IS~衛宮の娘は遥か高き宇宙を目指す~   作:明日香

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第25話「運命を切り開く剣」

 

 

「なるほど、束さんと瓜二つの人がねぇ…」

 

「はい。先程私達が旅館内で会った篠ノ之博士は偽者でしたわ」

 

 

緊急のブリーフィングが終わった後、待機を命じられたわたくし達は駐車場で本物の篠ノ之博士を待っていたシンさんに指示を仰ぎに向かったわたくし達はシンさんと篠ノ之博士にもう一人の篠ノ之博士のことを伝えていました。

ブリーフィングの時に現れた篠ノ之博士が偽者だと判断した理由はシャルルさんとシャルロットさんのことをまったく認識していなかったということと瞳の奥底に宿った人間のものとは思えない狂気です。

どうやらシンさんと篠ノ之博士はある程度状況を察していたようです。

 

 

「一夏の傷は見た目ほど深刻じゃない。受けた攻撃が比較的弱かったのと咄嗟に零落白夜を使って威力を軽減したのだろう。

 それに白式には搭乗者の傷を癒す機能も持っているらしい。時間が経てば目覚める」

 

「そ、そうか…よかった…」

 

 

どうやら撃墜された一夏さんもそこまで大事にはなっていないようです。

もしこれが期待の防御力が低いブルー・ティアーズやセイバー・リリィだったらひとたまりもなかったでしょう…。

一夏さんは実力と幸運の両方に恵まれていたようですわね。

さて、後の問題は…

 

 

「シン様、これから私たちはこれより【銀の福音】およびアンノウンの迎撃のために出撃します」

 

「…わかった。自身の生存を最優先としろ。いいな?」

 

『はい!』

 

 

一夏さんを撃墜したアンノウンとそのアンノウンに守られている【銀の福音】の迎撃ですわね。

一夏さんが撃墜されたとなると敵は相当な手練…油断は出来ませんわね…。

 

 

「セシリア・オルコット、ブルー・ティアーズ。参りますわ!」

 

 

さあ、参りましょう。

これ以上わたくしの大切なものを傷つけさせはしませんわ!!

 

 

 

第25話「運命を切り開く剣」

 

 

◆ side 真優

 

 

臨海学校 旅館 真優とアルトリアの部屋

 

 

「はあ…アルトリア達おそいなぁ」

 

 

『あの時山田教諭が織斑教諭に見せていた手話は緊急時…Aランク以上の機密情報の内容を伝える時に使われるものだと思われます。恐らく余程の事態が起こったのでしょう…』

 

「じゃあ、なんで専用機を持っていない箒は呼ばれたのかな…?」

 

 

現在話相手がいない私はアーチャーとサファイアと一緒に現状の分析をしているのだけど専用機持ちのみんなが呼ばれたのはAランク以上の機密に触れるものだからだという。

何故サファイアがそこまで詳しいかは置いておいて、何故専用機を持っていない箒が呼ばれたのだろう?そこが理解できない。束さんと関係があるのなら寧ろ関わらせない筈だ。

 

 

『わからん…が、彼女もかなりの腕利きだ。おそらく戦力にするつもりなのだろう』

 

「でも、それならグラディスさんや簪さんも呼ばれると思うんだけど…」

 

『ああ、そこが問題だ。…これはかなりキナ臭い状況だぞ』

 

 

それに、いくら箒が腕利きだといってもISの操縦技術が基準ならチルノやグラディスさん、それに簪さんが呼ばれてもおかしくはない。

なのに呼ばれないとならば別の何かがある。その何かがわからないけど…。

 

 

『真優様。一夏様の白式とアンノウンが敵対勢力との交戦を確認しました』

 

「アンノウン?」

 

『箒様の反応を確認したのでおそらくは箒様の専用機だと思われます』

 

サファイアから箒達が出撃したと聞いた時、一瞬サファイアの言葉を疑った。

何故なら箒はまだ専用機を持っていないし、箒が乗る予定の専用機も昨日完成して修復が終わった私のインパルスと一緒に今束さん自身が陸路で輸送していると慎二おじさんから連絡があった。

もし束さんがここに来たのなら私に連絡が来るはずだ。

 

 

『もうひとつ報告だ。どうやら白式が撃墜されたらしい』

 

「撃墜!?一夏は無事なの!?」

 

『気絶したようですが命に別状はないようです。箒様が回収してこちらに戻っているようです』

 

