どう考えても場違いな世界に転生してしまったんだが 作:かっか
シリアス注意です!!
記述。
時代が何年であるかーーーーーーーーーー不明。
何故生まれたのかーーーーーーーーーーー不明。
此処は何処なのかーーーーーーーーーーー英雄の都市
【エルサバ】
この世界の人間は生まれてすぐに強力な能力が神より与えられる。修羅神仏が存在するこの世界では神が直接力を与えてくれる。そして16歳の誕生日を迎えたと同時に異世界に転生させられる。
彼もまた勇者や英雄と人々から祝福され感謝される存在であった。
時の神と重力の神から譲り受けた力。稀に生まれたデュアル能力者として神々も喜んだ。一人の人間には一つの能力というのが常識で極稀に二つの能力を持って生まれる者がいる。
16年間力の使い方を余すことなく教えられ遂に転生の日がやってきた。
神からの祝福の声が、神仏の宴の歓声が耳を包む。いよいよ彼の人生が始まる。
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思えば不幸な人生だった。
わたしは生まれた日に両親を事故で亡くした。わたしを育ててくれたのは遠い血縁者のおじさん。記憶には無いけど記録には残ってる。自分の両親は血縁者と仲が良くない。当時のわたしが物心付いていない事を喜ぶべきか悲しむべきか、随分と厄介者として扱われたらしい。それは現在暮らしている家でも同じだ。わたしに与えられている部屋は2畳ほどの物置。ご飯も一日に一食しか与えられていない。おじさん達一家と話す機会等無く顔を合わせただけで疎まれる。慣れてしまったと言えば聞こえは良いが胸にチクリと何かが刺さったような痛みが消えてくれない。涙は昔に枯れているのか一筋の雫すら出ない。声を最後に出したのもいつだったか覚えていない。
中学を卒業と同時に学校に通うのを辞めてコンビニで働いている。昼夜問わず働くわたしは店長から喜ばれた。シフトが空けば毎日のように夜勤通しで働いた。周りからは不審がられたかもしれない。「少しは休んだ方が良いんじゃない?」その言葉に「ここで働いている方が楽しいので」そう答えていた。家にいる方が辛いなんて言えなかった。それでも労働基準法に引っかかるからと休日を取らなくてはいけない。そんな日は決まって図書館で時間を潰していた。
【英雄譚】
わたしの大好きな小説だった。著者の部分が切り取られて分からないけどこの物語に出てくるような英雄がわたしのもとにも現れてくれたら。そう思う頃には閉館になり現実に戻される。
家に帰り自分の与えられた部屋に入る。隠していた通帳を開く。高校には行かずに働いて二年。貯金額は200万円を超えていた。
ーーーーーーーーーーあと少し。
この家から出て一人暮らしをする。その為の資金は最低でも200万円程欲しかった。何処か遠くに一人で。そう思いながら貯めたお金。腕の中に抱きしめて数分。襖を叩く音が聞こえて通帳を隠し場所に戻す。
襖の前にいつものように置かれたご飯。代わり映えの無い白いご飯に味噌汁。そして焼かれた鮭が置かれている。淡々と食事を済ませお風呂に入る為に銭湯に向かう。
銭湯の番台さんに挨拶を済ませて女湯に入っていく。シャワーで体の汚れを落としてお風呂に浸かる。この瞬間だけは嫌なことが全て忘れられる、そんな気がしていた。明日の仕事は朝から昼まで。それを機に退職届を出そう。
そしてあの家を出よう。
そう決意しながらお風呂から上がる。少し入り過ぎていたのかのぼせそうな頭にシャワーの冷水をかけて目を閉じる。時間の経過とともに暖かくなるシャワーを浴びつつ髪の毛を洗う。体を洗い終えてバスタオルで体を拭いて着替える。
銭湯から出る頃には月が輝いていた。
家に帰るといつもと変わった風景に足が止まる。閉めていった筈の襖が開いている。それに散乱している家具。空き巣?そう思ったけどこの家の人達の声が居間から聞こえてくる。それも笑い声で。
「あははは。あの馬鹿。年齢偽称してバイトなんかしてやがったよ。しかも見てみろよ220万も貯まってやがる。ちょうど欲しい物もあったし皆で使っちまおうぜ」
ふらふらと覚束無い足で居間に入っていく。顔を合わせたのはいつ以来だろう。わたしを見た人達の顔は皆笑顔で心から笑っていた。
ーーーーーーーーーー気持ち悪い。
そんな事を思いながらも一歩前に進む。
「かえ...してください」
笑い声が一瞬にして止まる。沈黙が訪れて空気が重くなる。
「あ?」
鉛のような重く冷たい声に寒くも無いのに体が震える。
「わたしのお金...返してください」
その言葉の後は覚えていない。身体中が痛くて力が入らない。片目が腫れているのか開けられない。薄ぼんやりと見えるのは月。先程まであんなにも輝いて見えた月は半分雲に隠れている。
ーーーーーーーーーーズキン。
腫れている場所が痛い。
血が出ている頭が痛い。
でも心が一番痛かった。
枯れてしまったと思っていたわたしの目から涙が雫となって落ちていく。感情が抑えられない。涙が止まらない。
もう生きていたくない。
わたしのもとに英雄は来なかった。
物語は所詮物語。
足を引きずりながら着いたのは歩道橋。
道行く人に訝しげに見られながら下を見る。目の前から大型のトラックが走ってくる。
このまま落ちれば。
わたしは体の抵抗を抜き歩道橋から身を投げ出した。
落ちている最中に思い出すのは、あの家族の笑い声。最後まで、と走馬灯のようにゆっくりとわたしの心を刺していく。
でももう少し。
もう少しで楽になれる。
「この世界にも英雄は必要なんだな」
そんな中最後に聞いた声は、今まで聴いた中で一番温かみのある声だった。