IS~衛宮の娘は遥か高き宇宙を目指す~   作:明日香

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第23話「夏だ!海だ!臨海学校!!」

水着に着替えて真優達が居る砂浜の近くにある岩場に移動した俺の目に映ったのは楽園だった。

各々の水着を着た美少女達、彼女達の存在がこの砂浜が楽園になっているファクターのひとつだ。このことを弾達が知ったら思いっきり悔しがっただろう。

だが、俺にとってこの砂浜を楽園としている最大の要因は別にある。

その要因は…

 

 

「い、一夏も着替え終わったのか?」

 

「お、おう」

 

 

目の前にいる天使だ。

ああ、やはり箒は綺麗だ。俺にはもったいなさすぎるほどだ。

身体がどんどん熱くなっていく。今すぐにでも箒を抱きしめたくなる。

だが、ここで抱きしめたら箒に迷惑だ。だからここは我慢するんだ俺。

まだ今は授業中…まだ今は授業中…。

 

 

「どうしたんだ?」

 

 

なんとか煩悩を退散させようとしている俺に箒は少し顔を赤らめながら俺の顔を覗いている。

箒…こんな時にそんな表情は反則すぎだろ…。

俺の頭の中で何かが切れる音が聞こえた。

あ、これはもう駄目だ。もう抑えが効かない。

 

 

ガシッ!

 

 

「い、一夏?」

 

「ほ、箒、俺…」

 

「そ、そうか…ここなら…皆には聞かれる心配ないな」

 

 

幸いなことに今俺と箒が居る場所は人気がないうえに砂浜からは俺達の姿が見えない。

それに波の音で俺達の声が聞こえることもない。

ここでなら何をしてもばれることは無いだろう。

俺は俺の欲望の赴くままに箒と身体を絡ませ、箒もまた俺の身体に絡みつく。

ああ、ここは、最高の楽園だ…。

 

 

第23話「夏だ!海だ!臨海学校!!」

 

 

◆ Side シン

 

 

臨海学校 旅館

 

 

「で、なぜ私も臨海学校に参加することになったのかね?」

 

「ごめんなさい!四組の副担任の方が急病で倒れてしまって他に頼れる方がいなかったんです…」

 

「そうは言っても何故用務員である俺を選んだ…」

 

 

まさか用務員である俺が臨海学校の引率の一人として参加するとは思っていなかった…。

なんでも一年四組の副担任が急病で臨海学校に参加できなくなり、代わりに俺が引率として参加することになったのだとか。

ただ、それならば教員免許の無い俺よりも他の教員を参加させた方が良かった気がする。

 

 

「シンさんや織斑先生じゃないと一年生の皆さんの抑えができないんです…」

 

「………そうか」

 

 

…確かに、今年の一年生は俺と織斑教諭以外にあいつらの制御をするのは難しいだろう。だから俺が臨時で呼ばれたのか。

まあ、そのおかげで本来の任務である箒達の護衛を行えるのだからあまり強く言えないが…。

それに、今の俺には臨時で引率になったことよりも大きな頭痛の種がある。

 

 

「そんなことよりも早く砂浜に行こうぜ?」

 

 

こいつだ。

俺が臨海学校に行くと聞くや否や「俺も連れて行け!」と生徒会長と彼に直談判して生徒会長達の許可を得て『体験入学』として俺に同行してきた。

一応二学期の初めから編入は決まっていたが彼自身が我慢できなかったらしい。

彼の時代は学校というものは無かったから珍しいのだろう。

まあ、彼のことはこの際諦めよう。

彼自身も第二の人生を楽しむ権利はあるからな。

 

 

「はい、山田です。え、織斑君と篠ノ之さんが見つかっていない!?」

 

「山田教諭…」

 

「申し訳ありません…。織斑君と篠ノ之さんを探しに行ってもらえませんか?どうやら見失ったらしくて…」

 

「………マジかよ」

 

「………了解した」

 

 

…どうやら頭痛の種はこれからも増えそうだ。

 

 

◆ Side 真優

 

 

臨海学校 旅館付近

 

 

天国にいる父さん、母さん、今も仲良くしていますか?

