IS~衛宮の娘は遥か高き宇宙を目指す~   作:明日香

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第3話「暗部と代表決定戦と永久に遥か黄金の剣【エクスカリバー・イマージュ】と…」

わたくしが真優さん達と知り合ったきっかけは数ヶ月前のことです。

あの事件の翌日、真優さん達は事情聴取のために1ヶ月半ほど

イギリスに滞在することになりました。

真優さん達と親交を得たのは日本に帰られるまで真優さん達が

わたくしの邸宅に滞在していた時に起こったある出来事がきっかけです。

あの時のわたくしは偏見の塊だった時なので真優さんには酷いことを言ってしまいました。

 

 

『極東の猿がわたくしに触らないでくれますか?』

 

『貴女方が我々の専用機を奪還したから特別に住まわせてやっているのですよ?』

 

『わたくしに友達など必要ありません』

 

『周囲の人間は全て敵ですわ』

 

 

うぅ…思い出しただけでもあの時のわたくしを撃ち殺したくなりますわ…。

イギリスの名誉を守った大恩人に対する数々の失言…。

わたくしに気を掛けてくれているのに友など必要ないと真優さんを突き放し…。

挙句の果てにはお父様とお母様がこの世を去ってからもわたくしについてきてくれた

チェルシーすらもオルコット家の財産目当てで居るのだと決めつけていたこと…。

こんなことでは嫌われるのは当然です…。

それなのにあの人は…

 

 

『うん。だって私と箒はイギリスの地図から見て凄い東から来たからね』

 

『正直ここまで歓迎してもらっているとは思わなかったよ…。

 ただ私達は降りかかる火の粉を払っただけなのにね~』

 

『友達はいたほうが楽しいよ!いろんなことを一緒にお喋りしたり

 いろんなところで一緒に遊んだり一緒に笑える人がいたり

 一緒に悲しんでくれたり一緒に怒ってくれたりする人がいると本当に心が温かくなるんだよ!』

 

『でもセシリアはお父さんとお母さんのことを誇りに思って

 お父さんとお母さんの遺したものを守ろうとしていたんだよね?

 そういう生き方が出来るって本当に凄いと思う。

 私には到底できそうにないから…。

 でも、自分のことを見守ってくれている人のことも思ってあげてね?』

 

 

と言って全て許してくれました。

それでもあの時のわたくしは真優さんを突き離し続けました。

自身の仮面を取られたくはなかったから…。

そして真優さん達が来てから3週間ほどたったある日のことです。

わたくしに何度も何度も突き放されてもわたくしと接しようとする

真優さんの行動に疑問を持ったのでわたくしは尋ねたのです。

『何故そんなにも私にかまうのか?』と…。

そうしたら真優さんは…

 

 

『セシリアと友達になりたいから』

 

 

おそらくあの頃のわたくしはオルコット家の財産目当ての輩ばかりを見ていたから

わたくしと関わろうとする全ての人間はそのような下種ばかりだと

そう思い込んでいたのでしょうね…。

ですが、真優さんは違った。

ただ純粋にわたくしの友達になりたかった。

真優さんの言葉を聞いた時、何かが砕ける音がしました…。

おそらくオルコット家当主としてのセシリア・オルコットの仮面が

完全に砕け散った音なのでしょう…。

わたくしは真優さんの胸の中で散々泣きました。

真優さんも最初は驚いていましたがすぐに受け入れてくれました…。

あの後、真優さんの仲裁で当時は敵対していたアルトリアさん達とも親しくなれました…。

箒さんは日本にある様々なものを教えてくれました。

 

 

『これは日本の煎茶という茶だ』

 

『紅茶とはまた違った美味しさがありますわね…』

 

『箒さん!この服はなんですか!?』

 

『その服は振袖というものだ』

 

『美しい服ですわね…。今度取り寄せてみましょうか…』

 

『なら今度会った時に着付け方を教えようか?』

 

『是非お願いしますわ!』

 

 

アルトリアさんはわたくしの長所と短所を教えてくれました。

 

 

『セシリア、貴女は無意識に問題発言をすることが多すぎます。

 治す努力をした方がいいでしょう』

 

『はい…。気をつけますわ…』

 

『ですが貴女は自身の失敗を認めることができる。

 それは中々手に入らないとても大切な才能です。

 その心構えを常に忘れないよう心掛けてください』

 

 

シンさんは色々なことを教えてくれましたわ。

わたくしが井の中の蛙だということ。

 

 

『こんなもんか…』

 

『ISを使用したのに生身の人に負けました…』

 

 

…精神的なダメージが大きかったですけど。

わたくしにIS同士の戦闘時の様々な戦術を

 

 

『どのようなものにも弱点はある』

 

『特に慢心は勝利を敗北へと変える猛毒だ。気をつけた方がいい』

 

『気をつけますわ』

 

『それでいい。よし、次は俺との模擬戦を3セットだ』

 

『…もう日が暮れかけているのですが』

 

 

…とんでもなくスパルタ指導でしたが。

わたくしに様々な美味しい料理の存在を

 

 

『言うべきことはただ一つ。写真のない料理本で練習しろ』

 

『え?』

 

『見た目も大事だがまずは基本をマスターしろ。アレンジはそれからだ』

 

『でも写真があったほうが…』

 

『料理を標本に変える奴に発言権はない』

 

 

…わたくしの調理スキルの無さに絶望しましたけど。

紅茶の美味しい淹れ方を

 

 

『紅茶を淹れる才能は俺よりも遥かに高いな。俺から教えられることはもう無い』

 

『ありがとうございますわ』

 

『む~…』

 

 

…わたくしを見るアルトリアさんの目が凄く怖かったですけど。

とまあ、真優さん達の出会いの後、色々と成長できたと思ったのですが…。

 

 

「アルトリアさんに気をつけろとあれほど言われましたのに…」

 

 

クラス代表決定戦が来週の月曜日と決まった日の翌日の放課後。

学園からアリーナ使用の許可を得てアリーナへ入ったわたくしは今、

先日の自分の言動を思い出して頭を抱えています。

ああ、またやってしまいました…。

本当はあの様な罵詈雑言をするつもりなどなかったのに頭に血が上って

とんでもない罵詈雑言を言ってしまいました…。

あの時アルトリアさんが止めようとしてくれなければ

確実に外交問題になっていたでしょう…。

とにかく今は目の前のクラス代表決定戦に集中しましょう。

………アルトリアさんを相手にして生きて帰れるかわかりませんが

 

 

第3話「暗部と代表決定戦と永久に遥か黄金の剣【エクスカリバー・イマージュ】と…」

 

 

◆ Side 真優

 

 

IS学園 第3アリーナ付近 クラス代表決定戦まであと6日

 

 

