IS~衛宮の娘は遥か高き宇宙を目指す~   作:明日香

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第4話「クラス代表決定!そして…」

まったく…あいつは加減というものを知らんのか…。

突然とてつもない神秘が確認されたから

大急ぎで神秘が確認された現場…第1アリーナへ向かった。

まさかと思って第1アリーナのバトルフィールドを見れば

仰向けに倒れて気絶している一夏君と

満足げな表情で黄金の剣を鞘に仕舞うアルトリアの姿があった。

あのアルトリアの顔を見てあの大馬鹿者が何をしでかしたのかすぐに見当がついた。

あの大馬鹿者…。

IS学園生徒という多数の一般人の目の前であの剣の真名を解放したか!

だが不幸中の幸いかISの武装として認識されていたから

神秘の秘匿は気にしなくても良かったというところだ。

そういう意味では前例である零落白夜の存在に感謝だな。

おかげで魔術協会の目はなんとか誤魔化せそうだ。

まあ、バトルフィールド内に収めただけマシか。

バトルフィールドの壁に当たっていたらあのバリアなど

紙の様にあっさり両断されていただろう。

試合が終わった後、みっちりと説教をしておいた。

無論、織斑教諭と2人掛かりでな。

そして俺は今…

 

 

「よし、タレの味付けはこれでいいな」

 

 

アルトリアのご褒美としてローストビーフを

40人分ほど作っている。

正直なところ作ろうか迷ったが約束した以上作らなければならない。

そして手を抜くつもりもさらさらない。

誰かに作る料理で手を抜くということは食べる本人だけでなく

料理の食材に対する冒涜だ。だから俺は一切妥協しない。

食材も俺のことを気に入ってくれた学食の調理員殿方の好意で

かなりグレードが高い牛肉のブロックを40人前も手に入れた。

これで不味い料理を作るのは料理を作る者としての恥だ。

全力で調理させてもらおう。

さて、完成させたら真優達の訓練をしないとな…。

 

 

第4話「クラス代表決定!そして…」

 

 

◆ Side 一夏

 

 

IS学園 一年一組教室

 

 

「では一年一組のクラス代表は織斑一夏くんに決定です。

 あ、一繋がりでいい感じですね!」

 

「先生、質問です」

 

「はい、織斑くん」

 

 

クラス代表決定戦が終わった日の翌日…。

俺がクラスの代表になるということが決定した。

いや、なんでだよ?俺はアルトリアに負けたのに…。

何故俺が代表なのか気になった俺は挙手して山田先生に質問してみることにした。

 

 

「俺、昨日の試合でアルトリアに負けたんですけど…」

 

「ああ、それは…」

 

「こいつが規格外に強すぎるからだ」

 

「…なるほど」

 

 

山田先生が俺に事情を説明してくれる前に千冬姉が説明してくれた。

アルトリアが規格外に強すぎるから…か。

うん。納得した。

アルトリアがクラス代表になった日にはクラス対抗戦があっという間に終わってしまう。

白式の零落白夜も大概だけどアルトリアのアレは規格外だ。

何せシールドエネルギーが一気に0になって

白式は実戦初日にしてランクBの損傷を受けたからだ。

もし白式あの時俺が直撃する直前に零落白夜を起動させた

雪片二型を盾にしていなかったら

白式が再起不能になることはもちろん、俺も五体満足でいられたか

という程に規格外の威力だった。

そりゃ、そんなもんを使えたらアルトリアがクラス代表になれないよな。

一年目から他のクラスの生徒の心を折りに行くようなもんだし。

それで、セシリアに勝った俺がクラス代表に選ばれたわけだ。

で、俺に勝ったアルトリアはというと…

 

 

「ああ、なんであの時私はノリノリでアレを使ったのでしょうか…(ズーン…」

 

「そ、その場のノリじゃしょうがないって!(アセアセ…」

 

「うぅ…。どうせ私は…」

 

「………」

 

 

絶賛、ブルーになっていた。

真優も必死になって慰めているけど一向に治らない。

普段なら叱責する千冬姉もドン引きしてスルーしている。

そういえばアルトリアの専用機であるセイバー・リリィって

日本製のISにしては名前が日本の名前じゃなくて

英語を使っているというのは珍しいよな。

剣の名前もアーサー王伝説で有名な剣だし。

アルトリアの名字もペンドラゴンだったな。

もしかしたらアルトリアはアーサー王の生まれ変わりだったりしてな!

確か未来にまた現れるとかなんとかあった気がするし!

