東方七変化   作:セラチン1号

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久しぶりの投稿です。


第六話~狐驚天~

青い空、そこに流れる真っ白な雲。

地面を見れば緑が地平線まで広がり、大きく息を吸い込めば澄んだ空気が肺を満たす。

嗚呼、なんと美しき日本の原風景かな。

山を降りても見渡す限りの自然、自然、自然……。

感動すら覚えるその風景に、俺は思わず一言。

 

「いや、なに時代だよここ……」

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

親元(腐れ鬼共)を離れてから、太陽はすでに10回以上は昇り降りを繰り返していた。

お天道様が顔を見せたときに起き、そっぽ向いた時に床につくと言う健康的過ぎる生活を送っていた俺こと粋狐なのだが、その行動は数日経っても変わり映えしないものであった。

というのも、ただひたすら、日本の原風景を視界に収めながら歩いていただけなのである。あっちへふらふら、こっちへふらふらと、何となくを原動力に歩み続けた結果、未だに人っ子一人出会えないでいた。

そもそもの話。ここが日本であるという明確な根拠はなかったりする。単純に俺が日本語を話し、それで通じていたから日本だと勝手に思い込んでいたのだが、もしかしたら俺が喋っているのは日本語は日本語でも別の国なのかもしれない。鬼やら何やらが我が物顔で山に住んでド派手にやんちゃしている場所だ、俺の常識が罷り通るわけもない。

 ……のだが、まあ、それを今考えたところでどうにかなるものでもない。日本じゃないからどうするか、今の俺に出せる答えは“それでも生きていく”以外にないのだから。

 

 話が逸れた。まあつまり、ここが日本かどうかも怪しい場所で、俺は未だに人っ子一人、会えていないのだ。萃香や勇儀の言うことを信じるのなら、少なくとも人間はいるのだろうし、何ならその人間が集団で生活している場所もあったりするのだろう。

 しかし、こうも何もないと、逆に人間という存在が珍しいものなのではないかと考えてしまう。もしかしたら、文明レベルがものっそい低かったり、未だに石槍をもって動物を追い掛け回しているのかもしれない。

 となると、だ。

 

「万が一、襲われた時は却ってこの状態はまずいのか……?」

 

 今の俺は完全な人間形態だったりする。妖怪という存在が俺の先入観で異常なものであるというのもあり、何より人間に会うのに獣の尻尾と耳を生やしていくというのも問題なように思えていたからだ。

 しかし、この状態にもデメリットがある。妖狐としての能力を全く使えないのだ。身体能力だったり、妖力だったり、だ。萃香が言うには代わりに人間にしか出来ないあれこれができるかもしれないとのことだったが……生憎そっちには心得が全くない。というか人間にしかできないあれこれを理解していない。よくある陰陽師がやっているあんな感じのことなのだろうか? 雰囲気がふんわりしすぎてよくわからない。

 まあそういう訳で、人間状態の俺のスペックは普通の一般人と同じである。まあ、体力とかそういう細かいところで差異は出てくるのだが、基本的に人間離れしすぎたことは出来ないのだ。日が昇るころに起きて日が沈んだら眠るという生活習慣もこれが由来していたりする。

 ぶっちゃけ長年の山籠もり生活で自然とサバイバル技術は身についたりするし、手軽に獣人の姿にもなれることからそこまで旅路に苦労はなかった。

 

 だが、仮に、文明レベルが低く、そんな原始的な生き方をしているようなのがいるとしたら。同じ人間と言えど余所者NGな価値観だったら。

 襲われでもしたら、人間状態じゃ到底助かるとは思えない。迫りくる攻撃を易々と避けれるのは妖狐スペックあってこそである。

 なので、

 

「キュッ(これで行くか)」

 

 俺の本性、狐状態。尻尾の数は流石に誤魔化すが、それさえしてしまえば見た目はただの狐に他ならない。

 この状態、言ってしまえば3つの状態の中で一番よく動けるのだ。妖怪としての力がフルで使えることが起因しているのだろうが、とにかく人間だったころの常識が彼方へと吹き飛ばされるぐらいには力に満ちている。獣人姿も大概だが、狐状態はさらにその上を行く。

 妖狐の強さは尾の本数に由来すると萃香が言っており、俺の今の尻尾の本数は3本だ。妖狐としてはまあ普通ぐらいなのだそうだが、元々人間だった俺からするととんでもない力なのだ。

 

 因みに、さんざん自画自賛しているが、この狐状態でもあの鬼畜どもから攻撃を受ければ、手加減されていてもワンパンで沈む。自慢することは出来ても、自惚れることや増長したりは出来ない現実が目の前にあった。

