カンッカンッカンッカンッカンッ!
「はあっ、はあっ、はあっ!!」
私は今、この学園のアリーナから走って逃げていた。
理由は簡単、私の最大戦力が何もしないうちに破壊されたからだ。
まさかアレのコアがあそこまで反発するなんて!
アレのコアは私達が総力を挙げて作り出した特別製のものだった。コアの中に英霊の魂を封じこみ、英霊としての力と莫大な魔力を運用するものだった。
その中でもアレに使われていたコアは一級品の英霊の魂が封じ込められていた。
もちろん、そのままでは従う筈がないから3年の時をかけてジワジワと精神を破壊して無理矢理従わせていた。あのコアが出した戦果も凄まじく、第一世代のISで第2世代のISの中隊とひとつの都市を壊滅させたほどだ。だから、一年前に私が試験運用で最大級の戦果を出したアレと合わせた運用でこの学園を壊滅させる予定だったのにコアの方が反発し、あろうことかこっちのターゲットと契約を結んだ。
念のために送ったアレも未だに帰ってこない。
なら、周囲がパニックになって逃げているこの隙に早くここから離脱しなければ…。
「はあっ、はあっ、はあっ!」
何とかこの学園の外に出ることができた…。
後は回収ポイントに向かって回収部隊を待っていれば…。
ズガァンッ!!
「っ!?」
あと少しで回収ポイントに着く所で私のすぐ目の前に何かが着弾した。
そのせいで私は強制的に動きを止められてしまい、大きな隙を晒してしまった。
おそらくさっきの射撃は威嚇射撃、それも私の前方から飛んできた。
つまり、私の動きは読まれていたことになる。じゃあ、一体誰が私を…?
そう思って眼を凝らして土煙の先にいる人影を見るとそこには…
「…まさかこんなところで再会すると思っていなかったわ。シン」
「やはり、君だったか…」
嘗て私が住んでいた世界に流れ着き、旅立っていった青年が弓を構えながら私の前に立っていた…。
第20話「激闘の裏で…」
◆ Side アルトリア
IS学園 第1アリーナ バトル・フィールド
「…いきなり現れたあの黒いのといい、その中から現れた動く甲冑といい、心臓を貫かれた真優が何事もなく動いていたことといい、さっきの光といい…色々ありすぎて頭がゴッチャになっているわ…」
「俺も…」
「私もだ…」
「私も…」
紅い外套を纏った真優と狂気に落ちていたモードレッドが戦い、激闘の果てに真優がモードレッドの鎧に取り付けられていた白いコアが破壊し、モードレッドが正気を取り戻していました。
ようやく動けるまで体力が回復した私達は先程まで色々と起こっていた出来事で頭が一杯になって混乱しています。
ただ、一部は例外もいるわけで…
「流石は私が惚れた乙女だ!」
「さっすが真優ね!」
「…アンタらは単純でいいわね」
約二名…チルノとグラディスだけはこの状況にも関わらず普段と変わらずモードレッドを救った真優を手放しに賞賛していました。…二人の単純さが羨ましいです。
「…まずは真優を回収しないといけないな」
「そうですね。はあ…」
私はこれから最も顔を会わせづらい二人とこれから顔を合わせなければならないというのに…。
うう…出来ればここから逃げ出したいです…。
…そういえば誰か忘れていたような。
「おひさしぶりです。王よ」
「ランスロット…あ」
ラウラと共に真優とモードレッドの許へ行こうとした時にランスロットが声をかけてきました。
そういえばランスロットはランサーと交戦をしていたような…あ。
「ら、ランスロット、ランサーは!?」
「…申し訳ありません。一瞬の隙を突かれ、取り逃がしてしまいました」
…どうやらランサーはここから撤退したようですね。
ですが、このまま放っておけばここにいる生徒達に被害が出てしまいます。すぐに追撃しなければ…!
…ん?そういえばランスロットが持っている黄色い槍には見覚えがあるような。
「ランスロット、その槍は…」
「ああ。狂気のままに振るわれては厄介ですので強奪しました」
「「………」」
そういえばランスロットには手に取った武器を自身の宝具にする宝具を持っていましたね…。
「「「………」」」
く、空気が重い…!