私達がアンリ・マユ【この世の全ての汚部屋】の討伐をした日の翌日の放課後…。

私は普段の日課であるアルトリアとの稽古をしている。

ちなみに箒は剣道部に所属しているので合流するのはもう少し先だ

本当はシンとの稽古もしたいんだけど今日は用務員の仕事が忙しくて

私の稽古を手伝えない状況らしい。

シンも仕事があるから無理強いはできないからね…。

で、アルトリアとの稽古なんだけど…

 

 

「あべしっ」

 

「まだまだですね。マユ」

 

 

しばらく打ち合いをしていたけどアルトリアの竹刀が私の頭に当たった

うん。今日もいつも通りだ。

アルトリアと出会った時から剣の稽古をしているんだけど未だに一発も当てられていない…。

 

 

「うぅ。今日こそは一発当てられると思ったんだけどなあ…」

 

「ですがまた腕を上げましたね。何度か冷や汗を掻くことがありましたから」

 

「冷や汗を掻かすんじゃなくて当てられるようになりたいんだけどね…」

 

 

アルトリアは私の動きを褒めてくれているけど未だに自信が持てない。

冷や汗を掻かせるだけじゃ駄目だ。

いくら冷や汗を掻かせても勝負に負けたら意味がない。

やるからには勝ちたい。

だから私はいつもアルトリアに稽古を頼んでいる。

アルトリアも授業で疲れているのに稽古に付き合ってくれている。

だからしっかり成果を上げないとね…。

あ、そういえば気になることがあった。

 

 

「そういえばアルトリアはクラス代表決定戦の時のISどうするの?」

 

「シンから聞いたのですがどうやら専用機が用意されるようです」

 

「なん…だと…?」

 

 

OH…。

まさかいきなり専用機を貰えるなんて…。

ISコアは467機しか存在しないからその中から専用機を用意してもらうなんてとても凄いことだ。

一夏も専用機を用意されるみたいだけどたぶんデータ取りの為なんだと思う。

だから純粋に専用機を用意してもらうアルトリアは凄いのだ。

でも心配なことがある。

 

 

「…セイバーの動きに反応が追いつくの?」

 

「………………………………………………」

 

 

実は入試試験の際にアルトリアは試験官の人に負けている。

その原因は単純明快、試験用に用意されたラファール・リヴァイヴが

セイバーの動きについていけなくて試合の途中でオーバーヒートしたから

私はアルトリアの次だったからその時にこっそりそのリヴァイヴを【解析】したら

駆動系のダメージがD相当になるまで負担が掛かってた。

えっと、ダメージランクというのは全部で5つあって

 

 

A…ちょっとしたかすり傷

B…小破。ISの修復能力で3日置いておけば治る程度

C…中破。無理に使うと変な癖が出来るから試合に出せない

D…大破。要オーバーホール。再起不能にならないだけマシ

E…再起不能。こうなったらもう初期化するしかない

 

 

という感じなんだけどアルトリアは1回の戦闘でDランクまで

ダメージを与えちゃったみたいで私の試験が始まるのに時間が掛かった。

あの時のセイバーの言動なんだけど…

 

 

「あれは私の反応についてこられなかった機体が悪いんです。

 私のせいではありません。私は悪くありません」

 

 

自分の失敗を潔く認めるアルトリアにしては珍しく自分の失敗を認めなかった。

まあ、そのおかげでセイバーは文句なし合格なんだけど…。

そんなセイバーの動きに耐えられるのかな…?

なんか無茶しすぎて乗り潰す未来が見えた気がする…

 

 

◆ Side シン

 

 

IS学園 第4アリーナ クラス代表決定戦まであと4日

 

 

「あの猪突猛進娘が専用機持ちか」

 

 

人の気配がないアリーナの掃除をしながら俺はあのアルトリアに

専用機があてがわれることになったことを思い出していた。

しかし皮肉なものだな。

真優の話によればISは兵器としてではなく宇宙開発の発展の為に開発された

超がつくほど高性能な宇宙服だという。

そういう意味では俺の世界のMSと良く似ている…。

まったく、何処の世界でも人間とは変わらないものだ。

恐らくISコアが全部で467機までしか存在しないのは篠ノ之博士が

大馬鹿者の女達が戦争を始めないようにするためにわざと生産を取り止めたのだろう。

そして、篠ノ之博士が失踪したのはISの製造技術を戦争に使われないようにするためだ。

篠ノ之博士本人も断腸の思いだったのだろうな。

箒の話を聞く限りでは篠ノ之博士は箒のことを溺愛していた。

だが自分が居たら間違いなく箒は命の危機にさらされる。

だから篠ノ之博士は箒達の前から姿を消した。

箒が真優に出会うまで篠ノ之博士を憎んでいたように

篠ノ之博士も世界を憎んだのだろう。

自分の子供といっても過言ではないISが一部の人間のエゴで

無限の可能性を切り開く鍵が可能性を潰す兵器として使われたことに。

自身の妹と離れ離れになるということに。

それでも篠ノ之博士は人々の可能性を信じている。

そうでなければ今頃全てのISはただのガラクタだろうからな。

さて、愚痴はここまでして本来の“仕事”に戻るとしようか。

 

 

「いつまで見ているつもりだ?監視者」

 

「あら?ばれちゃったかしら?」

 

「隠れるつもりがあるのなら不自然に気配を消さないことだな」

 

 

俺が声をかけた先から現れたのは真優と同じくIS学園制服を着用した少女だ。

学年はリボンの色から察して2年か…。

左手に持っている扇子には『お見事』と書かれている。いつ書いた?

まあそれはいい。

問題は目の前に居る少女がこの学園に来てから俺達を監視していた。

つまり監視者であるということだ。

 

 

「ふむ…。今度から気をつけるとするわ」

 

「それで、何の用だ?」

 

「何の用って?お仕事に励む用務員さんに挨拶をかけただけよ?」

 

「なるほど、君は挨拶をするときには殺気をぶつけるのか」

 

「殺気?なんのことかしら?」

 

「妹を必死になって守る姉が持つような殺気だ」

 

「っ」

 

 

最初の読みあいは俺の勝ちのようだな。

構えや仕草から察するにおそらく暗部の者としての訓練を受けた。

もしくは受けさせられた者なのだろう。

だがこの少女は暗部には全く向いていない。

暗部の者として生きるにはこの少女はあまりにも優しすぎる。

その証拠に俺のブラフに対して僅かだが唇をかみしめた。

おそらく動揺したのだろう。自分の妹が狙われるのではないかと。

ここが戦場で俺1人だけならこの少女を殺していただろう。

だが、今の俺のマスターもそれを良しとしない性格だ。

ならば俺がするべき行動はひとつだな。

 

 

「先に言っておくことがある」

 

「…なにかしら?」

 

「そちらが手を出さない限りこちらも決して手を出さない。

だがそちら手を出したら」

 

「っ!?」

 

