IS~衛宮の娘は遥か高き宇宙を目指す~   作:明日香

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第16話「解放!約束された勝利の剣!!」

 

僕が彼女の名前を初めて耳にしたのはインパルスが完成した翌日のことだった。

妹のシャルロットと一緒に休憩室で休んでいた時にダニエル主任から聞かされた。

 

 

「坊主、お嬢。Eセイバーのパイロットがわかったぞ」

 

「Eセイバー…確か僕とお兄ちゃんのISの発展型だったよね?」

 

「うむ。パイロットの名前は衛宮真優。殆ど素人同然の学生じゃ」

 

 

最初は半信半疑だった。

なにせインパルスの兄妹機に当たるストライクとツヴァイは代表候補生の人でも

まともに動かすことができなかったのに素人同然の学生が動かせるとは思えなかった。

だけど、ダニエル主任に見せてもらった映像を見た瞬間、その疑惑も消し飛んだ。

そして、僕に芽生えたのは彼女に対する興味だった。

 

 

「貴方がシンの言っていたシャルルさん?」

 

「そうだよ。貴女が衛宮真優さんだね?あと呼び捨てでいいよ」

 

「うん。よろしくね。シャルル」

 

「よろしく」

 

 

そして、この学園で彼女と出会い、一緒に訓練をした時、さらに興味を持った。

訓練の時の彼女の動きはお世辞にも良い動きとは言えない。

寧ろIS学園の平均的な生徒より動きが悪いといってもいい。

だけど、ある一点だけ他の生徒はおろか教師の人達よりも強いものを持っていた。

それは、鋼鉄よりも強く堅い強靭な精神力だ。

例え相手が天才でも数をこなして少しでも経験を積んで少しでも差を縮め、勝利を手にする。

例えどんな困難だろうと諦めずにひたすら足掻いて少しずつでも前へ進んでいく。

不屈の精神と言えばいいだろうか…。

彼女よりも遥かに恵まれた才能を持つ天才達に囲まれながらもその心はまったく淀んでいない。

たぶん、彼女以上の精神力を持っている生徒はいないと断言できる。

一回戦で異例の告白をしたというグラディスさんの気持ちも理解できる。

実際僕は彼女のことを思うと胸が熱くなる。

この気持ちが一体何なのか僕にはわからない。

その答えはこの試合が終わってから考えよう。

さあ、行こうか。

 

 

第16話「解放!約束された勝利の剣!!」

 

 

◆ Side 真優

 

 

IS学園 第1アリーナ 第1ピット

 

 

「知ってのとおり私達の準決勝の相手はシャルル・デュノアが率いるチームだ」

 

 

今、私達は準決勝に備えたブリーフィングをしている。

相手は1年生の中でも二番目に強いチームであるシャルル達が相手だ。

セイバーシリーズが二機に遠距離支援仕様のラファール・リヴァイヴで構成されたチームで

火力、機動力共に高水準を誇るチームだ。

特に要塞と言ってもいいくらいの火力を誇っているシャルとツヴァイ、

火力こそラファール・リヴァイヴ・ツヴァイに劣るけどそれ以外の面では圧倒的に能力が高く

天才的な技量を持つシャルルとストライク…この二機に連携されたら私達に勝ち目はない。

 

 

「チルノは遠距離支援のリヴァイヴを私がシャルロットのツヴァイを相手にする。

 その間に真優はシャルルのストライクの相手をしてもらう」

 

「わかった」

 

「非常に辛い戦いになるだろうがこの戦い…勝つぞ!」

 

「うん!」

 

「おう!」

 

 

そして、現状シャルルのストライクに対抗できるのは私のインパルスだけだ。

だからチルノとラウラがシャルロット達を抑えている間に私がシャルルに勝つという作戦だ。

いや、作戦と言うのもおこがましいけれど私達がとれる方法はこれしかない。

勝ち目は殆どないけれど…それでも勝ちに行く!

 

 

「チルノ!ラファール・リヴァイヴ!いくよ!」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ、シュヴァルツェア・レーゲン。出撃する!」

 

 

先にチルノとラウラがカタパルトから射出されてバトル・フィールドへ飛んでいった。

うん。最初から展開していたチルノはともかく、やっぱりラウラはISを展開するのが早い。

私も何度も練習しているけれどそれでも一夏の倍は掛かっている。

早く展開できるようにしろと織斑先生に言われているけれど上手くいかない。

うーん…このトーナメントが終わったらシャルル達に相談してみようかな…?

