IS~衛宮の娘は遥か高き宇宙を目指す~   作:明日香

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第21話「トーナメントの行方」

 

 

モードレッドと契約して倒れたマユは無事に目を覚ましました。マユが苦しんでいる時はどうなるかと不安になりましたが全て遠き理想郷の力のおかげでなんとかなったようです。

今回は無事に目を覚ましましたけどまだまだ心配です。

マユがモードレッドと戦っていた時の動きは明らかにマユの限界を遥かに超えた動きでした。そんな動きをしていたのもマユが倒れた原因ではないかと見ています。

マユはいつも無茶をしていますからね…。

 

 

「なあ、父上」

 

「なんですか?」

 

「俺が仕出かしたこと…恨んでいるのか?」

 

「そうですね…恨んでいると言えば恨んでいると言えますね」

 

「そうか…」

 

 

しばらく重い空気が続く中、モードレッドは私に恨んでいないのかと尋ねてきました。

…まあ、いくつか言いたいことはありますね。

 

 

「勝手に人の名馬を盗んで走りだしたり私がマーリンから永遠に借りていった砂糖菓子のつまみ食いをやらかしたりしことは今でも恨んでいますとも…」

 

「ち、父上…?」

 

 

ええ、モードレッドへの恨みなら沢山ありますとも!

名場で盗んだこともマーリンから永遠に借りていった砂糖菓子を盗られたこともしっかりと覚えていますとも!

砂糖菓子を盗られた時は普段の仮面がとれかけてしまうほどにモードレッドを恨みましたとも!!

食べ物の恨みは恐ろしいですよ!

 

 

「と、まあ日常の行いに対する恨みなら多々ありますがあの時のことは恨んでいません。ただ…」

 

「ただ…?」

 

 

あの時の私がモードレッドを恨む理由?そんなものなどありません。ブリテンが滅んでしまったのは単に私が人の心がわからなかったからです。ですから、私はモードレッドを恨んでいません。

ただ、一つだけ後悔したことはありましたけどね。

 

 

「貴方のことを自分の子として受け入れられなかったことを今でも後悔しています」

 

「…父上」

 

「私は…」

 

 

時勢が時勢だったとはいえ自分の子であるモードレッドを自分の子として認められなかったことが私にとって最大の後悔です。

もし、あの時私がモードレッドのことを自分の子として認められなかったならばモードレッドが苦しむことは無かったというのに…。

 

 

「だが、今ならば問題はないだろ?」

 

「シン。その怪我は…」

 

「左手の怪我は放っておけば治る」

 

 

保健室の入口から今の私にとってなじみ深い声が聞こえて後ろを振り向くとそこには今では見慣れたこの学園の用務員の服を着たシンが立っていました。

良く見ると左手が包帯に包まれていますがシンに一体何が…?

 

 

「それよりも今まで親として接する機会がなかったのならこれから親子として接していけばいい。幸い、今は何のしがらみがない、親子として接することができる環境になっているからな」

 

「いきなり話しかけてきてアンタは父上のなんだよ?」

 

 

ああ…やはりモードレッドはシンに噛みついてしまっています。

止めようと思ってもシンが目で『大丈夫だ』というものですから止めることもできません。

ああ、私はどうすれば…。

 

 

「私か?私は…」

 

「ペンドラゴン、入るぞ」

 

 

ガラッ

 

 

「「「…………………」」」

 

「あ、織斑先生」

 

 

チフユ、私としては非常に助かったのですがこのタイミングで来てほしくありませんでした。

…モードレッドのことで頭がいっぱいでマユが起きていたのを忘れていました。

そうなると私とモードレッドの会話を聞かれていたことになります。

うう、恥ずかしい…。

 

 

第21話「トーナメントの行方」

 

 

◆ Side モードレッド

 

 

IS学園 学生寮 保健室

 

 

「「「………………」」」

 

「………なんというか、すまん」

 

 

…空気が重い。

父上と話していた時とは違う重さがこの部屋を支配している。

なんというか無理に空気を和ませようとしたら盛大に滑って逆に空気が重くなった時と同じような感覚だ。…凄く居心地がわりぃ。

 

 

「何かあったんですか?」

 

「ああ。お前達…特にペンドラゴンの隣のペンドラゴンと瓜二つの奴について事情聴取がある」

 

 

…マズッたな。完全に受肉しているせいで霊体化しようにも霊体化できねぇし、もし出来たとしてもこの場でしてしまえばマユが追求されることになってマユに余計な迷惑をかけちまう。

というかこの女、並みのサーヴァントよりも威圧感があるぜ…。

どうやってこの追及を切り抜けるか…。

 

 

「失礼、彼女はアルトリアの妹だ」

 

「ほう…?こいつに妹が居るとは聞いていないぞ?」

 

 

こいつ…なぜ俺に助け船を出す?