 

 まあでも、これなら大抵の輩からは逃げ切れることが出来るだろう。

 一先ず、あの目の前に広がる山を越えてみよう。何、この状態なら一日も掛からないだろう。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 今にして思えばあれはフラグだった。

 どうも、現在子供に抱えられてどこぞへと運ばれている粋狐だ。

 早速捕まってるじゃねぇか! という声が多方面から聞こえるが、まあ聞いてほしい。

 そもそも運が悪かったのだ。山を歩き、やっと下山できるというところで小さな小川を見つけ、水浴びでもと川に入っていたのだ。ついでに食事でも取ろうかと魚を数匹捕まえて生で食べていたのだ。

 うん、ここまでは良い。何もおかしなところはない。……俺がその魚に当たるまではな!

 生魚を食べたら腹を下した。もがき苦しんでいるところに子供が現れ、俺は捕まってどこぞへと連れていかれている。

 要はこういうことなのだが、そもおかしいのが俺はこの体になって以来、生魚で腹を下したことはないのだ。なので、本当に、本当に偶々運悪く、腹を下した結果がこれなのだ。

 クソ忌々しい。あの鬼どもにばれたらなんて言われるか。修業が足りないと扱かれるのか、大爆笑の渦に巻き込んでしまうのか……なんにしても絶対にばれてはいけない。

 

「おっかあ!犬拾った!」

 

 おっと、考え事をしていたら状況が動いたようだ。なんだなんだ、俺はこいつらに飼われるのか?あと、犬じゃねぇ、狐だ小僧。

 

「おやおや造(みやつこ)……それは狐ですよ?」

 

「そうなのか? まあいい! こいつの毛皮、すごくきれいだ! きっと高く売れる!」

 

 ふぁ! こ、この小僧! 俺を貴族が着るようなお高い毛皮の服にしようとしてやがったのか!

 

「まあ……確かに立派な毛並み……」

 

 こ、この親も同類か!? クッソ、動物と見ればすぐにこれか! やはり人間の業とはそこが知れんな!(畜生感)

 毛皮になんてされてたまるか!

 

「キュッ! キュー!!(離せっ! やめろー!)」

 

「わっ、ちょ、暴れるな毛皮の分際で!」

 

 いってっ!? こいつ殴ったぞ!? しかも今毛皮とか抜かしおったか! すでに俺は皮算用されてるってか!

 

「おや……その狐……」

 

「ん? どうしたおっかあ。何かあったか?」

 

「……造。その狐、ここに置くとしましょう。きっと、狩りなどの助けになりますよ」

 

「え? な、なんで?」

 

「理知的な目をしています。ただの獣には見られない、そんな目を」

 

 ……な、何者なんだこのおっかあ……。

 

「んー……分かった。おっかあがそういうなら」

 

「ふふ、ありがとう造」

 

 なんだかよくわからないが、当初の俺の予想のような展開になった……のか?

 いやいや、それにしてもこのおっかあ……と呼ばれた人、何者なんだ? 人間……だよな。でも、言ってしまえばただの獣相手にこの対応か。理知的とか言っていたが、まあ確かに妖狐だから、獣にはない理性を兼ね備えてはいる。というか中身は俺だ。理性がないわけない。

 ……それを、見抜いたのか? この人間は。

 

「大事にするのですよ、造」

 

「分かった……おい狐、命拾いしたな」

 

 ……このおっかあと呼ばれる人に関しては、まだまだ観察するべきなのかもしれない。この世界のことを知るために……これが普通の人間であるというのなら、俺も人間との接し方を考えないといけないしな。

 ただ、しかし。

 さっきから生意気なこのクソガキは気に食わん!

 

「キュー!!(誰が命拾いしただ、このガキィ!!)」

 

「わっ、ちょ、噛みつくな! おっかあ! やっぱりこの狐売り飛ばそう!」

 

「あらあら、ふふふ」

 

 こうして。

 俺は、母親とその子供が住まう家に飼われることになった。

 ……絶対にあいつらには言えねぇよなぁ……。




作者、歴史的な知識はあまりないです。なので、なんか知っている人がいて、「あ、これ違うんじゃね?」という部分があればやんわりとご指摘いただくか、そういうもんだと思ってスルーのほうお願いします。
なるべく間違いがないようには善処します。

粋狐 飼い狐
腹を下して飼われてしまったお間抜け狐。

造(みやつこ) クソガキ
山に狩りに出かけたら狐を拾った幸運な子ども。

おっかあ
一体何者なんだ……

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