IS~衛宮の娘は遥か高き宇宙を目指す~   作:明日香

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第22話「衝撃のマーボー」

 

 

「皆、学年別トーナメントの出場ご苦労だった」

 

『お疲れ様でした!』

 

「今年のトーナメントの優勝者は衛宮、チルノ、ボーデヴィッヒの三名だ」

 

 

あのデカブツの襲撃から三日経って休校が解かれ、いつものように授業を受けた帰りのSHRの時、あたい達に織斑先生は労いの言葉をかけながら優勝したのがあたい達だと告げた。

なんというかあのデカブツのせいで決勝戦が無茶苦茶になったけどまあ、みんな無事で済んで良かった。

ただし、色々と頑張りすぎた真優は大事をとって明日まで保健室のベッドに無理矢理寝かされているらしい。

 

 

「優勝した衛宮、チルノ、ボーデヴィッヒには一年間食堂のデザートのフリーパスが配布される」

 

 

で、優勝したあたい達には学生寮にある食堂のデザートのフリーパスが配布されるらしい。

うん。あそこのデザートは美味しいから一年間タダで食べられるのは嬉しいね。

ただ…。

 

 

「…はあ(ドンヨリ」

 

 

セシリアはメチャクチャ落ち込んでいる。

たぶんデザートのフリーパスを逃したことで落ち込んでいるのではなくて決勝戦で真優との決着をしっかりとつけられなかったからだと思う。

真優もだと思うけどトーナメントの決勝は不完全燃焼な結果だった。

しかも改めて試合をしようとしてもセシリアのブルー・ティアーズはダメージDのため現在イギリスの研究所でオーバーホールと運用データの吸出しが行われ、真優は絶対安静なうえに真優のインパルスも損傷が大きいためにインパルスが作られた場所で改修作業が行われているから試合をすることは不可能だ。

付け加えるなら最高のシチュエーションでぶち壊されたのだからその落ち込み具合は相当なものだろう。

なんとかセシリアを元気づけたいけどどうすればいいだろう…。

 

 

「そういえば再来週には臨海学校がある。水着を購入したい者は早めに購入しておくように」

 

『はい!』

 

 

織斑先生が再来週の予定のことを告げると慌ただしそうに教室を出ていった。最近は色々なことが起こっているから非常に忙しそうだ。確かあの食堂のデザートは持ち帰りができたから今度差し入れとして持っていこうかな。

まあ、それはそうとして臨海学校に行くだけなのになんでみんなは嬉しそうなのかな?ラウラもアルトリアも首をかしげているし…。

でも、買い物は楽しそうだからみんなを誘って行ってみようかな。

………あれ、水着ってどこで買えばいいんだろう?

 

 

第22話「衝撃のマーボー」

 

 

◆ Side 真優

 

 

IS学園 学生寮 保健室

 

 

アーチャーに悩みを晴らしてもらった日の翌日…。

目覚めた私に待っていたのは絶対安静の延長というある種の死刑宣告だった。

絶対安静の延長の理由としてはセシリアとの試合を見ていた織斑先生が私の身体の限界を超えた動きをしていたことを見抜いて保健室の先生に絶対安静の期間を延ばしたらしい。

 

 

「ひどい目に遭った…」

 

『それだけ君を心配しているのだろう』

 

 

そんなわけで私はかれこれ3日間ベッドに縛り付けられていた。

 

 

「【解析、開始】…。

 肉体損傷―――損傷無し。

 臓器各種―――問題無し。

 肉体疲労―――問題無し。

 全神経―――問題無し。

 魔術回路―――500本全て異常無し。

 全て問題無し【オールグリーン】………全く問題ないね」

 

 

とりあえず念のために私の身体を【解析】してみたけれど身体には全く異常が見受けられなかった。

それどころかすこぶる調子が良い。昨日の気だるさが嘘のようだ。

だけどそれ故に今の状況に不満を持ってしまう。

自然と身体が運動を求めているからだ。

何らかの形で身体を動かさないと身体が鈍ってしまう。

特にここ最近はトーナメントに備えてあまり訓練をしていなかっただけに早く訓練をしたいという欲求が強く出てきている。

でも、ここは保健室であるためそういった運動をすることができなかった。

まあ、それも終わったことだし明日は何をしようか…。

 

 

「よっ。思ったより元気そうだな」

 

「あ、モード」

 

 

そんなことを考えているとモードが保健室に入ってきた。

あれ?確かここの警備ってすごく厳重だって聞いたけどモードはどうやってここに来たんだろ?

