魔法科高校の退学処分者   作:どぐう

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走れ! Knight!

ㅤ懇親会当日の昼。昼食を兼ねて、三高の選手や応援メンバー、教員とOBOGなどを集めた激励会が行われた。このようなイベントは、三高の歴史でも異例だという。

ㅤ貸し切ったホテル内の宴会場は人でいっぱいだ。壁には「三高絶対優勝」と書かれた、大きな横断幕が掲げられている。理澄が書道部に書かせたらしい。この辺りの準備は、全て彼が取り仕切っていた。

ㅤ逆に、競技に関する準備にはほぼ関わっていなかった。あの点数予想シートも、彼が個人的に作成したものだ。

 

ㅤチームリーダーである風紀委員長、生徒会長、後援会代表と挨拶が続き、トリは一条の演説。理澄が練ったそれは、意外に好評。感極まって泣き出す人も居たほどである。

ㅤそして、おれはどうしても一条よりも目立ちたくて、昨日から演説させろと理澄に粘りまくっていた。その結果、「一条の演説の後にマイクを奪って、シュプレヒコールするのなら良いよ」という許しを得た。あの一高の事件をオマージュして、笑いに変えてしまおうという趣向のようだ。

ㅤとはいえ、本番でそれをすることに不安が無い訳では無かった。しかし、実際には大いにウケた。本当に良かった。恙無くプログラムは進み、激励会は終了した。終わったあと、何となく一体感が残った。それを見越して催したイベントではあるのだろうが。

 

ㅤ懇親会という名のパーティは、夕食の時間。それには、まだまだ時間がある。おれと理澄は、一条と吉祥寺が泊まる部屋に遊びに行っていた。

 

「武倉、あんなの良くやったね。卒業生もかなり呼んでたし……。『激励会開くから予算くれ』と職員室に言いに行った、って聞いた時はびっくりしたけど」

 

ㅤ吉祥寺が、先程の会についての感想を述べる。

 

「僕は、そういう仕事の方が向いてるから。食事の仕出しは、一条家が懇意にしてる店に頼んだけどね。――紹介してくれてありがとう、一条。おかげで予算を節約出来た」

 

ㅤ理澄が、一条に軽く頭を下げる。それに対して彼は「気にするな」と言い、ヒラヒラと手を振った。

 

「こちらこそ。今までに無い感じで楽しかった。来年もやりたいな、あれ」

「そう言うと思って、マニュアルは残してる。まぁ、続くかは結果次第だけど。盤外戦術の一環としては、悪くないと思うけどね」

 

ㅤ他の学校には無いイベントで、優越感や特別感を感じさせる。それによって、他でも無い「第三高校」に通っているのだ、という誇りを持たせたかったのだ。変に「一丸となって〜」や「三高の自覚を持って〜」と言葉のみで煽るよりは、場の雰囲気の力を借りた方が良い場合もある。

 

「思うんだけど、これ体育会系の校風があったからだよな。他の学校でやったら、あまり盛り上がらなかったんじゃないか?」

 

ㅤ三高は他の学校よりも、実技に力を入れている。雰囲気は体育科高校や、国防軍などに割と近い。卒業後の進路も、軍関係が多いのだ。

 

「ヤクの言う通りかもね。四高だったら、ウケなかったかも」

「確かに。三高で良かったよな!」

 

ㅤ一条が嬉しそうに言う。どれだけ、学校が好きなんだ。よく考えたら、彼のCADはスクールカラーの赤色。その上、私服も大体は赤だった。

 

「それにしても、一高は複雑だろうね。退学した生徒が三高にいるんだから。他の学校だって、津久葉のことは知ってるだろうし」

「良い宣伝になるんじゃない。『一高よりも三高の方が懐の深い学校だ』って。言っても、優秀な生徒は東京に集まりがちだから。金沢まで来るのはあまり居ない」

 

ㅤ金沢は別に田舎でも無いが、東京と比べてしまうとやはり微妙だ。しかも、敵国の大亜連合と新ソ連が、海を挟んで向こうにある。実際、過去に佐渡侵攻もあったので、「日本海側はやっぱり危ない」と思われがちだ。カリキュラムが実技偏重なのも、「危ない場所にあるので、自分で何とかさせます」という方向性もあるかもしれない。

