンは私達の護衛としてついてきてくれるらしい。

うん。アルトリアと並んで最強の護衛だね。

ちなみにアルトリアとシンはあの日の夜に仲直りができたらしい。

あの日の夜はアルトリアを探して迷子になっている間に消灯時間過ぎていて

織斑先生に説教されたけど二人が仲直りできたのなら私としてはなんの問題はない。

 

 

「本土行きのモノレールまでまだまだ時間がある。ゆっくり駅に向かってもいいだろう」

 

「うん。わかった」

 

 

今更だけどIS学園は日本の本土から少し離れた人工の離島で、本土へ行くには本土からこのIS学園まで繋がっているモノレールへ乗っていくしかない。

ちなみに一度逃がすとかなり長い時間を待たなくちゃいけないから

私とアルトリアも余裕を持って出てきた。

というわけで私達はIS学園から出てゆっくりと駅へ向かって歩き始めた。

 

 

「そういえば一夏と箒の剣術の師匠ってどんな人なの?」

 

 

駅へ向かって歩いている時に私は一夏と箒に剣術を教えた人がどんな人物なのか気になっていた。

箒もそうだけど一夏の剣術の腕は一流を通り越して剣豪という次元だ。

剣豪という領域になるまで箒と一夏を鍛えたのだからとてつもない剣術の使い手なんだと思うけど…。

 

 

「師父は自然を愛でていたな。今の時代では非常に珍しい人物だ」

 

「人の恋愛を嬉々としてデバガメしたり、良く女の子にナンパしたりしていたけどな」

 

「へ~…」

 

 

どうやら箒と一夏の剣術の師匠は今の時代では珍しい自然を愛でている人物らしい。

花鳥風月を愛する者…っていえばいいのかな?

でも、人の恋愛をデバガメしたりナンパをしたりする癖があるらしい。

でもそんな人間味が溢れる人物だからこそ箒と一夏も慕っていたのだろう。

 

 

「「………」」

 

 

ん?なんかアルトリアとシンが微妙な表情をしている。

もしかして箒と一夏の剣術の師匠に心当たりがあるのかな?

シンは凄い人脈があるからそういった人との面識はあるのだろう。

でもアルトリアはあくまで冬木市内での交友関係とIS学園との交友関係しかない。

そんなアルトリアも知っているとなると箒と一夏の剣術の師匠は

クー兄さんやメディアさんの様な知り合いかもしれない。

まあ、別に悪い関係ではないだろうしそこまで深く聞かなくてもいいかな。

とまあ、そんなことを考えているうちに駅について私達は本土行きのモノレールに乗った。

本土に戻るのも久しぶりだなぁ。

あ、セシリア達のお土産は何にするか考えておかなきゃ…。

 

 

◆ Side シン

 

 

篠ノ之道場前 IS学園を出発してから1時間後…

 

 

「ここが私の実家…篠ノ之道場だ」

 

 

箒と一夏君に案内されて辿りついたのは神社の隣に建っている道場だった。

見たところかなり古い道場だがしっかりと手入れが行き届いている。

この道場を使っている者が大切に使っているという証拠だ。

 

 

「これは…立派な道場ですね」

 

「ふわぁ…うちの道場よりも立派だ…」

 

「ふふ。そこまで言ってもらえるなら嬉しい限りだ」

 

 

アルトリアと真優もこの道場に驚いている。

驚くのも無理もない。

士郎の屋敷の道場もなかなか立派だったがここの道場はその上を行く。

それに士郎の屋敷の道場は改装された道場だったがこの道場は

建ってから一度も改装されずに過去の趣をそのまま残している。

今の時代、これほどまでに立派な道場はあまり残っていないだろう。

アルトリアと真優の反応を見て箒は嬉しそうに笑うと道場の扉を開け、俺達は道場の中へ入った。

 

 

篠ノ之道場

 

 

「今はちょうど休憩の時間だから師匠もここにいるはずだ」

 

 

中へ入ってみると一夏君が言った通り、今は休憩の時間らしい。

道場の中へ入ると二十人くらいの子供達が胴着を着て休んでいる。

そして、子供達の奥には子供達と同じように胴着を着た壮年の男と

この時代では珍しい和服を着た男が胴着を着た子供達に囲まれていた。

 

