魔法科高校の退学処分者   作:どぐう

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アンビバレント・アバウト

ㅤおれ達は一条の部屋に集まって、新人戦の点数結果を難しい顔で眺めていた。元々、何個か一位を取られることくらいなら想定していた。一高は決して、弱小校などではない。

 

「全てじゃないとはいえ、新人戦女子で上位三つを一高に取られるとは……」

 

ㅤ吉祥寺は沈痛な面持ちで、競技名が書かれた部分をタップしている。

 

「早撃ち、棒倒し……。二つとはいえ、全部取られたのは痛い」

 

ㅤ理澄の予想が当たった形となる。司波達也は明らかに、三高の邪魔をしてきているのだ。いや、邪魔をしているという感覚も無いかもしれない。

 

ㅤ彼は目立とうと考えなくても、目立つことが出来る。

ㅤ片手間に行うことが、世界を驚嘆させるから。

 

ㅤだからこそ、彼の才能を人々は理解せざるを得ない。どうやって折り合いをつけるかが、それぞれ違うだけだ。

ㅤ司波深雪は、崇拝することで。

ㅤ黒羽文弥と黒羽亜夜子は、憧れることで。

ㅤ武倉理澄は、同じフィールドで戦わないことで。

ㅤ過程はどうあれ、彼らは「彼」を心底理解している。

ㅤ――でも、おれはどの方法を選べば良いのだろう? まだ、答えは出せていない。

 

「早撃ちとかは、確かに北山って子の魔法力は卓越してた。だけど、他の二人はそうでもない」

「棒倒しもそうだよ。北山さんが使った『共振破壊』と『フォノンメーザー』、司波さんが使った『氷炎地獄(インフェルノ)』と『ニブルヘイム』……。高等魔法を使えるレベルなのは、あの二人だけだった。――つまり、問題はCADの違いだ」

「あの競技の担当者は……司波達也。アイツは何者なんだ?」

「それなら、もう調べてきたよ」

 

ㅤ理澄が、さも最初から準備していたかのように、話し始める。彼は、こういった演出をするのが非常に上手い。

 

「彼は一科生ではなく、二科生だ。三高でいう、普通科だね」

「ということは、担当教師がいないってことか!? よくそれで……」

「まぁ、普通なら基準を下回る魔法師の才能は、その時点で出涸らしみたいなものだよ。だけど、BSなどの一点特化した奴っているからね……。そういう意味では、紛れもなく彼は天才だ」

 

ㅤ魔法に分類されない特殊技能を持つ、BS魔法師。「BSの一つ覚え」と揶揄されることもある彼らだが、特定の分野に限るならば、極めて優秀な結果を残すこともある。達也も、無理に分類すればBSに入るかもしれない。

 

「なぁ、理澄。奴のCAD調整は、他とどんな違いがあるんだ?」

 

ㅤおれは個人的な興味で、そう尋ねてみた。

 

「調べた限りだけど、ツールは全く使っていない。完全マニュアル調整だ。あと、起動式をアレンジ出来るらしい」

「は!? 起動式をアレンジ!? もう、完全におかしい部類だっ!」

 

ㅤ理澄の言葉に、吉祥寺が裏返った声を上げる。そして、頭を抱えながら、後ろのベッドに倒れこんだ。

 

「ジョージ。それはどの辺りがおかしいんだ?」

「全部だよ! 変に素人が書こうものなら、脳に極度の負担がかかるような代物しか出来ないんだから! あれだけの結果を出せるようなのは、業界でも中々お目にかかれない」

「だけど、ジョージならアレンジくらい出来るんじゃないか?」

「出来るけど、僕はやりたくない。魔法力を失うようなことになったら、責任を取らなくちゃいけないんだから」

 

ㅤ保身まみれの台詞だったが、理解は出来た。研究所の正規メンバーで、自身の研究室まで持っている立場なのだ。面倒ごとなんて、真っ平御免だろう。

 

「それは仕方ない。ジョージの存在は唯一無二だから。――じゃあ、武倉。お前は?」

「僕に出来るのは、術式をダウンロードしてくるところまでだね」

 

