東方七変化 作:セラチン1号
きっと大丈夫、たぶん大丈夫。そんな気持ちで第二話です。
※この作品は割と作者が頭空っぽで書いています。過度なツッコミどころは感想にてやんわりお願いします(という感想誘導)
拝啓 両親へ。
こんにちは、如何お過ごしでしょうか。
私は今、どことも知れない森の中、もしくは山の中で、頭に妙な突起を付けた美幼女と美女に挟まれております。何を言っているのかわからないと思いますし、父に至ってはうらやまけしからんと仰るかもしれませんね。
なら、変わって差し上げましょうか、と、愚息は声を大にして提案いたします。その代償に、子狐になる覚悟があり、我が家の権力であるかの魔王(母)にドストレートにケンカを売る度胸があればの話ですが。
さて、話の腰を折ってしまいましたが、現在私は森、もしくは山にいると言いました。そこで美幼女と美女に挟まれているとも言いました。では何をしているのかといいますと。
「キュッ!キュゥゥウウ!!(やめっ!やめろぉぉぉお!!)」
「ほらほら、いっぱい食べないと大きくなれないぞー」
「はっはっは!年貢の納め時ってやつさね。なぁ、子狐?」
美幼女の手に持つ、うねうねと活きの大変よろしい芋虫。それが俺の目の前で離せこの野郎!と言わんばかりにダンスを繰り広げ、誰が食うか馬鹿野郎!と言わんばかりに体を使って猛抗議する俺を、美女がガッチリとホールドしている。
俺の体が豊かな双丘に挟まれているのだがそんなことは気にしていられる状況でもなく、まるでみ〇もん〇の焦らしのように目の前に迫ってくる芋虫。嫌だやめろ、と首を振るも、美女はついに俺の首までホールドし、口に手を突っ込んで強制「あーん」状態に持ち込んでくる。
口を開けられては「はうっ、はうっ」としか言えず、もはや目で目の前の美幼女に伝われこの思いと言わんばかりにアイコンタクトをするしかなく、果たしてその思いは……
「はい、あーん」
「!?!?」
◆◇◆◇◆
あれから(気絶してから)の話をしよう。
その場で理解の範疇を超えた俺は、そのまま意識を飛ばしてしまったらしく、目覚めてみると美女が心配そうな眼差しで俺を見下ろしていた。
しかし、その時の俺はそんなこと、幼女の幼気な表情など、気に留める余裕はなかった。
人間だったのに、この前までは普通に二本足で立って、箸を使って食事をしていたのに。普通に、言葉も話せたのに。
気づけば狐。原因も分からなければ、理由もわからない。
何故こうなったのか。何故こんなことになってしまったのか。別に供え物のお稲荷さんを食べただとか、狐を虐めただとか、そういう記憶もない。あるのはごく普通に暮らしていた、そういう記憶のみ。
混乱を極めた俺の感情は、いつしか涙としてぽたりと頬を伝った。
訳が分からなくて、夢であってくれと願って。でもいくら瞬きをしても、目をこすっても、景色も変わらず、目に触れた感覚はもふもふとした狐の手で。
そんな時だ。俺の頭に、ポンッと小さな感触を受けたのは。
「おー、よしよし。泣かない泣かない」
毛を梳くように流される小さな手。その手は、生物を撫でたことがないのだろう。ひどく不器用なものだと感じた。
しかし同時に、今の俺にとって、その温もりは、この出来事が正しく現実であると、厳しい事実を認識させるとともに、一人じゃない、そう思える抱擁感があり……、
「事情は知らないし、だから下手な言葉は吐けないけどさ」
「笑え、笑えよ妖狐。辛くても悲しくても、苦しくても痛くても」
「笑っているうちはどうにかなるってもんさ。ほら、大口開けて、声に出して笑うのさ。あっはっはっはっは!!ってね」
そういって俺を抱き上げる。
なんて、なんて無責任なのだろうか。こんな状況で笑えとか、無理に決まっている。笑えるはずがない、なのに、どうしてだろうか。
笑えないが、この人に頭を撫でられ、抱き上げられ……屈託のない豪快な笑顔を見ると、不思議と大丈夫だと思えた。
不安も、悲痛も、何もかも吹っ飛ばしてしまいそうな、そんな雰囲気を感じた。だからだろうか、笑えはしないが、つられて小さく声が漏れた。
「その意気だ!笑え笑え!妖怪ってのはそういうもんさ!」
その消え入りそうな小さな鳴き声も耳に届いたのか、俺を抱き上げるこの人はさらに笑みを深くして、豪快に笑い始めた。
いつしか俺を胡坐をかいた足の間に収め、それでもなお豪快に笑い、背中を撫でてくる幼女―――伊吹萃香。
なんて無責任な人だろう。なんて自己中心的なのだろう。
しかし、ああ……なんて、強い人だろう。
この人に触れられているだけで、不安も、焦燥も、薄らいでいく。
まるで、霧が晴れていくように、心に陽が差し込んでくる。
心地よい温もりの中、俺は瞼を閉じ、今度は気絶するのではなく、ゆっくりと眠りについた。
◆◇◆◇◆
―――――と、言うのが、先日の話。
今思えば、いい歳した大の男が幼女に励まされるという、もんどりうつ程恥ずかしい話なのだが、あの時は藁にも縋りたい気持ちだったのだ、と自分の中で落とし込んだ。落とし込まないとやっていけない。たまたま藁が幼女だった、それだけの話だ。
実際のところ、今でも内心、混乱している。
当たり前だ。人間が狐になったというだけで奇想天外なことなのに、それが自分の身に降りかかってきたのだ。それが幼女の励ましでコロッとなくなるほど俺はチョロくない。
しかし、しかしだ。
あの時感じたあの温もりは本物で、感じ取った彼女の強さもまた本物だった。
まだ、受け入れるには色々と、足りない。
彼女の言った言葉も、あまり理解は出来ていない。
ないない尽くし。ただそれでも、俺は感じた。
感じたのなら、俺は生きている。
生きているのなら、生きるしかない。訳が分からなくても、どうにかなりそうでも。生きているのなら、きっと、笑えるはずだ。笑えたのなら、きっとどうとでもなる。
「あっはっはっは!! どうかな粋狐! 芋虫は美味しいだろう!?」
「おーおー、随分と味わって食べるじゃないか。狐も虫を食べるんだねぇ」
……あぁ、ほんと、この二人といると、どうにかなりそうだ…。
今回の登場人物
粋狐(すいこ) 主人公
現況
芋虫を食べさせられた影響で先日の回想に入るの巻。
ロリに母性を覚え悶える、そんなお年頃。
伊吹萃香(いぶきすいか) 鬼 ロリ枠兼お姉さん枠兼お母さん枠
現況
拾った子狐が泣いてるからとりあえず励ましたろ。
あれ、でも励ますってどうやるんだ?うーん、どうとでもなれ!(鬼並感)
星熊勇儀(ほしぐまゆうぎ) 鬼 ホールド枠
現況
狐も虫って食べるんだ。また一つ賢くなった鬼であった。
ロリ鬼に慰められて安心しちゃう狐。
なおチョロくないと本人は述べており。
というわけで速攻で書き上げた第2話です。次回は少し待ってほしいです。
なお主人公、自分の状態も外見ぐらいしか理解してなければ、実は名前も正確に知らなかったり、明らかに角の生えてるやべぇ人たちが目の前にいるのにそれを現実逃避してたり、色々精神的にごっちゃになってたりします。