まあ、とりあえず今は試合に集中しよう。

 

 

「衛宮真優。インパルスガンダム。いきます!!」

 

 

カタパルトから射出され、周囲の景色が鋼鉄でできたピットから青い空に変わる。

バトル・フィールドの中央にはもう私以外の選手が集まっている。

私がバトル・フィールドの中央に辿りつくと試合が始まるだろう…。

さあ、行こう!インパルス!

勝つのは…私たちなんだから!!

 

 

◆ Side ラウラ

 

 

IS学園 第1アリーナ バトル・フィールド

 

 

「やあ。待っていたよ」

 

 

私とチルノがバトル・フィールドの中央に辿りつくとそこにはシャルル達が待っていた。

シャルルはいつもと変わらない態度で声をかけてきたがシャルルの後ろにいる

シャルロットと遠距離支援型リヴァイヴを纏っている奴は強烈な敵意を私達に放っている。

…うむ。敵意どころじゃなくて殺意を帯びている。

並の人間なら卒倒してもおかしくないだろう。

私達と同世代でかつ戦場にいたことが無い者がここまでの殺気を放てるものだな…。

 

 

「お待たせ」

 

 

しばらくするとインパルスを纏った真優が中央に飛んできた。

装備はフォースシルエット…高機動戦闘においてほぼ敵なしと言ってもいい

シャルルのストライクの機動力に対抗できるのはおそらくこのシルエットだけだろう。

それに、あのシルエットが一番真優に馴染んでいる。

どれだけ性能や相手との相性が良くても使いこなせなければまったく意味が無い。

だから今回の選択は間違っていない筈だ。

 

 

ピ…ピ…ピ…ブーッ!!

 

 

「「はあっ!!」」

 

 

バチィッ!!

 

 

真優が到着してしばらくすると試合開始のブザーが鳴った。

それと同時に真優とシャルルが戦闘を始め、残りの二人は私とチルノに矛先を向けてきた。

ここまでは予定通りだ。

シャルルのストライクはともかく残りの二人は私達でも十分対応できる。

真優が時間を稼いでいるうちにこの二人を落とす。

だが、真優が倒されたらおそらく私とチルノはすぐにシャルルのストライクに撃墜されるだろう。

真優…頼んだぞ…。

 

 

◆ Side 真優

 

 

IS学園 第1アリーナ バトル・フィールド

 

 

「くっ…!」

 

 

試合開始のブザーが鳴った直後、私は作戦通りシャルルのストライクと戦っている。

彼の動きは準々決勝まで見てきたけれど今まで彼は“一度も”被弾していない。

それは彼の神業ともいえる動きによるものだ。

全く隙が無いのに美しさすら感じさせる彼の動きはまるで舞を舞っているようだった。

これが本当の天才…。

 

 

「どうしたんだい、真優?インパルスの方がストライクよりも性能が上だよ」

 

 

機体の性能で言えば私のインパルスの方が全体的に高い。

だけど、今の私はインパルスの性能に頼りきりでインパルスの足を引っ張っている。

対してシャルルは完全にストライクの動きを完全に理解し、その性能をフルに活用している。

今、私がシャルルに押されているのは圧倒的な実力差だ。

 

 

「そこっ!」

 

 

ドシュッ!ドシュッ!ドシュッ!!

 

 

「っ!?」

 

 

バシュンッ!バシュンッ!バシュンッ!!

 

 

シャルルのストライクのビームライフルから放たれるビームはどれも正確無比だ。

避けようと思っても避けた先にビームが飛んでくる。

なんとかABCシールドで防げているけどあまり長くはもたない。

なんとか反撃しないと…。

 

 

「このっ!」

 

 

ドシュッ!ドシュッ!ドシュッ!!

 

 

「当たらないよ」

 

 

そう思って私もインパルスのビームライフルで応戦するけどこっちの攻撃は掠りすらしない。

でも、ここまではわかりきったことだった。

正直才能が殆どない私が付け焼刃で彼に勝てる要素は殆どない。

なら、才能が無いのなら無いなりのやり方で彼と戦えばいい。

幸い私は普通の人よりも眼はいいし、インパルスも堅さと機動力に優れている。

それに、私は一人で戦っているわけじゃない。

例えここで私がシャルルに勝てなかったとしてもチルノとラウラがいる。

だから、今私が成すべきことは少しでもシャルルを引きつけること…!

 

 

ヴン!

 

 

「はあああああああああ!!」

 

「特攻!?」

 

 

ドシュッ!ドシュッ!ドシュッ!!