「そっか…」

 

 

…一夏が撃墜されたと聞いて肝を冷やしたけれど命に別状はないらしい。

だけど…

 

 

「…サファイア、臨海学校に運ばれている訓練機はまだ残っているかわかる?」

 

『少々お待ち下さい。………確認しました。残念ですが全機出撃しているみたいです。

 それと一夏様以外の全専用機の出撃も確認しました』

 

「え?」

 

『おそらくチルノ達が勝手に出撃したのだろう。それとアンノウンに乗っていた

 彼女も束博士が用意した専用機に乗り換えたらしい』

 

 

少し考えた後私はサファイアに臨海学校用に運び込まれていた訓練機の位置を探してもらう。が、どうやら訓練機は全て出払っている。いや、盗まれているらしい。たぶん、チルノ達がやったのだろう。それと同時にアルトリア達が出撃したらしいからここに来ている何かを迎撃するために出撃したのだと思う。

私はどうすれば…。ん、通信?

 

 

「通信?」

 

『もしもし、聞こえているかな?』

 

「はい、聞こえています」

 

『今、旅館の近くの雑木林にいるのだけど真優ちゃんも来てもらっても良いかな?』

 

「わかりました。今から行きます」

 

『お願いね~』

 

 

通信の相手は束博士だった。

すぐに通信に出ると束博士が旅館付近の雑木林に来てほしいと言ってきた。

つまり、インパルスの修復が終わったのだろう。

だけど、通信機から聞こえた博士の声はどこか違和感がある。

 

 

『待ってください。先ほど声紋を照合しましたが通信の主は束博士ではありません。

 おそらく罠かと…』

 

 

サファイアが声紋を照合してくれた結果、やはりあの通信は束博士のものではないらしい。

そして、私はさっきから得体のしれない何かを感じている。

その何かはどんなものなのかわからないけどとてもどす黒くて気持ちが悪い…あの時私を取り込もうとした黒い泥に似ている。それがみんなに襲いかかろうとしている。なら、私がするべきことは決まった。

 

 

『…行くのかね?』

 

「うん。誰かはわからないけれど私を狙ってきている」

 

『おそらく戦闘は避けられんぞ?』

 

「だからこそだよ。私のせいでみんなを巻き添えにするわけにはいかない」

 

『真優様…』

 

 

おそらく私を呼んだのは何らかの理由で私を狙っている者なのだろう。それに、戦闘も避けられない。

だから、私の戦いにみんなを巻き込むわけにはいかない。

おそらくアルトリア達に頼めば一緒に同行してくれるだろう…。みんなの力があればとても心強い。だけど、私のせいでみんなが傷ついてしまうことは許せない。たとえみんなが許したとしても衛宮真優が自身を許すことは無い。

 

 

「力を貸してくれるかな?アーチャー、サファイア」

 

『承知いたしました好きなだけに私の力をお使いください』

 

『了解だ。力の限り君をサポートしよう』

 

「ありがとう」

 

『…本当にあいつ等の子供だな(ボソッ』

 

 

インパルスは居ないけれどアーチャーとサファイアの協力がある。

そうと決まればサッサと何かが待ち構えている雑木林に向かおう。

何かアーチャーが言っていた気がするけど今はそんな暇は無い。

こうしている間にも得体の知れない何かが近づきつつあるのだから…。

 

 

◆ side モードレッド

 

 

臨海学校 旅館付近の雑木林

 

 

「ったく、なんでここにあの女が来るかね…」

 

 

俺は今、シンの奴から俺をあのコアに封じ込めた元凶がこの旅館に来ていると聞き、旅館の付近にある雑木林で警戒している。

理由としてはこの雑木林にあの女が現れたとシンの奴から聞いたからだ。

あの女のことだ。マユの奴を無理やりにでも連れ出すために戦力を隠しているはず。

ならば今のうちにあの女を殺して…

 

 

「んな!?」

 

 

気がついたらマユが雑木林の中へ入っていった。

おそらく臨海学校に来ているやつらを守るために自分を犠牲にしてまで守るつもりだ。

 

 

「…あんの馬鹿!!」

 

 

そんなことをしても誰も喜ばないというのにあいつは平然と自分の命を捨てるようなマネをする。

しかも間の悪いことにここの周囲には俺の同族だった奴らがわんさかいる。

おそらく俺がマユの救援に行くのを妨害するためだろう。

上等だ。そこらの有象無象如きで俺を止められると思うなよ!