な、何とかしてこの場の空気を乗り越えなければ…。
「あー…話の途中で悪いけどいいか?」
「はうっ!?(ビクゥッ」
そう考えていると私の後ろから聞き覚えのあり、そしてこの場で最も会いたくない人物の声が聞こえました。
思わず変な声をあげてしまいましたけどイチカ達には聞こえていませんよね…?
ど、どうやらイチカ達は気が付いていないようです。
よかった…。もし聞こえていたら首吊りものです…。
「………も、モードレッド?」
「ああ、ひさしぶりだな。父上、それに不倫騎士も」
恐る恐る後ろを振り返ってモードレッドの顔を見ると私が想像していた敵意丸出しの顔ではなく、どこか穏やかな表情で、カムランの丘で戦った時のような憎しみに溢れた顔ではありませんでした。
「そうだ、マユは…」
「ああ。できれば落ち着く場所で休ませたいんだが…」
「わかりました。保健室まで案内しますよ」
「頼んだぜ、父上」
「では、私はマスターと共に“後始末”がありますのでお二人で行ってきてください」
「あ…」
モードレッドの腕の中にはマユが眠っていました。
セシリアとの戦闘をした直後に黒い巨人の撃破に向かったところでランサーに胸を貫かれて復活してモードレッドとの大立ち回りを演じ、最後にはモードレッドを自分のサーヴァントとして契約をしたのです。これで疲れて眠っているだけですんでいる当たり非常に幸運ですね…。
ですがこのまま寝かせておけば風邪をひいてしまいますので保健室に連れて行きましょう。
まあ、流石に男性であるランスロットを同行させたら目立ってしまうのでモードレッドと二人で行くことになりましたが…。
恨みますよ…ランスロット。
◆ Side シン
IS学園近辺 海岸
「…まさかこんなところで再会すると思っていなかったわ。シン」
「やはり、君だったか…」
俺の目の前に金髪の少女…リリー・アルカディアの幹部、アリス・マーガトロイドが息を切らせた状態で立っている。
あのデストロイを操っていた見えない魔術の糸に見覚えがあった。
だから、彼女があの組織の主要なメンバーだということは薄々察しがついていた。
そして、彼女が何をしようとしているのかも知っているし、その原因の根幹に俺が関わっているのも知っている。だが、それでも彼女が今回の件に関わっていてほしくないと思っていた。
そんな願いは儚く砕け散ったがな…。
「…迂闊だったわ。あの騎士王がいるのだから貴方がいても不思議ではなかったのにね」
「そういうことだ…(チャキッ」
威嚇射撃に使ったAISAをナノトランサーにしまい、両腰に差していた干将莫邪を構える。
かなり消耗しているが彼女は人形を操る力を持っている。下手に情けをかければ後に大きな災いとなる。後顧の憂いは…ここで断つ!
ガキィンッ!
「っ!」
やはり護身用の装備を持っていたか。
彼女が持っているのは魔力によって強化されたレイピアだ。
それもかなり念密に練られた一級品の魔術礼装…一流の魔術師である彼女だからこそ製作することができた業物だろう。
本当に用心深い…。
「はあっ!!」
「っ!」
ガキィンッ!!
「まったく…いつの間に剣術を学んだのやら」
「それを教える義理は…ないわ…!」
それに基本的なものではあるが彼女は剣術をマスターしている。しかもその型は防御に特化した型だ。攻める此方側としては厄介極まりない!
まったく、どこでそんな剣術を覚えてきたのやら…。
だが…!
「はっ!!」
「くぅっ!」
カァンッ!
「せいっ!!」
「きゃあっ!!」
ガキィンッ…トスッ!
強めの攻撃で体勢を崩し、体勢が崩したところをすかさず弾きとばす。
確かに防御特化型の型は厄介なことに変わりはないが彼女の腕力はそこまで強くない。
故に彼女が学ぶべきだった防御の型は受け切る型ではなく受け流すべき型だった。
デストロイの制御で体力を消耗していたことと学ぶ剣術の型を間違えたのが彼女のミスだ。
これで武装は無くなった。ここで一気に彼女を…っ!?