 

まずこちらから手を出すことはないと伝え、

俺は目の前の少女がISを展開する前に接近し、

少女の口を押さえながら少女の首筋にナイフを当てる。

 

 

「お前達の命は無いと思え。警告は一度きりだ」

 

「!?」

 

 

この少女の身に殺気を当てながらこの少女に警告する。

『そちらが手を出したらその命はない』と。

そう伝えるとナイフをしまい、口から手を放した。

目の前の少女がへたり込むがそちらから手を出そうとしたのだ。

命があるだけまだ儲けものだ。

一応脅しだけだから肌に傷をつけていないからな。

まあ、これだけ警告すればいいだろう。

だが俺も随分甘くなったな。

俺があの世界で守護者をしていた頃はあの年頃の少女も

なんの躊躇いもなく殺していた。世界を守るという名目でな。

そういう意味では今の俺はこれ以上となく恵まれているだろう。

さて、今日の仕事も終えたことだし真優達と合流するとしよう。

 

 

◆ Side 楯無

 

 

IS学園 第2アリーナ クラス代表決定戦まであと4日

 

 

「お嬢様!!お嬢様!!!」

 

「…っぷはあ!!はあ…はあ…」

 

 

いつの間にか私の隣に居た虚ちゃんに呼びかけられてようやく私は息が出来る様になった。

なんなのよあの男は!?

調べてもまったく過去の経歴がわからない。

わかったのは名前と今から数ヶ月前の記録だけ。

それだけならまだいい。

あの男は危険すぎる。

彼の出していた殺気はもちろんだけど…。

あの時私は警戒を解かずにしっかりと構えていた。

それなのにいつの間にか口を押さえられ、ナイフを当てられた。

これでも動体視力が良いけれどそれでも捉えられなかった。

だけど、何よりも恐ろしかったのは…

 

 

「お嬢様…?」

 

「虚ちゃん。あの男は…ISの弱点を知っているわ」

 

「は?」

 

 

あの男…シン・アスカはISの弱点を熟知している。

確かにISは非常にハイスペックな兵器だ。

それでも弱点というのは存在する。

 

 

「ISを展開する時にはね、どうしてもラグが出来るの」

 

「それは常識ですがお嬢様の実力ならあってないようなものでは?」

 

「その僅かなラグさえも彼の前では致命的なのよ」

 

 

だが待機状態から完全展開も部分展開も関係なしにどうしても展開するまでにラグがある。

それはどんなに訓練しても完全に消すことは出来ない。

そして待機状態のISは展開できねばただのアクセサリーにすぎない。

あの男はそれを完全に熟知している。

もしあの男が私を殺そうとしていたのなら私は何もできずに殺されていた。

あの男なら私がミステリアス・レディを展開する前に

私の首を掻っ切ることくらい造作も無いだろうからね。

 

 

「本当に…恐ろしいわね。あの男は…」

 

 

でもやられっぱなしのままで終わるほど私は諦めが良くない。

なんらかの形でギャフンと言わせてあげるんだから!!

だからその時まで待ってなさいよ!シン・アスカ!!

 

 

◆ Side アルトリア

 

 

IS学園第2アリーナ クラス代表決定戦まであと4日

 

 

「…む」

 

「どうかしましたか?」

 

「いや、どうやら俺は厄介な御嬢さんに興味を持たれたらしい」

 

 

私にあてがわれる専用機の説明をしていたシンが唐突に背後を振り向いた。

シンの話によると厄介な少女に興味を持たれたらしい。

いつの間に年端もいかぬ少女を落としたのでしょうか…。

本当に女たらしな守護者です。

 

 

「はあ…またですか?」

 

「またとは失礼だな」

 

「またですよ。そんなのだから貴方は女の敵と言われるんです。

 セシリアノトキモソウダッタシ…」

 

「ん?何か言ったか?」

 

「別に…」

 

 

まったく、彼は聖杯戦争の時からまるで変わっていませんね。

皮肉を言ってこちらの心に傷を負わせたと思ったらいきなり優しくする。

その手腕で一体何人の女性が落とされたのでしょうか?

私が知る限りではバゼット、セシリアの2人ですね。

まあ、シンはシロウと同じくらいに料理が上手ですし、

家事も得意ですし、色々と気が利きますし、非常に頼りになりますし、

私のミスを色々とカバーしてくれましたし、

私に色々と助言してくれましたし、命の危機も救ってくれました。

べ、別にシンが女性に人気なのを怒っているわけではないですよ!

決して私の好意に気が付いていないからシンに対して

怒っているわけではありませんからね!!

 

 

「アルトリア。聞いているのか?」

 

「うぇっ!?」

 

「…その様子だと聞いていなかったな?」

 

 

だって、こんなにも色々と考えさせるシンが悪いんですよ!

決して私は間違っていない!

誰だって自分が気になる人の周囲に他の女性が居たら気になります!

だから私は悪くない!悪くないんです!!

 

 

パァンッ!!

 

 

「あいたぁっ!?」

 

「何を考えているのかは知らないがとりあえず落ち着け」

 

「はい…」

 

 

い、痛い…どこからハリセンを取り出したのでしょうか?

というよりこのハリセン文字通り紙の中に針金が入ってますよ!?

こんなので殴られて私がバカになったらどうするつもりですか!?

 

 

「安心しろ。守護者はハリセンで叩かれた程度では死なん」

 

 

こっちの考えていることを読まれた!?

くっ…シンはいったいいつから読心術まで身につけたのでしょうか?

このままでは私の心が色々と暴かれる!?

 

 

「ハァ…。とりあえずもう一度説明するがいいな?」

 

「…はい」

 

 

そんなことを考えていたら露骨にため息を吐いて本題に戻しました。

いつまでもコントをしている時間はありませんからね。

さて、今回はしっかりと彼の説明を聞きましょう。

 

 

「君の専用機だが間桐グループが製作を担当するらしい」

 

「間桐グループ?確かISを製作していなかった筈ですが…」

 

「とあるルートでISのコアを入手したらしくてな。

試作機のテストパイロットとして君を指名したらしい」

 

 

あのシンジが起業した企業が私の専用機を製作するのですか…。

時の流れとは凄いものです。

まさかあのシンジが今ではこの世界でも有数の大企業の社長なんですから…。

ライダーもここまで成長するとは思っていなかったでしょう。

彼とは色々と敵対しましたが今はタイガと同じく

マユと最近ではホウキの後見人として2人を守っているとは…。

リンが知ったらなんと言うでしょうね…。

しかしどこからISコアを入手したのでしょうか?

