IS~衛宮の娘は遥か高き宇宙を目指す~   作:明日香

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お気に入り登録数が100件に到達した記念の番外編です。
今回は主人公である真優の生き方を決定づけた“あの人”との物語です。


番外編「私を救ってくれた人」

 

 

「二人とも、そっちの荷物は片付いた?」

 

「ああ、問題ない」

 

「ん?なんだろこれ?」

 

 

天気がいいある日…。

アルトリアは学食のコンプリートの為に学食に、

一夏と箒とセシリアと鈴音はシンの許で特訓をしている頃…。

私はチルノとラウラにお願いして大河先生から送ってもらった荷物を一緒に整理していた。

大河先生が送ってくれた荷物は結構な量があったので結構時間が掛かっている。

そんな時にチルノが取り出した小さな箱の中に十字架のネックレスが入っていた。

 

 

「十字架…真優、お前はキリスタンだったのか?」

 

「ううん。だけどこれは…そっか、懐かしいなぁ」

 

 

ちなみに私はキリスタンじゃない。

だけど、この十字架のネックレスは私にとってとても大切なものだ。

そう、これはあの人から贈られたモノ。

絶望の渦に呑まれていた私を救いだしてくれた人との思い出が詰まった十字架…。

お父さんとお母さんの形見と同じくらいに大切なモノ…。

そっか。もう、あれから9年か…。

そう、あれは私が全てに絶望して生きることを諦めようとした時のことだったね…。

 

 

お気に入り登録数100件突破記念編「私を救ってくれた人」

 

 

◆ Side 真優

 

 

冬木市 円蔵山 山奥

 

 

「(お父さん…お母さん…)」

 

 

お父さんとお母さんのお葬式が終わって数ヶ月経ったある日…。

私は顔も知らない女の人達に攫われていた。

あの時私はその女の人達に抵抗することができなかった。

女の人達は逃走ルートに人気がない円蔵山を使えば逃げられると思ったのだろう。

だけどその選択は間違いだった。

この円蔵山の山奥には凶暴なクマが生息している。

だから円蔵山の山奥でクマと遭遇して女の人達は散り散りになって逃げていき、

残された私は足を滑らせて崖から落ちた。

幸か不幸か雪がクッションになって私は無傷だった。

だけどこの時私は生きることを諦めていた。

母を身代わりにしてのうのうと生き残り、お葬式が終わった後にも

みんなに迷惑をかける私が心の底から許せなかった。

だから、辛い死に方をすることで私だけが生き残ったことへの償いになると思って

人気が全くないこの円蔵山の山奥を彷徨いながら苦しみながら死のうと思ったからだ。

そして、私は食べ物も水も飲まなかった私は飢え死にしようとしていた。

 

 

「(ごめんなさい。お母さん…私…幸せになれなかった…)」

 

 

そして、この山にはある言い伝えがあった。

真に自分の願いを強く持った者のみが自身の願いを叶えることができると。

だから私は死ぬのならこの山で死のうと思った。

もし、死ぬ前にあの時と同じように私の願いを神様が聞き入れてくれると思ったから…。

だけど、私は死ぬことはなかった。

 

 

「まさかこのような場所で年端もいかぬ少女を見つけるとは思わなんだ」

 

「誰…?」

 

「はっ!?まさかこれが今の小生に与えられた試練ということか!」

 

 

その人と出会ったのは本当に偶然だった。

たまたま修行の為にこの山に来ていたこの人に私は拾われた。

だけど、この時私の中で渦巻いていたのは死のうとしていたところを邪魔された怒りや

結局死ぬことができなかったことへの悲しみではなく。

生きているということへの安堵だった…。

 

 

翌日…

 

 

冬木市 円蔵山 山奥にある洞穴

 

 

「さて、真優よ。お主にはしばらくの間小生と共に修行をしてもらう」

 

「修行…?」

 

「うむ。今はまず身体を動かし、自身の雑念を払うのだ」

 

 

私があの人に拾われた日の翌日…。

私はあの人から出された五穀粥を食べているとしばらく一緒に修行することを伝えられた。

この時の私は特に拒絶することはなかったからあの人と一緒に修行をすることになった。

私が五穀粥を食べ終わるとすぐに修行が始まった。

 

 

冬木市 円蔵山 山奥の滝

 

 

「まずは滝に打たれて身を清めることから始めるぞ!」

 

「…うん!」

 

 

