IS~衛宮の娘は遥か高き宇宙を目指す~   作:明日香

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今回はいつもよりかなり短いです。


第10話「学年別対抗戦エントリー」

 

イメージBGM:アニメISより ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

 

『何故だ!何故ここに抑止力が来ている!?』

 

『わ、わかりません!ユーブスタクハイト様!早くここから…』

 

 

部屋の外から私を作り出したアハト翁が慌てている声が聞こえる…。

どうやら抑止力と呼ばれる存在がここに来ていることに動揺しているらしい…。

私は私の部屋という名の牢獄に監禁されている。

私は…ラウスフィール・フォン・アインツベルンは…

アインツベルンの当主であるアハト翁の手によって作られた

【根源】へ辿り着くために使い捨ての道具であり最後のホムンクルス…それが私の正体だ。

私にとって私の生みの親であるアハト翁は父という存在というよりも

どうあっても逆らうことができない絶対者という存在だった。

聖杯戦争に勝ち抜いて【根源】に至る道を作る…。

それがあの時の私の生きる意味であり、存在意義だった。

 

 

『ここまでだ。アインツベルン』

 

『なっ!?貴様は…グワアアアアアアアアアアッ!!!?』

 

 

部屋の外から知らない男の人の声が聞こえるとアハト翁とその護衛の悲鳴が聞こえた。

ああ。私を使い捨ての道具として見ていたあのアハト翁は死んだのか…。

あの絶対者ですらもあっけなく死ぬものなんだな…。

 

 

『こっちの情報が正しければこの扉の奥にいるはずよ』

 

『周囲の警戒は私がしておきます。御三方は早く部屋の中へ…』

 

『頼む。…よし、開けるぞ』

 

 

足音が近づいてくる…。

知らない人の声が聞こえる。

私も抑止力と呼ばれる存在に殺されるのだろう…。

だけど不思議と眼から涙は流れなかった。

だって、怖いという感情が無いのだから…。

私はただただ無気力に自分の部屋という名の牢獄と外に繋がる扉を見つめていた。

 

 

ガチャ…

 

 

「誰…?」

 

 

牢獄と外に繋がる扉が開かれる…。

入って来たのは赤い外套を着た女の人と男の人、そして、漆黒の鎧を着ている男の人だった。

漆黒の鎧を着ている人が持っている漆黒の剣は間違いなく宝具だろう…。

つまり、この男の人が今までアハト翁がずっと恐れていた世界の抑止力…。

だけど…この人達からはまったく恐ろしさを感じなかった。

なぜなら…入って来た3人の顔は安心したような顔だったから…。

 

 

「よかった…。まだ、生きてた…!」

 

「ありがとう…生きていてくれて本当にありがとう…!」

 

 

赤い外套を着た男の人と女の人は私に近づくと私を優しく抱きしめた。

なぜ、私が生きていることを喜んでいるのだろう…?

この人達にとって私は排除すべき対象のはずなのに…。

だけど、私を抱きしめている二人は涙を流しながら私を抱きしめている。

そして、私は今まで流れなかった涙が眼から流れた…。

ああ。これが嬉しいという感情なのか…。

声を出さないけど私も泣いた。

 

 

「ラウスフィール…といったな?」

 

「…はい」

 

 

声を出さずに泣いていると漆黒の鎧を着ている男の人が私に話しかけてきた。

この人も私に対する害意は全くない。

そう思った私はこの人の呼び掛けに答えると真剣な表情で私に問いかけた。

 

 

「君は…これからも生きたいか?」

 

 

漆黒の鎧を着ている男の人は私に問いかけながら優しい笑みを浮かべて私に手を差し出している。

この人の問いで私は今まで牢獄に繋がれたままの人生から解放された。

私は差し出されている手を取りながらこう答えた。

「私は生きたい」と…。

 

 

「………夢か」

 

 

いかんな…。訓練に疲れてうたた寝していたようだ。

空の色を見てみると大分暗くなっている。

おそらく今は夕方の5時半位だろうか…。

真優との約束があるから遅れるわけにはいかないな。

それにしても懐かし夢を見ていた…。

おそらくシン様と再会できたことが嬉しくてあの時の夢を見たのだろう…。

それほどまでにあの日のことは忘れられない大切な思い出だ。

小聖杯という使い捨ての道具としての私から今を生きる私へ生まれ変わった日なのだから。

 

 

「確か今日は真優と一緒に夕食を食べる予定だったな」

 

 