時が経つのは早いもので私がIS学園に入学してから3ヶ月が経ち、暖かかった春が過ぎて身を焦がすほどの太陽の光が照りつく夏を迎えました。

今私はIS学園の学外実習として臨海学校に来ています。

そして今は自由時間だからメディアさんに作ってもらった水着に着替えて砂浜に立っています。

だけど…

 

 

「うわぁ、可愛い!!」

 

「そ、そうか?私の部下も良いセンスだと言っていたが…」

 

「どう見てもそこらへんのお店で売ってるものじゃないよね?」

 

「私も欲しい~!」

 

「ねぇねぇ、真優さん。その水着をどこで買ったの?」

 

「え、えっと、真優の知り合いの人に作ってもらったんだ」

 

「いいなぁ」

 

 

現在私は…私達はのほほんさん達に囲まれて私達が着ている水着をどこで買ったのかと質問攻めをされ、私と同じくみんなに囲まれているラウラとチルノも同じでみんなからの質問に辟易しています。

 

 

「質問はその辺にしたまえ。マユ達が困っているだろう?」

 

「あ、グラディスさん、ありが…!?」

 

 

そんな私達にグラディスさんが助け船を出してくれたのですけどグラディスさんの姿を見た瞬間、夏場の筈なのに空気が凍りつきました。

なぜなら…

 

 

「ちょっ、アンタなんて格好をしているのよ!?」

 

「ん?見てのとおり褌だがどうかしたか?」

 

「どうかしたか?じゃないわよ!!」

 

「どうしてこうなった…」

 

 

グラディスさんの格好はさらしに褌というあまりにも場違いな格好をしていたのです。

すぐさま鈴音がツッコミを入れるけれど当の本人はどこ吹く風だ。そのグラディスさんの隣にはグラディスさんと同じクラスである簪さんががっくりと肩を落とした状態で立っている。

とにかく今の砂浜はカオスです。

………どうしてこうなった。

 

 

◆ Sideグラディス

 

 

臨海学校 旅館付近

 

 

「ぬぅ…いったい何がいけなかったのだ…?」

 

「たぶん、褌で来たこと…」

 

 

私がマユ達に助け舟を出した後にリンインに殴られた私は更衣室でマユから渡された水着に着替えて再び砂浜に戻っていた。

私としては褌のままで良かったのだが周囲が良くないらしい。

やれやれ、学校指定の水着ではきつすぎて着ることができなかったから私の水着を用意してくれたマユには感謝しなくてはならないな。

 

 

「「「「ジー…」」」」

 

「ん?何か用かね?」

 

 

ん?リンインを含む何人かの生徒が私を見ている。

私を凝視しているようだが今の水着ならば特に問題は無い筈だが…。

それに彼女たちの視線から少なくはない敵意が混じっている。

まあ、この程度の敵意で怖気づくことなどないが。

 

 

「「「「世の中不公平だ!!!」」」」

 

「………?」

 

「…妬ましい(ボソッ」

 

「ん?なにか言ったかね?」

 

「別に…」

 

 

しばらく私を見ていたリンイン達はいきなり不公平だと言って海辺に走り去っていった。

やれやれ、彼女達は私に何の恨みがあったのだろうか?

少なくとも私は彼女達に何もしていないが…。

それに隣にいるカンザシの様子も変だ。…私も女だが女という生き物はよくわからんな…。

まあ、そんな些細な問題はともかく久々の海を満喫させてもらおう!