大企業とはいえISコアの買収など不可能でしょうし…。

 

 

『聞こえるな?アルトリア』

 

『いきなり念話とは…。どうしたのですか?』

 

『このISコアの入手ルートはこの場では言えないモノだ。

 ただ、言えることは兎耳の不思議な国のアリスからの贈り物だ』

 

『なんですかその珍妙な組み合わせは…』

 

『だが事実だ。ついでに言うと手に入った数は3機だ』

 

『3機!?下手な国よりも所持しているではありませんか!?』

 

『言っただろう?兎耳の不思議な国のアリスからの贈り物だと』

 

 

うーん、今一納得できません。

ISコアは非常に希少な物です。

それを3つも所持しているなど普通では考えられません!

大体なんですか!兎耳の不思議な国のアリスって!!

珍妙過ぎて逆に姿が思いつきませんよ!!

まあ、念話で伝える位ですからなにか事情があるのでしょう…。

っと、いけない。

今は説明を聞かねば…。

 

 

「君にあてがわれる専用機は第三世代に当たるISだ」

 

「第三世代…確かイメージインターフェイスを採用した世代ですね」

 

「ああ。先に言っておくが反応速度に特化したタイプだそうだ」

 

「そうですか…。で、いつ届くんですか?」

 

 

反応速度特化型ですか…。

接近戦が主である私なら相性はいいですね。

凄く期待できそうです。

それでいつ届くのでしょうか…?

出来れば早くから触れたいですね。

 

 

「クラス代表決定戦当日だ」

 

「は?」

 

 

はい?

この守護者は今なんて言った?

私の聞き間違いでなければ私の専用機が届く日はクラス代表決定戦当日と聞こえましたが?

 

 

「クラス代表決定戦当日だと言ったんだ」

 

「それでは間に合わないではないですか!!」

 

「試合前には届く。フィッティングなど戦闘中にすませろ」

 

「は!?何を言っているのですか!?」

 

「なんだ?君はフィッティングが済んでないから戦えないのか?

 君の戦場でも都合が悪い状況ばかりだっただろう?

 2勝すればローストビーフを御馳走しようと考えていたのだがな…」

 

 

ローストビーフ…?

その料理はシロウも作ってくれたことが無かったので

どんな料理なのか気になります…。

名前を聞いただけでもとても美味しそうです。

 

 

「だが、このままではローストビーフは夢のまた夢だな」

 

「シン。『私が2勝すればローストビーフを私に御馳走する』

 この言葉に二言はありませんね?」

 

「ああ。なんだ、やる気になったのか?」

 

「はい。この剣に掛けて勝利を誓いましょう」

 

 

さあ、今からイメージトレーニングを始めましょう。

ふふふ…ローストビーフ…。

彼の性格ですから確実に一から彼が作るのでしょう。

それはさぞ美味なのでしょう…。

ふふふ…楽しみです。

あ、想像したら涎が…。

 

 

◆ Side 一夏

 

 

IS学園 剣道場 クラス代表決定戦まであと4日

 

 

「っ!?」

 

「どうした一夏?」

 

「ああ、なんか起きてはならない獅子を起きた気がして…」

 

「飲み物貰って来たよ~」

 

「お、わりぃな」

 

「む、すまない」

 

 

クラス代表決定戦に向けて特訓として俺は箒と稽古していた時、

突然とてつもなく嫌な気配を感じた。

なんというか飢えた猛獣の前に新鮮な肉を目の前に置いたような…

うーん…だがこのままではその猛獣に食われるのは確実だ。

とか考えていたら俺達の稽古を見学していた真優が飲み物を持ってきた。

お、しっかりと人肌になっている。

俺にとっての適温がこれくらいなんだよな…。

 

 

「箒もそうだけど一夏も凄いよね」

 

「ん、そうか?」

 

「うん。私もアルトリアに稽古をつけてもらっているけど

 あくまで冷や汗を掻かせる位で一発も当たれないんだもん」

 

「「いや、それは真優の判断基準がおかしい」」

 

 

真優は俺達のことを褒めてくれているけど真優の基準がおかしい。

俺は相手になったことが無いけど箒が言うにはレベルが違うらしい。

箒が顔面蒼白になりながら話していたので恐らく事実だ。

さっき箒と稽古して箒の気持ちがわかった気がする。

箒の腕はあれから更に上がっている。

自分で言うのもなんだが俺と箒は全国でもトップレベルの実力だ。

その箒ですらレベルが違うというのなら実力は相当だ。

そんなアルトリアに冷や汗を描かせる時点で真優の実力も相当高いのだろう。

 

 

「そういえば真優と稽古はしたことがなかったな

なんなら真優も私達と一緒に稽古してみるか?」

 

「え?私は弱いよ?」

 

「「真優の弱いという基準がおかしい」」

 

「むぅ。そういうのならやってみようかな」

 

 

俺と同じことを箒も考えていたのか真優に稽古を誘った。

もちろん真優は「自分は弱い」と言って断ったけど

なんとか稽古をしてくれるようになった。

で、真優は竹刀を“二本”持ってきた。

ん…?

 

 

「おい、防具は?」

 

「動きにくいからいらない」

 

「いや、でも危ない…」

 

「当たらなければどうということはない」

 

 

………真優。

いったいどれだけスパルタな稽古をしているんだよ…。

防具はもしもの時が起こった時に命を守るためにつけるものだ。

だけど真優は必要ないと言って一切防具をつけようとはしなかった。

…本当に大丈夫か?

そんなことを思っていたら真優は竹刀を二本持ちながら構えた。

 

 

「ん?真優は二刀流なのか?」

 

「うん。でも剣道では邪道になるから剣道部には入らなかったの」

 

「まあいい。それでは始めるとしよう」

 

 

まあ剣道は普通一本で戦うから邪道になるんだろうけど…。

でも真優の言葉の中には別の意味も籠っている気がする…。

それで、俺と真優が互いに向き直って箒の合図を待った。

 

 

「はじめ!」

 

「おりゃあ!!」

 

 

真優には悪いが一気に決める!!

そう思った俺が“剣道”として一気に間合いを詰めた。

真優には悪いが防具をつけなかったことを後悔してもらうしかない。

そう思って俺は竹刀を振り下ろした。

 

 

「は!」

 

 

パァンッ!!