まず、私の修行はこの山の山奥にあった滝に打たれることから始まった。

ちなみにこの滝は知る人ぞ知る滝で険しい山道の奥にあるため来る人は誰もいない。

 

 

「つ、冷たい…」

 

「ガッハッハ!心頭滅却すればこの冷たき水も心地よい!」

 

 

あの時の時期は冬の直前だったために滝の水はとても冷たかった。

だけどあの人は弱音を吐くどころかむしろ心地よいと言いながら真冬の滝の水に打たれていた。

だから私はこんなところで弱音を吐くわけにはいかないと思って冷たい水を耐えていた。

それに、これはまだまだ序の口だと思っていたから頑張って耐えることができた。

…ちなみにこの修行をしても私が風邪をひくことはなかった。

 

 

1時間後…

 

 

冬木市 円蔵山 山奥の洞穴付近

 

 

「滝で身を清めた次は瞑想だ!」

 

「瞑想…?」

 

「うむ。瞑想とは眼を瞑り、雑念を払い、己の精神力を高めるのだ」

 

 

滝の水に打たれる修行の次は瞑想で集中力を高める修業だった。

あの人曰く滝で身を清めた後に瞑想をすることで雑念を払って精神力を高めることができるらしい。

手頃な岩で座禅を組んで瞑想するあの人に倣って私もあの人の隣で座禅を組んで瞑想を始めた。

 

 

「(痛い…)」

 

「………」

 

 

勿論、床じゃなくてごつごつした岩の上でやるから凄く足が痛い。

だけど、隣で座禅を組んでいるあの人はまったく痛がっていなかった。

だから私は足の痛みに耐えながらも自分の中にある雑念を払いながら精神を高めていた。

その時からだったかな。

私の頭の中に何かの回路の様なものが浮かぶようになったのは…。

たぶん、あの修行を続けていたから私は自分の力に気がついたんだと思う。

 

 

二時間後…

 

 

冬木市 円蔵山 山奥

 

 

「精神力が高まったな?では、次の修行だ!」

 

「…薪?」

 

「うむ。次は薪割りだ!」

 

 

瞑想をする時にずっと座禅をしていたせいで痺れる足に喝を入れながらあの人の許へ行くと

次に待っていた修行は薪割りだった。

しかも薪を割るための斧はまったくない。

もしかして素手で割るのかと思った。

 

 

「薪を割る方法はお主に任せる。そのまま素手で割るもよし、道具を作って割るもよし」

 

「…頑張る!」

 

「その意気だ!では小生は20本ほど薪を割ってくるお主は…10本割ってもらうか」

 

 

手段は問わないとあの人は言った。

ただし、ここには斧なんてものがないし素手で割るなんて不可能だ。

あの人は薪を20本ほど抱えて奥に言ってしまったからどうすればいいか聞くことはできない。

だから私はさっきの瞑想で私の頭に浮かんだあの回路を思い描きながら

昔、お父さんが短剣の訓練で使っていた中華風の短剣をイメージした。

すると…

 

 

「えっ!?」

 

 

私の両手には私がイメージした中華風の短剣と瓜二つの短剣を握っていた。

とりあえず私はその短剣を使って薪を割ることにしたんだけど

私が振り下ろした短剣は薪をまるで温められたバターのように薪を両断した。

だから薪割りはすぐに終わったのだけれど、私が握っていた短剣は

光の粒子となってまるで最初から存在していなかったように消え去った。

その後、私はあの人の許でこの修行のサイクルを1ヶ月間続けたんだ。

 

 

1ヶ月後…

 

 

冬木市 円蔵山 山奥の洞穴

 

 

「うむ。大分小生の教えを理解出来てきたようだな」

 

「うん」

 

 

その人は世界中の全ての宗教を学んだ人だった。

私はその人の許で一緒に修行をしながら修行の合間に色々なことを教えてもらった。

世界にはありとあらゆる神様が存在しているということ。

だけど個人を幸せにした神様は存在しないということ。

神様とは人が作り出した罰の化身だということ。

この人はその事実に絶望して人の悪性に穢れていない原初の神を探したこと。

その行為自体が悪であることを理解していたこと。

それでもこうして生きているこの人なら私の胸の中で渦巻く闇を理解してくれると思った。

だから私はこの人になぜ私があの山に居た理由を余すことなく語った。

 

 

「そうか…。お主は先の大事件で両親を亡くしたのか…」

 

「うん…。ねぇ。なんで私のお父さんとお母さんが死ななくちゃいけなかったのかな…?

