IS~衛宮の娘は遥か高き宇宙を目指す~   作:明日香

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第11話「世界の影で…」

 

 

「お、お願い!情報でもなんでも差し出すから命だけは…」

 

 

目の前でISを装備した女が命乞いをしてくる。

武装は全て破壊され、フレームは完全に歪んでいる。

この女が戦う術は…もうない。

無力化したのなら殺す必要はないと俺の良心が訴える。

だが、それに応えることはできない。

今の俺は世界の守護者であり、掃除屋だ。

ここで逃がしたら世界の…ひいてはアルトリア達の害になる。

ならば最小限の流血で皆を救う。

 

 

「………」

 

 

ズバァッ!!

 

 

無言で手にした剣を振り下ろす。

俺の振り下ろした剣は的確に女の心臓に突き刺さり、女は悲鳴を出さずに死んだ。

今の俺がこの女に出来ることはせめて痛みを知らずに殺すことくらいだ。

殺さなくてもこの女に待っていたのは地獄のような拷問だ。

おそらく、精神が壊れて生きた屍になるのは確実だ。

だから、ここで死んだ方がこの女にとって幸せだろう。

…だが、俺とこの女との違いは殆どないだろう。

今の俺はこいつ等と同じ血に汚れた人殺しだ。

いつものことながらこんなことでしか救えない俺の役立たずぶりが嫌になる…。

だが、それでも俺は守護者という空虚な存在として生きていく。

たとえ、どれだけの罪を重ねようと…

たとえ、どれだけの恨まれようと…

たとえ、どれだけ蔑まれようと…

たとえ、それで守るべき人々に恐れられても…

俺は剣を、銃を取り、戦い続ける。

それが俺の存在する理由であり、俺自身が背負った十字架だからな…。

 

 

 

第11話「世界の影で…」

 

 

◆ Side シン

 

 

IS学園近辺 真夜中

 

 

「………」

 

 

今の俺の眼下には暗緑色のISを装備していた奴のなれの果てが倒れている。

サイズは違うが暗緑色で統一されたその姿を俺は知っている。

GAT-SO2R【NダガーN】。

俺の居た世界で非公式に開発されたデータに残っていない機体だ。

この機体の恐ろしさはレーダーに映らなくするだけでなく、肉眼での認識すらも困難にするミラージュコロイドを搭載していることだ。

ある程度勘の良い者なら対応できるがそれでもこの機体が脅威なのは変わりない。

警備の強い場所で暗殺を行うのならこれ以上に優れた機体はそうそういないだろう。

もっとも、俺の眼下で倒れているこの機体は既にスクラップになっているがな。

 

 

「増援か…。やれやれ…奴等の戦力もそうだがここの警備はザルなのかね?」

 

 

闇夜に紛れて多数の気鋭がこちらに向かってきている。

無論、自衛隊のISなどではなく奴等が製造した兵器だ。

数はざっと見て8…。

夜間迷彩が施されたウィンダムが7機、そしてゲルズゲー1機か。

まったく奴等の戦力は無尽蔵か?

それよりもこれだけ接近を許しているのにIS学園はまったく感知していないことが問題だ。

いや、そのおかげで此方も動きやすいのだからあまり贅沢は言っていられんか。

仕方ない…あまりこういった用途でこいつを使いたくなかったが真優達を守るためだ。

それに彼もこのことを見越して俺にこいつを渡したのだろうな。

 

 

「シン・アスカ、F-91。迎撃行動に移る」

 

 

俺が左手に持っているバッチが僅かに輝くと俺は漆黒の鎧を纏っていた。

今から来るIS部隊は俺を憎むだろう。

または信じられないと思うだろう。

なぜなら…。

 

 

「な、何故あなたがISに乗っているのよ!?」

 

「なに、今まで二人もISを動かせるものが見つかったのだ。

 他に男の身でISを動かせる者がいたとしても不思議ではないだろう?」

 

 