 

 

「次の授業は実機のISを使った授業だ。

 早々に着替えを済ませて第2アリーナへ集合するように。以上だ」

 

『はい!!』

 

 

うん。結束があるということはいいことだ。

そういえば今日の放課後に第4アリーナでシンさんに

ISを使った戦闘の特訓してもらうんだったよな。

さて、俺も代表になったんだから頑張らないとな…。

 

 

IS学園 第2アリーナ バトルフィールド

 

 

「では、ISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。

 オルコット、ペンドラゴン。試しに跳んでみせろ」

 

「「はい」」

 

 

というわけで場所を移して実機のISを使った授業になった。

本来なら俺も専用機持ちとして参加するのだけれど

生憎白式は自己修復中なので放課後まで実践や実習では使えない。

本当にあの時無理をしてまで零落白夜を使った甲斐があったな。

倉持技研の人も思いっきり頭を抱えていたよなぁ。

それに噂ではもう1機日本の代表候補生用の専用機を

作っていたらしいし。

倉持技研の皆さん、まだ見ぬ日本の代表候補生さん。本当にごめんなさい。

ちなみにフィッティングが終わったISは搭乗者に合わせた

アクセサリーになって待機している。

俺がガントレットでセシリアはイヤーカフス、アルトリアは

あの時の黄金の剣と鞘をミニチュアかしたキーホルダーになっている。

というか何故白式の待機状態がガントレットだし?

まあ、防御目的にも使えるから問題ないんだけどさ。

と考えていたらアルトリアとセシリアの準備が終わっていた。

一秒も経っていない筈なんだが…早いな。

 

 

「よし、飛べ」

 

「「はい」」

 

 

ギュオンッ!!

 

 

千冬姉がアルトリアとセシリアに指示を出した瞬間、

2人は既に俺達の遥か上空まで急上昇していた。

やっぱ2人とも動きがいいよな。

俺も見習って追いつかねば…。

 

 

「オルコット、ペンドラゴン。急下降と完全停止をやってみせろ。目標は十センチだ」

 

 

俺がそんなことを考えているうちに千冬姉が新たに急下降と

完全停止の実践を指示すると2人ともすぐに降りてきた。

しっかりと完全停止の位置も十センチだった。

うん。やっぱりこの2人はレベルが違いすぎる。

俺ならフィールドにクレーターを作る自信があるな。

……………自分で言ってて空しくなってきた。

で、お次は武器の展開か。

と思っていたら2人とも指示された直後に出し終えている。

マジで規格外だな。

 

 

「ふむ、最初は完璧か。ではオルコット。接近戦の武器を展開しろ」

 

「…………………」

 

「どうした?出来ないわけではないだろう?」

 

 

あの剣と鞘以外は武装がないアルトリアは良いけど

セシリアはまだ接近戦用のナイフが存在する。

だから千冬姉はセシリアにナイフを出すように指示をしたけど

セシリアは黙って俯いてしまった。

いったいどうしたのだろうか?

苦手とはいっても出来ない筈はないのに…。

 

 

「申し訳ありません。接近戦用のインターセプターは拡張領域に入っているのではなく…」

 

「スカートアーマーの中に格納されているとか?」

 

「おい、衛宮発言を許可した覚えは…」

 

「はい。真優さんの推測の通りですわ」

 

 

なんで歯切れが悪いかと思ったら真優の発言で納得がいった。

あのナイフを装甲の中に格納していたのか。

そりゃ展開しろと言われても無理だよな。常に展開されているんだから。

流石の千冬姉もこれには驚いたみたいだな。

 

 

「いつから仕様を変更した?」

 

「はい。昨日の放課後に仕様を変更しましたわ。

 私の戦術の師匠に結果を報告したらそう調整してみろと言われまして。

 仕様の変更も今朝に提出したばかりですから織斑先生の耳に届いていないのかと」

 

「申請を出しているのならこれ以上は何も言わん。次は…」

 

 

すげぇ。

セシリアの戦術の師匠ってそんなことも思いつくのか。

普通は訓練で武装の展開を早くするのがセオリーだ。

だけどあらかじめ展開してすぐに取り出せる場所に隠してあったら。

セオリーにとらわれた相手ならナイフでブスリだ。

うん。とてつもなくエゲツナイこと考えるなセシリアの師匠は。

俺がセシリアと戦った時もエゲツナイ戦法をとってきたし。

わかりやすく言うとビットと狙撃で壁際に追い詰めてミサイルでドカンだ。

あの時は丁度一次移行でダメージを無効化出来たけど次は無いな。

あんな戦法を教えるのなら本人もさぞエゲツナイ戦法をとってくるだろうな。

セシリアの説明に納得がいったのか千冬姉は特に責めることなく授業は続いた。

しかし、なんで真優はあのナイフが格納されていると気がついたんだ?

………もしかしてセシリアの戦術の師匠ってシンさんか?