 

「見覚えがある顔と思えば一夏と箒ではないか」

 

「おひさしぶりです。師父」

 

「ククク。お主も随分と大きくなったな。まあ、ここで立ち話をするのもなんだ。

奥にある客間で話をしよう」

 

 

どうやらむこうも俺達に気がついたらしい胴着を着た男に声をかけるとこちらへやってきた。

間違いない。

彼は20年前の聖杯戦争で共闘したアサシンのサーヴァント、佐々木小次郎だ。

受肉をしていたのは知っていたがまさか冬木から離れたこの土地で再会するとは思わなかった。

 

 

少年少女+α移動中…

 

 

篠ノ之道場 客間

 

 

「紹介するよ。この人は冬木小次郎。俺達に剣術を教えてくれた師匠さ」

 

「一夏の紹介通り、冬木小次郎と申す者。今はこの道場で剣術の師範のまねごとをしている」

 

 

彼の案内で客間に案内された俺達はそれぞれ座布団の上に座り、

一夏君が俺達に目の前に居る彼を紹介してくれている。

…まあ、一夏君が使っていた技を見て一夏君達の師が彼だとすぐにわかったが。

…というかまったく姿が変わっていないな。

メディアはともかくランサーは相応の見た目になっているというのに…。

 

 

「箒の護衛をしているシン・アスカだ」

 

「アルトリアと申します」

 

「………」

 

 

とりあえず今は初対面を装っておこう。

余計な騒ぎを起こす必要はないからな。

 

 

「一夏、箒。神社まで真優殿を案内してやれ」

 

「は?それだったらシンとアルトリアも…」

 

「この二人と少し話がしたいのだ」

 

「わかりました。真優、ついてきてくれ」

 

「うん。アルトリア、シン、またあとでね」

 

 

どうやら小次郎は俺とアルトリアと三人で話がしたいらしい。

まあ、あまり真優達には聞かれたくない話だからな。

だが、念の為に真優達が何者かに襲撃されてもすぐ迎撃できるようにしておこう。

奴等は民間人がいたとしても問答無用で攻撃を仕掛けてくる連中だからな。

 

 

「一夏君の太刀筋から察してはいたがやっぱりアンタが一夏君達の剣術の師匠だったのか」

 

「ク。なにぶん教え甲斐のある弟子たちだったのでな」

 

「ではあの技も?」

 

「そのとおり。もっとも、ものにできたのは一夏だけだがな。

あやつの姉である千冬もついぞあの技をものにすることができなんだ」

 

 

周囲への警戒を解かずに俺達はちょっとした世間話を始めた。

話の中心になっているのは俺の弟子であり、小次郎の弟子である一夏君だ。

真優達には話してないが一夏君が放ったあの燕返しは元祖である

小次郎の燕返しには劣るがそれでも既に人間が放てるような技ではない。

一度に二回の斬撃を放っていたあの燕返しは既に魔法クラスの魔技だ。

それをサーヴァントでもない普通の人間である一夏が放ってみせた。

それだけ一夏君が剣術の素質はあるということだ。

 

 

「最近までは力に呑み込まれるか心配しておったが一夏と箒が結ばれたと聞いてな。

ようやく安心することができたというものよ」

 

「そうだな。箒の存在のおかげで一夏君は力に呑まれずにすんでいる」

 

「彼はおそらく彼の姉であるチフユをも超える剣士になるでしょうね」

 

「私もそう思っている」

 

 

一夏君の持っている素質はとてつもなく強大だ。

それ故にその力に呑まれてしまう可能性がある。

だが、俺達はその心配をあまりしていない。

過去の一夏君ならともかく今は恋人である箒と仲間である真優達がいる。

例え一夏が道を踏み外しかけたとしても真優達が一夏達を止めてくれるだろう。

少なくともいつ消えるかわからない俺とアルトリアよりも頼りになるはずだ。

 

 

「さて、一夏は箒達に任せるとして本題に入らせてもらう」

 

 

…ここからが本題だ。

このくらいの話なら一夏君達が居ても問題はなかった。

俺とアルトリアの二人だけにしか話せないことがあるのだろう。

そして、その話の内容も薄々勘付いている。

おそらく小次郎が切り出す本題は…。

 