 

 

私はビームライフルをマウントし、シールドを外して両手にひとつずつビームサーベルを握ると、

インパルスのスラスターを全開にして一気にシャルルとの距離を詰める。

シャルルは距離を取ってビームライフルによる射撃で私を撃ち落とそうとしているけど

そんなことは関係ない。

後ろ向きに後退しているシャルルに対して私は前方に最大スピードで突っ込んでいる。

だからすぐに距離を詰められる。

このまま…つっこむ!!

 

 

「でぇい!!!!!」

 

 

ズバァッ!!

 

 

「っ!?」

 

 

私が振り下ろした二振りのビームサーベルのうちの片方がストライクのビームサーベルを両断した。

シャルルは破壊されたビームライフルを捨てるとシールドも捨てて

両手にひとつずつビームサーベルに握った。

 

 

「ははは…。少し油断したらすぐに追い詰めてくる。君は本当に凄いよ。真優」

 

 

これで条件は殆ど同じ。

ここからは私とシャルルの我慢比べだ。

どこまでやれるかわからないけど…やれるだけやってみせる!

だから…そっちはお願いね。チルノ、ラウラ…。

 

 

◆ Side チルノ

 

 

IS学園 第1アリーナ バトル・フィールド

 

 

ドガアアアアアアアンッ!!!

 

 

「うわわ!」

 

 

真優がシャルルを相手に頑張っている頃、あたいとラウラはピンチに陥っていた。

ぶっちゃけ言うとあたい達とシャルロット達の相性は最悪だ。

ブレード一本だけのあたいと射撃武器がレールキャノンしかないラウラは

遠距離から飛んでくるミサイルとかの弾幕を迎撃する手段が無い。

このままだとジリ貧になるのは確実だ。

 

 

「チィッ!」

 

「ホラホラァッ!!」

 

 

ダァンッ!!

 

 

ラウラがレールキャノンを展開して反撃しようとするけどレールキャノンを撃つには

一度機体の動きを止めなきゃいけない。

勿論そんな隙をシャルロット達が逃がす筈がない。

シャルロットはマシンガンから対装甲ライフルへ瞬時に持ちかえるとすぐにこっちへ撃ってきた。

ヤバイ!

このままあたいが避けたら後ろにいるラウラに攻撃が当たってしまう。

そう思ったあたいはブレードを盾にして攻撃を防いだけれどそれがまずかった。

 

 

パキィン…

 

 

「あ…」

 

 

シャルロット達の攻撃を防げたのは良かったけれどあたいが持っている唯一の武器が砕けてしまった。

それと同時に大量のミサイルが殺到してきた。

このままじゃあたい達は負けてしまう。

負けたくない…。

 

 

「これは…」

 

「なんで…?」

 

 

そう思った瞬間、拡張領域にしまってあったはずのエクスカリバーを握っていた。

まだ、あたいはこの剣に認めてもらっていなかったからただの剣だったけれど

今、あたいの右手に握られている約束された勝利の剣は刀身から蒼い光を放っている。

そして、あたいが約束された勝利の剣を横薙ぎに振るうとあたい達に殺到してきたミサイルは

約束された勝利の剣から放たれていた蒼い光が収束してミサイルを全て薙ぎ払った。

 

 

「そっか…ようやくあたいはこの剣に認められたんだね…」

 

 

大量のミサイルが一薙ぎで薙ぎ払われて棒善しているシャルロット達を余所に

あたいは嬉しくてたまらなかった。

この剣はあたいと――――を繋ぐ絆だ。

そして、この黄金の剣はあたいのことを自分の使い手として認めてくれた。

今なら…勝つことができる!!

 

 

「チルノ…お前は…」

 

「ラウラ!今から少しだけ時間を稼げる!?」

 

「…どれくらい時間を稼げばいい?」

 

「一分!」

 

 

あたいはあたいに話しかけてきたラウラに一分ほど時間を稼いでほしいと頼んだ。

理由は簡単。

今から放つ技は放つまでに少し時間が掛かるからだ。

だけど、放つことができたらシャルロット達を一撃で倒すことができる必殺技だ。

 

 

イメージBGM:Fate/stay nightより Excalibur

 

 

「…わかった。信じるぞ。チルノ」

 

「なにをする気かは知らないけどやらせないよ!」

 

 

ガガガガガガガガガッ!!!

 

 

「やらせん!」

 

 

チュインチュインチュインチュインチュインッ!!