 

「今年は俺とジョージが入ったし、武倉も津久葉もいる。けど、来年はどうなるか分からないしな……。活躍して、人を呼び込めたら良いんだが」

「その為には勝たないと。一高を下して、ようやく価値を見せられる」

 

ㅤおれ達は顔を見合わせ、頷き合った。おれは「一高に仕返し」だし、一条と吉祥寺は「次世代獲得」。理澄は、何を一番の目的としているか分からない。だが、「優勝」という目標だけは全員同じだった。

 

 

 

 

 

 

ㅤホテルの大ホールを貸し切り、九校戦前のパーティは行われる。形式は立食パーティーの形式で、おれはこのタイプのパーティが好きだ。人と話さず、延々と食べ続けられるからだ。間が持たない、とかそんなこととは無縁の時間を過ごせる。

ㅤおれは悪い意味で顔が知られているので、ここでは変に目立とうとせずに、一条達と固まっていることにした。他校生は一条を見て、「クリムゾン・プリンスだぜ……」とか「カッコイイ……」とか言うので、他の有象無象には焦点が当たらない。正直、これは助かる。

 

ㅤ一条は上級生に連れられて、他校の生徒会長などに挨拶へ行く。すると、必然的に一緒に居るおれ達も付いていくことになる。つまり、一高の生徒会の面々との遭遇は避けられないのだ。しかし、同級生達はおれが出てくることによる「悲劇的結末(カタストロフィ)」を避けたかったらしく、一高生が来た時には先輩から皆かなり距離を取った。けれども、一高を意識せずにはいられなかったようで、遠くから彼らはそっと眺めていた。

 

「見ろよ一条。あの子、超可愛くね?」

「超って……。お前、いつの時代の高校生だよ」

「えっ、僕めちゃくちゃ超使ってるけど。日本語の最上級表現じゃん」

「武倉は時代がズレ過ぎなんだよ! 絶対、コイツの言葉使いもお前の影響だろ」

「そんなの、どっちでも良いんだって! ――見ろって。ホント、あの子可愛くね??? 顔が小さい。芸能人か?」

 

ㅤ同級生の一人が深雪を見て、はしゃぎ始めた。おちゃらけた性格の彼は九十九という男。名前の通りに百家の一つ、九十九家の生まれである。空気の流れを操る魔法を得意としていて、新人戦バトル・ボードの代表だ。

ㅤ彼に辛辣なツッコミを浴びせているのは、理澄と同じ新人戦モノリスのメンバーの水無瀬。「水」と付く癖に先祖を辿ると、土のエレメンツの系譜だという。水が無いから草が生えず、土が剥き出しになっている……という意味らしい。移動系魔法が得意で、掘り起こした土砂の塊をぶつける「陸津波」が得意魔法だ。

 

「――お前なんか絶対相手にされないって。あんな美少女、高嶺の花だろ」

「うるせー! 俺じゃ駄目でも、一条ならいけるかもしれないんだ! そのおこぼれを俺たちは貰うんだよ!」

「威張って言うことじゃねぇ。情けなさ過ぎるわ。しかも、俺たちを勝手に数に入れるな」

 

ㅤえらく馬鹿な会話が繰り広げられるのを、先程取ってきたチキンを齧りながら聞く。盛り上がっているのは、九十九一人だけだが。

 

「津久葉、元は同じ学校だろ? 接点とかさぁ」

 

ㅤあるにはある。しかし、言いふらすと面倒なことがやってきそうだ。

 

「別に無い。同じ学校、同じクラスだからって、絶対仲良くなるとか無いだろ」

「残念だ……。どうしたら良いんだよ!」

 

ㅤ九十九が頭を抱える。すると、彼の肩に理澄が手を置いた。

 

「諦めるな。まだ手はあるぞ……、九十九。直接話し掛ければ良いんだよ。よし、僕が呼んでこよう」

 

ㅤ元から知り合いであることを隠し、勇気あるパイオニア感を出している。これは、明らかに誇大広告だ。

 