 

◆ Side 真優

 

 

篠ノ之神社 真優達が退室してから三分後…

 

 

「ここが篠ノ之神社かぁ」

 

 

箒と一夏の案内で私は箒の実家である神社に来ていた。

神社の境内に入ると空気が変わる感じがする。

なんとなくだけれど神社の中に入ると神社に住んでいる神様に

見守ってもらっているような感じがする。

特に伊勢神宮に行った時はその力の大きさを直に感じることができた。

その力はどこか温かくて私は好きだ。

 

 

「ああ。夏にはいつも少し大きめの祭りをしているんだ」

 

「今年は私も行くことができればいいが…」

 

「そうだな。おばさん達にも挨拶をしておきたいし」

 

 

ほうほう。夏祭りか。

何を隠そう私はお祭りが大好きだ。

学園祭が好きだ。

神社で行われるお祭りが好きだ。

お祭りを楽しむ人々が好きだ。

お祭りの時に出店している屋台が好きだ。

焼きそばのソースの香りが食欲をそそる。

綿飴のあの綿の様な柔らかさがたまらない。

火傷しそうなくらいに熱々のたこ焼きも最高だ。

射的が好きだ。

店主さんが絶対に取れないように仕組んだ的を倒した時は快感を覚える。

二度目になるけど私はお祭りが大好きだ!!

 

 

「…優…真…優…真優!!」

 

「はっ!」

 

「ようやく気がついたか。さっきからずっと声をかけていたんだぞ」

 

どうやら少し自分の世界にトリップしていたようだ。

いけない、いけない。

私は物の解析とお祭りのことになると自分の世界に入ってしまう癖がある。

注意しているつもりだけどこればかりは治しようがない。

今度、夏休みになったらここの夏祭りに来てみよう。

もちろん、アルトリア達も一緒にね。

と、そのまえに箒が何を話していたのか聞いておかないとね。

 

 

「ゴメンゴメン。で、話って?」

 

「すまないが私と一夏はおばさんに挨拶をしてくるからここで待っていてくれないか?」

 

「うん。わかった」

 

 

どうやら箒と一夏は今からこの神社の管理をしてくれているおばさんに挨拶をしに行くらしい。

特に私も問題ないしこう言ったのは部外者が居ない方がいいから大人しく待っていよう。

というわけで箒と一夏は神社のすぐ近くにある家に入って行った。

うーん。ただ待っているというのも暇だ。

早くみんな戻ってこないかな…。

 

 

◆ Side シン

 

 

立川市 篠ノ之道場 客間 真優達が退室してから3分後…

 

 

「IS学園を襲撃した連中のことだな?」

 

「さよう。こちらも間桐と繋がりがあるのでな。その経由で知ったのだ」

 

 

慎二は世界の裏から真優達を守るために今でも俺達と連絡を取り合っている。

なるほど、その経由で彼はIS学園を襲撃した者達のことを知ったのか。

おそらくランサーとメディアもこの情報が耳に入っているだろうな。

そして、話の内容を察するとおそらくあの事件のことを話すつもりなのだろう。

 

 

「一夏は二度目のモンドグロソの決勝戦の時にある者達に攫われている」

 

「…まさか」

 

「そのとおり。千冬は一夏を救うために決勝戦を棄権し、モンドグロッソの二連覇を捨てた」

 

 

彼が話しているこの事件…【ブリュンヒルデの悲劇】と呼ばれているこの事件は

その筋の者達の間では知らぬ者などいないほどに有名な事件だ。

だが、この事件は有名さに反して事件の顛末しか判明していない。

誰が、何の目的で、どうやってこの事件を起こしたのかがまったくわかっていない。

当時、第二回モンドグロッソの開催地であるドイツの軍が調査を行ったが

一夏君を攫った犯人は誰一人として捕まっていない。

 

 

「イチカにそんな過去が…ですがIS学園を襲撃した賊と何の関係が…?」

 

 

アルトリアの疑問ももっともだ。

一見IS学園の襲撃した者達と関係がないように思える。

アルトリアは世界の裏で起こった事件に関しては非常に疎い。

まあ、その分俺が裏で起こった事件の収拾をしているわけだが…。

 

 