今、俺が展開したのはIS。

それも間桐グループのセイバーチームが開発した最新鋭のIS…。

Fセイバーというコードネームを持つセイバーシリーズの六番機…。

極限にまで人間の動きに近づけるためのデータを得るために生まれた最も動かしやすいIS…。

そして、奴等が奪おうとしていた機体だからだ。

どうやら、俺がISを装備していることに動揺しているようだな。

動きが明らかに緩慢になっている。

おそらく俺が空を飛べないから空中から襲撃しようなどと考えていたのだろう。

 

 

イメージBGM:空の境界より M12+13

 

 

「お前達がもっとも恐れていた敵が空中戦も出来るようになったのだ…。

 さあ、覚悟は出来たかね?(チャキッ」

 

「こ、この!数はこっちの方が圧倒的に上なのよ!!」

 

 

俺は此方で独自に改造したブレードを構える。

本来、この機体には光学兵器が多数搭載されているがこの状況では使い勝手が悪い。

だから俺はこの装備を選んだ。

このブレードは対IS用に開発されたAISBを基にあるコーティングを施したものだ。

 

 

「ふん!!」

 

 

ズバァッ!!

 

 

「え?なんで…ビームサーベルが…」

 

 

そのコーティングは…アンチビームコーティング。

このコーティングによってこのブレードは『ビームサーベルや絶対防御ごと』敵を両断でき、

こいつ等が使用しているシールド程度なら熱したバターのように両断できる。

ビーム兵器を主としているこいつ等にとってはこれ以上とない最悪の武器だろう。

俺に切られた女は何が起こったのか理解できずに絶命し、海へ落ちていく。

残り7つ…。

 

 

「う、撃ちなさい!!遠くから攻撃していれば…」

 

 

ビームサーベルごと両断される味方を見て指揮官と思われる奴が味方に指示を出している。

なるほど、確かに良い指示だ。

今の俺が持っている武装はこのブレードのみ。

撃っていれば俺を撃墜できるだろう。

無論、俺が持っている武装がこのブレードだけで奴等の攻撃が俺に当たればの話だがな。

 

 

ダン、ダン、ダン、ダンッ!!!

 

 

「あへぇ…」

 

「ひぎぃ…!!」

 

「うぎゃっ!!」

 

「ちにゃっ!」

 

 

奴等がビームライフルを撃つ前に俺は距離を詰めながら左手に持ったハンドガンで

奴等の眉間に四点射し、撃った弾丸は四発とも眉間に直撃した。

俺に撃たれた奴は何が起こったのか理解できずに死に、海へ落下していく。

これも対IS用に開発した対IS用のハンドガン。

ISが軍事使用の危機にあった時に三挺だけ製造された禁断のハンドガンだ。

このハンドガンで使用できる弾丸の威力は普通の拳銃をと大して変わらない。

だが、このハンドガンの最大の特徴はこの銃に装填されている銃弾も特性だ。

それは絶対防御を無効化しながら貫通する特性。

顔を装甲で守っていないという盲点を突いた『IS乗り殺し』の拳銃だ。

本来の姿であるバイザー付きの姿ならば生きていられたのだろう。

ISに乗っているという慢心が死に繋がるという典型的な例だな。

残り3つ…。

 

 

「こ、こいつぅ!!」

 

 

ズキュンッ!ズキュンッ!ズキュンッ!ズキュンッ!

 

 

「な、なんで?なんで当たらないのよ!!」

 

 

生き残った連中は半狂乱になりながらビームライフルを連射している。

俺はその全てをブレードで弾き、接近する。

生き残りの一人がパニック状態になりながら叫んでいる。

残念ながら此方はそちらの兵器の弱点を嫌というほど知っている。

それは俺の世界のMSに存在した弱点。

機体のOSが最適な状態で射撃を行おうとする時にできる無駄な動き…

通称【ポージング】と呼ばれるオート操縦の機体に起こる共通の【隙】だ。

そして、その動きによってどこにビームがどこへ来るのか全て見切れる。

これでひとつ大きな収穫ができた。

あの組織の戦闘員の大半は碌に戦闘の訓練をしていない素人だ。

 

 

「遅い!!」

 

 

ズバァッ!!

