魔法科高校の退学処分者   作:どぐう

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主人公も三高に馴染んできた……ということで名前あり三高生を増やした。優等生から連れてきたのと、オリキャラ(一応原作にあった名字から作ってる)の2パターンです。


10月の戦場に飛び込んだ

ㅤ例年、三高生は横浜にある論文コンペ会場まで大型バスで移動するらしい。けれど、今年は少し違う。もちろんバスではあるのだが、20人前後が定員のマイクロバス。大きな実験機を運ばないので、風紀委員と見学希望の生徒数名だけが乗っている。本来なら、補助スタッフが何人も付いてくるのだという。

 

「……なんか狭いな。――なぁ武倉、この数なら現地集合で良かったんじゃないか?」

 

ㅤ風紀委員長である3年の先輩が座席越しに、理澄にそう尋ねる。

ㅤ委員長の名前は、百目鬼大我。百家の一つである、百目鬼家の次男だ。彼の父親は魔法協会関東支部長なので、結構大物の家の出身である。

 

「僕も現地集合で良いかなとは思ってたんですけど、それをしちゃうと職員室から交通費が貰えなくなるんですよ。それに大型と違って、このバスはレンタル料安かったんで……残りを打ち上げ代に使います」

「じゃあ、良しとするか。――おい、一色! お前ら一年女子で食べたいもの決めて良いから、今のうちに相談しとけ!」

「わかりました」

 

ㅤ一色、というのは師補十八家の一色愛梨のこと。風紀委員でもある彼女は、一年女子ではトップの成績を誇る。おれと同じクラスなのだが、あまり関わりは無い。見た目が派手で怖そうだから、こちらからも話しかけることはしない。

ㅤけれど、まず気になる事があった。何故、打ち上げの決定権が彼女らにあるのか。おかしいだろう。

 

「ちょっと、百目鬼先輩!? 今日の代表、おれ! おれが決めるべきでしょ!」

 

ㅤあわてて文句を言うと、「津久葉は九校戦のときリクエストしただろ」と一蹴された。

 

「悪いが、今回はわしらが好きに決めさせてもらうぞ? 案ずるな、おぬしも気に入りそうな所にしてやる」

 

ㅤ四十九院沓子が身を乗り出し、こちらに声を掛けてきた。彼女は明るい性格をしているので、割あい話をする機会も多いのだ。

 

「いいのか?」

「構わぬよ。――栞もそれでいいじゃろ?」

「私はどうだっていいわ」

 

ㅤ端末に目を向けたまま、そう言うのは十七夜栞。一色と同じように、彼女にもおれは怖いイメージを持っているので、せいぜい挨拶程度の関係でしかない。

 

「ねぇ、十七夜! そんなクールぶらなくてもいいでしょ。前に研究所でやったバーベキューで、散々飲み食いしてたじゃ……ってぅわっ!」

 

ㅤ理澄が軽口を叩いている途中で、言葉を急に途切れさせる。想子塊が飛んできて、彼の顔前で破裂したからだ。

 

「……武倉、ちょっと黙って頂戴」

「ごめんなさい」

 

ㅤ十七夜は金沢魔法理学研究所の研究員ではない。けれども、テクニカルスタッフという立場ではある。所内にある訓練施設を使う代わりに、計測された自分のデータを提供するという契約で研究所に籍を置いているのだ。その為、理澄や吉祥寺とは比較的話している姿を見かける。

ㅤまぁ、吉祥寺はともかくとして、理澄は大抵しょうもないことしか言っていないが。というより、彼は女子と話すときはいつもそんな感じなのである。前に「僕は深雪と仲が悪いんだ」と言っていたが、原因は推して知るべしだ。

 

「だけど、栞はよく食べる方よね。見た目からは想像つかないけれど……」

 

ㅤ薄く笑みを浮かべた一色が十七夜を少し揶揄う。すると、彼女は拗ねたようにそっぽを向いた。

 

「――そういえば、やっぱ来てるんですかね? あの一高の美少女! なぁ、一条も気になるだろ?」

 

ㅤ同じく風紀委員会である2年の先輩――佐久間という第一世代の男子生徒だ――が一条に話を振る。

 

「し、司波さんのことですかっ? い、いやぁ……別に!」

「すごく気にしてるじゃないか、将輝」

 