「どちらもISを使った犯罪をしていてターゲットは一夏君だった。…違うか?」

 

「然り。実は私も一夏の救助に参加していてな。その時に下手人の姿を見た」

 

「なるほど。だから今回の襲撃事件と関係があるとみているのですね」

 

 

しかし、一夏君が攫われた事件と今回の襲撃事件には共通点がある。

それはどちらもISを使用した犯罪だということ。

そして、もう一つの共通点は一夏君を狙っていたということだ。

公に発表されていないが一夏君を攫った犯人はISを装着していた。

結局捕まえることは出来なかったらしいがISを使った犯罪をする組織は二つ存在する。

ひとつは二次大戦の頃から存在している【亡国機業】と呼ばれる組織…。

この組織は“悪役”という貧乏クジを引かされた組織だ。

軍の目を掻い潜れるほどのステルス性能を持っておらず、何かことを起こす時は

必ず政府の高官達と取引をしてその日だけ警戒の目を弱めた状態にしている。

それに保有戦力もISが三機と僅かな構成員だけであり、請け負っている依頼も

ISに実戦経験を積ませるというものばかりで人攫いといった依頼は引き受けていない。

だからこの組織が【ブリュンヒルデの悲劇】と先日の襲撃を起こしたとは考えられない。

だが、問題となるのはもうひとつの組織だ。

 

 

「過去に一夏を攫おうとし、此度のIS学園襲撃事件を起こした者は百合狂いで間違いあるまい」

 

「俺もそう睨んでいる」

 

 

アルトリアは聞きなれない単語に首をかしげているが無理もない。

“百合狂い”…これはとある組織を刺す言葉だ。

その組織の名は【リリー・アルカディア】。

この組織は非常に厄介だ。

世界中のあちらこちらに大量の構成員が潜んでいる。

さらに日本以外のほぼ全ての国の首脳部に構成員が確認されている。

また、優れた技術力を持っていてISコアの量産にも成功しているだけではなく、

異世界の技術の再現も進め、そのテストとしてザザムザーを投入してきた。

だが、組織の大きさに反してこの組織を認識している者は非常に少ない。

俺が知る限りでこの組織を認識している者は冬木市にいる慎二と白野と大河さんと桜、

そして今も現界しているサーヴァント達とそのマスターだけだ。

 

 

「気をつけよ。この組織の狂い具合は魔術師よりも遥かに上回っておるぞ」

 

「はい。わかりました」

 

…しかし、最も厄介なのはこいつらの思想だ。

この組織は世界に住む全ての男性の根絶を掲げている。

要はガチレズ思考の女尊男卑主義のキチガイ共の集まりだ。

故に俺達は“百合狂い”と呼んでいる。

その組織が本格的に動き出している。

 

 

「さて、そろそろマユ達と合流しましょう」

 

「そうだな」

 

「アルトリア、シン。一夏と箒の二人をよろしく頼む」

 

「ああ。もちろんだ」

 

 

現在奴等が狙っているのはこの情勢を一気に覆す程の影響力を持つ一夏君と

篠ノ之博士の妹であり、一夏君の恋人であり、ISの適正が非常に高い箒、

そして、ISが作られた本当の意味を知った真優の三人だ。

わかってはいたが全員俺達の身内だな。

俺とアルトリアは小次郎に挨拶をして客間を出る。

やれやれ、これから忙しくなりそうだ…。

 

 

◆ Side アルトリア

 

 

立川市 篠ノ之神社 真優達が客間に出てから一時間後…

 

 

『少し話が長引きましたね』

 

『まあ仕方ない。出来る限り情報は集めておきたいからな』

 

 

アサシン…今は冬木小次郎と名乗っている彼との情報交換が終わった私達は

道場から出て念話で情報を整理しながらマユ達が待っている篠ノ之神社へ来ていました。

しかし…少し話が長引いてしまいましたね。

ですがシンの言うとおり敵の情報は集めておかねばなりません。

それはいつになってもかわりません。

 

 

『まさかあのような組織が存在していたとは…』

 

『ああ。俺も聖杯戦争中に会った“彼”のおかげでようやく気付けたくらいだからな』

 

 