まさか俺に恩を売って交渉を有利に進めるつもりか?

だが、この場を切り抜けるにはこいつの話に合わせるしかねぇ。

ここに来て獄送りなんて堪ったもんじゃねぇからな。

 

 

「だが、現にこの場に居る。今日ここに来ていたのはアルトリアの試合を見るためだ」

 

「ああ、ち…姉上の晴れ舞台なんだから見に来ない理由はねぇよ」

 

 

もちろん、俺がここにいる理由は嘘だ。

あいつに話を合わせただけで実際はあの忌々しい鋼鉄の子宮の中に詰め込まれた状態で場所の認識は全く出来なかったからな。出来たのは生体反応を認識するだけ。

もし父上がアレを破壊してくれなければここは壊滅的な被害を受けていた。

ただ、もし俺があいつ等の奴隷になっていなければ身に来ていたことも事実だ。

父上の晴れ舞台を見られるのならこの星の反対側だろうと絶対に見に行くからな。

 

 

「「「………」」」

 

 

重い沈黙が続く…。

これ以上聞かれれば流石にまずい。これ以上の手札はもう持っていない。

そして、俺がここでこの女に負けたら俺は獄送りだ。

そんなことになればマユの呼び掛けに応えて現世に留まったというのにここで獄送りになればマユの想いを無駄にすることになる。ここは…勝たねぇとな。

 

 

「………上にはそう報告しておこう」

 

「助かる。バトル・フィールドで起こったことについてはラウラから聞いてくれ」

 

「わかった」

 

 

勝った!

とりあえずこいつから俺に関して尋問されるということは無くなった。

なんだかよくわからないがあの女は普通の人間じゃねぇ。

俺の勘だがこの場でかなり上の立場に就いている奴だ。

そいつが俺のことを認めたのなら下の連中も俺のことを認めなければならない。

これで大分動きやすくなったな。

 

 

「あ、織斑先生。ちょっといいですか?」

 

「なんだ、衛宮?」

 

「決勝戦の結果はどうなったんですか?」

 

「ああ。そのことか…」

 

 

あの女が去ろうとした時にマユがあの女を引き留めて決勝戦の結果を聞き始めた。

…そういえば操られた俺があの場に乱入したからお釈迦になっちまったんだよな。

決勝戦に出て…それも死力を尽くして戦った決勝戦だから結果が気になるのも当然か…。

なんだか悪いことをしたな…。まあ、操られていたとはいえ実際悪行をしてきたけどさ。

 

 

「結論を言うと残りのシールドエネルギー残量の差で衛宮のチームの勝利だ。

 最後までオルコットに食い下がったお前の諦めの悪さが勝利に繋がったな」

 

「そうですか…」

 

 

結果としてはマユのチームの勝ちってことらしい。

勝因はマユの諦めの悪さで最後までもちこたえたかららしい。

試合は見ていなかったがあの女の話を聞く限りでは余程格上の相手だったのだろう。

俺の時といいホントにマユは諦めの悪さが尋常じゃねぇな。

 

 

「話はそれで終わりか?ならば私はもう行くぞ」

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

「最後に一言だけ言っておく。あまり無茶をしすぎるなよ?」

 

 

マユの質問に答えた女はマユに忠告を言うとこの部屋から出ていった。

まあ、マユがその忠告を聞き入れることはねぇだろうな…。

 

 

「おい、アンタ…」

 

「…ここでは他の奴等に見つかる。ここの屋上で話す」

 

「…わーったよ」

 

 

さて…と、後はこの男が何者なのか確かめる必要があるな。

もし父上に害のある奴だったら刺し違えてでもこいつを殺す。

この男は…危険だ。

言葉で表現しにくいがこの男は何度も絶望してきた奴の目をしている。

そんな目をした奴がなにをしでかすかわからない。

だから…この男を見極めないとな。

 