そしてマユ!帰ったら一発ぶん殴ってやるからな!!

 

 

 

 

◆ side 真優

 

 

臨海学校 旅館付近の雑木林

 

 

「…来たね」

 

「お待たせしました」

 

 

あれから、先生の目を盗んで旅館近くの雑木林の中へ入り、念のためアーチャーを夢幻召喚【インストール】してから雑木林の奥へ向かうとそこには束博士にそっくりな人が立っていた。

やはり、声も見た目も仕草も束博士にとてもよく似ている。

強いて言うならば私が知っている束博士は間桐グループのツナギを着ているのに対して目の前に居るこの人は不思議の国のアリスを連想するような服装をしている。

 

 

「さて、と。君に来てもらった理由は他でもない…」

 

「…どこの誰かは知りませんけど私を捕まえに来たんですよね?」

 

 

ここで禅問答をしている暇はない。

今、ここから少し離れた場所でアルトリア達がみんなを守るために戦っている。

それを目の前に居るこの人に邪魔させるわけにはいかない。

 

 

「へぇ?有象無象の割には随分と口が利くじゃない」

 

 

これでわかった。

目の前に居るこの人は束博士なんかじゃない。

束博士は何度も世界に絶望しかけたけれどそれでも今ある世界を信じているし、そこに住まう私達のことも信じてくれている。

決して私の目の前に居るこの人のような周囲にあるもの全てをゴミクズにしか見えていない冷酷な人なんかじゃない!

これでもう躊躇う必要はない。

 

 

「【投影、開始】」

 

「へぇ。これまた奇妙な力を持っているんだね。だけど…」

 

 

ジャキッ!!

 

 

「これだけのIS達相手に勝てると思っているのかな?」

 

 

私の体が動かせるようになってからずっとアーチャーから学んできた力で私の両手に一対の中華剣を創りだす。

流石に丸腰では戦うことが出来ないからね。

だけど、あちらも私が反抗することを読んでいたようで見たこともない黒いISが私の周囲を囲んでいる。

でも、だからどうした?

 

 

「勝てる勝てないじゃない。勝つんだ!!」

 

 

放っておけばこの人はみんなに危害を加える。

そして、この場で戦える人は私とアーチャーとサファイアしか居ない。

ならば、ここでこの人を止める!

私の後ろには学園のみんながいるのだから!!

 

 

◆ side シン

 

 

真優が束?が戦闘を始めた直後

 

 

臨海学校 駐車場

 

 

「…行ったか」

 

「なんとか箒ちゃんに機体を届けることが出来て束さんは一安心だよ」

 

「ああ。だが、まだ真優にインパルスを渡せていない」

 

「それなんだよね…。さっきから通信を入れようとしてもまったく繋がらないし…」

 

 

俺が束博士に呼び出されて駐車場で束博士と合流した直後にセシリア達が俺に指示を仰ぎに来た。

幸い、こちらもどのような状況なのか掴んでいたためセシリア達に指示を出すのはすぐに終わり、箒も出所不明のISではなく束博士が用意した新型IS【紅桜】に乗り換え、セシリア達と共に出撃した。

これで束博士の役目の半分が終わったわけだが問題は残りの半分である真優のISを届けるということができていない。

一応何度もコールをかけているようだが全く繋がらないらしい。

そして、先ほどから魔力の奔流があの雑木林から流れている。

まさか…

 

 

「シンさん、どうしたの?」

 

「すまない。急用が出来た」

 

 

俺の予想が正しければ今の状況は限りなく最悪に近い状況だ。

このまま放っておけば最悪の事態が起こる可能性がある。

あの女狐め、まだ諦めて…いや、そちらが本命か!!

 

 

「………わかった。ちーちゃんに会えなかったのは残念だけど束さんは会社に戻るね。

 それと、真優ちゃんにインパルスを届けてもらってもいいかな?」

 

「了解だ」

 

 

本来なら束博士にインパルスを届けてもらいたかったがあの女狐が居る以上束博士をここに居させるわけにはいかない。

束博士も自分がこの場に居たら厄介なことになると悟ってくれたため、待機状態のインパルスを俺に渡して帰路についてくれた。

束博士はああ見えても織斑先生並の身体能力とIS運用能力、そして現在稼動しているISの中でも最高峰の性能を誇るFセイバー3号機を所持している。

戦力の大半をこちらに集中させているやつらでは束博士を襲撃することなど不可能だ。

だから、束博士に関しては心配要らない。

問題は雑木林に居るであろう真優とあの女狐だ。

念のためモードレッドにあの女狐がいるであろう雑木林を警戒させていたがそのモードレッドとの通信も繋がらない。

大事になっていなければいいが…。

間に合ってくれよ…。

 

 

◆ side 真優

 

 

臨海学校 旅館付近の雑木林

 

 

ガキィンッ!!