【リリー・アルカディア】…。

その組織の名前を聞いた時に私の頭に思い浮かんだ者は20年前の聖杯戦争の時、

私を半ば洗脳した状態で聖杯を強奪しようとしたあの女とその黒幕でした。

いくら心が弱っていたとはいえ私はあの女に洗脳された。

もしあの時シンが私を止めてくれなければ取り返しのつかないことになっていたはずです。

そして、あの女が所属していた組織がマユを狙っている。

おそらくマユを狙う理由は彼女がシロウから受け継いだ力を利用しようとしているのでしょう。

 

 

『あの【ザザムザー】をけしかけたのもやはり…』

 

『そうだ。だが奴等はこっちの予測よりも早く行動している。

このままだといつまでも後手に回ってしまう』

 

 

そして、シンが言うにはあの組織は此方の想定よりも早くことを進めている。

私達を召喚した守護者の座の想定では彼の組織はまだ準備段階だったらしいです。

ですが、あのような巨大な兵器がIS学園に投入された。

マユ達の機転によって無事に撃破できましたがこの幸運も何度も続くことはないでしょう。

シンの言うとおり、私達は常に後手に回ってしまっています。

あまり良い状況とは言えませんね。

 

 

『シン。今は私達に出来ることをしましょう』

 

『ああ。そうだな…』

 

 

しかし、だからと言って悲観をしているわけにはいきません。

例え後手に回ってしまったとしても私達ができる最善を尽くさないといけません。

シンも私と同じことを考えていたようです。

ですが…シンはあの組織について何か別のことを隠している気がします。

そう。私とマユとシンに関わるとても重要な話を…。

 

 

「あ、おーい!」

 

「マユ達ですね」

 

「そうだな」

 

 

神社から私達に手を振りながらマユが私達の許へ歩いてくる。

その後ろにはホウキとイチカの姿も見えます。

…どこか疲れているようにも見えますが。

いったい何があったのでしょうか?

どうやらこれ以上シンから話を聞くことは出来そうにありませんね。

 

 

「…迎えに行こうか」

 

「はい」

 

 

時が来ればシンは私に話してくれるでしょう。

シンが話さないということは私のことを思ってのことなのでしょうから。

私はシンを信じています。

ですから、いつか話して下さいね?シン。

さあ、今日はもう帰りましょう。

 

 

◆ Side 一夏

 

 

IS学園行きモノレール 車内

 

 

「「ふぅ…(グッタリ…」」

 

 

はぁ…今日は疲れた。

あの後真優と別れた俺達はおばさんへ挨拶しに行ったけど箒と一緒に散々からかわれた。

しかも途中で師匠も混じってきたから余計に拍車が掛かって終始俺達の顔は顔が真っ赤だった。

 

 

「やはり師父は強かったな…」

 

「ああ。結局一太刀も当たらなかった…」

 

 

その後少しだけ剣の稽古をしてもらったけれどやっぱ師匠は強かった。

それでも師匠は俺と箒が前よりも強くなったと誉めてくれた。

そして、迷いが無くなって太刀筋が良くなったと喜んでくれた。

俺は…あの日からずっと師匠に心配させていたんだな…。

だけど今は箒が俺と一緒にいる。

だから無理に背伸びをする必要はないし、もう心配をかけさせるようなことはない。

だけど一度でもいいから師匠に勝ちたいな…。

あ、なんだか眠くなって…。

 

 

◆ Side 千冬

 

 

IS学園 職員室

 

 

「報告書はこんなものか…」

 

「お疲れ様です。織斑先生」

 

「ええ。山田先生こそお疲れ様です」

 

 

今日、復興作業が完了し慣れないデスクワークを終えた私は山田先生から差し出されたコーヒーを受け取って一休みしていた。

デスクワークは出来ないというわけではないが身体が鈍っていく感覚がしてあまり好きではない。

だが、教師としての役目を果たすためにはデスクワークもこなさなければならない。

まったく。ままならないものだ…。

正直私は国家代表の連中と試合をするよりも報告書を一枚書く方が圧倒的に疲れる。

デスクワークが得意な山田先生が羨ましいくらいだ。

 

 

「あ、今織斑先生はデスクワークが下手とか思いましたね!」

 

「え、ええ…。よくわかりましたね…」

 

「織斑先生で苦手なら他の人達はもっと下手という扱いになりますよ!」

 

 

山田先生が凄く怒った表情で私に注意をした。

どうやら私の苦手という基準がおかしいらしい。

そんなにも違うものなのだろうか…?