「…チィッ!!」
ズガァンッ!!
『aaaaaaaaaaaaaaaaa!!』
殺気を感じて後ろに飛び退くと俺がさっき立っていたところに黒いサーヴァントが立っていた。
このサーヴァントは…間違いない。第1アリーナで真優を刺したサーヴァントだ。
しかもどういうわけかこの世の全ての悪に汚染されて完全に理性を失って暴走している状態だ。まったく、間の悪い!!
「っ!」
カンッカンッカンッカンッカンッ!
「っ、逃がすか!!」
『!!』
ズガァンッ!!
一瞬の隙を突かれ、彼女の逃走を許してしまった。
海へ飛び降りたと思えば下から潜水艦が現れ、彼女を収容するとともに潜水していった。
これではもう追うことすら叶わないだろう。
奴等の拠点を暴く最大の情報をみすみす逃がしてしまうとは…!!
そして、黒化した英霊は自分が置いていかれたにも関わらず俺を足止めしようとしている。
既に自分は捨て駒なのだと気がついているはずなのに…。
まったく、理性を失っても主を守ろうとする忠誠心だけは残っているか…。大した忠義だ。
だが、それも長くは続かない。放っておけばすぐに消え去ってしまうだろう。
…ならばせめて死ぬ前に狂気に囚われた彼を救い出す。
そのために黒化したサーヴァントを一度弾きとばして距離を取り、ナノトランサーからAISAを再び取り出してとある剣を呼び出す。
「I am the bone of my sword. 【――― 体は剣で出来ている】」
俺が呼び出した剣は嘗て黒く染まりかけたアルトリアと打ち合うために使った嘗て俺の愛機の装備を宝具化した神殺しの漆黒の魔剣。天使を葬りし者の剣【エクスカリバー】。
出来そこないとはいえこの世の全ての悪は神霊だ。神性を持つ者に対して威力を発揮するこの剣ならば威力は十分だろう。
『aaaaaaaaaaaa!!』
「我が憎悪は歪み狂う…天使を葬りし【エクス】、者の剣【カリバー】!!」
AISAの補助で莫大なエネルギーをためたエクスカリバーはまっすぐに黒化したサーヴァントの霊核に直撃し、この島の塔の壁に縫い付けた。
「俺は…」
「眼が覚めたか?ランサー…」
両腰にしまった干将莫邪を再び手に持って縫い付けた場所へ向かうと黒化した英霊…第四次聖杯戦争時にアルトリアと戦ったランサーのサーヴァント、ディルムッド・オディナは既に狂気から解放され、正気を取り戻していた。
「ああ…」
「黒に染められ、狂気に駆られても自身のマスターを守った貴方を俺は尊敬する」
黒化され理性を奪われても尚、彼女に忠誠を貫き通した彼は尊敬に値する。
だから俺は徐々に消えつつあるランサーに俺は敬意を持って彼の最期を見届ける。
「そうか…」
「何か言い残すことはあるか?」
「そうだな…次に会い見える時は正々堂々と勝負したい。そう伝えてくれ」
「…わかった。必ず伝えよう」
「…ああ。頼む」
サアアアアアアアアアア…
ランサーは俺に遺言を言い残すとそのまま黄金の光となって空に散っていった。
それは最期のランサーの心を表している。
「………この代償、高くつくぞ。百合狂い(グッ」
先程までランサーが居た場所に刺さっている剣を抜いた俺は人知れず拳を強く握りしめていた。
忠義に生きたいと願った彼を黒に染め上げ、自身の手駒にした彼女達の行いは決して許せるものではない。
それに、彼女達の侵略によってIS学園の信頼は著しく落ちてしまうだろう。
今回はデストロイが動く前にアルトリア達が止め、サファイアとインパルスの奮闘によって真優は一命を取り留めることができた。
真優達の被害は最小限に留めることができたがこの偶然が何度も続くとは思えない…。何か手掛かりを掴まなければ…。
このままでは彼女達の思うつぼだからな…。
◆ Side ラウラ
「ふぅ…魔術痕の後始末はこれで出来たか」
「ラウラ。あちらにあった黒い巨人のコアは破壊しておきましたよ。
あと、これはフライトレコーダーですね」
「すまない、助かった。何かあれば呼ぶからそれまで霊体化して待機していてくれ」
「御意(ス…」
アルトリアがモードレッドと共に真優を保健室に連れていった後、私はバトル・フィールド内のあるものの後始末をしていた。