 

 

◆ Side アルトリア

 

 

臨海学校 砂浜

 

 

「夏だ!」

 

「海だ!」

 

「ビーチだ!」

 

「「「「「「「ヒャッホーイ!!」」」」」」」

 

「静かにせんか、馬鹿者共!!」

 

 

あの悪夢のような買い物が終わってから一週間後…。

私達は学外実習の一環として臨海学校に来ている。

で、今は自由時間だからここにいる生徒のほとんどがはしゃぎ、あまりものうるささに織斑先生が一喝していた。

 

 

「みんな楽しそうですね」

 

 

普段は織斑先生の一喝を受ければ静かになるが今回ばかりは静かになりそうにありません。

それを見ていた私ははしゃぎまわる皆を見て苦笑していました。

まあ、今まで楽しみにしていたのだから仕方がありませんね。

 

 

「お待たせ。アルトリア」

 

 

そんなことを考えていると合流するつもりだった真優がやってきた。

マユの顔には疲れの色が見えている。

どうやらのほほんさん達に色々と質問されていたらしい。

おそらくのほほさん達質問攻めされた理由はマユが着ている水着でしょう。

 

 

「マユの水着はワンピースタイプですか」

 

「そうだよ」

 

 

マユが着ている水着は長袖のワンピースタイプの水着でした(最早水着と呼ぶべきか否か悩みますが)。

まあ、いくら水着の専門店だろうとそんな水着は無い…。

マユの話によればキャスターに作ってもらったらしい。

…キャスターには感謝しないといけないませんね。

おそらくキャスターが水着を製作しなければマユは臨海学校に来ることはなかったでしょう。

マユの水着はキャスターにしか作れないのですから…。

 

 

「やはりあの傷…ですか」

 

「うん…」

 

 

マユは長袖以外の服を着ることを避けている。

その理由はマユの身体には大小問わず無数の傷跡があるからです。

マユの傷は明らかに今の時代の日本では見られない傷だ。

だが、マユの傷がいつできたのかはまだ教えてもらっていません。

私はマユが傷のことを話さないのは身体の傷を見られて私に嫌われたくないと思っているのではないかと推測しています。

私は気にする性格ではありませんが他の物がそうだとは限りませんからね…。

 

 

「っと、しんみりしちゃっても仕方ないか。さ、楽しもう!」

 

「は、はい」

 

 

今はまだあの傷の理由を知ることはできない。

だが、いつかマユから教えてもらえる日がくると信じている。

例え、どのような理由だとしても私は受け入れましょう。

私はマユの親友なのだから…。

 

 

◆ Side チルノ

 

 

臨海学校 砂浜

 

 

「これが…海…」

 

 

のほほんさん達からなんとか逃げ切れたあたいは目の前に広がる広大な海に目を奪われた。

幻想郷にあった霧の湖とは比較にならない程にとても、とても深くて、青くて、大きい…。

ここはその海の一端に過ぎないけれど、それでも、大きかった。

 

 

「…泣いているのか?チルノ」

 

 

あたいの隣にいるラウラがあたいに声をかけてくる。

たぶん、今のあたいは泣いているのだろう。

大きな、あまりにも大きな海…例え【世界】から見てちっぽけな存在だったとしてもこの海の中には数多の生命が生きている。

海の中で生きている数多の生命の息吹が海を介してあたいの身体に溶け込んでくる。

【世界】がちっぽけだと判断したこの地球【ほし】には沢山の生命で溢れかえっている。

 

 

「大きいから…」

 

「大きい?」

 

「この【世界】があまりに大きいから…」

 

「…そうか」

 

 

この地球【ほし】の中で多くの生命が生まれ、育ち、死んでいき、また地球【ほし】へ還っていく。

それをずっと繰り返し、地球【ほし】の歴史は少しずつ刻まれていく。

地球【ほし】の生命が消える、その日まで、ずっと…。

 

 

「っと、湿っぽくてごめんね。今は海を楽しもう?」

 

「ああ、そうだな」

 

 

っと、折角の海なんだからもっと楽しまなきゃ損だよね!

今のあたいにできることはこの時を全力で楽しんで未来の糧にすること。

だから湿っぽくなるのはここまで!

さあ、初めての海水浴を存分に楽しもう!