 

 

「あいつが警備をしているならともかくこんなザル警備に引っかかるかよ」

 

 

うん。とりあえずモードが正規の手段でここに来たわけではないのはわかった。一応ここも機密が沢山ある場所なんだけど…。

まあ、私もイギリスのIS研究所の最重要機密の区画に無断で入っちゃったこともあるから案外この学園の警備も割とザル警備なのかもしれない。

 

 

「そういやリンカイガッコウっていうのが再来週にあるらしいぜ」

 

「ああ、そういえばそんな時期だったね」

 

 

そういえばそろそろ臨海学校の時期になる。みんなにとって最も楽しみなイベントのひとつだろう。

とは言っても私はそこまで臨海学校を楽しみにしているわけじゃない。水着も着ないだろうし…。

 

 

「邪魔するぞ」

 

「箒…どうしたの?」

 

 

明日の予定をどうするか考えていると保健室に箒が入ってきた。

迎えに来るのはアルトリアということになっているし何の用だろう?

 

 

「真優、明日の予定は空いているか?」

 

「ん?空いているけど?」

 

「よし、ならば一緒に買い物に行くぞ」

 

「うん。いいよ」

 

 

どうやら箒は明日の買い物を誘いにわざわざ保険室にまで来てくれたらしい。

明日はどうしようか悩んでいたからここは箒の厚意に甘えておこう。

 

 

「それで、何処に行くの?」

 

「この島にあるショッピングモールに行く」

 

 

ショッピングモールか…。

大体の物は揃っているからあまり買うものが無いんだよなぁ。

あそこは食材も高い割にはあまり鮮度が良くないし、置いてあるものは全部【解析】し終わっているしこだわっているらしい服は大河先生に送ってもらったから買う必要はないし…。

あれ?もしかしてやることない?

 

 

「…不満そうだな。だが、お前が飛びつくものはあるぞ」

 

「ん?私が飛びつくもの?」

 

 

私が飛びつくもの…?一体なんだろうか?

日本刀とかの刀剣類を見るのは好きだけど大河先生の実家で結構な業物を見ているからそこらの刀剣類では満足するものはないと思っている。というかああいったショッピングモールで刀剣類の展覧会はされることは殆どない。

だとしたら…。

 

 

「こ、これは…!」

 

『!?』

 

「?」

 

 

箒が制服のポケットから出したものはどこにでもあるようなチラシ。

だけど、問題はそのチラシを出しているお店の名前だ。

そう、この学園に来た以上もう食べられないと思っていたお店がこのチラシを出していた。

このチラシを読んだ瞬間、私はこの店に行こうと決めた。

ふふ。明日が楽しみだな…。

 

 

◆ Side 箒

 

 

IS学園 モノレール

 

 

私が真優を買い物に誘った日の翌日…。

朝早くに集合した私達は現在ショッピングモールに続くモノレールに乗っている。

メンバーは私、一夏、真優、アルトリア、セシリア、鈴音、チルノ、ラウラ、シャルル、シャルロット、簪さん、グラディスさんの学生組と付き添いとしてのモードレッド、引率としてシンとランスロットさんの総勢15名の大所帯だ。

そして、真優を除くここにいる皆があるものの犠牲になる。

 

 

「…ん、どうした箒?」

 

「一夏…。いや、なんでもない」

 

 