 

◆ Side シン

 

 

IS学園 学生寮 屋上

 

 

「ここが屋上だ」

 

「へぇ。なかなかいい景色じゃねぇか」

 

 

織斑教諭の尋問を何とか回避できた俺は彼…モードレッドを連れ、屋上にまで来ていた。

理由としては夜にこの場所で剣の修業をするチルノ以外に誰も訪れることの無いここならば盗み聞きされる心配がない。

誰にも聞かれたくない話をするにはうってつけの場所だ。

 

 

「君が私に聞きたいことは大体察しているつもりだ」

 

「ああ。それじゃあ単刀直入に言わせてもらう。アンタは何者だ?」

 

 

彼が俺に何を聞きたいのかは大体察しがついていた。

自分の父であるアルトリアが見知らぬ男と親しげに話していたら不審に思うのも当然だ。おそらく俺がアルトリアを誑かせている悪い虫に見えているのだろう。

まあ、実際に俺があの聖杯戦争に終わって妖精郷で住んでいた時、方法は知らないが一部を除く円卓の騎士達に襲撃されたことがあった。

まあ、理由としては『アルトリアを誑かせた俺が許せない』というもので数があまりにも多いから第二魔法を使ってボッシュートして撃退したのだけどな。

…正直彼も他の円卓の騎士達と同じ理由で俺を攻撃してきたら堪らないのだが。

 

 

「それはどちらの意味で?」

 

「無論、アンタの正体の方だ」

 

 

…どうやら彼は他の円卓の騎士と違って俺自身の正体を知りたいらしい。

まあ、別に彼ならば話してしまっても問題は無い。

おそらく彼も俺の正体について察しがついているようだからな。

 

 

「そうだな。俺はこの世界に召喚された世界の抑止力【カウンターガーディアン】だ」

 

「…だろうな。あんな連中が暗躍しているんだからそりゃ世界の方も抑止力を出すだろうさ」

 

 

おそらく彼が抑止力の存在を知ったのは外法の手段で呼び出された直後からだろう。

まあ、彼が抑止力の存在をいつ知ったとしても彼にとっては大した問題ではないだろう。

だから、彼が俺に聞きたいことは別にある。

 

 

「それで、聞きたいことはそれだけか?」

 

「いいや、最後に確認しておきたいことがある」

 

 

彼が最後に確認したいことがあると言うと持っていた剣を俺に突き出してきた。

彼の眼を見る限り少しでも嘘を突けばここで俺を斬るつもりだ。つまり、ここからが本題だな。

さあ、どのような質問が来る…?

 

 

「俺は何度かアンタのような眼をした奴を見てきた。

 そして、そんな眼をしている奴は大抵碌でもないことをやらかしてきた」

 

「それで、君は私…いや、俺に何を求める?」

 

「アンタは…あの不倫騎士や俺達のように父上を裏切らないか?」

 

 

俺がアルトリア裏切らないか…か…。

彼は今でもアルトリアを裏切ったことを後悔しているのだろう。

彼の眼には後悔で埋め尽くされている。その眼はあの時アルトリアと俺が剣を交えた時にアルトリアが見せた眼と同じだった。

まったく、こういうところは親子そっくりだな…。

無論、俺の答えはひとつだ。

 

 

「安心しろ。俺は絶対にアルトリアを裏切らない」

 

「それは、本当だろうな?」

 

 

俺の答えを聞いた彼は疑わしげに俺を見ていたが俺の答えは偽りの無い本心だ。

それに、俺自身も誰かに裏切られると言う辛さを知っている。

だから、俺はアルトリアが望み続ける限りアルトリアと共に生きるつもりだ。

 

 

「無論だ。もし俺がアルトリアを裏切ろうとしたのなら君が俺を討ってくれ」

 

「…ああ。わかったよ。もしアンタが父上を裏切るのなら真っ先に俺が殺しに行ってやる」

 

「そうならなければいいがな」

 

 

話が終わるとモードレッドは俺に背を向けて学生寮の中へ入っていった。

どうやらモードレッドから信用を勝ち取ることができたらしい。

しっかし、爺さんの許から独立してから何度もこういったやりとりをしているがやはり慣れないな…。

今でも自分の本音を出しかけることが多々としてある。

それでアルトリアやモードレッド信用を勝ち取れているのだからいいのかもしれないが…。

今から鍛えられるものではないがもう少し交渉のスキルを磨いておいた方がいいな…。

…と、そろそろラウラが報告に来る時間だな。

織斑教諭にはああは言ったが俺もバトル・フィールドで何が起こったかは完全に把握できていない。

まあ、あまり良くない報告が多いだろうがな…。

 