 

 

◆ Side モードレッド

 

 

臨海学校 砂浜

 

 

「はぁ~…ったく。最初からついてないぜ…」

 

 

…ったく、いきなり貧乏くじを引かされたぜ…。

そりゃ、まだ部外者の俺がすんなり参加できるとは思っていなかったがまさか水着に着替えた直後にあの色ボケバカッブルの捜索をさせられるとは思わなかった。

おそらくそう遠くない場所にいるだろうがこっちから見つからないとするとそれなりの場所にいるはずだ。

 

 

「あはは…まあ、私達も手伝うから早く見つけよう?」

 

「…まったく、ホウキとイチカには困ったものです(ワタシダッテシントイッショニイタイノニ」

 

「…父上は本当に変わったな。これを知った騎士共が発狂するぞ?」

 

 

まあ、そのおかげで父上とマユの二人に手伝ってもらえているんだが…。

なんか父上が良からぬことを呟いていた気がするが放っておこう。

俺がカムランの丘で死んでから父上が色々と変わってしまった…。

まあ、この父上もありといえばありなんだが…。こりゃそのうち呼び方が父上から母上になりそうだ。

…今の父上をガウェイン達が見ればなんと思うだろうな。

とりあえず円卓の騎士共は発狂して父上を変えた原因であるシンを殺しにいくだろう。

いや、ベネディールは今の父上は幸福だから逆に喜ぶか。

 

 

「ええ、実際に発狂してシンを殺しに来ましたね。追い返しましたけど」

 

「うわぁ…」

 

「………同情するぜ」

 

 

って、マジで殺しに行ったのかよ、あの馬鹿野郎共は!?

まあ、父上を寝取ったも同然だから殺意が湧くのはわかるがそれでも本気に殺しに行くなよ!

下手すれば父上がもう一度不幸になるところだったじゃねぇか!

あ、あいつらは完璧の王を理想としていたから関係ないか。

それでも生きているあたりこいつの実力は相当なものなんだろうな。

…ん?

 

 

「…人の気配がするな」

 

「…人数は二人ですか」

 

「箒と一夏かな?」

 

「…待て、ここは俺が先に調べる」

 

 

あそこにある岩陰から二人ほど気配がする。

念のためにマユの護衛を父上にまかせて俺はゆっくりと岩陰に近づく。

どうやら岩陰に居る奴は俺のことを察知していない。

よし、今だな!

 

 

「「あ…」」

 

「………」

 

 

ザザーン…

 

 

勢いをつけて岩陰の奥へ入りこむとそこには身体を絡ませ合っている色ボケバカップルが居た。

色ボケバカップルは俺に姿を見られて顔を真っ赤にしている。

ああ、なんとなくそんな気はしていたがまさか本当に【お楽しみ中】だったなんてな。

とりあえず、何をしていたのかは報告しないでおくか。

俺にだってそれくらいの情けはあるからな…。

ったく、本当に今日はついてないぜ…。

 

 

◆ Side シン

 

 

臨海学校 雑木林

 

 

山田教諭から箒と一夏の捜索を依頼され、砂浜にモードレッドを送り、俺は旅館のすぐ近くにある雑木林を探索していた。

俺の予想が正しければ二人はあの砂浜の岩影にでもいるだろう。

だが、俺がモードレッドと二手に分かれた理由は雑木林の中から別の気配を察知したからだ。

 

 

「やはり、君だったか」

 

「あら、あっさり私を見つけたわね。シン」

 

 

その気配の正体は先の襲撃事件の犯人である彼女、アリス・マーガトロイドだ。

気配を隠しているつもりだったのだろうが本業ではないがゆえに完全に気配を殺し切れていない。

…いや、わざと気配を出して俺を誘ったのか?

 

 

「…真優を奪いに来たのか?」

 

「いいえ。違うわ」

 

 

奴等は今、真優をターゲットに動いている可能性があると慎二から聞いていた。

だから俺は彼女が真優を奪いに来たと思っていたが彼女の眼を見る限りどうやら真優達を【奪い】に来たのではないようだ。

真優の実力は認めたがそれでも真優に用は無いと彼女の目は語っている。

ならば、なぜ危険を冒してまで俺に会いに来た…?

 

 

「貴方に警告するために来たのよ」

 

「なに?」

 

 

俺に警告?

