東方七変化 作:セラチン1号
長い分、展開がコロンコロン変わっていきます。
楽しいことを考えよう。
そう思い始めた今日この頃。どうも気分が鬱屈しがちであり、彼女らに無責任に励まされたりすることが多くなってきた。
どうも、俺は悩んでいたり悲しんでいたり途方に暮れていると、目が口ほどに物を言うらしい。つぶらな瞳が潤んでしまうらしい。そういう時にタイミングよく鬼のどちらかがフォローのような実はフォローじゃない無茶ぶりを俺を抱き上げたり抱え込んだりしながら言うのだ。通りでいつも話しかけられるタイミングが良いとは思っていたが、そういうことだったのか。
まあ、そういう訳で。
一人からは『笑え』という言葉を貰った。一人からは『どんっと構えろ』と生き様を教わった。
うじうじ悩んだりするのは、この状況においては当たり前だと思うが、それだけでは事態は好転しないわけで。
悲しんだりするのも、悲しむなという方が無理な話なのだが、悲しむだけでは何も始まらないわけで。
だから、何かしてみようと思った。人間じゃない、狐……妖狐という存在になってしまった俺らしいのだが、だからこそ、何かしようと思った。
何かするには、楽しいと思えることをしようと、そう決めた。
さしあたっては―――――そう。
俺は妖狐という存在らしい。
妖狐、あまり聞きなれない言葉だが、俺の脳内検索にヒットするワードが一つだけある。
それは“九尾の妖狐”というものだ。なんかこう、よくアニメやゲーム、漫画とかで聞くフレーズだった。
俺の尻尾は生憎一本しかないわけだが、妖狐とはつまり、化け狐のようなものだろう。平〇狸〇戦の狐バージョンだろう。
つまり、つまりだ。
「キュ!キュゥー!(俺も!ああいう変化とかそういうことができる!)」
のではないかと。
希望的観測なのだが、面白そうではないか。人間のときに出来なかった、こう、ファンタジーのようなことができるのは。
是非ともやってみたい。現実逃避でも何でもいいから、そういう今しかできないことを。そうすればきっと笑えると思う。受け入れられると思う。
と、言うわけで。
やってみた。不器用な前足で、必死に木の葉を頭に乗せ、いざドロン!と。
そしてその結果は―――――
「キュゥ……(出来ねぇ……)」
まあ、当然のようにできないわけで。頭に乗っけた木の葉は俺が頭を下げると普通に地面に落ちるただの木の葉だったようで。
いやまあ、当たり前である。そもそもギミックも分からず説明書もないのだ。どうやってやれと。あれだ、ただの一般人が急にボクシングや空手をやれと言われても無理なのと一緒だ。見様見真似で形だけならできるかもしれないが、実際中身を見るとただテレフォンパンチ、テレフォンキックをしているだけのようなものだ。
そういうのは、その筋の先人に教わるのが正しいのだ。そして、俺にはその手の先人が二人いる。狐ではなく鬼だが、まあ、妖怪という括りにおいては先人と言えるだろう。
「キュー!!(俺に妖怪を教えてくれー!!)」
「お?何かな粋狐。遊んでほしいのかな?ほれほれー!」
先人の一人、萃香に飛びつき、口ほどに物をいう目で訴えかけると、何を勘違いしたのかそのまま抱き上げられ、くるくるとメリーゴーランドのように回される。
違うそうじゃない。
「キュ、キュ! キューッ(あ、姉御!俺に妖怪を教えてくれーっ」
「ん?腹が減ったのかい?ほれ、木の実だよ」
目を回しフラフラになりながらもなんとか勇儀の足に縋りつき、懇願する。すると口には木の実が放り込まれ、程よい甘みと酸味が味覚を幸せにした。
んまいっ、けどそうじゃない!
俺の目は口ほどに物を言うらしいが、それはどうやらネガティブな思考をしているときに限るようだ。
教えてセンセー!と突撃しても、遊ばれるか餌付けされるかのどちらかしか起きない。こうなっては仕方がない、自分で何とかしよう……と、そう思い至り即実行。
アニメやゲームでは、自分と向き合うときは、精神統一のようなものをしていたような気がする。俺もそれに倣い、意味があるかもわからないが、頭に木の葉を乗せ、ピンっと背筋を伸ばして精神統一し、自分と向き合うことにした。
◆◇◆◇◆
それから数日後、まだわからない。
数週間後、まだまだわからない。
数か月後、まだまだまだわからない。
半年後―――――
「キュゥゥーッ!!!(全然わからねぇ!!!)」
光陰矢の如しとはこの事か。
食う寝る以外のことはほとんどそれに費やした俺だが、ついぞ自分の中の、今までに違う何かというのはわからなかった。
もうナチュラルにこの体にも慣れてしまったという変化はあるのだが、それはあくまで動かし方だけであり、特別な力っていうものはさっぱりだ。
尻尾が縦横無尽に振れるようになっただけでは意味がない。特別な力を縦横無尽に振るいたいのだ。
しかし、諦めてしまっては何のために、体感で半年近く馬鹿みたいに精神統一していたのかわからなくなってしまう。何が何でも、俺はこの変わってしまった環境で生きるための第一歩を踏み出さなくてはならない。
「粋狐ー、最近何やってんの?」
「キュッ?」
そう決意した俺だったが、唐突に脇に手を挟まれ、プラーンと持ち上げられる。
急に視点が高くなり、目の前には幼女、萃香の顔面が広がっていた。
「葉っぱ乗っけて、ここ最近ずーっとボケッとしてるけど」
「キュッ!キュキュ!(ボケッとじゃない!精神統一だ!)」
「まあ安静にするって意味合いではかなり有意義だと思うけど。んー…結構妖力も落ち着いてきたねぇ。これならそろそろ教えてもいいかな」
「キュ?(妖力?)」
新しいワードが出てきた。妖力?それはあれか?ドラ〇ンボールでいうところの気とか、そういうのなのか?俺にもかめ〇め波が撃てるのか?