一夏が心配そうな顔で私の顔を見ている。どうやら顔に出てしまったらしい。

今の私の胸の中は罪悪感で満たされている。

普段真優は他者を優先することが多いがふたつほど例外がある。

ひとつめは大の祭り好き。これはまだ問題ないのだが問題はもうひとつのほうだ。

その例外は万人にとっては灼熱地獄以外なにものでもない。

真優を連れてくるためとはいえ私は地獄の釜の蓋を開けてしまい、皆をその道連れにしようとしている。

正直今からでも連れて帰りたい。

だがもう遅い。既に灼熱地獄へ向かう片道切符を切ってしまっている。もう逃げ帰ることはできない。

 

 

「すまない…(ボソッ」

 

「…?」

 

 

謝ってもすむものでもないがそうしなければ気がすまなかった。

なぜなら、この後私達を待っている運命は肉体と精神と味覚を同時に焼き尽くす灼熱地獄なのだ。

その地獄の名を紅洲宴歳館・泰山という…。

例え百戦錬磨の兵でもこの灼熱地獄に抗うことはかなわない。

みんな、すまない…。

 

 

◆ Side 真優

 

 

ショッピングモール 水着売り場

 

 

「では、ここで一旦解散する。集合時間は11:30だ」

 

 

まあ、各自自由行動として水着を見ることになって散り散りになったけどね。

組としては箒と一夏、アルトリアとシンとモード、シャルルとシャルロット、セシリアと鈴音と簪さんと別れて行動している。

で、残った私とチルノ、ラウラ、グラディスさん、ランスロットさん、私のポケットの中にいるアーチャーとサファイアはというと…。

 

 

「水着ってどれを買えばいいんだろ?」

 

「…どうしようか?」

 

『そこで私に話を振らないでくれるかね』

 

『私には水着のコーディネートという概念は無いので…』

 

「正直肩身が狭いです、はい。というより何故私に意見を聞くのですか」

 

「なんというか、すまん…」

 

 

早速グダグダになっていた。

チルノは元々水着という概念を知らなかったようだし、ラウラはこういうことには無頓着だし私も海で泳ぐ予定なんて無いし、流石に男であるアーチャーとランスロットさんに『水着を選んで』って言うのも酷だし…どうしたものか。

 

 

「ほう、ここでは褌を売っているのか!ならば購入せねば!」

 

 

ただ、グラディスさんは何を買うかすぐに決まったらしい。

…って、え?褌?

なんでそんな物がここで売っているし…。

まあ、グラディスさんがそれでいいならそれでいいかもしれないけど…。

 

 

『いや、あれは止めるべきだろう』

 

「そうだよね…って、もう買っちゃってる」

 

 

流石にアーチャーからツッコミが入ったけど既にグラディスさんは10着ほど褌を買っていた。

店員さんも驚いていたようだけどすぐに平静を取り戻してグラディスさんが買った褌を包装していた。

…すごい店員さんだ。

こうしている間にどんどん時間が無くなっていく。

こんなことならセシリア達についていけば良かった…。

 

 

「あら?真優ちゃんじゃない!」

 

「ひさしぶりだな、衛宮。元気そうで何よりだ」

 

「葛木先生!それにメディアさんも!」

 

 

そんなこんなで頭を抱えているとIS学園に行ってから聞くことがなかった声が聞こえて振り返るとそこには小学校の時からの恩師である葛木先生とその奥さんであるメディアさんが立っていた。

でも、二人ともどうしてここにいるのだろうか?

 

 

「どうしてここに…?」

 

「資料の更新のためにIS学園に書類を受け取りに来ていた」

 

「私は宗一郎様の補佐として同行していたのよ」

 

 

なるほど。中学校の方ではそろそろ何処の学校へ受験するかを決める時期だ。

穂群原学園の中等部出身のIS学園生徒は私が初めてだったけどその時は資料なんて殆ど無かったから合格の基準がわからなくて大変だった覚えがある。たぶん私の二の舞にならないように事前に資料を集めているのだろう。

それにしても葛木先生が書類を受け取りに来たということは中等部の方でIS学園を志望する子が出たのだろうか?