今はラウスフィール・フォン・アインツベルンという名前ではない。

ラウラ・ボーデヴィッヒ…。それが今の私の名前だ。

ラウスフィール・フォン・アインツベルンという名前も大事な名前だが

それ以上にシン様達が私にくれたこの名前がとても好きだ。

そして、今私はIS学園の学生として生活している。

表向きは代表候補生としてAICの稼働テストの為にこのIS学園に来ている。

本当の目的はISの台頭のきっかけとなったあの【白騎士事件】の調査。

私はマキリ様経由でこの事件のせいで士郎様と凛様が命を落としたことを知っている。

しかし、世間では犠牲者が一人も出ていないとされている。

この事件の裏には何か重大なことが隠されていると私とマキリ様は読んでいる。

私はこの事件に隠された闇を見つけ出してみせる。

それが、私に道を示してくれたシン様達への最大の恩返しなのだから…。

 

 

第10話「学年別対抗戦エントリー」

 

 

◆ Side 真優

 

 

「あ、えみやん!はいこれ!!」

 

 

チルノ達がここに来て六日が過ぎた。

あれから私はシンとアルトリアだけじゃなく、ラウラにも訓練相手をしてもらっている。

流石、職業軍人なだけあってその動きは全く無駄がない。

おかげでインパルスの標準装備にあるコンバットナイフの扱いにも慣れてきた。

そんなわけで訓練を見てもらったラウラにお礼も兼ねて夕飯を奢ろうと思って食堂へ入ると

食堂の入口で待っていたのほほんさんからプリントを渡された。

そのプリントに書かれていたのは…

 

 

「「学年別チームトーナメント?」」

 

「そ~だよ~」

 

 

学年別トーナメントというのは確か一年に三回行う大会のことで

IS学園の生徒達がどこまで強くなったかを測るために行われていて

私達一年生はあまり注目されていないけれど二年生と三年生いとっては話が違ってくる。

このトーナメントの成績によって今後の進路が確定すると言っても

過言ではないと言われている非常に重要な行事だ。

普通の高校で例えるならば期末テストのようなものかな。

で、本来は一対一で行われる大会なんだけど今回は少し毛色が違うらしい。

 

 

「なんでも職員と生徒の要望で3VS3形式のチームトーナメントに変更されたんだよね~」

 

 

のほほんさんの話によるとIS学園の職員の大半と6割以上の生徒が反発したらしい。

というか6割って凄い数だね…。

で、反発した主なメンバーの主張はというと…

 

 

『普段と同じ形式の場合結果が同じになってしまう事態は避けるべきです』

 

『一対一だったらアルトリアさんの優勝確定じゃないですか!ヤダー!!』

 

『俺に箒を斬れって言うのかよ!!?』

 

『私は一夏を斬ることなんてできません!!』

 

『お兄ちゃんを撃てって?面白いことを言うんですね?よろしい、ならば戦争です』

 

 

という主張らしい。

最初の主張はわかるけれどその後の主張はちょっと待て。

バカップルとシスコンは少し自重しようか…。

このバカップルとシスコンの対応に追われた織斑先生…お疲れ様です。

 

 

「で、お二人さんは誰と組むの?」

 

 

ピシャンッ…!

 

 

…その時、爆弾が落とされた。

同じく食堂に居たアルトリア達の目が私に向けられた。

そして、アルトリア達が私達の許へやって来た。

あ、これ私知っている。

こういうのを修羅場っていうんだよね。

 

 

「マユ!優勝を狙うのなら私達と組むべきです!!」

 

「いいや!バランスを考えるのならば真優は私達と組むべきだ!!」

 

「機体の特性を活かすなら僕達と組むべきだよ!!」

 

 

…珍しい。

普段仲が良いみんなが喧嘩するなんてそれほどまで私を選ぶのが重要なのだろうか?

しかもみんな真剣な眼をしている。

まあ、それもそうか。

プリントの情報が正しければ今回の学年別タッグトーナメントの優勝賞品は

この食堂のデザートのフリーパス半年分だ(クラス対抗戦の余り物とか言わない)。

甘いものが大好きなみんなが真剣になるのは当然だろう。

私と組もうとする理由がまったくわからないけどね。

正直私はデザートを作る派だからあまり興味がない。

でも、このままだとみんな引き下がらないだろうし…どうしたものか…。

 

 

「…?私は真優と予…ムグ」

 

「はい。ラウっち野暮なこと言わな~い」

 

 

ラウラが私に助け船をだそうとしてくれたけどのほほんさんに口を塞がれた。

…周りを見ると周囲のギャラリーはニヤニヤした顔でこっちを見ている。

こいつら全員今の状況を楽しんでいるだろ…。

だけど真面目にヤバイ。

もしみんなが暴れだしたら織斑先生でも止められるか微妙だ。

なんとしてもこの状況を切り抜けねば…。

 

 

「あ、真優~、ラウラ~。今回のチームトーナメント一緒に出ない?」

 

「ラウラ!」

 

「ああ!」

 

 

来た!救世主来た!これで勝つる!!