 

 

◆ Side 真優

 

 

IS学園 第4アリーナ バトルフィールド

 

 

今日の授業も無事終わった私は第4アリーナに来ていた。

理由は簡単。シンの特訓を受けるためだ。

最近はシンの特訓を受けていなかったから少し鈍ってないか心配だ。

もし鈍っていたらまたお小言を言われるんだろうなぁ。

ん?あそこに居るのはセシリアと一夏だよね。

2人とも仲直りしたんだね。良かった、良かった。

 

 

「おーい!」

 

「ん?真優?お前も来たのか?」

 

「うん。そういう一夏達も?」

 

「はい。あの方に呼ばれて」

 

「ふむ。全員揃ったか」

 

 

セシリアと一夏も呼ばれていたんだ…。

そんなことを考えているとシンがやって来た。

あの服ってシンが戦闘の時に着ている赤原礼装だよね?

そうなるとシンが相手になるのかな…?

 

 

「シンさん!」

 

「お師匠様。お待ちしておりましたわ」

 

「ああ、だが悪いがとある野暮用で来るのが遅くなった」

 

「いえ、お師匠様の訓練は僅かな時間でも有意義ですので

 こうして時間を割いていただいて本当にありがとうございます」

 

「俺も強くなりたいと思ってここに居るんです。だからあまり気にしないでください」

 

 

OH…。

2人とも本気でシンを慕っているんだね…。

シンもどこか満足気だし。

うん。こりゃ今日の訓練は凄くハードになるな。

まあ厳しい分色々と得るものが多いからいいんだけどさ。

あと私達の限界も知っているから絶対に無理をさせないから

そのおかげで実力もしっかり付くんだよね。

 

 

「シン。その服を着ているってことは…」

 

「ああ。一夏君の実力を改めてはかりたくてな」

 

 

やっぱり…。

本格的な訓練を始める前にシンは最初に何度も模擬戦をして訓練相手の実力を必ずはかる。

『百聞は一見に如かず』を地で行くシンだ。

一夏と模擬戦をするのも一夏の実力をはかって訓練の強弱をしっかりと把握するためだ。

 

 

「え?いきなり実戦を見てもらえるんですか!?」

 

「まずは君の実力を把握するためだ。さあ、白式を展開しろ」

 

「えぇ!?」

 

 

うん。一夏の反応はセシリアと同じだ。

まあ普通はそう反応するよね…。

なにせ生身の人間相手にISを展開しろと言っているのだから。

たぶん一夏はシンが大けがをすると思って躊躇ったのだろう。

もちろん、シンはそんなこと想定済みだ。

 

 

「セシリアの時にも言ったが生身の人間がISに勝てない道理はない」

 

 

そういうとシンはどこからともなくIS用のショートブレードを取り出した。

あれは前に慎二おじさんが私にくれたナノトランサーだ。

なんでもISの拡張領域を誰でも使えるように小型化した

未来の鞄の様な物らしい。

ちなみにスローガンは『手荷物なしで世界旅行』だ。

で、シンが使っているのは自分用にカスタムしたものらしい。

…ちなみになんで生身なのにISの装備が持てるのか聞いたら

『鍛錬すれば持てるようになる』という返事が返ってきた。

こんなこと出来るのは今の人類では織斑先生だけだろうね。

 

 

「ああ、俺が負傷することを心配しているならその考えは捨てろ。でないと死ぬぞ?」

 

「っ!?」

 

 

でた!シンお得意の挑発!

初見でこの挑発をされて挑発に乗らなかったのは1人もいないまさにシンのお家芸だ。

ちなみに私も抗えなくて突っ込んで速攻で負けた。

あ、一夏も本気になったみたいだ。

さすが挑発はアスカのお家芸だな!!

 

 

「うおおっ!!」

 

「遅い」

 

 

ズバァッ!!

 

 

「ガハッ!?」

 

 

うわぁ…見事なバッサリだ。

シンにとって相手の隙が大きければ大きいほど戦法が単純になる。

何故ならその方が戦闘における無駄が少ないからだ。

一夏も相当な剣士だというのはわかるけど相性が悪い。

恐らく一夏の戦闘スタイルは長物を使ったものだけど

シンは常に相手の苦手なレンジの得物に変更する。

華は無いけれど非常に洗練された全く無駄のない戦い。

それがシン・アスカという守護者の戦闘スタイルだ。

 

 

「大ぶりの攻撃は威力が高くなる分隙が大きくなる。隙の少ない攻撃を心掛けろ」

 

「う…クソッ!!」

 

 

キィン!!