まあ、こういった話は深く聞かない方がいいだろう。

 

 

「そういえば真優ちゃんは服を見に来たのかしら?」

 

「はい、後ろにいる友達と一緒に水着を買いに来たんですけどどれを選べばいいのかわからなくて…」

 

「よかったら私が作ってあげましょうか?」

 

「本当ですか!」

 

 

私達がここにいる理由をメディアさんに言ったら思わぬ提案が返ってきた。

メディアさんの服飾技術は非常に高く、私が知る中でメディアさんを超える技術を持った人は存在しない。そんな人が私達のために水着を作ってくれるのだ。水着を決められない私達にとっては天の助けといっても過言ではない。

 

 

「ええ!貴女達は素材が良いから凄くはかどるわ!」

 

「えっと…それじゃあ、お願いします」

 

「ふふ、明後日には届くようにしておくわ」

 

 

ここにいたみんなの分をお願いしたあと、そろそろ集合時間がせまっていたので私達は集合場所であるショッピングモールのフードエリアへと向かった。

そろそろ私が楽しみにしていたあれを食べられる!

ああ、楽しみだな。今あれのことを考えただけでお腹が空いてくる。ふふ、楽しみだなあ。

 

 

◆ Side 一夏

 

 

ショッピングモール フードエリア

 

 

「まさか千冬姉と会うなんてな…」

 

「織斑先生だって女性だ。水着を買いに来ることだってあるだろう」

 

「それもそうだな」

 

 

みんなと別れて水着を選んでいた俺と箒は途中で千冬姉と山田先生と会ったり、中学校からの友人である弾と会って箒を紹介したり、それで色々と恨み事を言われたりとしたけれど無事に水着を買って集合場所であるフードエリアで待っていた。

 

 

「よし、みんな集まったようだな」

 

 

しばらくすると別れたみんなが集まり、女子陣は大なり小なり買い物袋を手にしている。

ただ、例外として真優とラウラとチルノの3人は持っていないが真優の知り合いに水着の製作を依頼したらしい。

なんというか意外だ。真優にそんな知り合いがいるなんて…。

 

 

「そろそろお昼だし私のオススメのお店に行こっか」

 

「へぇ、真優のオススメというのなら安心だな」

 

 

ま、そんなわけでちょうど昼飯時になったことだから昼飯を食いに行くことになったけど真優のオススメの店があるらしい。料理の腕が俺よりも遥かに上な真優がオススメする店なのだから外れはないだろう。

そんなわけで俺達は真優の案内でフードエリアを歩いていき、とあるお店に辿りついた。

だが、この時俺は…否、俺達は真優の案内についてきたことを後悔した。

 

 

「!?」

 

「いらっしゃいませ…。おや、君かね」

 

「言峰さん、おひさしぶりです!」

 

 

店の中に入った瞬間、何かの瘴気が俺達を襲った。

店の奥にある厨房で中華鍋を持っていたのは物凄く胡散臭そうな空気を出している男。

俺の本能がこいつを信用してはならないと叫んでいる。それは箒達も同様だろう。

流石のシンさんも顔が引きつっているようだ。

 

 

「15人なんですけど大丈夫ですか?」

 

「問題ない。奥にある席を使いたまえ」

 

「はい!」

 

 

そんな人物と真優は嬉々として話している。本当に真優って何者なんだ…?いや、俺達の仲間って言うのはわかるけどあんな胡散臭い奴と嬉々として話すことができるのは真優だけだ。

胡散臭い店長に席をすすめられ、俺達は店の奥にある大きなテーブル席に座らされた。

 

 

「注文は…聞くまでもないか」

 

「お願いします」

 

「わかった。では少し待っていたまえ」

 

 

しばらくするとお冷を持ってきた店長が俺達に注文を聞く前に何かを悟った顔で厨房に向かっていった。

何か物凄く嫌な予感がする…。

 

 

イメージBGM:Fate/stay nightより この世の全ての悪

 