 

 

ラウラはあたいのことを信じてくれたらしい。

復帰したシャルロット達があたい達に大量の弾幕を張るとラウラはワイヤーを高速回転させて

次々と飛来するミサイルや大量の弾を防いでくれている。

あのワイヤーってそんな使い方があったんだ…。

 

 

バキィンッ!

 

 

「っ!?すまん!これ以上は無理だ!」

 

「ううん。もう。大丈夫!ラウラはあたいの後ろに下がって!」

 

 

でも、本来の用途とはまったく違う使い方をしたせいで両腕のワイヤーが千切れてしまった。

ラウラは顔を青くしたけれどラウラは十二分に時間を稼いでくれた。

あたいはラウラにあたいの後ろに下がるように指示を出すと

刀身が蒼い光に包まれた約束された勝利の剣を構える。

今なら…この剣の真価を発揮することができる!

 

 

「この剣は星が生み出した聖剣。勝利を約束する黄金の剣!」

 

 

チャキッ!

 

 

あたいが約束された勝利の剣を空に掲げるとあたいの周囲が蒼い光に包まれ、

その光は約束された勝利の剣の刀身に収束されていく。

そして、蒼い光を纏った約束された勝利の剣を振り下ろし、あたいはこの剣の真名を解放した。

 

 

「約束された【エクス】!!勝利の剣【カリバー】!!!!!」

 

 

ギュオン…ズガガガガガガッ!!!

 

 

「「きゃああああああああああっ!!!!」」

 

 

約束された勝利の剣から放たれた蒼い光の帯は圧倒的な熱量でシャルロット達の攻撃を消滅させ、

シャルロット達も呑みこんでバトル・フィールドの端まで届き、霧散した。

残ったのは大きく抉られた地面と気絶しているシャルロット達だけだ。

なんとか…シャルロット達に勝てたみたい。

 

 

「あ…。シールドエネルギーが…」

 

「真優の援護は私がやる。チルノは先に休んでいろ」

 

「…わかった。お願いね」

 

 

だけどさっきの一撃でリヴァイヴのシールドエネルギーが底をついたみたいだ。

リヴァイヴのシールドエネルギーもあの一撃を放つためのエネルギーとして使われたのかな。

とにかくあたいはもう戦闘に参加することはできない。

あとはここにいるラウラとシャルルと戦っている真優にまかせよう。

あとはお願いね。真優、ラウラ。

 

 

◆ Side 真優

 

 

IS学園 第1アリーナ バトル・フィールド

 

 

「きゃっ!」

 

「うわっ!」

 

 

私達の耳を襲った轟音は思わず戦いの手を止めてしまう。

そして、轟音がした方向へ振り替えると蒼い光の帯がシャルロット達を呑みこんでいた。

その光景はあの時セイバーが遥か永久に黄金の剣の真名を解放した時を連想するものだった。

つまり、あの光の発生源は…

 

 

「チルノ…!」

 

「ふふ…まさかあんな隠し玉を持っているなんてね」

 

 

やっぱりチルノが持っていた黄金の剣からだった。

チルノのリヴァイヴも各所から煙が噴き出ている。

たぶんシールドエネルギーも底をついているだろう。

でも、あの光に呑みこまれたシャルロット達は気絶している。

どうやらチルノとラウラはあの二人に勝てたらしい。

シャルルはチルノのあまりにも規格外な攻撃を見て苦笑している。

まあ、そりゃあんなバカみたいな威力を持つ攻撃を見たら驚くよね。

それはそれとして、シャルロット達の撃破に成功した。

後は…シャルルのストライクだけ!

 

 

「ははは。これじゃあ僕達の負けは濃厚かな?でも…最後まで付き合ってもらうよ!」

 

「っ!」

 

 

少しだけどシャルルの動きがさっきまでより悪くなっている。

たぶんシャルルのストライクのシールドエネルギーの残量がもう少ししかないからだと思う。

実は私のインパルスとシャルルのストライクは共通の弱点がある。

それは私達の機体に使われている装甲や装備はシールドエネルギーを使って稼働していること。

特にビームサーベルを使っている時は一夏の零落白夜程じゃないけれど

シールドエネルギーが物凄い勢いで減っていく。

今のインパルスのシールドエネルギーの残量は50…。

あと一発でも攻撃を受ければ0になる。

それはシャルルも同じ

なら…ここで決める!!

 

 

「「はあああああああああああ!!!!」」

 

 

ズバァッ!!