 なんでお父さんとお母さんじゃなくて私が生き残ったのかな…?」

 

 

この時、私は初めてあの人の前で涙を見せた。

あの時、私の顔を見て面食らったあの人の顔は今でも思い出せる。

あの人はただ泣くじゃ来る私を見て困った顔をした後に私の頭を優しく撫でてくれた。

まるで、私のお父さんやお母さんのように…。

そして、あの人は私へこう語りかけてくれた。

 

 

「そうだな…ただ、間が悪かったのだ」

 

「間が…?」

 

「そのとおり。お主も悪い。だが周りも悪い。要は、全てが悪かったのだ。

 人生というのはそんなものだ。全てが悪いのだから悲観していても馬鹿馬鹿しいぞ」

 

 

間が悪かった。

何かをミスしてしまった時に私がよく口にする言葉の一つだ。

そして、あの人は私にこう言った。

私も悪い。だけど周りも悪い。全てが悪い。

だから、悲観し続けていても馬鹿馬鹿しいと。

 

 

「でも…」

 

「うむ。誰かの為に悲しむことができると言うのは本当に大切なことだ。

 だがな、悲しいだけだ。人生というのはな。無意味と有意味のせめぎ合いなのだ」

 

「悲しんでいるだけじゃただ悲しいだけ…」

 

 

その時、私はあの人の言葉を受け止めることはできなかった。

あの時の出来事が『間が悪かった』だけで済まされるものなのかと。

だから、私はあの人に反発した。

こんなのではあまりにも悲しすぎると。

悲しいと思い続けていてはずっと悲しいだけだと…。

人生は無意味と有意味のせめぎ合いの中にあるものだと。

 

 

「そうだ。幼き少女よ。この世界は確かに残酷かもしれぬ。

 だが、この世界は悲しみ以外にも沢山の感情がある

 お主はまだ若い。悲しみだけがこの世界の全てだと思うのはまだ早いぞ」

 

「でも、私はそこまで強くないよ…」

 

 

あの人は私にこう語った。

この世界は残酷だけれどもこの世界には悲しみ以外の沢山の感情があることを…。

でも、私はそれを受け入れられるほど強くはなかった。

あの時の私はまだ自分を許すことができなかった。

それでも、あの人は私を見捨てずにこう言ってくれた。

 

 

「ならばこう思うのだ幼き少女よ!ただ、間が悪かったのだと!

 すべての物事は大抵この言葉で片がつくぞ!

 騙されたと持って口にしてみるがいい!気持ち、心が軽くなるからな!ガハハハハハハ!」

 

 

目の前で豪快に笑うあの人が温かくて、私はただただあの人の胸の中で泣いた。

そして、ひとしきり泣いた後笑った。

あの言葉のおかげで私は少しだけど自分を許すことができたんだ。

 

 

3日後…

 

 

冬木市 柳洞寺付近

 

 

「行くのだな?真優よ」

 

「うん。私にはまだ帰れるところがあるから…」

 

「そうか。ならばこれを持っていくがいい」

 

 

私があの人の言葉で少しだけ自分を許せるようになってから3日後のことだった。

あの人の許を離れて自分が居るべき場所に帰ることをあの人に伝えたのは。

私が離れることを聞いたあの人は驚くことも悲しむこともしなかった。

あの人はただ、笑って私にこの十字架のネックレスをくれたんだ。

 

 

「これは…十字架のネックレス?」

 

「これはお主が愚僧(オレ)の修行を耐え抜いた証だ。持っていくがいい」

 

「…うん。大切にするね!」

 

「では達者でな!ガッハッハッハ!!」

 

 

あの人が私のことを認めてくれたことが嬉しくて泣きそうになった。

だけど私は腕で涙をぬぐって笑顔であの人に別れを告げた。

その後、笑顔であの人に見送られた私は柳洞寺に続く獣道を使って柳洞寺に戻ったの。

ちょうど、柳洞寺に住んでいる葛木先生が帰っていた時に私は柳洞寺に着き、

私は葛木先生に保護された。

一応帰る前に滝の水で身を清めたからそこまで汚くなかったけど

私はすぐさま柳洞寺の大きなお風呂の中に放り込まれた。

それで、身体を洗ってお風呂から出るとメディアさんが私を優しく抱きしめてくれた。

そして私にこう言ってくれた。

「生きていてくれて本当に良かった」と…。

その言葉を聞いた私はメディアさんの胸の中で泣いた。

こんな私でも心配してくれる人が大切にしてくれる人達がいる。

そのことがたまらなく嬉しかった。

その後、葛木先生の連絡を聞いてとんできた大河先生達にもみくちゃにされながら

大河先生達は私が生きて帰って来たことを喜んでくれた。

たぶん、この時からかな…。

例え辛くても諦めずに前へ進んでいこうと…。

衛宮士郎と衛宮凛の娘として胸を張って生きていこうと…。

私のように辛い思いをして思いつめている人が居たらその人の助けになろうと…。

 