 

15分後…

 

 

「待たせたな。紅洲宴歳館・泰山特製、麻婆豆腐だ。冷めぬうちに食べたまえ」

 

 

店長が厨房に向かってしばらくすると大量の中華皿を持った店長がやってきて俺達一人一人の前にその皿を置いていく。その皿の中には一人前の麻婆豆腐が盛りつけられていた。

盛りつけは流石真優がすすめるだけあって完璧だ。料理人としての実力は確かだろう。

それ以外にも材料や調味料も厳選し、創意工夫がなされ、何もかもが最上級の麻婆豆腐だ。

ただ、一点を除いては…。

 

 

ゴポッ…ゴポッ…!

 

 

「なに、これ…」

 

「これが…本当に麻婆豆腐なの…?」

 

 

そう、俺達の目の前に置かれている麻婆豆腐はまるでマグマのように煮えたぎり、豆腐を除いて赤い。とにかく赤い。まるで血の海のように赤い。いや、地獄の灼熱地獄を彷彿させるような赤さだ。

そして、この麻婆豆腐の気泡が割れる度に瘴気が溢れ出している。

まさか、あの時箒が俺に謝ったのはこうなることを見越していたのか…?

 

 

「いただきます!」

 

 

俺達が目の前にある灼熱地獄に動揺している中真優は嬉々としてレンゲを手に取り、凄い勢いで目の前にある灼熱地獄を食べていく。

真優の顔からはかなりの量の汗が吹き出している。それでも真優は麻婆豆腐を食べることをやめない。寧ろレンゲを動かす早さが早くなっている。

そして、いつの間にか真優の皿は空になっていた。本当はウマイのだろうか…?

 

 

「………いただきます」

 

 

俺は半ばやけになって恐る恐る目の前にある麻婆豆腐を口にする。

その瞬間、俺の世界は反転した。

 

 

「あ…?」

 

 

辛い…からい…から…い。

カライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライカライ!!!

味覚が辛味で…いや、ただ辛いだけじゃない!

この辛味の中には様々な食材のうまみが凝縮されている!!

今まで食べてきたどの麻婆豆腐にも無かったうまさがこの麻婆豆腐の中には宿っている!!

それがたまらなく…いい!!

一口この麻婆豆腐を食べるごとにもっと食べたい、もっと食べたいと腕が勝手に動き、レンゲの中に入った麻婆豆腐が俺の口の中へ入っていく。

気がつくと俺の皿は既に空になり、店長がニヤリとした顔で俺を見ている。

そして、俺は自分の欲望が抑えられず、口が開いた。

 

 

「「すみません、おかわりをください!」」

 

「ふっ。少し待っていたまえ」

 

 

「おかわり」と…。

ここの麻婆豆腐は確かに灼熱地獄のような辛さだがそれ以上のうまさが秘められている。

…おそらく俺はもう他の店の麻婆豆腐では満足できなくなっているだろう。

それほどまでにこの麻婆豆腐は俺にとって衝撃的だった。

 

 

「「「「「「「キュゥ…(バタリ…」」」」」」」

 

「なによこの、麻婆…(ガクッ」

 

「み、見事な味だ…ごふっ」

 

「み、みなさん、お気を確かに!」

 

 

周りを見ると俺の目に映ったのは地獄絵図だった。

一口目で麻婆豆腐の辛さに耐えかねて気絶しているアルトリア、セシリア、シャルル、シャルロット、チルノ、簪さん、モードレッド、完食こそすれど気絶した鈴、明らかにヤバそうな顔をしているグラディスさん、その面々を見て慌てるランスロットさんとまさにこのテーブルは混沌としていた。

 

 

「ふむ。個人的にはありだな」

 

「…ごちそうさまだ」

 

「…ごちそうさまでした」

 

「待たせたな。麻婆豆腐のおかわりだ」

 

 