 

 

「…なるほど、一夏君の師匠はとてつもない剣豪だな」

 

「えっ!?」

 

「そして一夏君もその師匠に追いつきつつある。

 先程の斬撃の速さがその証拠だ。まさか防御に回されるとは思わなかった」

 

 

おおう…。

シンにここまでの高評価を貰うなんて一夏は凄いね。

私やセシリアの時なんかはボロックソに言われたもん…。

 

 

『そんな攻撃は猿でもできる』

 

『遅すぎて欠伸が出るな』

 

『大した腕も無いくせに背伸びをしようとするな』

 

『そのような狙撃、目を閉じていても避けられるな』

 

 

………………思い出したら悲しくなってきた。

でもその後しっかりフォローはしてくれたけど自分が未熟だといやでも思い知らされる。

で、そのシンだけど一夏の刀を見て複雑そうな顔をした。

 

 

「だが極めて残念なことがある」

 

「は?」

 

「一夏君が持つそのブレードが一夏君の最大の強みを消している」

 

 

雪片二型…。

嘗て織斑先生が使用した雪片の後継機だ。

このブレードが使える零落白夜はエネルギーを断ち切る性質を持っている。

アルトリアの永久に遥か黄金の剣を完全とはいかないけど

4割程威力を相殺して一夏を守った程だ。

私が知る限りではアルトリアの永久に遥か黄金の剣を除けば最も強力なISの兵装だ。

だけどシンは一夏がそれを使っているのがあまり良く思っていないらしい。

 

 

「君の得意な得物は物干し竿程の長さを持つ長刀…違うか?」

 

「なっ!なんでそれを!?」

 

「なに、先程の斬撃で君の本来の間合いが分かった」

 

「すげぇ…」

 

 

うん。これがシンの十八番。

相手の攻撃を見て相手が得意な間合いを測ること。

長年戦いに身を置いてきたシンだからこそできる芸当だ。

これが出来るのは私が知っている限りではシンだけだ。

(アルトリアは相手の間合いなど関係なしにぶった切るから除外)

 

 

「一夏君。先に言っておく。

 もし君が自分以外の誰かになりたいと思っているのなら…。その思いを捨てろ」

 

「え?」

 

「人はどう足掻いても自分以外の誰かになることはできない」

 

「それは…」

 

 

正直シンが言っている意味も私にはわからなくはない。

どうあがいても人は自分であることを捨てられない。

私が私であるように一夏も一夏だから。

でも、人は自分以外の誰かにあこがれる。

自分もあの人のようになりたいと思うのも当然だ。

特に自身の憧れの人物が身内にいる人や

自分自身の無力さを呪った人は特にね…。

一夏は偉大な姉といっても過言ではない織斑先生がいる。

だからそんな感情を抱いても仕方がない。

私もその思いを捨てられずにいるのだから。

 

 

「君は君だ。一夏君。織斑千冬でも君の剣術の師匠でもない。

 織斑一夏という人間は君だけしかいないんだ」

 

「………」

 

「だが、それでも彼女達のようになりたいと願うのなら自分なりに強くなるんだ。

 1人で強くなれないのなら周囲の仲間に頼れ」

 

「仲間…?」

 

「君は1人じゃない。少なくとも君の周りには真優達が居る。

 1人で強くなったとしても…その先にあるのは空虚だけだ」

 

「シンさんは…そういった経験があるんですか…?」

 

「…まあな。気が付いた時には全て手遅れになっていた。

 だから一夏君にはそのような苦しみを味わってほしくない。ただそれだけだ」

 

 

『1人だけで強くなってもあるのは空虚だけ』か…。

アルトリアは割と自分の過去を教えてくれたけど

私は数ヶ月の付き合いになるけどシンのことを全く知らない。

だけどさっきシンが見せた表情は遠い過去を思い出す老人の表情だった。

いったい、シンはどんな人生を生きてきたのだろう…?

少なくとも平穏な暮らしでは無かったのは確かだろう…。

ただ、一瞬だけど屍の山の中で1人慟哭を上げるシンが見えた…。

それは1人で強くなっていった者の果ての姿なのかもしれない…。

 

 

「なに、彼女達を目標にするなとは言わない。

 ただ、君は自分自身にもっと自信を持てるようになれ。言いたいのはそれだけだ」

 

「はい…。ありがとうございました」

 

「さて、一夏君の実力もはかれたことだし本命の特訓を始めよう」

 

「「「はい!」」」

 

 

さて、シンの話も終わったことだし私達の特訓も始めないとね。

それから日が暮れるまで私達は特訓を続けた。

………今日も色々と言われたけれど少しは自信がついたかな。

一夏のクラス代表就任パーティは今日の夜に開かれるから送れないようにしないとね…。

そういえばアルトリアは何をしているんだろうか?