 

 

『!?!?!?!?』

 

 

私が振るった剣が目の前に居る不気味なISを両断し、不気味なISが糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。

これで、何体目だろうか…?

 

 

『!』

 

「っ!はあっ!!」

 

 

バキィンッ!!

 

 

『!?!?!?』

 

 

だが、そんなことを考える暇もなくまた別のISが襲い掛かってくる。

なんとかカウンターで沈黙させることが出来たけれど集中力が一瞬途切れたせいで持っていた剣が砕けてしまった。

折れた剣の数は既に数えるのが億劫になるほどの剣が折れている。

 

 

「…【投影、開始】!」

 

『!』

 

「せいっ!!」

 

 

ズバァッ!

 

 

『!?』

 

「たあっ!!」

 

 

ズガァンッ!!

 

 

『!?!?!?』

 

 

剣を作り出している隙を突かれないように走りながら剣を作り出し、大振りの攻撃をしかけてきたISの首を跳ね飛ばし、機能停止したISを蹴り飛ばして次のISの攻撃を警戒しながら距離をとる。

 

 

「はあ、はあ…」

 

「おやおやよく頑張るね~」

 

 

幸い、目の前に居るこの人は一体ずつしかISをけしかけてこない。

これが一斉に襲い掛かってきたらひとたまりもないだろう。

目の前の人が束博士と同程度の力を持っていたとしたら同時にISを使役するなんて容易いはず。

私に対して一体ずつしかけしかけないということは別のところで多数のISを同時に操っている。

つまり、今回の事件の黒幕は…!

 

 

『真優様、これ以上の戦闘は無理です!撤退を!!』

 

『サファイアの言うとおりだ。このままではジリ貧だぞ!』

 

『アーチャー、確かアーチャーは大量に作り出した剣を雨のように降らせることが

 出来たんだよね?』

 

『とある手順を踏まなければ出来ないが可能だが…。まさか!?』

 

 

自然と剣を握る強さが強くなる。

一夏を私の大切な友達を傷つけたのは目の前に居るこいつだ。

私の周囲にいるISだって本当は果てしなく遠い宇宙へ飛び立つ人々を守る鎧として生まれたはずなのに目の前に居るこいつがその存在理由を汚され、こうして使役させられている。

そう、ここにいるIS達はあの時のモードと同じだ。

ならば、私にできることは…。

 

 

イメージBGM:Fate/Extraより Servant Stay -Night Archer, The Hero Who Nobody Knows -

 

 

 

「体は剣で出来ている 【I am the bone of my sword.】 」

 

「ん、なにを始める気なのかな?」

 

「血潮は鉄で心は硝子 【Steel is my body,and fire is my blood. 】」

 

『この詠唱は…まさか!?』

 

 

カードに記録されている呪文を私にとっての人生の意味を加えて詠唱する。

そう、手順をするために必要なものがあるのならば作り出せばいい。

幸い力はサファイアから供給できるし、アーチャーの力と私の力との相性は非常に良い。

多少私の身体に負担がかかるかもしれないけどこの程度の負担、海上で戦っているアルトリアたちと比べればどうということはない。

なに、決して難しいことじゃないし不可能なことではない。

この力はそれだけのことのみに特化した力なのだから。

 

 

「幾たびの戦場を越えて不敗 【I have created over a thousand blades. 】」

 

『…!急速に世界が塗り替えられています!』

 

『止すんだマスター!その力は今のマスターにとって危険すぎる!!』

 

 

動揺するサファイアの声と私を制止しようとするアーチャーの声が聞こえるけれど今は無視する。

ここで詠唱を途絶えさせれば行き場を失った力が暴走して大爆発を引き起こす。

そうなればここ一帯が火の海と化し、臨海学校にいるみんなを傷つけてしまう。

それだけは絶対にしてはならない。

 

 

「ただ一度の敗走もなく、 【Unaware of loss. 】」

 

「お、おお~?」

 

「ただ一度の勝利もなし 【Nor aware of gain. 】」

 

「…こりゃ、ヤバイね」

 

「担い手はここに独り 【Withstood pain to create weapons, 】」

 

「ここから先が気になるところだけどつぶさせてもらうよ!」

 

「剣の丘で鉄を鍛つ 【waiting for one's arrival. 】」

 

 

目の前に居る彼女はここにきて私がしようとしていることに気がついたらしい。

ここまで来て詠唱を失敗させるわけにはいかないというのに!