 

IS学園 学生寮 真優の部屋 現在

 

 

「このネックレスには色んな思い出が詰まっているの。

色々あってIS学園に持ち込めなかったけどね…。大河先生にお礼を言わなくちゃ」

 

 

と、まあ…このネックレスに関する思い出を延々と話していたわけだけど。

うん。我ながら恥ずかしい。

長い自分語り程恥ずかしいものはないけどあの人のことを知っている人が

一人でも増えるのならば恥ずかしくても話した甲斐があるかな。

 

 

「あはは。ごめんね。こんな話はつまらない…って、うぇっ!?」

 

「「………(ダー」」

 

 

私は笑いながらチルノとラウラを見ると二人の目から夥しい量の涙が流れていた。

泣いてくれるのは嬉しいけどここまで泣かれると罪悪感が湧くよ…。

と、とりあえずこの二人に泣き止んでもらわないと荷物の整理をするどころか

二人の涙の掃除で時間が余計に取られてしまう。

 

 

「え、えっと…泣いてくれるのは嬉しいけどそろそろ泣き止んでくれると嬉しいかな」

 

「ご、ごめん…。で、でも、す、凄く良い話す、過ぎて…」

 

「す、すまない…。つ、つい、な、涙がと、止まらなくて…」

 

 

1時間後…

 

 

「落ち着いた?」

 

 

結局、私はこの泣き虫コンビを泣き止ませるために30分ほど時間を掛けてしまい、

涙で濡れた床の掃除でさらに30分も時間を取られてしまった。

でも、それだけ時間を掛けた甲斐があって二人は落ち着いたようだ。

 

 

「「グスッ…うん…」」

 

 

…なんだろう。

二人の返事がハモった時、私は凄く二人が可愛く見えた。

…いけない、いけない。平常心を保たないと。

私はノーマルだ。決してレズじゃないしロリコンじゃない。

二人は私の友達であってそんな目で見るものじゃない。

だから落ち着こう。これは気の迷いだ。

スーハー…スーハー…よし、落ち着いた。

 

 

「その人のおかげで今の真優がいるんだね?」

 

「うん。今の私があるのはあの人が居てくれたのが大きいから」

 

「迷っていた真優を導いてくれた人か…。出来れば会ってみたいものだ」

 

 

沢山の人が私を支えてくれたおかげで今の私が存在している。

でも、その中でもあの人との出会いが今の私の大きな支柱となっている。

あの時から一度も会っていないけれどあの人のことだ。

どこかで今日も元気に修行に明け暮れているだろう。

でも、もし縁があるのならまたあの人と会って話がしたい。

あの後、私が見てきた世界をあの人に語りたい。

今、私が前を向いて歩いていけるのはあの人…ガトーさんのおかげなのだから…。

そうだ。ちょうど大河先生が送ってくれた荷物の中にいろんな穀物が入っていたから

今日の晩御飯はこの穀物を使って五穀粥を作ろう。

料理としては雑な料理になるかもしれないからアルトリアは文句を言うだろうけど

今日は私のワガママを通そう。

まだまだガトーさんが作ってくれたあの五穀粥には負けるけれど

いつかあの人に負けない五穀粥を作ってあの人に食べてもらおう。

さて!そうと決まればさっそく作ろっか!

 

 

 




どうも明日香です。
今回はお気に入り登録件数100件に到達した記念として投稿しました。
察している人もいたと思いますが真優の心を救った“あの人”とはFate/EXTRAシリーズに登場したウルトラ求道僧ことガトーさんでした。
ちなみに、このガトーさんは厳密に言うと人間ではなくとある救世主2名の付き人として召喚された半分サーヴァントに近い状態です。
おそらく彼は同居人の二人と共に元気に立川のとあるマンションで生活しているでしょう。
もしかしたら今後登場するかも…?
さて、改めてですがお気に入り登録ありがとうござます。
これからもこの物語をよろしくお願いします。
それでは、ノシ

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