 

◆ Side ラウラ

 

 

IS学園 学生寮 屋上

 

 

教官に第1アリーナのバトル・フィールドで起こったことに関する報告を終えた私は教官に報告したことと、とあることをシン様に報告するためにシン様が居る学生寮の屋上に来ていた。

 

 

「…来たか。身体は大丈夫か?」

 

「はい。ランスロットを召喚した時の魔力の消耗はありましたが行動に支障はありません」

 

「そうか。報告を頼む」

 

「はい」

 

 

少女報告中…

 

 

どうやら私はシン様に心配されていたらしい。まったく…今思い返せば我ながらとんでもない無茶をしたものだ…。

いくら母の補助と私の魔術の特性があったとはいえ大聖杯無しで英霊を召喚したのだからシン様が私の心配をするのも無理もない。私が逆の立場だったら絶対に心配するだろうからな…。

 

 

「VTシステムか…ドイツ軍も馬鹿なものを取り付けたな」

 

「…はい。母の助けでエラーを起こしましたがシステムの摘出とオーバーホールのためレーゲンはしばらく本国の工廠に預けることになりました」

 

「そうか…」

 

 

教官と同じ内容の報告を聞いていたシン様の顔はこの報告を聞いた教官と同じ顔をしていた。

無表情で聞いている様に見えてその内では激しく怒っている。怒りの対象が私だというわけではないのに全身から嫌な汗が流れ、怖気が走る。

…うん。シン様や教官が本国に殴りこみに行くという事態は避けられそうだ。

もしシン様と教官が手を組んでドイツを攻めたら一日も掛からずに全ての軍事施設を制圧する。

それだけの強さをシン様と教官は持っている。

…とりあえずその危機は去ったが。

っと、いかん。肝心なことを報告していなかった。

 

 

「シン様真優が使える魔術というのは【投影】【解析】【強化】だけなのですか?」

 

「…何かあったのか?」

 

「はい。真優は狂っていたモードレッドと交戦する直前にクラスカードを“作りだして”いました」

 

「…!」

 

 

私がシン様に報告しようとしていたもの…。それは真優の魔術についてだ。

あの時バトル・フィールド内で使っていた魔術の中で異質のものがあった。

それが、あのクラスカードというカードを“作りだして”いた。しかも投影魔術と違って今も消えずに残っており、真優の懐に入っている。

 

 

「ラウラ、このことを知っているのは何人だ?」

 

「私とシン様、そしてランスロットです」

 

「そうか…ならばこのことは絶対に他の人間に漏らすな」

 

「わかりました」

 

 

今、このことを知っているのは私とシン様と霊体化して私の警護についているランスロットだけだ。

どう見てもあの魔術は異常だ。

もし魔術協会に真優の魔術がばれれば真優は封印指定を受け、一生魔術教会から追われ続けることになってしまう。軍にいる仲間以外でようやく出会えた友があんな奴等にホルマリン漬けにされてしまいなど許せるわけがない。

だから、このことは私達の秘密にしておく。

もう、魔術で人生を壊される者を見るのはもう沢山だからな…。

 

 

◆ Side 真優

 

 

IS学園 学生寮 保健室

 

 

「………暇だ」

 

 

そろそろ消灯時間になるためアルトリアは私達の部屋に戻った。だけど私は絶対安静と言われて保健室で一夜を過ごすことになってしまい、今は保健室のベッドで寝転がっている。

とは言ってもさっきまで寝ていたから眠気なんてあるわけが無く、暇を持て余している。

どうやって暇を潰そうか…。あ、そうだ。今は周囲に誰もいないからあの二人と話してみよう。

 

 

『サファイア、アーチャー、ちょっといいかな?』

 

『どうかしたのかね、マスター?』

 

 

返事が返ってきたのはアーチャーだけだった。

サファイアの性格的にサファイアも返事をしてくれると思ったけれど何かあったのだろうか?