ただ報告するのだから手を抜かずにやっているだけだが…。

だが報告書を作成する時間は山田先生の1.5倍は掛かっている。

 

 

「あ、そういえば明後日から四人の転校生が来ますね」

 

「そうですね…。ん?」

 

 

明後日から転校生が来る。

フランスのデュノア兄妹とドイツの私の教え子が私のクラスに編入される。

デュノア兄妹は新たに開発されたISのテストのためにIS学園に編入され

ラウラはようやく完成した特殊能力のテストという建前のIS学園の援軍として編入される。

その転校生が全て私のクラスに編入されるのだから来週からさらに忙しくなりそうだ…。

ん?さっき山田先生は四人と言わなかったか?

転校生が一人増えている!?

 

 

「四人?山田先生。失礼ですが確か三人だった筈ですが…」

 

「あ、これはその資料なんですけど読みますか?」

 

「はい。失礼します」

 

 

なん…だと…!?

私は山田先生から資料を受け取って資料を読んでみると確かに転校生は四人と記述されていた。

名前はさっきの三人にもう一人の名前が記述されている。

名前は…チルノ?聞いたことがない名前だな…。

彼女の資料の写真を見てみると陽気に笑っている水色の髪の少女が写っている。

 

 

「あ、織斑先生は復興作業の陣頭指揮を執っていましたから情報が行ってなかったんですね」

 

「ええ。どこの誰ですか?こんな時期に専用機も無いのにここに編入させた者は…」

 

 

こんなタイミングで専用機も無しに編入など正気の沙汰ではないな。

誰だ。このタイミングで専用機も無しにIS学園へ編入させた大馬鹿者は…?

私は自分の正直な感想を山田先生に言ったが山田先生の顔色が一気に青くなった。

何か私は彼女の顔を真っ青にさせるようなことを言ったのだろうか…?

山田先生は深呼吸して何とか落ち着くととんでもない情報を私に伝えた。

 

 

「織斑先生。このチルノさんは“あの”バビロンが推薦した子なんです」

 

「な…!?」

 

 

“あの”バビロンとは世界一の大富豪の通称だ。

本名はもちろん、どこに住んでいるのかもわかっておらず、その姿を見た者は誰もいない。

束以上に世界中の各国が血眼になってその人物の住んでいる場所を探している。

ただ、わかっているのは巨万の富を持っているということと

IS委員会が極度に恐れている存在というだけだ。

 

 

「山田先生。彼女は入学試験を受けたのですか?」

 

「…はい。担当したのは前大会のブリュンヒルデになったあの人です」

 

「彼女が相手ですか…。それでも合格だったのならかなり善戦できたのでしょう」

 

 

…確か私が二回目のモンドグロッソの決勝で戦うはずだったイギリスの現国家代表だ。

もしあのまま戦っていたとしても勝てる自信は全くなかった彼女が試験官か。

IS委員会は余程“あの”バビロンが推薦した彼女を入学させたくなかったのだろう。

それでも入学できたということはそれなりの結果を残せたのだろう。

だが山田先生の顔は青いまま首を横に振った。

まさか…

 

 

「はい。このチルノさんは接近戦用ブレードだけであの人に“勝ちました”」

 

 

…なんということだ。

彼女の実力は嫌というほど知っている。

その彼女を接近戦用ブレードだけで勝利してみせた。

私はもう一度チルノという名の少女の資料の写真に写っている彼女の姿を見る。

だが、資料の写真に写っている彼女の姿はどこにでもいるような少女の顔だった。

 

 

◆ Side 真優

 

 

IS学園 学生寮

 

 

「ふぅ…いいお風呂だったな~」

 

 

あれからIS学園に帰って来た私達は校内で別れて私は一番風呂を楽しんできた。

大浴場での一番風呂の後ってすっごく清々しい。

みんなは夕食を食べている頃だろうけど先に早めの夕食を食べておいた私達は

学園のみんなよりも一足早く夕食後の行動がとれるようになっていた。

シンは日本政府への報告書の作成でアルトリアはシンの付き添い、箒と一夏は剣術の稽古をしている。

まあ、そんなわけで私は少し学園内を散歩している。

うーん。満月じゃないけど今日の月も綺麗だ…。

ん?空を切る音がする?箒と一夏は道場にいるはずだから誰なんだろう?