 

 

『勝者!チーム・エミヤ!!』

 

 

私とシャルルの斬撃が同時に直撃した。

そして、インパルスとストライクのシールドエネルギーは同時に底をついた。

見事に相討ちだ。我ながらよくやったほうかな…?

 

 

「あはは…君は本当に凄いね」

 

「…ううん。凄いのは私じゃなくてインパルスの方、私はただ無我夢中でやっていただけだよ」

 

 

シャルルは私に最大の賛辞を送ってくれた。

でも、私がここまで戦えたのはインパルスの性能の高さのおかげであって私の実力じゃない。

もし私が別の機体に乗っていたら負けていたのは私だ。

だからこれは私の力じゃなくてインパルスの力のおかげ。

 

 

「また謙遜して。まあ、そんな君だから僕は………」

 

 

ワアアアアアアアアアアアアアアアッ!!

 

 

「…………(ズーン」

 

「?」

 

 

私の答えに対してシャルルは苦笑した後何か私に言ったみたいだったけれど

スタジアムの完成のせいで聞き取れなかった。

なんかシャルルも少し暗い表情をしたけど何を言いたかったのかな?

まあ、ともかく今はシャルル達に勝ったことを喜ぼう。

………本当に、シャルルは何を言おうとしていたのかな?

 

 

◆ Side シャルル

 

 

IS学園 第1アリーナ 男子更衣室

 

 

「はあ…結局言えなかったな…(ズーン」

 

 

準決勝で敗退した僕は新しく用意された男子更衣室で制服に着替えながら落ち込んでいた。

理由は簡単、勇気を振り絞って告白したのに周囲の歓声のせいで真優に聞こえなかったからだ。

熱くなるのは別にかまわないけど告白できなかったのは辛いなぁ。

 

 

「よ。シャルル。その顔だと…言えなかったのか…」

 

「はは…まあね」

 

 

そんなことを考えているともう一人の男性操縦者…一夏が更衣室に入ってきた。

実は一夏にだけ今日の準決勝で真優に告白することを伝えていた。

だから、一夏は僕を応援してくれていた。

でも僕は一夏のように上手く告白することはできなかった。

 

 

「まあ、あんな歓声じゃあなぁ」

 

 

あの歓声の最大の理由は殆ど勝ち目のない戦いを引き分けに持ち込んだ真優への賞賛のものだ。

真優のことを称賛してくれたものだからあまり責めることはできない。

 

 

「もう一度告白する気はないのか?」

 

「一夏はまた難しいことを言うんだね。一夏にはできるの?」

 

「う…。そう言われると辛いな…」

 

 

…地味に一夏も難しい要求をしてくるね。

あの時持っている勇気を総動員してようやく告白しようとしたのに

今からすぐに告白するなんて僕には無理だ。

そう考えると…。

 

 

「グラディスさん…凄いよね」

 

「ああ…。あんな風に告白するなんて俺には無理だ」

 

 

一回戦の時に堂々と真優に告白したグラディスさんの胆力は尊敬に値する。

あんな風に沢山の人が見ている前で堂々と告白できる人は僕が知る限りだと彼女だけしかいない。

…あまり参考にしてはいけない気がするけど。

まあ、とりあえず今は真優が優勝することを祈ろう。

それが今の僕にできることだからね。

 

 

◆ Side チルノ

 

 

IS学園 第1アリーナ 第1ピット

 

 

「あれ?誰もいない…?」

 

「…まさかな」

 

 

無事に準決勝を突破したあたい達がピットに戻るとピットには誰もいなかった。

真優はなんでピットに人がいないのか頭を捻っていたけどラウラは理由がわかったみたい。

ちなみにあたいもなんでピットに誰もいないのかを知っている。

ここに誰もいない理由は…

 

 

「や。準決勝突破おめでとう。チルノ」

 

「これくらいは当然だ。チルノ」

 

 

そこに、二人が居たからだ。

白い私服を着たエルと黒い私服を着たギル。

エルは見ただけで心が安らぐような笑顔をギルは全てを見抜く目であたいを見ている。

ああ。二人ともいつもと変わらない顔であたいを出迎えてくれている。

IS学園の入学試験を受けた日から会っていなかったけど二人とも元気そうだった。

それがたまらなく嬉しい。

 

 

「ギル!エル!」

 

 

気がついたらあたいはギルに抱きついていた。

エルは苦笑しているけど今はギルの温もりを感じていたい。

 

 

「まったく。貴様は…(ナデナデ」

 

「えへへ…」

 

「あはは…チルノは本当にギルが大好きなんだね」

 

 

ギルはあたいに小言を言うけど嫌がらずにあたいを受け止めて頭を優しく撫でてくれる。

この時が一番安心できる。

ギルがなんだかんだ言ってもしっかりとあたいを認めてくれるのが嬉しい。

あたいにお父さんはいないけれどお父さんの温かさってこんな感じなのかな…?