ますます彼女がここに来た理由がわからなくなった。

今は手を出していないが彼女はテロリストの構成員だ。

だというのに何故、敵であるはずの俺に警告をしに来たんだ?

…とにかく、その内容を聞いておく必要があるな。

 

 

「貴方が気に入っているチルノとラウラという子が特別な力を持っているのは理解しているわよね?」

 

「…それで?」

 

 

確かに、ラウラは俺が滅ぼしたアインツベルンの最高傑作の小聖杯であり、チルノは世界が生み出した中身入りの聖杯だ。

特にチルノの力は星の聖剣の真名解放をしても後の行動に全く問題がないという破格の力だろう。

その情報が奴等に知られたということは…。

 

 

「まさか…」

 

「ええ。あいつ等は現状の戦力の大半を消耗してでも覚悟であの子達を奪うつもりでいるわ」

 

「戦力を集中したのは彼が動き出す前に決着をつけるつもりだからか?」

 

「そのとおりよ。いくらあいつでもここに来るまでにかなりの時間が掛かる。だから、あいつが来る前に全てを終わらせるつもりよ」

 

 

最悪の事態だ。

今の奴等の戦力は一日でひとつの国を壊滅させられる程だ。

その戦力がこの臨海学校に襲来するならば臨海学校の…いや、この国の被害は計り知れないものとなる。

たとえ臨海学校を中止したとしてもIS学園にその戦力が集中するだろう。

いや、それ以前に自身の友の危機に真優達が黙って見ているわけがない。

 

 

「情報提供感謝する」

 

「嘘だと思わないの?」

 

「嘘ならば危険を冒してまで俺の許へ来る必要はないだろ?」

 

「…本当に、そういうところはいつになっても変わらないんだから」

 

「誉め言葉として受け取っておく。…今は俺以外に関係者はいない。早く行け」

 

「…ええ。わかったわ」

 

 

だが、同時にチャンスでもある。

ここで奴等を撃破すれば奴等の戦力の大半を削ぎ落とすことができる。

リスクは非常に大きいがそれは奴等も同じこと。

ここを凌ぐことさえできれば奴等はしばらくの間行動ができなくなる。

ここが正念場か…。

…とはいえ、テロリストである彼女をそのまま行かせるとは…これではあいつらと大して変わらんな。

 

 

◆ Side 真優

 

 

臨海学校 旅館 露天風呂

 

 

「うん。夏休みになったらアルトリアをわくわくざぶーんに連れて行って泳ぎのレクチャーをしよう。そうしよう。」

 

 

あの後、箒と一夏(なんでか知らないけど顔が凄く赤かった)をモードと一緒に織斑先生の元に届けた後、少し離れたところで泳いでいたけれど実は水泳の経験が0だったアルトリアが溺れてモードと一緒に救助したり、夕食の時に山葵を付け過ぎて悶絶したアルトリアを介抱したりしていたからかなり疲れている。

「うん。夏休みになったらアルトリアをわくわくざぶーんに連れて行って泳ぎのレクチャーをしよう。そうしよう。」

 

 

「はぁ、良いお湯…」

 

 

そんな、割とどうでもよく見えて切実な決意をした私は旅館の露天風呂でゆっくりと楽しんでいる。

今、この露天風呂には私だけしかいない。

理由は私の身体に無数にある傷を学園のみんなに見せないためだ。もう傷が痛むことは無いけれど何も耐性の無い人が見てしまえば気絶してしまうだろう。

それを避けるために深夜の時間帯を選んだ。

友達と一緒に入れないのは辛いけれどこればかりはしかたない。

それに、深夜に入る利点もある。

まず、一人だけなので広々と使うことができるということ。

もうひとつは…

 

 

「今日は夜空が綺麗だな…」

 

 

天気が良ければ満点の星空を楽しむことができるからだ。

そして、この日の星空は奇しくも私がお父さんとお母さんに私の夢を話して応援してもらった日と同じ、とても、とても綺麗な月が夜空に浮かんだ星空だった…。

 