後始末をしていたのは魔術によって出来た魔法陣と【破壊者】のコア部分と動力源、及びフライトレコーダーの回収、一部始終を捉えていたカメラのデータの破壊、観客に魔術を認識させないために張った結界の除去、そして事の顛末を見た一夏達への緘口令だ。
とは言っても、結界の後始末とカメラのデータの破壊以外は簡単にできるし、コアの破壊もランスロットが木っ端微塵に破壊したから問題ない。
ランスロットも霊体化させておけば気付かれることはないだろう。
あとは…
「お前達、今回このバトル・フィールドで起こった出来事は他言無用だ」
一夏達に釘を刺しておくことだ。
「もし漏らせば…お前達の命は無いぞ」
「お、おう…」
瞬時にナイフを抜き、一番近くにいた一夏にナイフを当てて殺気を普段の5割増しにして脅しをかけておく。
元より魔術に縁がある私とチルノと真優、真優の魔術をずっと間近に見てきた箒はともかく一夏達は魔術に全く縁の無かった者達だ。そんな彼らに魔術を見られた以上、これ以上情報が拡散することを防がなければならない。
もしこれが魔術教会に洩れてしまえば真優が教会に狙われてしまうからな。それだけは避けなければならない。
まあ、これだけ脅しておけば大丈夫か。
「【はあ…】」
「【マスター、何か気になることがあったのですか?】」
「【ああ。あの黒い巨人について少しな…】」
だが、ひとつ不可解なところがある。
私が知っている【破壊者】は無差別に破壊を振り撒いていた。
だが、今回モードレッドをコアにしていたあの【破壊者】はモードレッドが反抗したことで動くことなく跡形もなく破壊された。
それに破壊される直前にあの【破壊者】の装甲を見たが僅かにだが2号機と書かれていた。
私が一年前にドイツで見た【破壊者】の装甲には1号機と書いてあった。
つまり、今回現れた【破壊者】はあの時の【破壊者】ではない。アレをけしかけた組織は少なくとも【破壊者】をもう1機持っている可能性が非常に高い。
だが、公に出ている組織の中でここまで強大な軍事力を持った組織は聞いたことが無い。
考えられるとしたら【百合狂い】か…。
…これはシン様とマキリ様に報告をする必要がある。
もう、あの日のような悪夢を見るのは沢山だからな…。
◆ Side 千冬
IS学園 第1アリーナ 管制室
「山田先生、被害状況の報告を…」
「はい。観戦をしていた人達は怪我ひとつありませんでした」
先程まで断たれていたバトル・フィールド内との通信が回復し、山田先生に被害状況の確認を任せた私は椅子に深く腰掛けて山田先生に聞かれないように小さくため息をついた。
あの黒い巨人がバトル・フィールドへ落ちてきてからバトル・フィールドに繋がる通信や監視カメラが全て使えなくなり、危険と判断した私はすぐに観客への避難勧告を出したが正解だった。
まったく…今年になってからIS学園で起こるが発生し、一月も経たぬうちにまた大きな事件が発生した。
これでIS学園の信頼は地に落ちただろう。
この後私達が追われることになる対応の内容を考えると頭が痛くなる…。
「次にバトル・フィールドですけどカタパルトが破壊された以外は特に損害はありません」
どうやらバトル・フィールドへの被害は想像以上に出ていなかったようだ。おそらくアルトリアとチルノとセシリアがあの剣を黒い巨人にぶつけたのだろう。
まったく、あいつ等は…だが、そのおかげで被害を抑えられたことは感謝しなくてはならないな。
「それとアルトリアさんが保健室の使用許可を求めていますがいいかがなさいますか?」
「…負傷者が?」
「いえ、真優さんが疲労で倒れたと…」
「…許可を出しましょう。彼女達の事情聴取は私が行います」
「わかりました。引き続き被害状況の確認をしています」
「お願いします…」
…バトル・フィールドで何があったのかあいつらに聞く必要がある。ただ、あいつ等の中で体力が最もある真優が倒れたのなら中で何かが起こっていた筈だ。
あいつ等には悪いがこれも仕事だ。あいつ等が知っている情報を全て吐いてもらうぞ。
…はあ、今年になってから厄介事ばかり起こっているな。今年は厄年ではない筈だがIS学園にいる誰かが呪われたりしているのではないか…?