 

 

「ならば我が生涯に意味は不要ず 【I have no regrets.This is the only path. 】」

 

『!』

 

 

ガキィンッ!!

 

 

「おっと、マユの邪魔はさせねぇぞ。クソ女」

 

「まさかここで裏切り者が出てくるなんてね…」

 

「(ありがとう、モード…)この体は、 【My whole life was 】」

 

 

だが、土壇場でモードが駆けつけてきてモードが持っている剣が私に襲い掛かるはずだった凶刃を防いだ。

目の前に居る彼女はモードが現れると思っていなかったらしい。

そして、私は…

 

 

「無限の剣で出来ていた 【"unlimited blade works" 】」

 

 

私の心象風景を投影した世界を作り上げた。

 

 

『これは…固有結界!?』

 

「おいおい…。流石にこれはやばすぎるだろ…」

 

「…なにこれ」

 

『まさか、本当に成し遂げるとは…』

 

 

想定外の状況に動揺が隠せない彼女と感嘆するアーチャーとサファイア、そして、わたしがしでかしたことに呆れるモードの声が聞こえる。

だけど、これはあくまで準備段階、ここからが本番だ。

 

 

「――――投影開始【トレースオン】」

 

「…おいおい、マジかよ」

 

 

カードの記録と私の記憶の中からこの状況で最も効果のある武器を選び出し、その剣を私の頭上に量産する。

 

 

「――――憑依経験、共感終了」

 

『これは…全て宝具!?』

 

「――――工程完了【ロールアウト】。全投影待機【バレットクリア】」

 

『やはり君は…』

 

 

だが、作り出すだけではだめだ。

無作為に武器を射出すれば一緒に居るモードを傷つけてしまう。

だから、狙いを目の前でうろたえている彼女に照準を固定し…

 

 

「――――停止解凍【フリーズアウト】、全投影連続層写【ソードバレルフルオープン】………!!!」

 

「う、うあ…」

 

 

それを一斉に射出する!!

 

 

「た、束さんを守るんだよ!!」

 

『!』

 

 

彼女は慌てて残りのIS全てに命令を出してISの盾を作り出す。

だが、それが私の狙いだ。

一箇所に集中すればわざわざ一体一体狙う必要は無い。

 

 

ドガガガガガガッ!!!

 

 

『!?』

 

 

私が作り出した剣がISの盾に殺到し、全てとはいかないが9割のISに命中した。

だが、これだけではISの壁を突破できない。

だから、これで抉じ開ける!

 

 

「壊れた幻想【ブロークン・ファンダズム】!!」

 

 

ドガアァァァァァァァァァンッ!!!

 

 

『!?!?!?』

 

「我が骨子は捻れ狂う…」

 

「なっ!?」

 

 

ISに突き刺さった剣を同時に爆破し、刺さっていないISも含めて吹き飛ばす。

爆破した剣や破壊したISに対して罪悪感を抱くけれど私はその罪悪感を背負って生きる。

彼らの犠牲を無駄にしないためにここで彼女を討つ!!

 

 

「偽・螺旋剣Ⅱ【カラドボルグ】!!」

 

 

螺旋状の剣が矢となって彼女に迫る。

狙いはひとつ、彼女の心臓。

これで、決め…!?

 

 

「カハッ…!」

 

「マユ!?」

 

『真優様!?』

 

『マスター!?』

 

 

最後に矢を放った直後に私の口から血が吹き出た。

私の集中力が切れたことで螺旋の剣は光の粒子となって消え去り、私が張った結界も砕け散った。

 

 

「ふふふ…流石に限界が来たようだね。有象無象のくせになかなか梃子摺らせてくれたね…」

 

 

まさか、もう限界がきたなんて…。

このままではマズイ。

このままだと…だけど、まだ諦められない!