ㅤ一条の顔色が赤や青に忙しく変わっていく。初心な反応は、見ていて非常に面白い。笑っていると、ポケットの中に入れていた端末が震えていた。理澄からだ。隣の席なのに、わざわざ何を送ってきたのだろう。

 

『一条も報われない恋路で気の毒だね』

 

ㅤチャットには、こんな一文が送られてきていた。

 

『ウチに「一」を入れることは無さそうだもんな。秘密保持的にも』

『基本はスポンサー側の血を入れるからね。僕達も、いずれは何かしら言われるよ』

 

ㅤ魔法師は早婚が推奨されている。次世代に進むほど、魔法力が上がる傾向にあるからだ。けれども、おれはあまり気が進まない。自分もまた、お母様と同じことをしてしまったら……という不安がいつもあるのだ。

 

「……魔法師ってのは、難儀な生き物だよな」

 

ㅤおれの呟きに、理澄も「そうだね」と頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ㅤ一高の発表のあと、三高に順番が回ってくる。そろそろ準備を始めて大丈夫だと、まだ一高生が残っているが壇上へと移動する。端末をモニターに繋げたりと、細かい作業を手早く進めていく……だが、その手を止めざるを得なくなった。いきなり轟音と地響きが起こったからだ。間髪入れず、けたたましい警報音が鳴り響く。

 

「何が起きたんだ?」

 

ㅤ思わず、問いが口から溢れる。答えを求めていた訳では無かったが、すぐに疑問は解消された。達也が結構大きな声で独り言を言っていたからだ。

 

「装甲車両が走行する時の音だ。あと、ロケットランチャーの爆撃音も聞こえるな。……敵襲か」

 

ㅤどうすべきか迷う暇は無かった。ホールの出入り口から、武装した人間が5名ほど雪崩れ込んできたからだ。

ㅤそれを目にした瞬間、咄嗟にCADへ指を走らせる。おれの発動した精神干渉魔法「ワン・コマンド」によって、襲撃者は動きを止めた。この魔法は、想子波によって対象者の意思を支配するものだ。「動くな」という命令を出した為、彼らは指先一つ動かせない。

 

「――やっちまえ!」

 

ㅤ一番反応が早かったのは三高生数名で、それぞれが一気に魔法を行使し、相克を起こすことなく効果を表させた。

ㅤ吉祥寺は「インビジブル・ブリット」で襲撃者の身体に打撃レベルのダメージを負わせ、一色が「神経攪乱」で彼らを行動不能にする。そして、一条が振動・減速系魔法「凍火(フリーズ・フレイム)」で銃火器類の暴発を防ぐ。また、百目鬼は移動系魔法「停止」で、彼らが這ってすら逃げ出せないようにしていた。

 

「……助かった。『ワン・コマンド』じゃあ、1分程度しか止められないからな」

「いや、こちらこそありがとう。夜久のおかげで、敵にライフルを撃たれなかった」

 

ㅤ壇上から降り、三高の皆と合流する。理澄が何処からかロープを持ってきてくれたので、それでゲリラ兵らしき襲撃者を縛り上げた。

 

「……百目鬼さん、この後はどうされますか? 一高は現地集合だった為に移動手段を持たないので、生徒をシェルターに避難させる予定にしていますが」

 

ㅤ十文字克人がこちらへ歩いてきた。

ㅤ今年は共同警備チームの纏め役が、百目鬼だったので――九校戦のモノリス優勝校が、チームリーダーを出すのが不文律なのである――一応方針を尋ねに来たのだろう。

 

「三高生は脱出させます。ただ、ここから直接ではなく魔法協会に一度移動しますけれど……支部に父がいるので、装甲車を融通してもらいます」

「分かりました。では、こちらの方は俺に任せてください。……御武運をお祈りしています」

 

ㅤ彼はそう言い残し、一高生が集まる方へ去って行った。

ㅤすぐさま、百目鬼は点呼を取り始める。三高生が全員居ることを確認したのち、彼は声を張り上げて言った。

 

「――お前ら、魔法協会へ行くぞ! CADをサスペンド状態にしておくこと! そして、攻撃よりまずは防御だ! 対物障壁を忘れるな!」

 