 

 

「ぎゃああああああああ!!!!!」

 

 

突撃した勢いのままに近くにいた敵を両断する。

残り2つ…。

 

 

「ひっ!?」

 

 

ISに乗っていた最後の敵は恐怖に負けてこの場から逃げようとする。

おそらく自分では勝てないとようやく悟ったのだろう。

この場で逃がせばこいつは再び俺達の障害になり、後の災いの種になる。

それにこの姿を見られた以上生かして帰すわけにはいかない。

 

 

「逃がさん!!」

 

 

ヒュンッ!!ドスッ!!

 

 

「あがっ!?」

 

 

俺はすぐさまブレードを逃げる敵に投擲し、刺さったブレードの柄を持って両断する。

そして、ISを装備した敵はこれで全滅した。

MSと違ってISは爆散しないからこういった時は非常に助かる。

爆炎を見られるという心配がないからな。

さて、最後の仕事だ。

 

 

『………!』

 

「させん!」

 

 

ズバァッ!!

 

 

『!?!?!?』

 

 

ISの部隊が全滅したことでやっと攻撃プログラムが起動したのだろう。

ゲルズゲーは両手に持ったビームライフルを構えた。

もし攻撃プログラムが起動するのがもっと早ければ状況は違っただろう。

だが、もう遅い。

ゲルズゲーがビームライフルを撃つよりも早く俺はゲルズゲーの両腕を両断する。

 

 

『!』

 

「無駄だ!」

 

 

ザンッ!!

 

 

『!?!?!?』

 

「これで…終わりだ!」

 

 

ザシュザシュザシュザシュザシュッ!!

 

 

それでもゲルズゲーは最後の悪あがきといわんばかりにビームキャノンが搭載されている

クローを俺に向けるが発射される前にクローを両断し、そのままゲルズゲーを解体する。

バラバラにされたゲルズゲーの頭部から光が消え、そのまま海へ落ちていく。

これで、全部撃墜した。

 

 

「生徒会。聞こえるか?」

 

『はい。聞こえています』

 

「目標を撃破した。すぐに工作班を招集してほしい」

 

『承知しました。少々お待ち下さい』

 

「頼む」

 

 

敵機の全撃破を確認した俺は生徒会に通信を繋ぐ。

理由はそれが更識楯無と布仏虚、そして、IS学園の裏の長である彼との契約だからだ。

IS学園を秘密裏に襲撃しようとする敵を俺が秘密裏に全て撃破し、

戦闘が終わった後は彼女達が現場の後始末と情報の隠蔽工作を行う。

この契約のおかげで今のところ秘密裏に奴等を撃退出来ている。

だが…このままではあまり長くはもたないだろう。

 

 

「…これで10回目か」

 

 

どうやら既に待機していたようですぐに回収作業が行われている。

眼下で作業している工作員を見ながら思わず俺はここが襲撃された回数を口にした。

そう。

なにも初めてこの学園がISの襲撃を受けたというわけじゃない。

あの時アルトリア達がザザムザーを撃破し、俺が後詰の部隊を全滅させてから

二週間が過ぎたがその間にこのISを装備した者が襲撃してきたのはこれで10回目になる。

…明らかに回数が増えてきている。

一応生徒会長にはIS学園のシステムの監視を依頼してあるがそれでも不安は拭いきれない。

 

 

「…本格的に俺達を狙ってきたか」

 

 

…どうやら本格的に俺達をマークしてきたようだな。

おそらく連中は真優達を狙ってきている。

おそらくラウラとチルノが入学してきたのもあるのだろう。

片や小聖杯としてこの世に生を受けた今は亡きアインツベルン最後のホムンクルス。

片や世界の触覚であり、自然に生まれた中身入りの聖杯…。

世界を自分が望むように変えたいと思っているあいつらなら喉から手が出るほど欲しい物だ。

今は篠ノ之博士が牽制しているから大国を使って難癖をつける真似は出来ないだろうが

それも近いうちにやってくるだろう。

 

 

「はあ…」

 

 

もう既にかなりの数の戦闘員が俺の手で討たれた。

奴等もこのまま黙って見ているほど馬鹿ではない。

新しい作戦を練っているはずだ。

そして、俺達は奴等がどのような手を使ってくるかは予測できない。

どう足掻いても俺達は後手に回るしかない。

 