そう思った瞬間だった。

 

 

「やれやれ、最後の最後でツメを誤るのはあいつ譲りだな…」

 

「ったく、おせーんだよ」

 

「え…?」

 

「我が憎悪は歪み狂う…天使を葬りし【エクス】、者の剣【カリバー】!!」

 

「ガハッ…!?」

 

「失せろ。ここは貴様の居ていい世界ではない」

 

 

真っ黒な剣が私とモードの間を通り抜けて飛んでいき、そのまま吸い込まれるように彼女の胸元へ突き刺さり、彼女の体は最早原型を留めていなかった。

おそらく彼女は完全に死んだだろう…。

…何故だろう。人が死んだはずなのに嫌悪感も悲壮感も罪悪感も感じない。

彼女が悪人だったとしても人を殺したというのに代わりはないというのに…。

 

 

「言いたい気持ちはわからなくもないが今はそのような状況ではない」

 

「シン…」

 

「海上で戦っているアルトリア達が苦戦している。今からアルトリア達の援護にむかうぞ」

 

「う、うん」

 

 

どうやらシンも私の気持ちを理解してくれているようだけどそんな暇は無かった。

どうやら海上で戦っているアルトリア達が苦戦しているらしい。

ならば一刻も早くアルトリア達の援護に行かないと…。

 

 

「あ、おい。父上の援護に行くっつっても俺はISなんて持ってないぞ!?」

 

 

そうだった…。

長距離から狙撃できるシンはともかくモードは動かせるISを持っていない。

これじゃあモードをここにおいていってしまうことになるけれど…。

 

 

「それなら問題ない。お前用の専用機を持ってきている」

 

「ん?これってどうみても俺の剣のミニチュアじゃねぇか」

 

「それは俺がアルトリアの機体の予備パーツを流用して作った機体だ。

 武装はお前が受肉した時の装備をそのまま使用してある。その方が動かしやすいだろう?」

 

「…わかってるじゃねぇか」

 

 

…うん。なんとなくわかってた。

シンのことだからモードの専用機だって準備していると思っていたけど本当に用意していたなんて…。

ま、まあ、これでモードも行けないという事態は避けれたね。

よし、このままアルトリア達の援護に…

 

 

『今のマユ様の体は固有結界と投影魔術の使いすぎによってボロボロです。これ以上の戦闘は…』

 

 

…ここでサファイアからストップが入った。

まあ、確かにアーチャーの力に耐え切れず血を吐いてしまったけれど今は多少の痛みがするくらいで異常がない。

念のため解析魔術で自分の身体を解析してみたけれど異常は見当たらなかった。

だから、大丈夫だ。

 

 

「大丈夫。まだ私は戦えるよ」

 

『大丈夫なわけありません!その状態で戦っては…』

 

『…後悔しないのだな?マスター』

 

『アーチャー!?』

 

「うん。ここで待っていた方が絶対に後悔する…。そんな気がするんだ」

 

『…わかった。マスターを頼む』

 

「ああ。わかっている」

 

 

それに、アーチャーも私が戦いに出ることを許してくれた。

心配してくれているサファイアには悪いけど今はここで待っていた方が後悔する。

だから、私は戦う。

 

 

「これは…デスティニー・シルエット?」

 

「インパルスのコアが束博士達に製作を依頼した複合型のシルエットだ。

 フォース・ソード・ブラストを融合させたシルエットだが

 とり回しが悪いうえに制限時間がある。使うのならばタイミングを見誤るなよ?」

 

「わかった!」

 

 

シンから受け取ったインパルスを展開し、インパルスの各パラメーターをチェックしていると装備できるシルエットの中にデスティニー・シルエットという新しいシルエットの名前が追加されていた。

どうやらインパルスが私のために設計し、束博士達が私のために新しいシルエットを作ってくれたらしい。

これは…絶対に負けられないね。

 

 

「衛宮真優、インパルスガンダム。いきます!!」

 

 

さあ、行こう!

こっちの戦いは終わったけれどまだ海上ではみんなが戦っている。

もう、10年前のあの日のような悲劇は繰り返させない!絶対に!!

 

 




オワラナカッタ…。
どうも、明日香です。
今回は真優対もう一人の束&大量の無人ISの戦いとなりました。
今回で第1章の戦いが終わるはずが完全に終わりませんでした(モウチョットダケタタカイハツヅクンジャ)。
さて、次回で本当に第1章のラストバトルとなります。
それでは、次回を楽しみにしていただければ幸いです。

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