 

 

「すみません。貴方は学園の関係者ですか?」

 

 

あたいがギルに撫でられているとあたいの後ろから真優が声をかけてきた。

二人からしてみれば学園の関係者でも無い人が関係者以外の立ち入りを禁止している

このピットにいるということを不審に思ったんだと思う。

まあ、いつの間にか居なくなったピットに入っている時点で怪しいよね。

 

 

イメージBGM:Fate/Extra CCCより Cosmic air

 

 

「誰に許可を得て我に発言している?」

 

 

真優に声を掛けられたギルは途端に不機嫌になって真優を睨みつけた。

あ、ヤバイ。メッチャ怒ってる。

もし殺気だけで人を殺せるなら3回は殺せるほどの殺気を真優に向けている。

と、刀傷沙汰とかにならないよね…?

 

 

「いきなり話しかけたのは謝ります。でもここは関係者以外立ち入りを禁止している区画です」

 

「チルノに害を為さなければいい。だが、害になるのならば此方も武力行使をする準備がある」

 

 

真優に続いてラウラもギルの殺気にも怯まずに堂々とギルに発言した。

うん。二人の精神力って凄いね。

普通の人なら良くて腰を抜かしたり最悪失神したりする場合だってあるのに…。

まあ、あたいも普通に立っているけどさ。

 

 

「ほう…?」

 

 

あ。ギルの目が変わった。

間違いなく真優とラウラを気に入ったという顔だ。

ギルは真っ向から自分に発言する人が好きだから…。

隣にいるエルの顔を見ると驚き半分、称賛半分といった表情で二人を見ている。

たぶん理由はギルに対して堂々と発言している二人に興味を持ったのかな?

まあ、あたいとエル以外に真っ向からギルに発言する人なんていなかったからね。

 

 

「貴様達…名をなんという?」

 

「私はチルノの友達の衛宮真優です」

 

「同じくチルノの友人のラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

「我の名はギルガメッシュ。こいつの後見人だ」

 

「僕の名前はエルキドゥ。ギルと同じくチルノの後見人だよ。よろしく」

 

 

うん。二人とも完全にギルに気に入られたね。

でなきゃギルに名前を聞いたり自分の名前を名乗ったりなんかしないもん。

しかも名乗った時に衣装をあの金ぴか鎧に変えたんだから相当気に入られてる。

それにエルにも気に入られているね。

 

 

「ギル。そろそろ時間だよ」

 

「そうか。チルノ、我達は戻る。ここまで来た以上、無様な敗北は許さぬからな」

 

「もちろん!」

 

 

どうやらギルとエルはもう帰るみたいだ。

もう少し話をしていたかったけれど引きとめたらギルの迷惑になるだろうから今は我慢しよう。

それに、ギルとエルはあたいの試合を全部見に来ると思うから

観戦しに来ている二人に胸を張れるように決勝も勝とう。

それが今のあたいが二人に出来る恩返しだからね。

っと、その前に…。

 

 

イメージBGM:Fate/stay nightより 茜色の街

 

 

「ラウラ。あたいの事なんだけどさ。あたい達の部屋で話したいんだけどいいかな?」

 

「ああ。ここでは誰かに聞かれるかもしれないからな…。真優もそれでいいか?」

 

「うん。いいよ」

 

 

話をする場所をここじゃなくてあたいとラウラの部屋で話したいことを伝えた。

ここだと誰かに聞かれる可能性があるからね。

ラウラと真優も了承してくれた。

さてっと…どうやって説明すればいいかな?

ま、なんとかなるさ!

 

 

 




どうも明日香です。
今回は準決勝第二試合とチルノが持っている約束された勝利の剣の真名解放という内容になりました。
今回、真優がシャルルに引き分けまで持ち込めたのは真優の精神力の強さとインパルスの性能の高さによるものです。
とはいってもあくまで防御に専念したから引き分けまで持ち込めたのであって普通に戦えば真優が負けます。今回真優達が勝てたのはチーム戦だったというのが非常に大きいです。
さて、次回は真優、セシリア、チルノ、ラウラのそれぞれの身の上話という話になります。
それでは、次回を楽しみにしていただけると幸いです。

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