 

「もう、あれから10年近くたったんだな…」

 

「何が10年なんだ?」

 

「ふむ。それは是非とも聞かせてもらいたいな」

 

「わひゃあ!?」

 

 

私がお父さんとお母さんに私の夢を話したあの日からそろそろ10年になる。

そんなことを思い返していると後ろからモードとグラディスさんの声が聞こえて私は奇声を上げながら後ろを振り向いた。

 

 

「ったく、風呂に行ってから2時間経っても戻ってこないから様子を見に来てみれば…」

 

「長風呂が過ぎるぞ、マユ!」

 

「ご、ごめん。私、長風呂だから…」

 

 

そこにはバスタオルで身体を巻いたモードとグラディスさんが仁王立ちしていた。

まずい…。箒達は知っているけれど私は一度お風呂に入ると二時間や三時間は軽く入ってしまう。だけど二人には話す機会が無かったから二人がそのことを知らないのも無理は無い。

たぶん、二時間経っても帰ってこない私を心配してくれたのだろう。

だけど今回は悪い形で出てしまった…。

 

 

「なんと!?」

 

「お前…その傷は…」

 

 

ああ、見られてしまった…。

グラディスさんは大きく目を見開き、モードの声は震えが混じっている。おそらく二人は私の身体に無数に刻まれている傷跡を見て動揺しているのだろう。

 

 

「あはは…やっぱり驚くよね?」

 

 

それもそうだ。確かにこの世界は今も紛争が起こっている場所もあるけれど私達が住む日本はそういったものとはあまり縁がない国だ。その国の住人で、尚且つまだ16歳になっていない私がこんな無数の傷跡を持っている。動揺しない筈がない。

 

 

「………とりあえず今は傷のことに関しては聞かないでおく」

 

「うむ。マユが語りたい時が来れば話してくれればいい」

 

「………ありがとう」

 

 

二人の声はまだ震えている。

でも、その震えは動揺によるものではなく、はち切れんばかりの怒りを抑えているものだ。

二人の怒りの矛先はこの傷の原因に向けられている。

純粋に私のことを思って怒っているのだ。

だけど、その怒りを飲み込んで私の身体の傷のことを追求してくることはなかった。

でも、いつの日か私が私を許せる日が来たならば…話せるといいな…。

 

 

◆ Side 束

 

 

冬木市 間桐グループ セイバーチーム開発ラボ

 

 

「ふぅ…やっと出来たわい」

 

「ええ。今までの中で最も難航した作業でした」

 

「まさか七徹もするとは…」

 

「つ、疲れた…」

 

「ったく、とんでもないものを作らされたぜ…」

 

「でも、今までの仕事の中で最高の仕上がりになったわ」

 

 

ここは束さんの就職先である間桐グループの研究ラボのひとつ。

で、束さん達は前の学年別トーナメントで壊れてしまったインパルスの修復とインパルスのコアが製作を求めてきたパッケージの製作と追加機能の搭載とシンさんの新しい武器の製作がようやく終わったところだ。

シンさんの武器とインパルスのパッケージの製作は割とすぐにできたけど追加機能の搭載が物凄く難航した。束さんを含めた天才達が総掛りでも何度も徹夜ししなければならなかった。

七徹なんて束さんは初めてだよ…。

 

 

「もうダメ…バタンキュ…」

 

「へばったチーフは放っておいて、私達は隣の食堂で酒盛りをしましょうか」

 

「「「「おう!」」」」

 

 

で、束さんは半ばグロッキー状態になっているけどみんなはまだ元気そうだ。

ぶっちゃけ束さんはもうそろそろ限界です。

だけどそれだけに今まで束さんが作り上げたどの作品よりも最高の仕上がりになっている。

同じ仕事をもう一度しろといわれたら無理といえるほどの仕上がりだ。

これならばしっかりと真優ちゃんを守り抜くことができるはずだ。

ちなみに並行して箒ちゃんの専用機も作っていたんだけどこっちは思ったより早く出来上がった。まあ、箒ちゃんの好みとクセはしっかりと把握していたから簡単だったからね。

さて、明日にはこの機体を真優ちゃんが居る臨海学校に届ける仕事がある。

寝不足で事故して死ぬなんていやだからねぇ。

幸い束さんの身体は強靭だから一晩寝れば回復するけど。

それじゃ、おやすみなさい…と、その前に…。

 