そんな中、涼しい顔で食べきったシンさんとラウラ、かなり汗を掻いているけどグラディスさんほどダメージを受けていない箒が目に着いた。

たぶんシンさんは料理人として受け入れることができていてラウラは俺と同じで純粋にこの麻婆豆腐が気に入って、箒は冬木市という場所にいた時に真優に何度も付き合わされたから耐性を持っていたのだろう。

 

 

「「いただきます」」

 

 

だが、そんな些細なことはどうでもいい。

今は店長が持ってきた麻婆豆腐のお代りを食べるだけだ。

ああ、食べれば食べるほど身体がこの麻婆豆腐を求めている。

その後、アルトリア達が目覚めるまで俺と真優は店長が作る麻婆豆腐を食べていた。

俺は、この麻婆豆腐との出会いを一生忘れることはないだろう。ああ、もっと食べたい…。

 

 

◆ Side シン

 

 

ショッピングモール 紅洲宴歳館・泰山出張店

 

 

今日の昼食は色々な意味で衝撃的だった。あの麻婆豆腐の味もそうだったが一番の衝撃波この店の店長である言峰綺礼のことだ。

彼は聖杯戦争が始まる直前にこの世の全ての悪の浸食でこの世を去った男だ。だが、あの時と変わらぬ姿で俺の目の前に立っている。

 

 

「店長、少し話があるがよろしいか?」

 

「ああ、かまわぬよ。だが、場所を変えるとしよう」

 

 

だから確かめなければならない。

今でもこの世の全ての悪を解放するつもりなのかを…。

もし今でもこの世の全ての悪を解放するのならば俺が討たねばならない。

例え真優が懐いていたとしてもな。

 

 

ショッピングモール 紅洲宴歳館・泰山出張店 従業員室

 

 

「で、今はしがない中華料理店の一店主に何用かね、アーチャー?」

 

 

俺が言峰に連れてこられた場所はまだ誰もいない従業員の控室だった。

確かにここなら誰にも聞かれる心配は無いだろう。

ならば余計な小細工なしでこいつが何をするつもりなのかを問いただすとしよう。

 

 

「単刀直入に言おう今でもこの世の全ての悪【アンリマユ】をこの世に解放するつもりか?」

 

「ほう…。それを知ってどうするのかね?」

 

「知れたこと。ここで貴様を討つ」

 

「クク…」

 

 

俺の質問に対して言峰は目を細めた。

おそらく俺があの聖杯の影に潜んでいた者の正体を見破ったことに興味を持ったのだろう。

 

 

「本来なら解放したいと言いたいところだが聖杯は既に浄化され、解体されているのだろう?」

 

「…そのとおりだ」

 

「ならば今さら解放するつもりは無い。信じてもらえるかな?」

 

「…もし少しでも怪しい動きをしたら俺が貴様を討つ。それでいいな?」

 

「かまわぬよ。話はこれで全部かね?」

 

「ああ。時間をとらせてすまないな」

 

 

なるほど、凛が嫌っていたのも理解できる。

こいつは…底が読めない。

どこまでが本当でどこからが嘘なのかの判断が難しい。

だが、今は言峰の言葉を信用するしかない。

この男も危険だがそれ以上に奴等の方が危険だからな…。

 

 

ガッシャーンッ!!

 

 

「…どうやら良くない客が来たようだな」

 

「…そのようだ」

 

 

どうやら外であまり嬉しくない客が来たようだ。

やれやれ、今日は色々とトラブルが多い日だな。

とりあえずその客にはサッサとご退場願うか。

 

 

◆ Side 箒

 

 

ショッピングモール 紅洲宴歳館・泰山出張店前

 

 

昼食の清算を済ませ(一皿300円と非常に良心的な価格だ)、気を失っていたアルトリア達を起こしているとシンが言峰店主と共に店の奥へ行ってしまった。

何か私達に聞かれたくない話があるのだろうか?