 

 

『あれ、サファイアは?』

 

『彼女は今休んでいる。どうやら先程の英霊召喚でかなり消耗したらしい』

 

『あ…』

 

『まあ、マスターが無事だったのだから彼女も喜ぶだろう』

 

『ならいいけど…』

 

 

…どうやらサファイアは私の無茶のせいでダウンしているらしい。

自分でやっておいてなんだけど私がモードレッドを現世に残すために使った術式は今までやったことがない未知の魔術だった。だから莫大な魔力を使ったゴリ押しでなんとかモードレッドを生かすことができたけどその時の魔力の量がサファイアの限界を超えたようだ。

…後でサファイアに謝っておこう。

 

 

『それよりも私に話があったのではないかね?』

 

『うん。実は気になったことがあってさ』

 

 

サファイアの容態も気になるけれどそれよりもアーチャーに聞きたいことがあった。

 

 

『実はインパルスのことなんだけど…』

 

『彼のことか。彼はセイバーチームと名乗った者達が回収していったぞ』

 

 

私の相棒であるインパルスが何処にあるのか…?

私が目を覚ました時には既に無かったからずっと気になっていた。一応気絶する直前までは持っていた記憶があるからアルトリアが持っているのかと思ったけれどインパルスを作った人達が持っていったらしい。

うーん…損傷らしい損傷は胸の部分だけなんだけどなぁ。

 

 

『なんでもマスターの成長速度が想定を遥かに上回るものだったらしい』

 

『私の力だけじゃないんだけど…』

 

 

…アーチャーからインパルスが回収された理由を聞いたけれどイマイチ実感が湧かない。

決勝戦まで勝ち残れたのもインパルスの性能のおかげだしセシリアとの一騎打ちでは嘗てインパルスを駆っていたシンの動きを私の身体に【投影】するというズルをしてようやくまともに戦えていた。

 

 

『私は以前の君の実力を知らない。だが、私の力を完璧に使いこなせていた。

 そのことを考えると今の彼では君の足枷になってしまうだろう』

 

『そんなこと…』

 

『謙遜も過ぎればただの傲慢だ。君はもう少し自分を認めたらどうかね?』

 

 

アーチャーは私のことを誉めてくれるけれどそれを誇るなんてできない。

そんなことを考えていたらアーチャーに怒られてしまった。

謙遜のしすぎはただの傲慢…。箒にも同じことを言われたなぁ。

 

 

『君はあの場にいた者…ひいてはモードレッドを救っている。他ならぬ君自身の手でね』

 

『アーチャー…?』

 

『それは君にしかできなかったことだ。だからもう少し自分の成したことに胸を張りたまえ』

 

 

私が成し遂げたことに胸を張れ…か…。

なんだろう…。

アーチャーの言葉は私に対してだけじゃなくアーチャー自身に向けて言っている様に聞こえる。

今までアーチャーはどんな生き方をしてきたのだろう…?

 

 

『ありがとう。少しだけ楽になった』

 

『そうか。明日からはまた授業が始まる。今日はもう寝たまえ』

 

 

なんというか不思議な気持ちだ。

口調は全く違うのにまるでお父さんと話をしているみたいだ。

もし、お父さんが生きていたらこんな風に相談していたのかな…?

まあ、そのおかげでさっきまで考えていた悩みが少しだけど解決した。

だから今日は寝ることができそうだ…。

 

 

◆ Side アリス

 

 

??? 【百合の楽園】本拠地 会議室

 

 

「無様ね。あれだけの戦力を投入したのに全く成果を出せないなんて」

 

「所詮は一魔術師か」

 

「とんだ期待外れね。何のためにあのコアを用意したと思っているの?」

 

「そうそう。あれを作るのにかなりの時間を使ったんだからさあ」

 

「………」

 

 

ランサーに逃がされて命からがら本拠地に戻った私に待っていたのは他の幹部達に嘲笑されていた。

理由は簡単。英霊のコア入りのデストロイに黒化したランサーを投入したにもかかわらず敵に損害を与えるどころか逆に英霊が奪われ、ランサーも失ってしまった。しかもデストロイのコアもランサーも英霊の中で一級品の英霊だった。

この損失は大きい。大なり小なり私には罰を下されるだろう。

それだけの損失を私がしたのだから…。

 

 

「せめて何か情報を入手してきたでしょうね?」

 

「ええ。入手してきたわ」

 

 