 

 

◆ Side アルトリア

 

 

IS学園 学生寮 食堂

 

 

「………マユ達はまだでしょうか」

 

「今はシンのところで特訓しているんだ。もう少し時間が掛かるだろうな」

 

「それはわかっていますよ(プイッ」

 

「…本当にわかっているのだろうな」

 

 

今日の夜にイチカの代表就任パーティをすると聞いて

今日の授業が終わった後の放課後に準備をしていたのですが

主役のイチカは勿論のこと、マユ達の姿もありません…。

それに今日は昨日の約束でシンがローストビーフなる料理を御馳走してくれるはずです。

むぅ…もうこちらの準備が終わっているのに主役である

イチカも御馳走してくれるシンも一緒に味わうマユとセシリアもいなければ

始めたくても始められません…。

 

 

「そういえば織斑君はどうしているの?」

 

「なんか第4アリーナに行っているみたいだよ」

 

「えー?なんでそんなところに?」

 

「なんでもクラス対抗戦に向けて特訓しているらしいよ」

 

 

ほう…。

彼女達の情報収集能力もなかなか侮れない…。

情報を制す者が戦いを制す…。

私も情報の収集を怠らないようにしなければなりませんね。

 

 

「そういえば一夏君以外にセシリアさんとあいつがいたよね」

 

 

あいつ…?

あいつとはマユのことでしょうか?

シンの許で訓練をしているのはマユとセシリアとイチカの3人だけですからね。

少し離れて彼女達の話を聞いてみるとしましょうか。

 

 

「それで一夏君とセシリアとあいつの教導をやっているのはあの用務員だってさ」

 

「何それ凄く生意気よ!男のくせにさ!」

 

「そうそう!ISも使えない男のくせに一夏君をとって!」

 

「あいつも専用機持ちじゃないのに一夏君と一緒にいるなんてさ!!」

 

「そうそう!まったく、専用機持ちでもないのに生意気よね」

 

「どうする?」

 

「もちろんもう二度と一夏君に近寄らないようにするのよ!」

 

 

………この女達、先程から言わせておけば!!

なんですか!彼らのことを知らない癖に!!

マユだけでなくシンまでも罵倒しますか!!

この前〆た者達ではないのが尚更厄介です!

まさか真優にこれほど敵がいたとは…!!

 

 

ガシッ!!

 

 

「アルトリア、気持ちはわかるが落ち着け。

 ああいう奴は言わせておけばいいことは知っているだろう?」

 

「ですがホウキ、ここで彼女達を討伐せねばマユに被害が…」

 

「だがここで問題を起こせば真優とシンに迷惑を掛けるんだぞ?」

 

 

ぐぬぬ…。

確かに2人に迷惑をかけてはいけません…。

先日にそのことでシンとオリムラ教諭に説教されたばかりです…。

我慢だ。私…ここでマユとシンに迷惑をかけては意味がありません…!

 

 

「そうだ。今度ISの実習の時に撃っちゃおうよ」

 

「いい案ね。一発だけなら誤射かもしれないし」

 

 

ブチッ!!

 

 

もう頭にきました。

罵詈雑言に飽き足らず命すらも狙うか!!

このまま放っておけば確実にマユに害が及ぶ!!

害になる前にすぐ討伐を…

 

 

ぬ…

 

 

「ほう。随分と物騒なことを考えているようだな」

 

「「「「ひっ!?」」」」

 

 

気が付けばコック服姿のシンが彼女達のすぐ後ろにいました。

あ、これは私が手を出す前に終わりましたね。

あのシンの笑顔は間違いなく怒っている!!

それも普通に怒っているのではなく烈火の如く!!

もし私がこの状態のシンと敵として遭遇したら裸足で逃げ出すほどです!!

昔に一度裸足だということに気が付かずに逃げました!!!

だってあの状態のシンは私が騎士道を捨てて逃げてしまう程に恐ろしかったのですから!!

というか今も逃げ出したいくらいです!!

 

 

「なるほど、確かに一発だけなら誤射かもしれないな。

 ならばその誤射を減らすために補修をするよう織斑教諭に頼んでくるか」

 

「「「「し、ししし、失礼しました~!!!!」」」」

 

「まったくバカ者達が…折角の祝いの席が台無しになるだろう…」

 

 

あ、怒っていたのはマユに危害が及ぶ以外にもあったのですね。

まあシンの生前は所属していた部隊が常時食料不足の状態だったから

食べ物を無駄にしたり冒涜したりするような行為を許せないのでしょうね。

そして、まともな食事をする機会も少なかったから

一回一回の食事を大事にしているのでしょう。

 

 

「どもっす」

 

「お待たせいたしました」

 

「おまたせ~」

 

「さ、待たせてしまったが主役も到着した。そろそろ始めるとしよう」

 

 

む、やっと主役が来ましたか…。

ほのかにですがシャンプーの匂いがします。

訓練でかなりの量の汗を掻いたから汗を流すために

シャワーを浴びていたから遅くなったのでしょう。

さすがに汗臭いままでパーティに出るのは良くないですからね。

さあ、ここまで待ったのです。期待していますよ?シン。

 