ㅤおれも特に異論は無かったので、そのまま着いていく。道中でも何度か襲撃に遭ったが、何とか対処して目的地へと辿り着いた。一条の「爆裂」で大抵は片付けられたし、他のメンバーも戦い慣れていたのでパニックもさして起こらなかったのもある。

ㅤ魔法協会で脱出に向けての用意を始めようとした時のこと。

 

「……俺は義勇軍に志願します。だから、横浜に残ります」

 

ㅤ一条が真剣な顔で、そう切り出した。

ㅤ十師族としての生き方とか、きっとそんな陳腐な理由だろう――などと考えていたら、彼は宣言の後、おれの方へと顔を向けた。

 

「津久葉、お前も一緒に来い! 言っておくが、俺は十師族だからって戦場に出る訳じゃない。戦える力があって、その力で誰かの命を救えるからだ。それはお前も一緒の筈だろう」

 

ㅤ魔法力は血の濃さに依存しがちだ。故に、魔法名家などというものが成り立つ。

ㅤけれども、一条はそれを理由にしなかった。いや、「誇り」自体は彼も持ち合わせている筈。だが、そこでは無い所での戦う意味を、おれに提示してきたのだ。「十師族として生きられなかった」としても、逃げる理由に使ってはいけないのだと。

 

「……分かった」

 

ㅤおれは戦場に出ることを決意した。誰かを救いたいとか、そんな殊勝な心がけは全くない。でも、一条の言葉は道理が通っていて納得できた。

 

「年下に熱いことを言われちゃ、立つ瀬が無いな……俺もここに残る。他に志願する奴は?」

 

ㅤ百目鬼の言葉に、数人が手を挙げる。殆どは上級生であり、1年は一色のみだった。

 

「……残ります。怖くない訳はありませんが……私は、十師族に続く師補十八家の家柄です。やらねばならぬことは、果たさねばなりません」

 

ㅤ彼女は「有力魔法師らしい」理由での志願だった。それもまた、一つの選択だろう。

 

「無理しなくてもいいんだぞ?」

「いえ、大丈夫です。――栞と沓子も気をつけてね」

「そちらこそ……」

「無事に帰ってこれるよう、祈っておくからな」

 

ㅤ女子三人は互いに手を握りしめ、励まし合っていた。

 

「――本当なら、将輝と一緒に行きたい。だけど、僕が死んでしまったら、研究室は解散することになる。そうしたら、所属してるポスドクや助手達が皆露頭に迷ってしまうから……研究室の長として、彼らの生活を保障する義務が僕にはある」

 

ㅤ吉祥寺は葛藤した顔で、そのように一条へ告げていた。

 

「あぁ、ジョージの分も戦ってくる。任せておけ」

「ありがとう」

 

ㅤ彼らは拳を軽くぶつけ合う。爽やかな光景を横目に、おれはふと理澄を見る。

ㅤ普段は戦いとは関係ない仕事ばかりしている彼は、実のところ四葉でも一二を争うレベルの戦闘魔法師であり、荒事にも滅法強い。特にしがらみも無いのだし、戦いに参加しても良さそうなものなのに。

 

「おい、お前はサボりかよ」

「馬鹿。脱出組も戦場を抜けるんだよ? 戦闘要員が残ってないとマズいだろ」

 

ㅤ確かにそうである。吉祥寺だけでは、少々心許ない気もした。

 

「……まぁ、死なないように頑張って。致命傷を『戻す』ことは、僕らには出来ないんだからさ」

「分かってる」

 

ㅤ普通は怪我をしても、すぐに治すことは出来ない。治癒魔法も割と気休めで、「治りを早くする」という効果でしかない。

 

「――とにかく、やるしかないんだ」

 

ㅤ今後の方針が固まったので、各自がそれぞれ動きだす。

ㅤある者は戦闘服を調達し、ある者は脱出ルートを確認する。準備が全て終了し、最後にもう一度おれ達は集合した。

 

「――全員生き残って、三高でまた会おう!」

 

ㅤ別れの言葉は、そのような明るいもので締められた。暗い雰囲気は、体育会系の三高生には似合わない。まだ打ち上げも出来ていないのだから、おれ達はきっと生きて帰る。そんな未来を信じることができた。

 

 

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