 

「ああ、そういえば新しいパッケージの名前と新しい機能の名前を決めてなかったね」

 

 

インパルスの新しいパッケージと機能の名前を決めてなかったな…。

ラボから出て行ったみんなは今頃隣の食堂で酒盛りをしているだろう。ここでならば束さんが名前を決めてしまおう。たぶんみんなが聞いたら怒るかもしれないけどこれは早い者勝ちだ。それにシンさんの新しい武器の名前は先に決められたしね。こっちの名前を決めてもバチは当たらないっしょ。

そうだなぁ。この子の新しいパッケージの名前は…。

 

 

「うーん…。よし新しいパッケージの名前は【デスティニーシルエット】で新しい機能の名前は夢幻召喚【インストール】!これで決まりだね!」

 

 

インパルスの新しいパッケージの名前は【デスティニーシルエット】、新しい機能の名前は夢幻召喚【インストール】…。

これから真優ちゃんに待ち受けているだろう過酷な運命を切り開いていく剣となり、真優ちゃんの新しい翼として真優ちゃんを守ってね。

…さぁてと流石にそろそろ限界だから寝ようか。おやすみなさーい。

 

 

◆ Side ?

 

 

臨海学校 どこかの雑木林

 

 

「ようやく時がやってきたね~」

 

 

長い月日を経てようやく時が巡ってきた。

前の世界では思わぬトラブルが連続で起こったせいで失敗したけれど今回は問題ない。

前の世界で散々邪魔してきたあいつはこの世界にいない。

それにこの世界は前の世界と同じでISの開発はほとんど進んでいない。

この程度ならば今ある戦力で世界を征服できる位だ。

所詮世界なんて―さんのおもちゃ箱にすぎない。

だが、幾つかイレギュラーがある。

 

 

「ふんふん。セイバーシリーズねぇ。こんなシリーズは前の世界になかったな~」

 

 

何か男装女子が本当に男と女に別れていたり、そのデュノア社が聞いた事の無い会社と提携しているから今でもシェアを拡大し続けているしその会社が作った機体がどれも優れた成績を残している機体ばかりだったりその企業が―さんですらもハッキングすることができなかったりとあるけどその中で際立ってイレギュラーなのはインパルスと呼ばれるISを扱っているこの有象無象だ。

何もかもが平凡な生きる価値がない有象無象のくせにこっちの最大戦力を単独で撃破したり、ISの動きとは思えない動きで自分よりも格上の相手に勝ったりと色々と気になる存在だ。

ああ、気になってあの有象無象の身体を解剖したくなるくらいだ。

だから、無理を言って今ある戦力の全てを投入してこの実験対象とあのインパルスという機体を捕獲する。

あの金髪の奴がなんだかんだ言っていたけれど、有象無象が―さんに勝てる道理は無い。

 

 

「ふっふっふ…さあ、準備は整ったよ~!!」

 

 

さあ、始めようか…。

―さんが作ったこのIS師団が世界最強だということをしらしめてあげよう。

おもちゃはおもちゃらしく大人しく―さんの思うとおりに動けばいいんだよ!!

さあ、迎えに行くからね。ちーちゃん、箒ちゃん、いっくん。

ふふふ、あはは、あーっはっはっはっ!!!

 

 

 

 




どうも、明日香です。今回は登校が遅くなって申し訳ありませんでした…。
さて、短いようで長かった第一章も終わりに近づいてきました。
次回は第一章のラストバトルの前半戦です。
世界の影の刺客からアルトリア達は無事に生き残ることができるのか?
束は改修されたインパルスを無事に真優の元へ届けることができるのか?
次回を楽しみにしていただけたら幸いです。

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