 

「うん~?シンさんの居た厨房からいい匂いがする~」

 

「ああ、アルトリアとの約束で作ったローストビーフだ。

 クラスの人数分以上の量があるから安心して食べてくれ」

 

 

これがローストビーフという料理ですか…。

これは私が想像した以上の料理です…。

シンが手にしたナイフでローストビーフの塊を三枚ほど薄く切り、

あらかじめ用意しておいた皿の上に盛りつけられたレタスの上に乗せると

隣の器に入っているタレをかけて主役のイチカに手渡されました。

なぜでしょうか…。

あの皿から後光が見えた気がします…。

 

 

「さ、食べてくれ」

 

「は、はい…(パクッ」

 

 

恐らくイチカにも後光が見えたのでしょう…。

しばらく食べるのを躊躇っていましたがシンに促されて

ローストビーフを一枚とレタスを同時に食べました。

ああ、本当に美味しいのでしょう口に入れた瞬間イチカの顔が一瞬で綻んだのですから。

 

 

「う、うまい…」

 

「そうか」

 

「これ本当に美味いです!!

 俺、こんなにも美味しいローストビーフなんて初めてです!!」

 

「気に入っていただけたようでなによりだ」

 

 

イチカの感想を聞くとシンも満足したのか他の皆の分の切り分けも始めました。

そうなるとシンの周りに他のクラスメイトが集まりだし、我先にと並んでいます。

その中には先程までシンのことを罵倒した女子もいました。いい度胸ですね?

ですがシンのローストビーフに免じて今回は見逃しましょう。

 

 

「さあ、アルトリア。随分と待たせたがこの塊が君の分だ」

 

「これだけ全てが私1人で食べてもいいので?」

 

「ああ。作るきっかけを作ったのはアルトリアだ。

 これくらいしても罰は当たらんだろう」

 

 

さて、私の番が来るとシンは新しいローストビーフの塊を薄く切って

他の皆と同じように皿に盛り付けて私に差し出してくれました。

なぜわざわざ新しい塊を切ったのかと思ったらこの塊が私の分ですか

相変わらずシンはこういった細かい心遣いが出来る人ですね。

 

 

「シン、貴方の気遣いに感謝を…」

 

「そう言うなら完食しろ。残されたらかなわんからな」

 

「その心配は無用です」

 

 

むむ?私が出された料理を残すと…?

その気になれば今出されている料理、菓子全てを食べきることだってできますよ?

だがこのやりとりは私とシンの様式美というようなものなので。

では、いただくとしましょう…。

 

 

「いただきます(パクッ」

 

 

こ、これは!?

 

 

ピシャーンッ!!

 

 

「うーまーいーぞー!!!!!!!」

 

「なんかアルトリアさんに雷が落ちたーっ!!?」

 

「ちょっちょっちょっちょっちょ!?」

 

「アイエーッ!?カミナリッ!?カミナリナンデッ!?カミナリコワイッ!!」

 

「ああ、また始まったのか…」

 

「うん、ひさしぶりに見たね」

 

 

何故か周りのクラスメイトがパニックになっていても私には関係ない。

これがシンの作ったローストビーフッ!!

うますぎるッ!!うますぎるッ!!

この様な料理が存在していたとはッ!!

うん?なんですかシン?私は今この至高のローストビーフを食べているのですよ?

 

 

「アルトリア、ローストビーフという料理はイギリスが発祥なんだ」

 

「「「「「え!?」」」」」

 

「はい。シンさんの言うとおりですわ」

 

 

なんと!?

まさかこれほどまでに美味しい料理が私の祖国で生まれていたとは!!

私の祖国でも食の文化は育まれていたのですね!!

 

 

「確かにイギリスの料理はお世辞にも美味いといえるものは少ない。

 だが、このローストビーフの様に美味い料理もあるのだと覚えておいてくれ」

 

「シン、おかわりをお願いします」

 

「お前の分はしっかりあるから慌てるな」

 

 

もう我慢できません!

私がシンにローストビーフのおかわりを要請するとシンは呆れながらも

私の皿にローストビーフのおかわりを乗せて私に渡してくれました。

さあ、今日はシンのローストビーフを満足するまで食べますよ!

ちなみに2年生の新聞部が取材に来たようですが見事に無視されて

それを哀れに思ったシンがローストビーフを盛りつた皿をその生徒に手渡して

そのローストビーフを食べた生徒が取材を放棄しましたがまあ、どうでもいい話ですね。

 

 

◆ Side シン

 

IS学園 校舎 クラス代表就任パーティから1時間後…

 

 

「今回のパーティは成功に終わったか」

 

 

皆が盛り上がったパーティが終わり、後片付けを終えた俺は余ったローストビーフを

食パンとレタスで挟んだサンドイッチを作り、バスケットに入れて

自室である宿直室へ移動している。

しかし、さすがに作りすぎたか…。

サンドイッチを作っていたらいつの間にかバケット一杯になっていた。

次からは気をつけるとしよう。

…ん?