「おい、武倉! 正気かよ!?」

「不審者に思われたらどうするんだ!」

「任せな。確実に任務をこなしてきてやるよ」

「お前、そんなことして……下手すれば死ぬぞ!!!」

「やめとけって!」

 

ㅤ混乱する仲間達にサムズアップを残し、彼は一高生の集まる場所へと歩いて行った。

 

「すげぇな、アイツ……。心臓が鋼で出来てる。事象改変したのか?」

「しかし、武倉が成功すれば……。俺たちは美少女とお近づきになれる!」

「付き合えるとは言ってないけどな」

「津久葉! それを言うんじゃない! ――って、どうしたんだ、一条? さっきから呆けた顔して」

 

ㅤ水無瀬の指摘で、おれも一条の異変に気付いた。彼はずっと、一高の方――つまり、深雪の姿を目で追っているのだ。

 

「あぁ……。将輝、さっき『彼女は誰なんだ?』って僕に聞いたきり、こんな調子でさ」

「一条が!? 珍しいな。普段なら、そんなのどうでも良さそうなのに」

「黙ってても、向こうから寄ってくるもんな。顔良し、実力良しで、一条の跡取り。何とも羨ましい……」

 

ㅤその時、理澄が深雪をこちらに連れて来た。皆は緊張して、時が止まったかのように固まる。

 

「一条、こちらが司波深雪さん。お前が三高のエースだって話したら、是非お会いしたいと」

 

ㅤめちゃくちゃ適当なことを言う理澄。深雪の表情を見るに、そんなことは一言も言っていなかったのだろう。

ㅤ一条は鯱張った動作で、深雪の前に立つ。

 

「はっ、はじめまして! 一条将輝ですっ!」

「初めまして、一条さん。司波深雪です。一高と三高は九校戦では敵同士。ですが、ひとたび舞台を降りれば、同じ魔法科高校の生徒です。一緒に頑張っていきましょうね」

「そうですね! 頑張りましょう!」

「えぇ。それでは、皆さん。私は失礼させて頂きます」

 

ㅤ深雪は丁寧に一礼し、さっさと戻って行った。ここに居るのが、物凄く嫌だったに違いない。多分、理澄は深雪と初対面であるという印象を一高側に付けたかったから、話し掛けて来ただけだったのだ。そのダシに一条を利用したのだろう。

ㅤぼんやりと突っ立ったままの一条を残し、おれ達は彼から離れてコソコソと話をする。

 

「おい、あれってさ……」

「馬鹿野郎! それを口にするな! 将輝が可哀想だろ!」

「お前ら、絶対本人に言うなよ。今一条に潰れられたら、計算が完全に崩れる。負けられちゃあ困るんだ」

 

ㅤ理澄の言葉に、この場に居る全員が神妙な顔で頷いた。

ㅤ一条の初恋は、恐らく叶わない。それは皆分かっていたが、九校戦の間は誰もそのことに触れないよう必死だった。もしバレたら、その時点で三高の負けは確定するからである。

 

 

 

 

 

 

ㅤ夕食後、おれは一人ホテルの屋上に上がった。夜風は涼しいが、少し肌寒い。所々に配置されている街灯が九校戦会場を幻想的に照らしている。ベンチがあったので、とりあえずそこに腰掛けた。

ㅤ第三高校に来て、生活がこれまでとはがらりと変わった。確実に生きやすくなっている。目立ちたいと思って何か行動を起こした時、一高ではここまで望んだレスポンスは返ってこなかった。意外と、校風が合っていたのかもしれない。

 

ㅤ最初に一条などと関わった時は、憎しみを腹の底に抱えていた。彼らが羨ましいからだ。それでも、一条や理澄は十師族の割に気安いところもあった。理澄がおれを三高に呼んだ理由は、「三高が優勝する為」だったし、光の当たる場所で生きている筈の一条は、深雪に緊張して挙動不審になっていた。皆、単なる普通の人間だったのだ。

 

ㅤ何となく庭を散歩したくなって、屋上から飛び降りた。慣性制御魔法を併用すれば、安全に降りることが出来る。魔法師しかいないこの場所は無断の魔法使用も許されているので、使っても構わないのだ。