私は音がする場所…学生寮の屋上に行ってみることにした。

 

 

IS学園 学生寮 屋上

 

 

「(音がしたのは確かここら辺だったはず…)」

 

 

そして、屋上に上った私は感覚を頼りに音がした場所に辿りついた。

さっき聞こえた音が最後だったから合っているかわからないけどここで合っているはず。

周囲を確認してみると一瞬だけ何かが光り、私が光が射した場所を見る。

そこに居たのは…

 

 

「ふぅ…今日はこんなもんでいいかな?」

 

「あ…」

 

「あ、ゴメン。ちょっと剣を振れる場所が無くってさ。ここで剣を振っていたんだ」

 

 

アルトリアが持っている黄金の剣と瓜二つの剣を持った女の子だった。

目の前にいる女の子は私に謝っているけれど私はあの子が持っている剣に釘づけになった。

あの剣は…間違いない。

目の前にいる女の子が持っている黄金の剣を【解析】した瞬間にわかった。

彼女が持っている黄金の剣はアルトリアの愛剣であった使い手に約束された勝利をもたらす剣。

言峰教会で起こった戦いでアルトリアがシンの胸を突き刺した剣。

カムラン丘の戦いの後、湖の妖精に返却された黄金の剣…。

その剣の名前は…。

 

 

「約束された【エクス】…勝利の剣【カリバー】…」

 

「え?アンタは約束された勝利の剣【エクスカリバー】を知っているの?」

 

 

約束された勝利の剣【エクスカリバー】…。

アルトリアの嘗ての愛剣であり、湖の妖精に返却された筈の黄金の剣をこの子が持っている。

どうやらこの子も約束された勝利の剣【エクスカリバー】の名前は知っているらしい。

なぜ、失われた筈の黄金の剣をこの子が持っているのか…?

それが気になったけどそれよりも彼女の正体が気になった。

 

 

「あ、そういえば自己紹介していなかったね。あたいはチルノ!お姉さんは?」

 

「私は真優…衛宮真優」

 

「真優だね…それじゃあよろしくね!真優!!」

 

「うん。よろしくね。チルノ」

 

 

この子の名前はチルノというらしい。

チルノが名乗った後に私も名乗るとチルノは私に手を差し出してきた。

私は何の迷いも無くチルノの手を握った。

月の光に照らされたチルノの笑顔はとても眩しかった。

私はこの月下の出会いは決して忘れない。

そう、例え私が地獄に落ちたとしても絶対に…。

 

 

 




どうも明日香です。
第8話を待っていて下さった方は大変お待たせいたしました。
アルトリアとシンの過去編が終了し、IS衛宮娘も本格再開です。
と、いうわけで一夏達の師匠である佐々木小次郎…現在冬木小次郎と名乗っているアサシンとの出会いと本作の黒幕の(名前だけ)登場と本作の最重要キャラであるチルノとの出会いとなりました。
今回登場した【リリー・アルカディア】の構成員自体は過去編の最後に登場しており、過去編終盤からこの作品の時代になるまでに様々な場面で暗躍している組織です。
シンと小次郎が言っていた【百合狂い】という単語はガチレズに狂った人間ばかりであるこの組織の隠語であり、シンと小次郎以外にもこの組織と敵対している者はこの単語を使うことが多いのでこれからの場面で良く見かけるかもしれません。
尚、作者自身は同性愛をそこまで否定はしていません(ただし、人の迷惑をかけるような集団はアウト)。
そして、もうひとつのビッグイベントは真優とチルノの出会いです(チルノ自身は過去編のエピローグで名前は出ていないけど一瞬だけ登場しています)。
なぜ彼女がこの世界に居るのか?なぜ彼女がIS学園に来たのか?そして、なぜ彼女が失われたはずの神造兵器である約束された勝利の剣を持っているのか?その謎は物語が進めば判明していきます。
それでは、今日はこれくらいで失礼します。



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