 

 

「なっ!?」

 

 

カランカラン…

 

 

何が起こったのかわからなかった。

ただわかったことは俺が持っていた竹刀が弾かれて宙を浮き、

床に落ちたということだけだ。

目の前で起こったことが信じられなくて真優を見ると

真優の右手に持っていた竹刀が無くなっていて…

真優が持っていたと思われる竹刀が俺の足元に落ちていた。

 

 

「そ、そこまで!」

 

 

箒もしばらく呆けていたが、すぐに正気に返ってジャッジを下す。

箒も初めてなんだろうな。

何が起こったのかわからなかったのは。

一方、勝者であるはずの真優もどこか表情を曇らせていた。

 

 

「うーん…。やっぱ邪道になるよなぁ」

 

「いったいどんな攻撃をしたんだ?俺には何がおこったのかサッパリだ…」

 

「えっと…右手に持ってた竹刀を一夏の左手に投げて

残った左手の竹刀で一夏の竹刀を弾いたの」

 

「は?」

 

 

真優の説明を聞いた箒は目を点にした。

なるほど、確かに邪道だな。

これが剣道の試合なら反則負けだ。

ようやく謎が解けた。

真優の戦い方は完全に実戦向けの戦い方だ。

“剣道”として戦った俺ではとてもじゃないけど勝てない。

だって相手はルール無用の戦場の兵士の戦い方だ。

 

 

「ごめんね。一夏は剣道のルールを守っているのに…」

 

「いや、いいさ。寧ろいい経験になった」

 

「私も初めて真優の戦い方を見たがこの戦い方を教えたのは

 数多の戦場を戦い抜いてきた歴戦の兵なのだろうな…」

 

「歴戦…そりゃそうだね。この戦い方を教えてくれたのはシンだし

 とはいってもまだまだ百分の一にも満たっていないらしいけどね

 あと、シンでもアルトリアに勝ったことはないみたい…」

 

 

なん…だと…?

真優でこれなら元祖であるあの人の強さはどれだけ強いんだ…。

そしてその元祖が通用しないアルトリアの強さは規格外だろ…。

正直、クラス対抗戦が不安でしょうがないです…。

 

 

◆ Side 真優

 

 

IS学園 第1アリーナ 第1ピット クラス代表決定戦当日

 

 

早いことにクラス代表決定戦の日程が決まってから一週間が経ち、

クラス代表対抗戦の当日がやってきた…。

ちなみに私はアルトリアの応援の為に第1ピットに来ている。

組み合わせは

 

 

一戦目 一夏対セシリア

二戦目 アルトリア対セシリア

三戦目 アルトリア対一夏

 

 

という組み合わせだ。

うん。セシリア…ドンマイ。

アルトリアの専用機がどんなISか気になるけど

セシリアがアルトリアに勝てる未来が見えない…。

ん?あそこにいるのは…慎二おじさん!?

 

 

「やあ、久しぶりだね。真優。元気にしていたかい?」

 

「はい。慎二おじさんもお元気そうでなによりです」

 

「ははは。身体が資本だからね。っと、セ…アルトリアの

 専用機を持ってきたよ。開けてくれ!」

 

「あいさ!」

 

 

この人は慎二おじさん。

私の後見人の1人であの間桐グループの社長だ。

ちなみに間桐グループが出来たのが15年前で

元は慎二さんが働いていた町工場から始まったらしい。

なんでもその工場が作る電子機器は世界にも通用するレベルだとか。

で、慎二さんはその技術に惚れこんでその町工場に働き始めて

工場長さんがもうそろそろ年だからという理由で工場を譲られたらしい。

小さな町工場が僅か15年で世界有数の大企業に成長させた。

故に慎二おじさんは起業を目指す人達の憧れの的だ。

で、慎二おじさんの掛け声と同時に変わった口調の女性が

スイッチを押すとコンテナが開き、会社が作り上げた

初めてのISであるアルトリアの専用機の姿が露わになった。

 

 

「これは…」

 

「純白の騎士甲冑…?」

 

 

コンテナが開くとコンテナの中には戦闘モードのアルトリアに似た

純白の甲冑が鎮座していた。

例えるならば姫騎士の甲冑といったところかな?

どこか神々しさを感じさせるようなそんな甲冑だ。

確かにアルトリアがこれを装着したら本当にきれいだろうな…。

 

 

「これが僕達の作り上げたIS!セイバー・リリィさ!!」

 

「セイバー…リリィ…」

 

「シンから彼女が普通のISの反応速度では追いつけないと聞いて

 無駄なウィングを付けずに装甲も極限まで削って

 尚且つ反応速度のパラメーターをラファール・リヴァイヴの20倍まで

 引き上げたハイエンドISさ!!」

 

「ラファールの20倍って… “あそび”が無いじゃん!!」

 

「ああ。このISは何せ反応速度が速すぎて彼女にしか扱えない。

 アルトリアのみに与えられた正真正銘のアルトリアの専用機さ」

 

 

セイバー・リリィ…。

うん。アルトリアが使うのにピッタリなISだね。

うん。これからはリリィと呼ぼう。

だけどさっき聞き捨てならない単語が聞こえた。

ラファールの反応速度の20倍!?

そんなの常人に扱えるようなスペックじゃない!

あ、でもアルトリアが扱うならそれくらいは必要そう…。

 

 

「この感じ…気に入りました。

まるで自分の一つの可能性の姿となっているような感じです」

 

 

うん。どうやらアルトリアはリリィのことが気に入ったみたい。

でも何故かな…。

一瞬だけど円卓の騎士たちに自身の性別を敢えて明かして

リリィを装着しているアルトリアの姿が一瞬だけ見えた。

…疲れているのかな?

最近【解析】を何度も使ってISの構造を勉強したのが原因かな…。

 

 

「そして装備だけどアルトリアに余計な武器は無粋と思ってね。

 剣と鞘の2つだけを拡張領域の中に格納しておいたよ」

 

「剣と鞘?剣はわかるけどなんで武装に鞘があるの?」

 

「その鞘はアルトリアにとって所縁のあるものさ」

 

「鞘?…まさか!?」

 

 

…確かにアルトリアに火器兵装はまったく合わないだろうけど

登録してある武装が剣と鞘だけってどうよ?

でもアルトリアは慎二おじさんの言葉を聞くと装備を呼び出した。

何か心あたりがあったのかな…?

 

 

「綺麗…本当に兵器なのか疑問を持つくらいに…」

 

「やはりこれは…」

 

「そうさ…。あいつが君に遺した遺産だよ」

 

 

呼び出された剣と鞘は本当に兵器なのかと疑うほどの美しさと神々しさを放っていた。

そして、またアルトリアが大事そうに抱きかかえている剣と鞘から

様々な情報が私の中に流れ込んできた…。

あの鞘はアーサー王伝説を象徴する約束された勝利の剣と対をなす

全て遠き理想郷【アヴァロン】…。

所持者の老化を止め、非常に強い癒しの力を持った鞘。

アルトリアと共に戦場を駆け抜けた相棒…。

モリガンによって奪われて永久に失われた筈だった。

だけど時を経てアインツベルンという名の家によって発掘され

様々な経緯を経てお父さんの命を救うためにお父さんに移植され

【白騎士事件】において命を落としたお父さんの遺体と一緒に

引き上げられ、慎二おじさんが引き取って厳重に保管して

アルトリアの専用機を作ることになって慎二おじさんが

アルトリアに返すためにリリィの武装として組み込んだ…。

様々な経緯を経て今日、悠久の時を経て持ち主である

アルトリアの許へ戻った。

 