 

「うわっ!」

 

ㅤ落下地点近くには男子生徒が一人居た。彼も散歩中か何かだったのだろう。暗かったので、気づかなかった。危ないところだった。

 

「ごめん。大丈夫だったか?」

「何とか……。――って、あの退学処分の人!」

「あれ、知ってる?」

「現場を見たんだよ! 僕、一高生なんだ」

 

ㅤこんなところで一高生に会えるとは思わなかった。しかし、彼の反応も怖がるなどでは全く無くて、有名人を見た時のようなノリだ。何だか、複雑な気持ちである。

 

「あれは本当にびっくりしたよ。十師族、それも七草に喧嘩を売るなんて……。学校も辞めさせられてたし……。まさか、三高に居るとは思わなかったけど」

「知り合いに通ってる奴がいて、誘われたんだ。そうじゃなきゃ選ばなかったし、ラッキーだったな。――それじゃあ。お互い、九校戦頑張ろうぜ」

 

ㅤ適当に話を切り上げ、一高生くんと別れようとした時だった。彼は「待って!」と叫んだ。びっくりして、おれは足を止めた。

 

「……実は僕、代表でも何でもないんだ。僕は二科生でさ、九校戦には懇親会のバイトで来ただけで……」

 

ㅤ彼は拳を固く握り締めている。やばいぞ。地雷を踏んだかもしれない。どうやって逃げるかを考えていたら、それよりも早く彼は再び口を開いた。

 

「勿論、出れないのは悔しいし、魔法を上手く使えない自分が不甲斐無いといつも思う。――だけど、君のおかげで、必要以上には自分を卑下しなくても良いようになったんだ。君があの演説をしたから、一高の二科生制服には刺繍が付いた」

 

ㅤおれは目を瞬かせた。そんなことを言われるとは、思わなかったからだ。

 

「見た目だけなら、もう一科も二科も変わらない。変えてくれたのは、紛れも無く君なんだ。だから、本当にありがとう」

 

ㅤ正直、あの演説は自己満足だった。七草の演説の矛盾を突いて、大騒ぎしてやろう以外の動機は無い。退学処分になったのは想定外だったが、二科生のことを考えてやった訳ではなかったのだ。

 

「なんか、そう言われると照れるな……。褒めすぎじゃないか?」

 

ㅤ口から出てきたのは、そんな素直な感想。理澄だったら、こんな時に気の利いたことの一つでも言うのだろうか。

 

「僕はそれ程じゃない。二科生の中には、君のことをもっと神格化してる人も居るし。これは純粋な感謝の気持ちなんだよ」

「……いや。こちらこそ、ありがとう。――ところで、君の名前は?」

「一年E組の吉田幹比古。幹比古って呼んでくれ」

「そう。幹比古、来年は本戦で会おう。待ってるよ」

 

ㅤ握手を交わし、おれは幹比古と別れた。

ㅤホテルに戻る道を鼻歌を歌いつつ歩く。お母様に褒められるのとはまた違う充足感が、おれの中を満たしているのを自覚した。

 

「津久葉! やっと見つけたよ。どこ行ってたのさ?」

 

ㅤ廊下で吉祥寺に会った。どうやら、おれを探していたらしい。

 

「先生がアイスの差し入れしてくれてさ。メンバー全員に集合を掛けてるところなんだ」

「アイス!? いいな、それ」

 

ㅤどうやら、集合場所は風紀委員長の部屋らしい。おれは吉祥寺と連れ立って、そこへと向かう。

 

「……なんか、さっき見つけた時のことだけど。津久葉、嬉しそうだったね。何か良い事あった?」

「ちょっとな。――じゃっ、お先!」

「あっ! 待ってよ!」

 

ㅤ吉祥寺を置いてきぼりにして、思い切り廊下を駆けて行く。気分は最高だった。

 




ㅤ入学編は騙し騙し行ったけど、九校戦編からはモブにも名前を付けないと話を回しにくいので付けました。活躍するかもしれないし、しないかもしれない。原作で空気の「陸津波」くんにも名前をあげました。
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