 

 

「総合受付…どこ…(フラフラ」

 

 

あれは…今日転校してくる予定の中国の代表候補生だな。

どうやら迷っているようだが…。

…あの様子だと数時間は迷っているな。

このままでは朝になっても彷徨い続けるだろう。

そうなる前に声をかけておくとするか…。

 

 

「そこの君」

 

「へ?あたし?」

 

「この場には君しかいないだろう?今日はもう既に受付が閉まっているぞ」

 

「え?マジで!?」

 

「マジだ」

 

 

この学園は受付の数が呆れるほど多い。

この学園の広さは1日で全てを回れない程に広い上に案内板もまともにない。

しかも受付は全て午後の5時に閉まる。

運良く総合受付に辿りついても既に閉まっている。

それに見た所何も食べていないのか顔色も悪い。

今日は彼女の案内を優先するとしよう。

 

 

「…失礼、見た所君は今日1日まともな食事を食べていないな?」

 

「…昨日の晩ご飯食べてから何も食べてない(グキュルルル」

 

「…だろうな。顔色が明らかに悪いからな」

 

「えっと…どこか休める場所ってある?」

 

「残念ながら俺が案内できる休憩可能な場所は宿直室のみだ」

 

「それでもかまわないから案内して!…実はもう5時間ほど迷ってて…」

 

 

やはりまともに食事をとれていなかったか…。

普段食事を抜かない者が急に食事を抜くと体調が悪くなりやすい。

彼女くらいの年齢でその状態が続くのはあまりよろしくない。

…あとで織斑教諭に色々と言われそうだがこの際仕方ないな。

 

 

「ここが宿直室だ」

 

「あー!やっと休めるー…(バタン」

 

 

というわけで宿直室に連れてきたわけだがこの少女は何の警戒も無く

そのままベッドの上にダイビングした。

余程疲れていたのかそのまま寝始めた。

しかし、この少女はあまりにも警戒が薄すぎるだろう…。

もし俺が暗部の者だったらどうするつもりなんだ…?

…まあ、襲うつもりはないが少し心配だな。

さて、俺も寝るか…。

 

 

◆ Side 真優

 

 

IS学園 一年一組教室 クラス代表就任パーティの翌日…

 

 

「ねむ…」

 

 

ね、眠い…。

一夏のクラス代表就任パーティが終わった後も私とアルトリアの部屋で

シン以外のいつものメンバーを集めて二次会をしていた。

特に盛り上がったのがアルトリアと箒でいつにもなくハイになっていた。

ちなみに私はすぐに寝ようとしたけどうるさくて寝られなかった。

 

 

「ふわ~…」

 

「だらしないですよ。マユ」

 

「そうだぞ。これから授業があるのに寝ぼけていてどうする」

 

「う~…」

 

 

で、私の睡眠時間を削ってくれた2人はまったく眠そうではない…。

私よりも遅く寝ていたはずなのになんで2人ともピンピンしているの…?

 

 

「戦場では眠っている余裕がない時が沢山あったので…」

 

「お前と会うまでは純粋に眠れた数は片手を数えられるほどだったからな。慣れだ」

 

 

重い!!?

寝ていなくても平気な理由があまりにも重すぎる!!

そう考えると私はどれだけ幸せだったのだろうか…。

確かに今はもうお父さんもお母さんもいないけど平和に暮らせているし…。

ん?なんか向こうの方もにぎやかだね。

 

 

「織斑くん、おはよー。ねえ、転校生の噂聞いた?」

 

「転校生?今の時期に?」

 

 

今はまだ四月なのに転入か…。

でもこの学園の転入条件ってすっごく厳しかった覚えがあるけど…。

それをクリアしたとなるととてつもない実力の持ち主だ…。

それに国の推薦も必要なはずだったから最低でも代表候補生クラスになるのかな…?

 

 

「なんでも中国の代表候補生なんだってさ」

 

 

中国…。

また影響力の強い国が出てきたね…。

確か中国はISコアの所持数が12機と世界で2番目のISコア所持国だ。

まあ、それでもISコアの所持数が一番多いのは日本なんだけどね…。

地元補正って凄い…。

もっとも日本では兵器としてよりも宇宙開発に対しての研究を主としているから

ISの所持数に反して兵器としての使用前提のISはなんと4機しか稼働していない。

ちなみにその4機というのがアルトリアのリリィと一夏の白式、日本の代表と

現在急ピッチで進められている日本の代表候補生のISだけだ。

ちなみに自衛隊で使用されているISは災害救助と災害支援の補助として使用されているから

鉄を焼き切るバーナーとか工作用の装備とか医務施設とかを専門ごとに分けている。

そのため自衛隊のISのパイロットは操縦技術以上に専門の知識と技術の重要度が高い。

っと、話がずれた…。

この時期に転入する理由として考えられるのは…やっぱり一夏かな?