 

「そしてこの剣は…約束された勝利の剣【エクスカリバー】ですか?」

 

「いや、その剣は贋作だ。流石に本物は用意できなかったからね」

 

「ですがこの感覚は約束された勝利の剣【エクスカリバー】そのものです」

 

 

そして鞘の中に仕舞われている黄金の剣…。

それは星が生み出した聖剣約束された勝利の剣【エクスカリバー】を目指し、

自身が鍛え上げた剣をアーサー王が握ることを夢見た

とある無銘の鍛冶師がその生涯を掛けて鍛え上げた贋作…。

だが世界に出ることがなく、歴史の裏に埋もれていた。

人が作りし神装兵器に匹敵する黄金の剣…。

私は本物の約束された勝利の剣【エクスカリバー】を見たことがない。

だけど、この黄金の剣はオリジナルに劣ることはない…。

生み出した鍛冶師のこの剣の担い手への想いが星の作り上げる

神装兵器の領域へと至ったのだろう。

何故この黄金の剣が世界の目にとどまらなかったのか…。

それは私にはわからない…。

今日、この日に無銘の鍛冶師がその生涯を掛けて生まれた黄金の剣は

オリジナルの約束された勝利の剣の担い手である

アルトリアの手に渡った。

 

 

『アルトリアさん!一戦目が終わったので準備してください』

 

「わかりました。一戦目の結果は?」

 

『織斑君の勝利です。正直大番狂わせ過ぎて会場がかなり盛り上がってますよ!』

 

 

どうやら一戦目が終わったらしい。

勝者は一夏…。意外だ。

セシリアも慢心していなかったと思うし

もしかしたらセシリアのISと一夏のISとの相性が最悪だったのかも。

そして、セシリアは連戦でアルトリアと戦うことになる。南無。

 

 

「真優。そろそろ行ってきます」

 

「うん。頑張ってね」

 

「はい。セイバー・リリィ!参る!!」

 

 

アルトリアがリリィを身に纏って

カタパルトから射出されて新たな戦場へ飛び立っていった。

それにしてもこれは運命の悪戯なのだろうか…。

片や二度と戻ることが無いと思われた本物の全て遠き理想郷【アヴァロン】。

片や自身が鍛え上げた剣をアルトリアが握ることを夢見た

無銘の鍛冶師が鍛え上げた人が作りし神装兵器

約束された勝利の剣【エクスカリバー】の贋作である

永久に遥か黄金の剣【エクスカリバー・イマージュ】。

永久に交わることが無いと思われた偽物と本物の剣と鞘が今、

アルトリアの手に渡り、同じ戦場を駆け抜ける。

永久に遥か黄金の剣【エクスカリバー・イマージュ】を作った無銘の鍛冶師さん。

もし聞こえていたら喜んでください。

貴方が生涯を掛けて鍛え上げた黄金の剣は貴方が憧れた

アルトリア・ペンドラゴンの愛剣として旅立ちました。

だからもしこの景色が見えていたらアルトリアを見守って下さい…。

 

 

「さて、それじゃあ僕も行くよ」

 

「慎二おじさん。リリィを作ってくれてありがとう」

 

「礼には及ばないし大部分を作り上げたのは彼女さ。

 礼を言うなら彼女にも礼を言っておいてほしい」

 

 

アルトリアの出撃を見届けた慎二おじさんは帰り支度を始めた。

だから慎二おじさんが帰る前に慎二おじさんにお礼を言いたかった。

私が慎二おじさんにお礼を言ったら慎二おじさんは

紫の帽子を目深に被っている女性を指しながらお礼を言うのなら

彼女にもお礼を言ってほしいと言われた。

勿論、あの女性にもお礼を言うつもりだ。

だから私は帽子を目深に被った女性にお礼を言いにいった。

 

 

「あの、リリィを作ってくれてありがとうございます」

 

「気にしなくていいよ~。なかなか無茶な要求だったけど」

 

「本当に無理難題を押し付けてごめんなさい」

 

「調整をしている分にはすっごく楽しかったからね~」

 

「そう…ですか…」

 

「なにせ、あんまりにも調整が楽しくて

私がこの調整を完了させるのに三日徹夜したくらいだから」

 

「………本当にありがとうございます」

 

 

本当に頭が下がる思いだ。

アルトリアは全力で動くとフレームがもたないラファールや打鉄に

凄い不満を持っていたから…。

そんな無茶苦茶な反応速度に追いつかせるようにしたこの人は

本物の天才だ。もしかしたら篠ノ之博士に匹敵するかも…。

そんな人でも三日徹夜したのだからよっぽど手間取ったのだろう。

本当にお疲れ様です。

目の前の彼女はそんなことを気にしていないどころか

凄く満足気な雰囲気を出しながらとんでもない爆弾を落としていった。

 

 

「いやいや。ただ一言だけ。箒ちゃんをお願いね」

 

「箒ちゃん?もしかして貴女は!?って、もういない…」

 

 

箒ちゃん?

まさかこの人は!?

そう思った私は私の隣を颯爽と駆け抜けていった

彼女に声を掛けようとしたけど既に彼女はいなかった。

すごい女性だ…。

っと、今は彼女のことを考えていても仕方ないし

アルトリアの試合を見守ろっと!

 

 

◆ Side アルトリア

 

 

IS学園 第1アリーナ バトルフィールド 二戦目

 

 

「これが空を駆ける感覚ですか…」

 

 

カタパルトから射出された私は広大なアリーナの空を駆けていた。

正直に言うととても楽しい。

精霊の加護で水の上を駆けたことはありますが

空を駆けるのは私でも初めての感覚です。

そういう意味ではISの存在に感謝ですね。

 

 

「お待ちしていました。アルトリアさん」

 

「はい。お待たせしました。セシリア」

 

「聞けばアルトリアさんもまだ初期段階とか」

 

 

あれがセシリアのブルー・ティアーズですか。

遠目ではシンとセシリアの模擬戦で何度か見たことがありますが

こうして間近でみるのは初めてです。

ふむ、イチカも初期状態からのスタートでしたか。

それでもあのセシリアに勝てたのなら彼の腕前は

私の想像以上のものかもしれません。

次の対戦も楽しみです。

 

 

「はい。ですが問題ありません。

 どうやらリリィは私との相性が非常に良いみたいです」

 

「そうですか。なら…はじめますわよ!!」

 

「参る!!」

 

 

誰が調整したのか知りませんが初期状態にもかかわらず

私とリリィの相性は非常に良い。

だから反応が遅くて負けるということは無いでしょう。

ブザーが鳴ると試合が始まった。

 

 

「先手必勝ですわ!!」

 

 

ズキューンッ!!

 

 

「甘い!!」

 

 

チュインッ!!