 

「溜息を吐いているけど嫌なことでもあったのかしら?」

 

「…生徒会長か」

 

 

後ろから気配を感じて振り向くとそこにはISを装備した生徒会長の姿があった。

持っているセンスには『お疲れ?』と書かれている。

…どうやら俺は俺自身の疲労に気がついていなかったようだ。

まずいな…自分の疲労に気がつかないということは想定以上に消耗しているということだ。

 

 

「ん。どうやら後始末はできたようね」

 

「そのようだな。では、今日は休ませてもらうとするよ」

 

 

どうやら後始末が終わったらしい。

流石、というべきだな。

だが、このままでは俺の身体が限界を迎えるだろう。

実際、俺が最後に寝たのはザザムザーの襲撃があった日だ。

守護者という存在だからこそこのような芸当が出来ているがそれも長くは続かないな。

さて、どうしたものか…。

 

 

「あ、そうそう。あの人から伝言」

 

「伝言?」

 

 

彼女が言ったあの人とは契約者である彼だ。

流石に彼自身がこの現場に来てはいないが彼女に伝言を頼んだらしい。

まあ、彼女がどんな伝言を頼まれたのかは容易に想像ができる。

 

 

「えーと『最近、働きすぎだから休みなさい。織斑先生にも伝えてあるから』だそうよ」

 

 

やはりか…。

どうやら強制的に休暇を取らされるようだ。

正直自覚はあったが最近の俺はオーバーワークをしすぎていた。

彼もそのことはお見通しだったようだ。

だが、今回の彼の指示は非常に助かる。

オーバーワークをしている状態での戦闘ほど危険なものはない。

今回も奴等が雑魚同然だったからよかったもののエース級を投入されると

流石に俺の身体の方が先に限界を迎える。

それに、織斑教諭にも話を通してもらっている。

なら、彼には少し申し訳ない気がするがしばらく休養をとらせてもらうか。

おそらく近いうち…時期としては学年別トーナメントに奴等は動きだすだろう。

ならば、その時に前回の状態で迎撃できるようにしておかなければならないな。

そのためには今は身体を休め、万全の状態にしておくか…。

 

 

◆ Side アルトリア

 

 

◆◆の記憶

 

 

『ん。ここは…』

 

 

あの後…マユがラウラとチルノと組んだと聞いて不貞寝していた私は

光が全くない闇の中で目覚めました。

…いや、現実に目覚めたのではなくここは記憶の間と呼ばれる場所です。

現在、この記憶の間で記録されているのは私とシンの二人だけ…。

そして、私は何度もこの場所に来ています。

あの聖杯戦争で魔力のラインが出来たあの日から何度も…。

次第に闇が晴れていく…。

闇が晴れると私の眼に映ったのは今のどの都市よりも遥かに発展した都市でした。

そう…。

ここはシンの第三の故郷である空の遥か彼方に浮かぶ箱庭の国…【プラント】。

普段彼の記憶を見る時は静止画を見る感覚ですが今回はいつもと違うようですね。

しかし、どういうことでしょうか?

さっきからここに住む民達が逃げ惑っているように見えますが…。

 

 

「民間人の避難を優先させろ!奴さんはいつ来るかわからねぇからな!!」

 

 

あの聖杯戦争中にも一度だけ見たシンの服を赤から緑にしたような軍服を着た屈強な男が

声高に指示を出している姿が見えます。

ですが、状況はあまり芳しくなく、パニック状態になっている民達が右往左往しています。

…このままでは避難が遅々として進まないでしょう。

ですが、今の私は霊体同然の身、手を貸すことなど到底できません。

ですから、せめてここに攻めてくる者達の名だけでも確認しました。

 

 

【毒ガスを満載したシャトルが接近中】

 

『っ!?』

 

 

私は自身の行動を呪いました。

ビルに取り付けられているモニターに映った情報を見た私は今、私が見ているシンの記憶が

シンの心が壊れるきっかけになった【あの事件】の記憶なのだと気がついてしまいました。

視点ががらりと変わり、シンの記憶にあったMSデスティニーのコックピットに…

つまり、今の私はシンの視点と同じになりました。

 