私とのほほんさんを振りほどいたラウラはチルノの前まで瞬時に移動すると

チルノが持っていたペンとプリントを手にとって瞬時に名前欄に私の名前を掻いた。

うん。我ながら上手く書けたものだ。

よし、後はこのプリントを先生に提出しに行けば…。

 

 

ガシッ!!

 

 

「「「へ?」」」

 

『どこへ行こうというのですか(行くつもりなんだ)』

 

 

私達の両肩にはアルトリア達の手で掴まれている。

掴まれている肩から心なしかミシミシって音が聞こえる。

って、痛い!痛い!!痛い!!!

ほ、骨が砕ける!!

だ、誰か助け…。

 

 

パァーンッ!!パァーンッ!!スパァーンッ!!

 

 

『あいた!!』

 

 

後ろから凄く良い音がしたと思ったら二人の悲鳴が聞こえると

私の肩を掴んでいる力が弱まり、なんとか抜け出すことができた。

と、とにかくチャンスだ。

今のうちに逃げよう!!

後ろから何か凄く怖い気配を感じたけど今は逃げないとね!!

 

 

◆ Side アルトリア

 

 

IS学園 学生寮 食堂 真優達が逃走した直後

 

 

「い、痛い…」

 

 

真優を私とセシリアのチームに引き入れようとした時に私達は誰かに後頭部を叩かれました。

うぅ…この痛みさえなければ真優をこちらに引き込めたというのに…。

一体誰ですか!?私達の妨害をした輩は!!

そう思って私は後ろを振り向くとそこには…

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…

 

 

「君達、無理な引き込みは厳禁だと通達されていなかったかね?」

 

 

ハリセン(という名の鉄扇)を持ったシンが黒い笑みを浮かべて立っていました。

あ、この口調は凄く怒ってる…。

しまった…真優を引き込むことばかりに固執したせいで重要なことを忘れていました。

『強引なチームの引き込みは厳禁とする』

今回のチーム戦ルールに決まった時に加えられた新しいルールです。

無論、それを破った場合にはペナルティをかせられると…。

もしかして目の前のシンがそのペナルティ…?

 

 

「さあ、覚悟はいいかね?」

 

 

足が動かない…。

身体が重い…。

恐怖で力が入らない…。

ああ、これは終わりましたね。

目先のことばかりに囚われた私達に天罰が下ろうとしています。

無事に、生きて帰られるといいなー。

 

 

スパァーンッ!!!

 

 

◆ Side チルノ

 

 

IS学園 学生寮 寮長室

 

 

「「「酷い目に遭った…」」」

 

 

酷い目に遭った…。

誰とも組んでいない真優とラウラを誘っただけなのに敵意を向けられるとは思わなかった。

そこまでしてフリーパスが欲しいのかな?

とてつもない怒気に溢れている食堂からあたいは真優とラウラと一緒に逃げ出した。

 

 

「…災難だったな」

 

 

で、あたい達は提出先である学生寮の寮長室…織斑先生が滞在している部屋まで来ていた。

もちろん、学年別トーナメントのチーム登録を済ませるためだ。

 

 

「織斑先生、学年別トーナメントのエントリーはこれでいいでしょうか?」

 

「ああ、問題ない。確かに受け取ったぞ」

 

 

真優がさっき書いた書類を織斑先生に渡した。

これでアルトリア達に追われることはないかな…?

まあ、なにはともあれこれであたい達はひとつのチームとして登録された。

フリーパスには興味ないけどやるからには優勝を目指さないとね!

 

 

「む、そういえばチルノ。お前宛てに手紙と荷物が届いているぞ」

 

「手紙と箱?」

 

「えっとあたいとラウラの部屋で読んでいいかな?」

 

「ああ。かまわない」

 

「わかった」

 

 

チームの登録が済んだから安心してくつろいでいると

自分のデスクから何かを取りに言った織斑先生から封筒と装飾されている箱を渡された。

うん。ここで確認すると織斑先生の迷惑になりそうだからあたいの部屋で読もう。

真優とラウラも承諾してくれたみたいだしさっさと部屋に戻ろう。

 

 

IS学園 学生寮 チルノとラウラの部屋

 

 

「んじゃ、確認するね」

 

「「わかった」」

 

 

てなわけで改めて織斑先生に渡された封筒を見た。

渡された封筒はあまり装飾されていないけれどしっかりとしたつくりだった。

うん。ギルが手紙を出すなら装飾華美の封筒だろうからこの手紙はエルが出した手紙かな?