 

 

リリィは私の反応速度にしっかりとついてきている。

極限まで装甲を削ったおかげで私自身も非常に動きやすい。

ラファールや打鉄ならば出来なかったレーザーの斬り払いも

このセイバー・リリィなら容易く行うことが出来る!!

 

 

「やはりこれだけで勝てるほど貴女は甘くありませんか…

ならば、共に舞いましょう!ブルー・ティアーズとわたくし達が

奏でる円舞曲(ワルツ)を!!」

 

「わかりました。貴女のお相手をしましょう」

 

 

最初の一発で狙撃では私を倒せないと判断したのか

セシリアは早々に切り札を切ってきましたか…。

ブルー・ティアーズのアンロック・ユニットから4つの兵器が

分離され私の周囲を取り囲む…。

なるほど、並みの者では避け切ることが出来ずに

宙を浮かぶブルー・ティアーズから放たれる攻撃によって

手も足も出せずに負けるでしょう。

ですが…!!

 

 

ドシュゥゥッ!!

 

 

「はあっ!!」

 

 

ズバアッ!!ズガァーンッ!!!

 

 

「くっ!これでも駄目ですか!!」

 

「ですが良い戦略眼です。浮遊砲台で足止めをしたところへ

 本命のミサイルと狙撃を叩きこむ。私も気がつかなければ

 敗北していたでしょう」

 

 

今の私はリリィのサポートによって全周囲の情報を

瞬時に把握することが出来ます。

把握さえしてしまえば切り抜けるなど造作も無い。

4つの浮遊砲台を破壊してその後に飛んできたミサイルを

切り払ってセシリアの飛び道具はあの狙撃銃だけになりました。

…ですが冷や汗を掻きました。

ほんの少し気がつくのが遅ければミサイルとレーザーの雨が

私へ襲いかかってきたのですから…。

瞬時に情報を教えてくれたリリィに感謝です。

 

 

「さて、まだやりますか?」

 

「ええ。あの方に教えてもらったのです。

 弱点が無い存在など無いと。

 そして、勝機はどの場面でもあると!!」

 

「そうですか。ならば私も…全力でいかせてもらいます」

 

「望むところですわ!!」

 

 

切り札を失ってもセシリアの戦意は失っていませんか…。

どうやらシンの教えをしっかりと覚えている様ですね。

…………正直妬ましいです。

ですが、セシリアの思いには全力で答えねばなりませんね。

苦し紛れに狙撃銃を連射していますが当たりませんよ?

そして、まずは最後の飛び道具を破壊する!!

 

 

「はあああっ!!!」

 

「くっ…仕方ありませんわね…!」

 

「なっ!?」

 

「この手はあまり使いたくなかったのですが!!」

 

 

そう思って私がセシリアとの距離を詰めた瞬間、

セシリアは頼みの綱であるはずの狙撃銃を私に投げつけ、

セシリアが左手に持っていたナイフを狙撃銃に投げました。

いきなりのことで私も流石に戸惑いました。

 

 

ドガァーンッ!!!

 

 

「くぅっ!?」

 

 

ナイフが突き刺さった狙撃銃は私の目の前で爆発し、

狙撃銃の爆風で私は一瞬だけ視界を奪いました。

まさかこのような手を使ってくるとは!!

流石にこれは想定外です!

そして、私はとてつもなく嫌な予感がし、

直感を頼りに永久に遥か黄金の剣【エクスカリバー・イマージュ】を振り下ろしました。

 

 

ズバァッ!!

 

 

『勝者…アルトリア!!』

 

 

「っ!流石にこんな苦肉の策で勝てるほど甘くありませんか…」

 

「いえ、ほんの少しでも私が遅かったらセシリアの勝ちでした」

 

 

それが功を奏し、私が振り下ろした永久に遥か黄金の剣【エクスカリバー・イマージュ】は

的確にセシリアを捉え、セシリアのブルー・ティアーズのシールドエネルギーは

先程の攻撃で0になり、

セシリアが右手に持ったナイフに突き刺されたリリィの

シールドエネルギーは4割まで減っていました。

もし私の反応が遅れてセシリアのナイフが急所に当たっていれば

リリィのシールドエネルギーは0になっていたでしょう。

セシリアも僅か数ヶ月でここまで成長した…。

そしてイチカは3度目の操縦でそのセシリアを倒した。

ふふふ…。尚更楽しみになってきましたね。

 

 

◆ Side 一夏

 

 

IS学園 第1アリーナ バトルフィールド 三戦目

 

 

ついにこの時が来てしまった…。

セシリアの時は相性と一次移行のおかげで勝つことが出来た。

だけどアルトリアは俺と同じく接近戦特化型だ。

勝てる可能性があるのは零落白夜だけどそれでも打ち込めなければ

まったく意味がない。

勝てる確率は殆どない。

それでもアルトリアとの戦いを楽しみにしている俺がいる。

それでもアルトリアに勝ちたいと思う俺がいる。

比べる様でアルトリアには申し訳ないかもしれないけど

アルトリアの見た目は俺の師匠が勝てなかったという剣士に似ている。

別人だろうけどアルトリアを見ると師匠の言っていた剣士と被って見える。

だから俺は師匠から叩きこまれたこの技を使う。

まだまだ師匠のそれには遠く及ばないけれど…

それでも俺はこの技でアルトリアに勝負を挑む。

それに箒も俺のことを見ているからな…。

 

 

「待っていましたよ。イチカ」

 

「ああ、待たせたな」

 

「私は貴方と戦うことが非常に楽しみです」

 

「奇遇だな。俺もだ」

 

「お互い、全力を尽くしましょう」

 

「ああ!」

 

 

試合開始のブザーが鳴る。

それと同時に俺とアルトリアが一気に距離を詰める。

 

 

キィンッ!キィンッ!ガキィンッ!!!

 

 

「なかなかやりますね」

 

「箒が見ているんだ!そう簡単に負けられるかよ!!」

 

 

俺の雪片二型とアルトリアの黄金の剣がぶつかり合う。

アルトリアの持っている剣はとんでもない名剣だ。

白式のワンオフアビリティである零落白夜では絶対に斬れない。

対して俺の持っている雪片二型は細身のブレードだ。

打ち合っていたらこっちの方が先に折れる!

 

 

キィンッ!!カァンッ!ギンッ!!

 

 

「ようやく自分の気持ちに気がつきましたか…。イチカ」

 

「ああ、俺の気持ちは6年前からわかっていたんだ」

 

 

俺の気持ち…?

ああ、わたっていたさ…。

そして俺自身も6年前に一度だけ箒と再会した時にわかった。

俺は…箒のことが好きなんだ。

だけど俺は10年前のあの時、そして6年前のあの時…。

俺は箒を助けることが出来なかった!

箒の笑顔を取り戻すことが出来なかった!!

俺に箒のことを好きだと告白する資格なんてない!

だけど…!!