 

『アスカ隊長!』

 

「状況は?」

 

 

ブルーコスモスと呼ばれるシン達の様な人種を排斥しようとしている組織の者の手による

シャトルの中に居る民間人を盾にしてコロニーに居る人々全員を

毒ガスを使用して抹殺する大規模な虐殺計画…。

それがこの事件を起こした連中のシナリオです。

 

 

『避難状況は10%にも届いていません!このままでは…』

 

「くそっ!あいつ等は何やっているんだよ!!」

 

『シャトルも完全にブルーコスモスによって制圧されていて今から止めることは不可能です!』

 

 

やはり、避難の状況は最悪でした。

パニックによってまともに避難出来ている民は一割にも満たない。

この状況であのシャトルの入港を許せばこのコロニーに居る全ての民は死に絶えてしまう。

ですが、シャトルを止めようとしても中が賊によって制圧されているために

今からあのシャトルを止めることは不可能でしょう…。

 

 

「シン・アスカ、デスティニー…出る!」

 

 

なら、止める方法はMSによって無理矢理止める。

今できる最善の手はこの方法しかありません。

シンもそう思ったのでしょう。

手早くデスティニーを起動させ、操縦桿を握りしめています。

コロニーから星の海に繋がる扉が開くと私を…シンを乗せたデスティニーが飛び立つ。

最悪の事態を防ぐために…。

ですが、この事件の結末を私は知っています。

 

 

「通信?このコードは…まさか!?」

 

 

シンを乗せたデスティニーが星の海を駆けていると突然デスティニーの通信機が鳴りました。

私にはまったくわかりませんでしたがシンはこのコードの主を知っているようです。

シンは慌てて通信を開くと一人の少女の声が聞こえてきました。

 

 

イメージBGM:機動戦士ガンダムSEED_DESTINYより 面影

 

 

『シン…』

 

「ルナ!?」

 

『…お願いがあるのだけど…いい?』

 

 

少女…シンがルナと呼んだ少女の声は掠れていました。

声から察して彼女の状況が理解できました。

彼女は凌辱の限りを尽くされ、その命も尽きようとしています。

おそらく彼女は最後の力を振り絞って喋っているのでしょう。

そして、彼女から告げられた願いは…シンを絶望させるのには十分すぎました。

 

 

「待ってろ!すぐにシャトルを…」

 

『もう私は助からない…。それに私以外の乗客はみんな殺されたわ…。

 だから…シン…シャトルを撃って…。コロニーを…守って…』

 

「なっ!?」

 

 

彼女の願いは自分を殺してくれというものでした。

もう彼女は助からない。

このままシャトルを入港させればこのコロニーに住まう25万もの民が犠牲になる。

それは彼女自身が一番理解できているでしょう。

ならば、せめて最期はシンの手によって殺されたい。

だから、彼女はこの願いを告げたのでしょう。

ですが、シンはすぐに行動を起こせず、シャトルがデスティニーの横を通り過ぎました。

 

 

『隊長!シャトルが!!』

 

 

このままではシャトルが入港してしまう。

それを危惧したオペレーターがシンに呼び掛けています。

今、シンは最も苦渋な選択に迫られています。

ですが、シンが葛藤していくうちにシャトルがコロニーの宇宙港に入ろうとしています。

 

 

『隊長!!』

 

「…うわあああああああああああああ!!!!」

 

 

オペレーターの悲鳴にも近い声がデスティニーのコックピットに響くと

シンは叫びながらデスティニーを動かし、シャトルの前に移動すると

デスティニーの背部にあるビーム砲をシャトルに目掛け、発射しました。

ビーム砲から放たれた一条の光はシャトルの中心に直撃し、

ビームが直撃したシャトルは業火に呑みこまれました。

 

 

『シン…ありがとう…大…好き、よ…』

 

 

シャトルの中にいるルナは最後にシンへ礼を言いながら業火の中に消えていきました。

結果、コロニーに住まう25万もの民はシンの決断によって救われました。

ですが、今のシンを埋め尽くしているのは人々を救った達成感ではなく…

絶望、後悔、怨嗟、憎悪という黒い炎でした。

 

 

「何がザフトレッドだ!何がフェイスだ!何がザフト最強の隊長だ!