とりあえず開けてみよう。

 

 

「あ、やっぱこの手紙を出したのはエルだ」

 

「エル?」

 

「あたいの友達だよ」

 

 

手紙の差出人は予想通りエルからのものだった。

いつみても綺麗な字だな~。ギルもそうだけどエルの字も本当に綺麗な字だ。

あたいもこれくらい綺麗に書けるように頑張らなきゃね。

えーと…なになに…

 

 

『やあ、チルノ。この手紙が君のところに届いているのなら君は無事にIS学園の先生に渡されていると思う。

あの時は見送ることができなかったからここでお祝いの言葉を贈らせてもらうよ。

チルノ、IS学園への入学おめでとう。

ギルも口には出していなかったけれどチルノがIS学園へ入学できたことを喜んでいたよ。』

 

 

…ギルも喜んでくれたんだ。

ギルのことだから「当然だ!」と言ってそんなに喜んでいないと思ったんだけど…。

ギルはいつもあたいを見守ってくれているからあたいが試験に合格しているのは知っていると思うけど喜んでくれたんだ…。

うん。これなら剣一振りでイギリスの国家代表に勝った甲斐があったね。

っと、続きも読まないとね。

えーと…

 

 

『試験に勝てば入学を認めるという条件で戦ったと聞いた時は凄く驚いたよ。

なにせ君が会ったと思う老女は僕達と敵対している組織の一員だったからね。

君の試験官を務めた女性はイギリスの国家代表でその愛機は最新型のIS、

対する君は整備不良の武器を全く搭載されていないオンボロ状態の量産機、

不正ばかりの非常に劣勢な状況で君はブリュンヒルデの一人に勝ったんだ。

だからギルからチルノに贈り物があるらしいんだ。どんなものかは自分の眼で確かめてね。』

 

 

うわ。あの時の試合って不正がメッチャあったんだ…。

それでも勝てるあたいったらサイキョーね!

まあ、正確にはあたいが大ちゃんから受け取った約束された勝利の剣のおかげだろうけど。

あと教師陣の人が居なくて良かった…。居たら大騒ぎになってたよ…。

それにしてもギルがあたいに贈りものか…なんだろ?

織斑先生から貰った箱は結構な装飾が施されているけど…。

 

 

カパッ!

 

 

「「「…なにこれ」」」

 

 

箱を開けると中に入っていたのは二つの封筒と軍手一式と水色の携帯端末…

そして、黄金の筒状のもの…。

二つの封筒とか軍手一式とか端末はわかるけれどこの筒はなんだろ?

なんか約束された勝利の剣に匹敵するくらいの神秘を放っているけど…。

ついでに言うとそれ以外の端末も結構な神秘を出している…。

 

 

「「「………」」」

 

 

どうやら真優とラウラもこの荷物から放たれている神秘に気が付いているみたい。

二人とも魔術師じゃないようだけど…。

もしかしたら神秘とかがわかる体質なのかな?

えっと片方の手紙はあたい宛てのようだね。

えっと…。

 

 

『此度の蛮勇大義であった』

 

 

みじかっ!?

まあ、ギルらしいといえばギルらしいけどさ。

残りの余白部分はあの黄金の筒についてともう一つの封筒について書いてあるみたいだね。

えっと…もう一つの封筒は間桐グループの本社まで持っていけばいいのかな?

で、黄金の筒は…本当にどうしようもなくなった時に使え?

使う時は取っ手をもって鍵を開けるイメージを頭に描きながら回せ?

とりあえず今は使わない方がいいかな?

まあ、一応普段から持っておこう。

この時の為のナノトランサーだし。

 

 

グ~…

 

 

「「「あ…」」」

 

 

ギルから貰った黄金の筒のことを考えていると三人同時にお腹の虫が鳴った。

ああ。そういえばみんなに絡まれたせいで夕飯を食べてないんだった…。

うう…お腹すいた…。

こんなことなら購買でパンを買っておけばよかった…。

 

 

「「「はあ…」」」

 

 

たぶん二人も同じこと考えているんだろうね。

3人揃って力なくうなだれる…。

今部屋の外に出たらまたみんなに絡まれるだろうなぁ。

あたいはちょっと火を使うことはできないけどラウラは料理できるらしいし。

うん。これからは部屋に食べ物を買い置きしておこう。

でも、お腹すいたなぁ。

 

 

 

 




どうも明日香です。
今回は学年別トーナメントのエントリーとチルノの保護者からのおくりものという話になりました。
…今回は普段の5分の3という短い話になりましたが楽しめていただけたら幸いです。
次回はかなり暗め?な話になります。
それでは、失礼します。

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