まあ、とりあえず保健室に向かうとするか…。
◆ Side 真優
???
暗い…とても、暗い…。
一面の闇、何処も彼処も闇で覆われている。いや、この場所自体が闇そのものだ…。
とにかく落ち着こう。このままだと今自分がどんな状況なのか掴むことができない。
ます、私がここに来る前に何をしていたのかを思い出そう。
「確か私はモードレッドと戦って…モードレッドを助けるためにモードレッドと契約して…」
そうだ。
私は黒い巨人を止めるために巨人との距離を詰めた直後に黒い何かに胸を刺された。
で、その後サファイアと契約して意識を取り戻してアーチャーの力を借りて誰かに操られていたモードレッドと戦ってモードレッドを操っていたコアを破壊した。
最後に、モードレッドを消滅から助け出すためにモードレッドと契約して…その後、気を失った。
「ん?これは…道?」
私がここに来るまでの状況を思い出していると私の目の前にオーロラのような道ができた。
オーロラの道の先を見てみるとここからでは何処まで続いているのかわからない程に長い。
一体、この道はどこまで続いているのだろう…?
幸い身体は動かせるからこの道を辿って行こう。
「それにしても、ここは何処なんだろう…?」
私はそんなことを呟きながらオーロラの道を歩いていた。
できるだけ早くみんなの居るところに戻りたい。
たぶん倒れた私のことを心配していると思うから…。
それにしてもここは一体どういった場所なのだろう…?
夢とは何か違う気がするし…。
「………」
もう、どれだけ歩いただろうか…。
一瞬だけ歩いているのかもしれないし永遠に歩いているかもしれない。なんというか時間という概念がここでは存在しないような気がする。何故かと言われても私にはわからない。
ただ、ここは私達の居る世界ではない。それだけがわかる。
「あれ?ここから光が途絶えている…」
また歩き続けていると今まで私を導いてきたオーロラの道が消え去っていた。
これはマズイ…。このままじゃ何処へ向かって歩けばいいのかわからない。何とかして元の場所へ帰る方法を見つけないと…。
「そういえばここだけうっすらとだけど光が出ているね」
どうしようかと考えて周囲を見回すと最初に居た場所とは違ってこの場所はあちこちから光が出ている。
もしかしたらここから帰る手段が見つかるかもしれない。
そう思ってその光が出ている先を見つめた。
あれは…カプセル…?
「ひっ!」
私はカプセルの中身を見たことに後悔した。
なぜなら、そのカプセルの中には…。
「箒!?それにセシリアも一夏も鈴もシャルロットもラウラも!?なんで?どうして!?」
私の親友たちがカプセルの中に収められていた。
もう、何がなんなのかわからない。
ただ、私はこの場所が恐ろしくなった。
早くここから逃げ出したい。みんなが居る場所に帰りたい。
グバアッ!!
「きゃあっ!?」
カプセルで埋め尽くされている壁からドス黒い何かが飛び出し、私は雁字搦めにされた。
逃げ出そうともがくけれど黒い何かから抜け出すことができず、徐々に力が抜けていく。それと同時に私の身体が黒い何かと一体化していく。
そして、酸素を求めて口を開けた瞬間、口の中からも黒い何かが私の中に入ってきた。
私が、私とは違う何かに侵食されていく。思考が奪われていくなか私はあることだけを願った。
早くみんなのところに帰りたい!!