 何がプラントの守護者だ!何が『大切な人を全て守る』だ!

 俺は…俺は結局大切な人を一人も守れなかった“役立たず”じゃないか!!」

 

 

シンは力の限りを籠めて操縦桿を何度も何度も殴りながら自身を呪っていました。

これがシンの“役立たず”という呪いの始まり。

もし、別の何かを憎むことができれば楽だったのでしょう。

ですがシンは世界を呪うことなんて出来なかった。

だからシンは…自身の手で彼女を殺すことでしか救えなかった自身を呪いました。

 

 

「ふざけるな!!ふざけるな!!!バカヤロオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」

 

 

シンの慟哭がデスティニーのコックピットに響きました。

今、私の目の前にいるシンは本物のシンではない…。

そのことを頭で理解していても目の前にいるシンを放っておくことはできません。

だから私は無駄だとわかっていても涙を流すシンを抱きしめました。

あの時シンが私を抱きしめてくれたように…。

ルナ…この少女の名を私は絶対に忘れないでしょう。

周囲の景色がまた闇に呑まれていく…。

どうやら今日の夢はここまでのようですね…。

さあ、また新しい1日を生きましょう。

シンと共に今を生きるために…。

 

 

◆ Side ??????

 

 

???

 

 

子供達の泣き声が聞こえる…。

『たすけて』と…。

その声が出ている理由を俺は嫌というほど知っている。

ここに収容されている子供達は全員、俺を現界させるための生贄だからだ。

そして、俺自身も巨大な鋼鉄の子宮の中に拘束されている。

ははは…これは世界が俺に与えた罰なのか…?

父に認めてもらいたくて反乱をおこし、今まで共に生きた仲間達も

守るべき民も尊敬していた父を俺達の守っていた国を殺したことへの罰なのか…?

本来守るべき子供達を生贄にして無理矢理現界させられて…

俺の意思とは関係なく本来守るべき民を虐殺させられて…

死のうと思っても死ぬことができなくて…

今日もまたクズな連中の駒として生かされ続ける。

平和に生きる民達の日常を壊され続ける。

頭が狂いそうになる。

 

 

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心が壊れそうになる。

 

 

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もう…いやだ…。

これ以上守るべき民達の日常を壊したくない…。

これ以上守るべき民達を殺したくない…。

でも、俺には奴等に反抗することも自害することも出来ない。

たすけて…。

たすけて…。

 

 

「ちち…うえ…」

 

 

◆ Side 真優

 

 

IS学園 中庭 早朝

 

 

「…?」

 

 

学年別トーナメントのエントリーを終えた日の翌日…。

朝のトレーニングに向かうために第3アリーナに向かっていると誰かの声が聞こえた。

『たすけて』と。

 

 

「誰の声…?」

 

 

私は周囲を見回してみるけど周囲には誰もいなかった。

空耳…なのかな?

でもさっきはっきりと聞こえた。

この声は…救いを求めている声だ。

 

 

「誰が泣いているんだろう…?」

 

 

誰かに助けを求めている声が誰なのかわからない。

だけど、その声の主は凄く苦しんでいる。

自分が望まない暴挙を強要されて苦しんでいる。

この声が私に聞こえたのかわからない。

だけど、近いうちにその声の主と出会う気がする…。

もし、その時が来たら…私はその声の主を救いたい…。

だって、ずっと自分のお父さんのことを呼び続けているから…。

 

 

 




どうも、明日香です。
はい。今回はほとんどシンの独壇場です。
世界の影から真優達を狙う者達からシンと彼と協力関係にある勢力のお話でした。
ですが、話にもあるようにこの影も少しずつ隠せなくなってきています。
近いうちに真優は世界の影を認識するでしょう。
さて、次回は学年別トーナメント編に突入です。
真優達は無事に学食のフリーパスを入手する事が出来るのか?
それでは、失礼します。

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