まあ、あまり首は突っ込まないでおこう。藪蛇は避けたいからな。

 

 

「「「「「「「「うぅ…」」」」」」」」

 

「私としてはもう少し辛さが控えめな方が好みですね」

 

「今までにない非常に刺激的な味だった」

 

「ああ、食った食った。良い店を教えてくれてありがとうな。真優」

 

「ふふ、気に入ってくれてなによりだよ」

 

「…まさか一夏が気にいるとは思わなかった」

 

 

それにしても一夏がここの麻婆豆腐を気に入るとは思わなかった。真優に何度も付き合わされた私でさえ感触が限界だと言うのに真優と共におかわりまでしていた。

なんというかあの麻婆豆腐は一部の人を魅了することがある。一夏もその一人なのだろう。

ん…?何やら外が騒がし…

 

 

ガッシャーンッ!!

 

 

「な、なんだ!?」

 

「全員、その場で動くな!!」

 

 

突然玄関のガラスが割れ、IS…シルエットから察するにラファール・リヴァイヴを纏った女が入ってきた。数は…2人。以下の情報をまとめるとこの2人は最近噂で聞いていたテロリストか。

流石に今の私ではIS装備のテロリストには対処ができない。

まだ復調していないアルトリア達のこともあるから下手に動けない。

ランスロットさんもすぐに動けるように身構えているがいかんせん、相手はショットガンを持っている。彼自身は避けれても後ろにいるセシリア達に当たってしまうために迂闊に動けない。

どうしたものか…。

 

 

「何事かね?」

 

「ここにある金を全て出しなさい。そうすれば殺さないでおいてあげるわ」

 

「ISを使った強盗か…。やれやれ、世も末だな」

 

「男のくせに生意気ね」

 

「食い逃げ以前に私の店で強盗しようとするとは舐められたものだな。

だが、ちょうど出汁に使う鶏ガラがきれていたところだ。割ったガラス代は文字通り身体で払ってもらうとしよう」

 

 

私がどうやってこの窮地を切り抜けるか考えていると奥から言峰店主とシンが出てきた。おそらくガラスが割れた音を聞いて駆け付けてきたのだろう。

ああ、こいつ等は他の国でも同じような手口で金を集めていたのだろうが、生憎ここは最もISが多く配備されている日本であり、それ以前に相手が悪い。

 

 

イメージBGM:AC北斗の拳より FATAL K.O

 

 

「「ゑ?」」

 

 

「ふんっ!」

 

「一足…一倒!!」

 

 

ガァンッ!!

 

 

「「ぶべらっ!?」」

 

 

テロリストが行動を起こす前にシンと言峰店主は一気に懐に飛び込み、ISスーツに身を守られている腹部へ拳を叩きこんだ。

シンと言峰店主の一撃は絶対防御を貫通してテロリストの意識を一撃で刈り取った。

相変わらず恐ろしい腕の持ち主だ。

 

 

「警察への通報は私がやっておく。君達は店の裏口から外へ行きたまえ」

 

「は、はあ」

 

「またの来店を期待しているぞ」

 

 

シンと言峰店主の動きの鮮やかさにしばらく見惚れていた私達だったが言峰店主に促されてこの店の裏口から店の外へ出た。

ここで警察に絡まれると厄介だからな。ここは言峰店主にまかせておこう。

はあ、今日は早く帰ってベッドに寝たい。

今日は、いつも以上に疲れた…。

 

 

 

 




どうも明日香です。
はい、タイトルにある通り今回はFate名物激辛麻婆豆腐が登場しました。
本作の主人公である真優はこの麻婆豆腐が大の好物です(味覚はやれていないので安心?を)。
あと過去の時間軸で死亡した筈の綺礼が復活しています(しかもZERO時のステータスで)。
ISを生身で倒すことくらい造作もなくやってのけます。ただし、この第一章で綺礼が登場することはありません。次回の登場は第二章に入ってから再登場します。
ちなみに綺礼が復活している理由は第二章で明らかになるでしょう。
さて、次回からはお楽しみ?の第一章の終盤である臨海学校編です。
それでは、次回を楽しみにしていただければ幸いです。

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