ただ、それだけを願った。
『大丈夫だ。真優は俺達が守るからな』
『そうそう。真優、貴女はまだまだ幸せな人生を送るべきなのよ』
非常に懐かしい声が聞こえた。
もう二度と聞くことが無いと思っていた声を…。
その声を認識すると同時にオーロラのような光が黒い何かを浄化し、私の身体に入ってきていた黒い何かも消え去った。
そして、声がした場所を見るとそこにはさっきの光を放っているTの形をした何かのフレームが私の前で漂っている。
「これは…」
『さあ、こっちだ。真優』
私の身体が動くようになると眼の前に漂っているフレームがオーロラの道を作りながら飛んでいった。
そして、声に導かれるままにフレームが作り出していった道を走って辿っていくとみんなの声が聞こえる。
そして、無限に続いていると思っていた闇はいつの間にか抜け出し、いつの間にか視界がホワイトアウトした。
IS学園 学生寮 保健室
「う、ううん…」
「「マユ!」」
誰かの声が聞こえる。
そうだ。この声はアルトリアとモードレッドの声だ。つまり、ここは…元の世界…。
「マユ!目が覚ましたのですね!」
「たくっ、心配させやがって!」
「私…戻ってこれたんだ…」
「「?」」
二人は首を傾げているけど今の私は元の世界に戻ってこられたのがとても嬉しかった。
あの時、あの声が聞こえなかったら私はあの黒い何かに呑みこまれて二度とこの世界に戻ってこられなかっただろう。今になって理解した。あの場所は、ヒトが到達してはならない場所なのだと。
そして、その領域に手を出した人達がいるということを…。
ただ、今はアルトリア達とまた会えたことを喜びたいな…。
◆ Side ギルガメッシュ
日本の某所 ギルガメッシュの屋敷
チルノがセイバー達と共に賊を討伐したのを見届けた我はいつもの安宿に戻ってきている。
既にあの場所へいる理由は無いからな。
「良かったのかい?チルノに会っていかなくて」
「ふん。あやつは生きておる。それだけで問題ない」
「うん、そうだね」
たまに我が友のエルキドゥは分かりきったことを我に聞いてくる。
まあ、確かに腑抜けたセイバーを叱咤激励し、戦意を取り戻させた手腕は見事なものだった。
だが、それを誉めるのは後でもできる。
それ以上に優先せねばならぬ問題が出てきた。
「それにしても、彼女達がまさか“あの場所”にアクセスして兵器を生産していたなんてね」
エルキドゥが言ったあの場所は我達の原典が収められし英知の結晶であり、原初の世界。
故に神ですらも届いてはならぬ禁断の領域、その領域にあの雑種共は届いて見せた。
その欲望は評価するが未来の無い欲望に興味はない。
だが、今は“まだ”チルノとあの雑種らの戦いだ。故に我から手を出すことはしない。
さあ、どの様にしてこの戦いを切り抜ける?原初の世界が全ての世界を守るために生み出した最強の防衛機構とこの世界が生み出したイレギュラーよ。
我はこの場で貴様達の戦いを見届けるとしよう。
我が動くことになるその日までな…。
どうも、明日香です。
今回はデストロイ、モードレッド戦の後始末と激戦の後でIS学園の裏で起こった戦闘、真優の精神が一時的に飛ばされたとある場所での出来事という話になりました。
はい、本作初の犠牲者はZEROランサーことディルムッドが死亡しました。このことで反発を持つ方もいらっしゃると思いますが彼が憎悪と狂気の呪縛から解放されたと解釈していただけると幸いです。
あと、今回の話で本作のチルノの正体が少しだけ出てきました(ただしチルノ本人の自覚はなし)。厳密には型月世界最強の一角である“あの存在”とは違う存在ですがそれに近い状態が本作のチルノの正体です。
さて、次回からしばらくの間は日常回になります。
学年別トーナメントは一体どうなったのか?トーナメントが終わった真優はどのように過ごすのか?楽しみにしていただけたら幸いです。