「カラオケがまだ残ってる街があって良かったな」
「まぁ電力だけは無限にあるからな、あとは設備さえ入手すればやっていけるんだろ」
早朝のまだ誰も起きていない時間に俺達は街のはずれに立っていた。
視界の先に広がるのは人間が住まなくなった結果、自然に飲み込まれた都市だったものの光景だ。
「俺この景色好きだな」
「ほう?さては貴様自然主義者だな?人類は科学を捨てて元の精神と物質が別れる前へ戻るべきだーってやつ」
「馬鹿野郎、そんな奴が義体使うかよ」
「分からねぇぞ?延命の為に義体使ってるやつは居るしな、そういう活動は金になるのさ」
元から精神のみの探求を目指していた宗教なんかは喜んで肉体を捨てて義体になり、山奥で瞑想に耽っていたりするらしい。
そんな話をしていたら、そろそろいい時間になってきた。
「さてと、そろそろ出発するか」
「そうだな」
「お前ここからどうするんだ?」
「それは言わない方がいいんじゃねぇかな。お互い拷問されて情報漏らしたくはないだろう?」
「それもそうだな」
「俺だったらその可憐な容姿、中身が男でもボロボロになるまで拷問して可愛がるからな」
「止めろよ……最後に性癖ぶちまけるの……」
何でこいつとコンビ組んでたんだろうか。
「それじゃ」
「おう、またどっかで会えたら会おうぜ」
そう言って別々の方向に向かって歩き始めた。
デインはロボだったので歩いて数歩で両足のジェットを起動して飛んでいってしまったが。
「いいなぁ、飛行ユニット。俺のにも付いてれば良かったのに」
パワーアシストもろくに働いていないこの義体から抜け出せないこの現状。
取り敢えず捕まったら一巻の終わりなので、廃墟から手頃な武器を探すことにした。
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デインと別れて数ヶ月。
適当に寄った廃墟で手頃な武器を調達して逃亡兼旅行をしているものの、一つ不可解な点があった。
追っ手が一切来ないのだ。
「それにこの高性能なんだかよく分からない義体も謎だよな……」
パワーアシストは瞬間的に入るらしく銃を撃つ瞬間のみ起動し、しかもその数値は試した限り今まで使ってきたどの義体よりも上だった。
パーツの換装は出来ず、外そうとナイフで皮膚を切って機械部分を露出しようにもすぐに再生し、しかもかなり痛かったので痛覚遮断が効かないらしい。
「一般人として溶け込むのには有用で、有事の際の性能も万全……メイド用か?」
背中のコネクタだけは前と同じく使えるので、腰に荷物ホルダーと肩にサブアーム二個を付けている。
一人だけなので火力重視の装備にしたものの、一回も戦闘する事なくここまで来ている。
「廃墟探索もいいけど、一回どこかの街に寄るか」
戦闘の少ない地域を回っていたけど、どこかの街で情報が欲しい。
という訳で三日ほどかけてそこそこ人で賑わう街へと到着した。
人を見てても武装アームを取り付けているものは殆ど居らず、平和な場所なのが窺える。
この地域のは地下経由でのネットなので町中に飛び出している金属の根に右手を触れさせる。
「ネットは繋がるな……暗号化……ん?無駄に高性能なアルゴリズム使うんだなこの義体……」
謎な機能の良さを発揮して、自分を隠してネットの情報にアクセスする。
(依頼人の情報、義体……?そもそもその依頼自体がない??)
慌てて自身が受け取った依頼のメールを記憶領域から引っ張り出す。
(は??存在しません??)
慌てて頭をガンガンと叩いた。
「勝手に消えるとかホラーかよ!?消した覚えは無いし……そうだ!」
デインについて検索する。
あの目立つ生き方なら必ず痕跡はあるはずだ。
あるはず……
はず……??
「あっれ、何でこんなに情報無いの?」
義体の見た目でも出てこないので、奥の手のID検索を実行する。
結果は
「存在しないID……?消されたとかではなく、そもそも存在しない?」
ちょっと待てどういう事だ。
「なら逆に俺のIDは?」
調べた。
結果は……
「すでに死亡?それに使用不可?」
なら今の俺は何を使ってるんだ?
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訳の分からない状態に、暫く放心した後。
取り敢えず手近な店に入って落ち着く事にした。
人間の中に混じって適当な飲み物を注文しておく。
「はぁーー……どうなってんだ」
数年間戦友だと思ってたやつが痕跡不明の謎の人物で、しかも自分は既に死亡認定。
このちんちくりんの義体からは離れられず、なんか数ヶ月間の生活で言葉遣いが柔らかくなってきてる自覚がある。
ジェンダーフリーの世代だとはいえ、これまで男で生きてきたのにこれは不味い。
悶々と頭を抱えて考え込んでいると、俺の向かいの席に人が座ってきた。
「君可愛いねー!こんな男ばっかの場所でどうして居るの?」
「ん?別に目についたからだけど」
「そっかー、元は男だからかな。そっちの方の意識で選んじゃったのかもだけど今の自分の見た目は考えた方がいいですよ?」
「……!!???」
慌てて顔を上げて相手の顔を見る。
そこに居たのは整った顔立ちをした痩身の少女、綺麗な青い髪をなびかせこちらを見つめていた。
「ネットからの痕跡見て会いに来させて貰いました!」
「……暗号化してたと思うんだけど」
「あんな初めて使ってみた感溢れるオート任せの暗号化なんて私たちの界隈では逆に目立ちますよ、あはははは!」