東方七変化   作:セラチン1号

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第三話です。
※ちょっと最後の辺り編集しました


第三話~子狐変常~

 

 口に広がる芳醇な香り、味。

 噛めば噛むほど味は増していき、舌に刺激を与えていく。

 最後にごくりと飲み込めば、するりと喉を通り、胃に落ちていく。

 ああ、かくも食事とはこれほど美味なものだったとは…。

 

「キュー!(んまいっ!)」

 

 テーレッテレー、とどこかで音が聞こえた。

 この姿になってさらに早数日。俺は初めて、虫以外の食べ物を口にすることができた。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 この姿、この世界に来て数日経った俺こと…粋狐。

 そう、俺の名前は粋狐というらしい。あの美幼女が連呼していれば流石にそれが俺を指す言葉なのだとは気づくことができた。

 態々地面に文字を書いて教えてくれた。粋な狐で粋狐、と読むらしい。へんてこな名前だとはセンスが人並みな俺が見ても思うのだが、この名前の意味は二つあるようで、

 

「粋な狐になってほしいからかなっ」by萃香

 

「まあ見つけたときは死にかけてたからねぇ。元気な狐になればいいかってね。活きがいいって意味で」by勇儀

 

 とのことで。

 まあ名前の意味が分かりやすいという点では俺は少しだけこの名が気に入っている。仮に元々の名前があるとしても、今この環境においては全く意味がないし、心機一転…は出来ないが、少しは気持ちの切り替えができるだろうとこの名前を受け入れることにした。

 

 名前が分かって、虫の味と触感にも慣れてきた今日この頃であったが、美女こと星熊勇儀が何やら酒のつまみに木の実を食べていることに気が付いた。

 木の実というか、柿だった。虫以外に初めて見るまともな食料に俺は思わず勇儀の胸に飛びついた。

 

「うおっと、なんだい?」

 

 飛びついた俺の首根っこをつかんで、目を合わせてそう問いかけられる。

 

「キュ、キュー!」

 

 しかし俺は、勇儀の持つ柿に目を向け、空中で体をバタつかせてみる。

 

「ん?ああ、この木の実か…欲しいのかい?」

 

「キュッ、キュ!」

 

「仕方ないねぇ。滅多に取れないんだから、少しだよ」

 

 目の前に差し出される柿。

 俺はそれに口をいっぱいに開けて喰らい付き……そして冒頭に戻る。

 

「ほー、そんなに美味いのかい…どうやら粋狐は虫よりそっちの方があってるのかもねぇ」

 

「キュッ!(当たり前だろ!)」

 

 むしろ虫を食べさせようとする神経が分からないが、そもそもこの二人、俺の食べている虫も平気な顔して食べるからな……この二人の常識的には俺の方がおかしいのかもしれない。

 

「ま、私らも“鬼”だからね。虫以外にも別のものを食べたいって思うときはあるさ」

 

 だから気持ちはわからないでもないよ、と勇儀は笑う。

 

 鬼。彼女の口から出てきたその言葉。

 昔ならただの妄想癖かと思うのだが、今のこの状況においてそうはっきりということができない。

 鬼、日本の妖怪。よく節分で鬼は外、福は内と言われているあれだ。昔の経験からは決して見たことがない存在だが、今俺の目の前には、自身を鬼だとサラリと述べる美女がいる。嘘だ、という事は簡単なのだが、彼女らの頭から生える角が、その言葉に信憑性を持たせていた。

 俺は何気なく、勇儀の角に触れてみた。それは確かに硬く、しっかりとした存在感があった。

 

「ん? この角が気になるのかい?はっはっは、まあ粋狐にはないからねぇ」

 

 勇儀は俺を、胡坐をかいた足の間に収めると、盃の酒を一口、口に含む。

 

「これは鬼って言う存在の証明さ。誇り、とまではいかないが、まあ大事なもんだよ」

 

 そう角を撫でながら、俺の頭を指先で突いてくる。

 

「あんたは妖狐だったっけか。妖怪にもいろんなのがいてねぇ。妖狐は人を騙すのが得意な妖怪だよ。変化とかね」

 

「それに対して鬼は…そう、強いんだよ。力が強く、豪快で、なにより勝負事を好む」

 

「卑怯なことは嫌いで、嘘は許さない。だからこそ、まっすぐ生きる人間や妖怪は好ましく思い、逆に捻くれた奴らはあまり好かないのさ」

 

 そうやって言う勇儀は、どこか寂しそうな顔をした。

 しかし、なぜだろうか。今聞いた話だと、勇儀たち鬼は、妖狐…らしい俺のことは好ましく思わないはずなのに、なぜ助けたのか。

 

「不思議そうな顔をしてるねぇ。あんたを助けたのは、ただの気まぐれさ」

 

 ストレートにそういってくる勇儀。その気まぐれに助けられたのだと知っている身からすれば何とも言えないが、同時にもっとこう…何かあってほしかった、そんな微妙な感情も沸いてくる。

 

「あとはまぁ…萃香はどうだか知らないけど」

 

「気になったのさ。鬼に育てられた妖狐が、どう成長するのかね」

 

「普通に生きてれば、人を騙し、自分を化かして生きていくのが妖狐さ。ただ鬼はそれを好まない。相反する存在が、片方を育てたらどうなるのかってね。まあ興味本位っていえばそれまでさね」

 

 豪快に酒を飲み干し、俺を地面に下ろす勇儀。

 見上げれば、なるほど、確かに今勇儀の言った「強い」という鬼の存在感を感じる。

 こう、自信や自負を体現しているのだ。行動の一つ一つに恥じることがないと言わんばかりに惜しみがない。

 

「キュー…」

 

 ……しかし、鬼。鬼か。

 人間じゃない生物。妖怪という未知の存在。

 正直、わからない。どう接していけばいいのか。

 恐れればいいのか、敬えばいいのか。しかし、俺の中にはそんな感情は浮かんでこない。未知の存在を恐れるのが人間だ。しかし、何故だろうか。この二人は鬼である、そう心にストンと収まってしまった。

 俺も、妖怪だからだろうか?妖狐と呼ばれた俺が、二人と似たような存在だから、人間だった俺の感性が、徐々に妖怪に近づいているからだろうか?

 ―――――わからない。

 俺は、一体どうなってしまうのか。

 

 ふと、頭に温もりを感じた。

 

「安心しな粋狐。あんたがどこで生まれたとかそういうのは知らないけど、今はここにいる」

 

「あんたの悩みはあんただけのもの。あんたの苦労はあんたが何とかすべきものさ」

 

「でも、あんたが一人で立てるまでは、私らがちゃんと面倒見てやるよ。だから」

 

 ―――――背筋伸ばして、どんっと構えてな。俺は鬼に育てられたんだってな。

 

 ………。

 ああ、この人も、無責任なことを言う。

 五里霧中な俺に向かって、どんと構えろとか、無理難題だ。

 しかし、星熊勇儀も伊吹萃香と同じで。

 傍にいると、なんだか不思議と安心できる。

 

「……キュッ!」

 

 俺は頷くように、一声、勇儀に向かってそう鳴いていた。

 

 

 




 展開が遅い。けどこの二人にスポットあてた話が書きたかった。
 次回からちょっと話が進むかも?サクサクッと行きたいところです。
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