「粋狐は知らないかなぁ。妖怪ってのは大なり小なりこの妖力ってのを生まれ持ってるんだよ。というか生きる源っていうか、人間の生命力みたいな?まあ使ったところで寿命が削れるとかそういうのはないんだけどね」
ふむふむ。あれか、MPみたいなもんか。
「それを使ってまあ色々するんだよ、妖怪は。色々ね」
「例えば妖狐の場合はー…変化したりとか、じゃないかなぁ。私も実はこれ、滅多に目に見える形で使ったことってないからうまく説明できないけどね」
なるほど、頭に葉っぱを乗せて唸っているだけではだめだと。いやそれもそうだ、それで何かできるならただの人間もヤ〇チャみたいになれてしまうだろう。
「ま、妖狐だったら変化ぐらい簡単にできるんじゃない?ほれほれ、やってみて。知性があるのはわかるけど、いい加減私もこう、会話とか成立させたいなって思うからさ」
それができないから困ってるし半年も貴方目線ではボケッとしてたわけなのだが。
早く早くと急かす萃香。その無邪気な笑みに悪態をつきたいところだが、仮にも(本当になのだが)恩人に出来ませんというのもどこかばつが悪く、顔を逸らしてしまう。
「ん?え、出来ないの?」
「えぇぇ……妖怪って生まれてきてある程度育ったら普通にできるもんだと思ってたんだけど、個体差あるのかなぁ…?うーん、困った。こういう時、うまく教えるのは私も無理だし、勇儀も無理なんだよねぇ」
「キュゥ…」
本当に困った顔をされ、思わず罪悪感から情けない声が出る。悪態をつこうとしていた悪い俺はすでに心にはなく、今はもう期待を裏切って申し訳なく思うヘタレな俺が感情を支配していた。
「……ん、あー…ちょっと強引になるけど、やってみようか」
「キュ?」
「ねぇ粋狐。今からさ」
―――――ちょっと軽く、死んでもらうね?
その言葉を聞いた瞬間、俺の頭は弾け飛んでいた。
「ギュッ!?」
―――――否、実際に弾け飛んだのではない。それほどの衝撃を、頭にぶち当てられたのだ。
チカチカ、と視界に星が舞い、前後左右、上下が不安定だ。今俺がどこに立っていて、どのような姿勢なのかもわからない。
「ありゃ、弱すぎたかな? 軽く瀕死にさせる程度にしようとは思ってたけど」
遠くから、そんな暢気な声が聞こえる。声の大きさから、俺はかなりの距離吹き飛ばされたらしい。
「キュ…ゥ…」
「じゃあ、次は上手いことやらないとね」
逃げなければ。
急に何でこんなことになったのか、どういう思考回路が働いたかは知らないが、このままでは本気で殺される。
フラフラな体を強引に動かし、地面を這うように動かす。
けどそれでも、俺を殺そうとする鬼からは逃げることは出来ず、簡単に首根っこを掴まれてしまう。そのまま俺の体は持ち上げられ、片手で首を締め上げられる。
「ギュッ…ッ…!」
「あー、こうしてちょっとずつの方がいいかな?ほら粋狐。逃げださないと死んじゃうよ」
ギリギリ…と、首から嫌な音が鳴り始める。
気道はとっくにふさがれ、酸素を得るために開けた口からは舌が飛び出る。
苦しい、痛い、なんでだ。なんで急にこんな―――――
―――――薄目を開けると、目の前の鬼は、伊吹萃香は、薄っすらと微笑んでいた。
……微笑んでいた。
その瞬間、俺の中で何かが、切れた。
この幼女は、俺を殺そうとしておいて、あろうことか笑っているのだ。
いきなりこんな環境のぶち込まれ、人間から狐になっていて、訳が分からないながらも何かを始めようとし始めて……そのきっかけをくれた人が、よりにもよって、俺を殺そうと笑っている。
色々と限界だった俺は、その瞬間感情が爆発した。
―――――……ふっざけんなぁぁあ!!!
かくして、俺は。
溜まりに溜まったものが怒りという形で爆発した俺は。
我武者羅に、何も考えないまま、前足を突き出し。
“人間の手”で、目の前の鬼畜幼女をぶん殴っていた。
今回の登場人物
粋狐 主人公
最後の最後で溜まってたものが爆発してついにキレた。
理不尽に対してキレるのは人の性。
後色々と実は染まりつつあるのだが本人は気づかない。
伊吹萃香 鬼畜
今回の鬼畜枠。
主人公のことが嫌いなわけではないが、真っ当な教育方法など今までやったことがなく、なら荒療治でいいか、とスパルタも真っ青な方法で主人公に教鞭(物理)を振るった。
教えるなんてとんでもねぇ、体で覚えるんだよ。
そんなスパルタ教育が割と鬼の中では普通なのかもしれない。
第四話でした。突然展開がコロンコロン変わったりするなぁと思いながらカタカタ書いています。
頭からっぽっぽで書いているからかもしれませんね、読みにくかったらあとで直すかもです。