だが、その損害に見合った情報を手に入れることができた。もっとも、その情報の中には私達にとっては最悪の情報といっても過言ではないものが混ざっているのだけど。

 

 

「まず、あの学園に在学しているラウラ・ボーデヴィッヒだけど彼女は“あの”アインツベルンが最後に作り上げた聖杯の器だったわ」

 

「…へぇ。アインツベルンのホムンクルスはなかなか良い出来だから興味があるわ。

 アインツベルンが滅びてもう手に入らないと思ったけれど良い情報を聞いた」

 

 

まず、あの学園に在学しているラウラ・ボーデヴィッヒ―この場ではラウスフィール・フォン・アインツベルンと呼んだ方がいいかしら?―が“あの”アインツベルンが作り出した最高傑作のホムンクルスであったという情報。

元々アインツベルンのホムンクルスに興味があったあの魔女にとってはこれ以上とない情報だろう。

もっとも、彼女自身の能力が恐ろしく高い上に彼とあいつを除いて最強の護衛といっても過言ではないランスロットが弱体化なしの状態で彼女の近くにいる。

研究室に閉じこもってばかりのあの魔女では返り討ちにあうのは確実でしょうね。

 

 

「次にあの氷精のことだけど魂以外が全く別物になっていたわ」

 

「どういうこと?」

 

「私も良くはわからないけれど星の聖剣の真名解放を問題無く使えていたわ」

 

「…幻想郷に居た時はそんな力を持っていなかったわね」

 

 

次にあの氷精の魂以外の全てが全く別のものに変わっていたということ。

理屈はわからないけどあの氷精は完全に受肉していた。それに身体能力や魔力と霊力が今までの氷精の9倍は上がっている。

私の推測だけどあの氷精は“あの”世界とリンクした。するはずのない肉体の成長や驚異的な強さは“あの”世界が私達に対抗するために作りだしたのだろう。

まあ、確証は無いからこの時点で言っておくのは止めておきましょう。

まあ、ここまでが良い情報なのだけど。

 

 

「ここからは非常に悪い情報と最悪の情報よ」

 

「…なによ。今目的を達成させる手段を考えているところなのよ」

 

「まず先に悪い情報。彼女は非常に強力な護衛に守られているわ。今の戦力で拉致するのは不可能よ」

 

「へぇ。こっちにはデストロイがまだ3機あるのに随分と大きく出たね。どんな奴なんだい?」

 

「それは自分の目で確かめてみるといいわ」

 

 

そう。例えそこに目的を達成させられる力があったとしても彼女を守る護衛が強力すぎる。

その護衛の中に“彼”が混ざっているけれどこいつ等に言う義理は無いわ。精々自分の目で確かめて絶望するといいわ。

まあ、それよりも確実にこいつ等を絶望させる存在がいるわけだけど。

 

 

「そして、最悪の情報。私達の動きを“あいつ”に察知されたわ」

 

「「「「!!??」」」」

 

 

うん。良い感じに絶望しているわね。

私自身も驚いたもの。黄金のスーツを着たあいつがトーナメントを見に来ていたのだから。

その時に私の姿も見られているし私達がデストロイなどの兵器を作った方法も見抜かれている。

ついでに言うと私達があの氷精に危害を加えたせいで完全に私達をマークしているわ。

もし、なんらかの形で此方が危害を加えたら必ず介入してくるでしょうね。

あいつ、自分の身内には甘いところがあるから。

 

 

「とりあえず私の報告はここまで。処罰は後で伝えてちょうだい」

 

 

私の背後では色々と騒いでいるようだけど私には関係ないわ。

さて、伝えるべきことは伝えたしサッサと私の部屋に戻るとしましょう。

…シン、私はこんな狂った集団に手を貸しているわ。

貴方が私を止めると言うのなら私を見つけてみなさい。

もし貴方が私を見つけることができたのなら私の本当の望みを貴方に教えてあげるわ。

 

 

 




どうも、明日香です。
今回はトーナメントの結果とシンとモードレッドの命がけの問答がメインの話となりました。
トーナメントの結果は総シールドエネルギーの残量と動けたISの数で一応真優達の優勝という形になりました。もっとも、真優達にとっては不完全燃焼で終わった試合だったわけですが。
ともかく、これで長かったトーナメント編は終了となり、次回は臨海学校編買い物回になります。
次回を楽しみにしていただければ幸いです。

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