 

 

「だがこのクラスに転入してくるわけではないんだ。そこまで騒ぐほどではないだろう」

 

「ああ、だけど中国のっていうのが少し引っかかっててな…」

 

「確か前に一夏が言っていた私の後に出会った人のことか…?」

 

「そうそう。急な帰国だったから碌に別れの挨拶が出来なかったからな…」

 

「そうか。もしかしたらその本人が来ているかもな」

 

「一夏って凄く人脈が広いよね」

 

 

うーん。一夏って凄く人脈が広いよね…。

ブリュンヒルデである姉に束博士の妹である箒、イギリスの代表候補生のセシリア、

そして中国にいる友達か…。

うん。凄い。

とても私じゃ敵わないよ…。

 

 

「お前が言うな」

 

「貴女が言う権利はありませんよ?」

 

「どの口が言いますか?」

 

「いや、真優程じゃないって…」

 

 

あるぇ?

なんでみんなの反応が凄く微妙なのかなー?

私の知り合いなんて冬木に居るみんなと慎二おじさんとアルトリア達位だよー?

そんなに広くないよー?本当だよー?

 

 

「まあ、真優のことはいいとしてやれるだけやってみるよ」

 

「やれるだけでは困りますわ!一夏さんには勝っていただきませんと!」

 

「そうだな。戦う以上は勝つという気概でいかないとな」

 

「そうですよ。貴方はこのクラスの代表なのですから」

 

「織斑くんが勝つとクラスのみんなが幸せだよ!」

 

「織斑くん、がんばってね!」

 

「フリーパスの為にも」

 

「専用機を持っているクラスは一組と四組だけだから余裕だよ!」

 

 

みんなが真剣な理由はクラス対抗戦の1位の商品が目当てだからだ。

実はこの学園の食堂のデザートはアルトリアとシンですらうならせるほどの美味しさだ。

その食堂のデザートのフリーパスなのだから真剣にならないはずがない。

でもそんなにうまく行くのかな?

もしかしたら転入してくる中国の代表候補生の子が参加するんじゃ…。

 

 

「――その情報、古いよ」

 

「ん?」

 

「二組も専用機持ちがクラス代表持ちになったの。そう簡単には優勝できないから」

 

 

そんなことを考えた直後に聞きなれない声が聞こえた。

たぶん転入してきた中国の代表候補生の子かな?

そんなことを考えながら声のした方を向くとそこには小柄なツインテールの子と

その子の後ろでその子に対して呆れた顔をしたシンが立っていた。

………シン、お疲れ様。

 

 

 




どうも明日香です。
今回はクラス代表の決定及び就任パーティと鈴音の登場までの話となりました。
話の中にあった真優に対して不満を漏らしていた生徒達の会話は専用気持でもないのに一夏と仲良くなっている真優へ嫉妬しており、真優へ危害を加える一歩手前まで来ていました。
(もっとも、それを察知したシンが事前に食い止めましたが)
ちなみにこの女子生徒達も一夏と仲良くしようとすれば仲良くなれるのですがそこまで行く度胸が無く、ある種のやつあたりとして真優を標的に選んだのですが(アルトリアは純粋に強すぎる、箒はバックにいる姉が恐ろしすぎるため)その選択が一番のハズレなわけで…。
真優自身は人脈がそれほど広くないと思っていますが全盛期&守護者の座から最大限のバックアップを受けている守護者であるアルトリアとシン、その気になれば木刀でも扉を貫通させられるほどの技量をもつ箒、イギリスの代表候補生であり専用機持ちであるセシリア、世界で初めての男性IS操縦者である一夏、世界でも有数の大企業である間桐グループの社長である慎二、地元では誰もが恐れる藤村組現当主の大河に彼女を国の大恩人と思っているイギリス政府…ぶっちゃけかなりどころか滅茶苦茶広いです。
そして彼女に危害を加えるということは箒達全員を一度に敵へ回すようなものなのでまったく勝ち目がないです。
真優をいじめようとした女子生徒達はシンが途中で食い止めたので彼女達は死なずにすみましたがもし止めていなかったらまずアルトリアと箒に〆られていたでしょう(笑)。
さて、今回の話で鈴音も登場し、物語もクラス対抗戦へ移ります。
では、感想・誤字などがありましたら感想を書いていただけると幸いです。

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