 

 

「俺は…箒が見ている前で負けたくない!!」

 

 

ズガァンッ!!

 

 

「なるほど、貴方は既に答えを得ていたのですね」

 

 

最後の一合で俺とアルトリアとの距離が開く。

ならこの技を使うのは今しかない!!

 

 

「っ!?その構えは!?」

 

「この技はまだその名を名乗るにはまだ相応しくない技…

 だけど敢えて俺はこの技の名を使う!!」

 

 

アルトリアは俺の構えを見て驚いている。

だけどそんなことは関係ない。

この技を使う以上は絶対に勝つ!

まだまだ師匠には及ばないけど敢えてこの技の名前を使う!!

師匠が俺に教えてくれた俺にとって唯一であり最強の技を!!

 

 

「奥義…燕返し!!!」

 

 

ザシュッ!!ズバァッ!!!

 

 

「っ!?」

 

 

これが今の俺が出せる全力…燕返し!!!

本来は同時に3つの斬撃を放つ技だけれど今の俺では

たった2つまでしか斬撃を放つことができない。

だけど、効果はあったようだ。

俺の出す技に驚いたのかアルトリアは俺の放った燕返しが直撃した。

 

 

ガクッ!!

 

 

「ぐっ…!!」

 

 

流石に反動がキツイな…。

腕が痺れる…。

身体に激痛が走る…。

少し眩暈もしてきた…。

今の俺では燕返しを使える回数は1回が限界か…。

…これで倒せなければ俺は負ける。

 

 

「まさか貴方が彼の技を使えるとは思いませんでした…」

 

「なっ!?」

 

「まさか直撃するのと同時に一次移行が完了するとは…。

 おかげで首皮一枚繋ぐことができました」

 

 

なん…だと…?

目の前にはアルトリアが無傷で立っていた。

おいおいマジかよ…。

あの技が通じなかったらもう俺には打つ手がないぜ…。

 

 

「貴方の最高の技。確かに見届けさせてもらいました。

 なので私も最高の技で貴方を倒します」

 

 

チャキッ!

 

 

アルトリアは俺のことを褒めながら黄金の剣を大上段に構えた。

今から来る技は絶対に大技だ。

俺にとっての燕返しかそれ以上に…。

黄金の剣にエネルギーが溜まっていく…。

それに対して俺はもう動けない…。

そして俺に向けて黄金の剣が振り下ろされる。

 

 

「永久に遥か黄金の剣【エクスカリバー…イマージュ】!!」

 

 

ギュオン…ズガガガガガガガッ!!!

 

 

黄金の光が俺を包み込む…。

シールドエネルギーがあっという間に0になった。

そして意識が真っ黒になっていく…。

ああ、負けたな…。

だけど不思議と悔しさは湧いてこなかった。

俺は全力を出し切った。悔いはない。

ただ、箒の前で負けたのが心残りだな…。

 

 

『勝者…アルトリア!!』

 

 

箒…勝てなくてごめんな…。

最後に勝者がアルトリアだと聞こえた後…

俺は箒に勝てなかったことを謝りながら意識を失った。

 

 

 




どうも明日香です。
今回も読んでいただいてありがとうございます。
さて、今回は楯無の顔見せとクラス代表決定戦とアルトリアの専用機お披露目となりました。
アルトリアの専用機であるセイバー・リリィの装着時の姿は
Fate/Unlimited codes に登場するセイバー・リリィの姿となっています。
武装は全て遠き理想郷【アヴァロン】と
永久に遥か黄金の剣【エクスカリバー・イマージュ】の二つです。
アヴァロンは殉職した士郎の遺体を回収する際に偶然回収され、
士郎の身元確認に来ていた慎二が引き取り、厳重に保管されていました。
そして、白騎士事件から10年後…。
アルトリアがこの世界に再び現界し、アルトリアの専用機を作る際に
真っ先に武装として登録され、アルトリアの許へ戻りました。
また、本作に登場する永久に遥か黄金の剣は原作の設定とは大幅に違い
アーサー王伝説を読んだとある無銘の鍛冶師が自身の鍛え上げた剣をアーサー王が持つ
という夢を見てその生涯全てを費やして鍛え上げたヒトによって作られた神装兵器です。
本来ならば本物である約束された勝利の剣【エクスカリバー】に敵わない
しかし、鍛え上げた鍛冶師が込めた自身の願いや想いが神秘となり、
本物の約束された勝利の剣【エクスカリバー】と同等の強さを誇ります。
ですが、この剣は辺境で生まれたために誰にも発見されず、
鉱山の調査に来ていた間桐グループの調査団によって回収され
アルトリアの専用機の開発を行っていた開発チームの眼にとどまり、
セイバー・リリィの武装として登録され、
悠久の時を経て製作者の願いどおり、アルトリアの手に渡りました。
ちなみにセイバー・リリィのデザインは葛木メディアがデザインした。
尚、セイバー・リリィの製作者は完成した後全員過労でぶっ倒れています。


シンが楯無を脅した理由

楯無が真優の力を解明するために接触しようとしたからであり、
楯無の認識を真優から自分へと逸らすことが目的であったためです。
シンとアルトリアにとって真優達を平穏を奪う者=断罪すべき敵という認識であり、
無理やり真優を平穏から離れさせようとする者は即、断罪対象であるためです。
ちなみに場所がIS学園ではなくIS学園の外だったら抹殺されています。
そういう意味では楯無は幸運でした。(IS学園内でも接触するタイミングが入学直後や
原作のゴーレム出現直後だっり接触したのがアルトリアだったりしたら死んでいた。
アルトリアは真優が絡むと【暗部死すべし慈悲は無い】を地で行っている設定なので)
シンがISの弱点に気がついた最大の理由はMSとほぼ同じ欠点だからです。


MSの場合

パイロットがMSに乗るまでにパイロットを無力化すればいい。

ISの場合

展開される前にISの操縦者を無力化すればいい。


そしてフラグを建築(無意識で)されました(笑)。
ちなみにエミヤシロウのフラグ建築スキルが感染したのかシンも何人かフラグを建てています(もちろん無意識で)。
ちなみにフラグを建てたのはアルトリアとバゼットとセシリアです。


アルトリアの場合…

いつも突撃するアルトリアのフォローや日常での会話、自分の本当の願いに関する相談をしていくうちに知らないうちに好きになっていた。
ちなみにシンも薄々気が付いているが確証できていない。

バゼットの場合…

死にかけていたところを助けられ、住処や食事の提供をしてもらっていくうちにフラグが…。

セシリアの場合…

毒舌ながらも正当な評価を与えられ、様々な知恵を授けられ、自身を導いてもらっていくうちにフラグが建ちました。

楯無の場合…

越えるべき目標

そして真優も見事に士郎の一級フラグ建築士の素質を受け継いでいます(笑)。










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