ㅤそれは、全く出来ないのと同じだ。

ㅤとはいえ、おれも魔法工学なんか、何も知らないのだが。あれは難し過ぎて、何を言っているのか分からないのである。適当に魔法をぶっ放す方が楽だし、何も考えなくて良いのだから。

 

「そもそも、そういう一条はどうなんだよ?」

「全然ダメだ。普段から、家の人間任せだからな」

 

ㅤ三高生は割合脳筋ばかりだが、理由はそれだけではない筈だ。

ㅤ基本的に九校戦は、パワーと才能でゴリ押すもの。だから、一高と三高が一応双璧扱いされるのである。エンジニアの腕で大きく左右されるとは言うが、それは差が拮抗している時だけ通じる理論だ。それが通るならば、四高が毎回優勝していないとおかしくなる。

 

「今からエンジニアのことを考えたって、どうしようもない。ミラージを取られてしまったら、新人戦優勝は一高に譲る形になるだろうが……」

 

ㅤ空気を変えるべく、おれはこれまでの話をまとめる。すると、理澄が目を丸くした。

 

「ヤクが、そんなマトモなことを言うなんて……。『一高に勝てないなら、選手を直接ボコってこよう』くらい言うと思ってた」

「その発想の方が最悪だ」

 

ㅤおれのことを、頭のおかしい奴だとでも思っているのか。全くもって、失礼である。

ㅤ三高が優勝することで、七草と十文字を擁する筈の一高の評判を下げることが本来の目的なのだ。それは回り回って、十師族の評価下げに繋がる。そのまま、最終的に第四研だけを生き残らせて、おれがその遺産を引き継ぐ。スポンサーの援助をおれ経由でしか繋がらないようにすれば、十分可能な芸当である。

ㅤつまり、総合優勝が一番重要。すぐに忘れられてしまうような新人戦の勝利など、向こうにくれてやる。

 

「津久葉、それは止めておいてくれよ。三高が失格になりそうだ」

「何で、そんな釘をさすんだ。んなことしねぇよ」

「いや、退学になったことあるんだから……」

 

ㅤ思ったよりも、退学というのは人生に付いて回るらしい。彼らの忠告に対し、おれはため息だけを返した。

 

 

 

 

 

 

ㅤ新人戦モノリスは、三高の独壇場だった。特に、ステージが渓谷や草原などの、開けた場所だった時は最高であった。理澄の「擬似瞬間移動」の連続行使によって、メンバー全員が、相手校モノリスまで10秒ほどで飛び、ディフェンスを強引に突破。放たれる魔法を全て領域干渉や障壁で無効化して、モノリスをすぐに開けてしまった。

ㅤ理澄と水無瀬もそうだし、もう一人の選手も第一世代だが魔法技能は優秀だ。「九校戦はパワーと才能」ということを、分かりやすく体現した形になる。

ㅤ一高との決勝戦も、やり方は滅茶苦茶だった。三高モノリスに向かって、自己加速術式で走ってきた森崎を、「擬似瞬間移動」で上空に打ち上げたのだ。哀れ、彼は見当違いの場所に移動させられたのである。だが、観客には物凄くウケていた。

 

ㅤまた、ミラージ三位には三高生が滑り込めた。その理由は、深雪が新人戦に出場しなかったからだ。一高も、流石にマズイと思い始めたのかもしれない。だが、そんな対策をされてしまったら、こちらも困る。

ㅤ飛行魔法をレギュレーション違反にされてるとはいえ、深雪はもしかしたら優勝するかもしれない。そうなると、おれ達がモノリスで優勝しなければ、逆転を許される。ギリギリの状況だ。

 

 

 

ㅤ決勝戦まで駒を進め、一高との戦いは目前となった。控え室におれ達が詰めていると、理澄が急にそこへと入ってきた。

 

「……やばいね。司波深雪は優勝したよ。三高は四位で、5点しか入らなかった。ミラージで出来た、一高との差はマイナス40点」

 

ㅤ現時点での本戦の点数は、一高・240点、三高・295点。新人戦が、一高・235点、三高・200点。完全にデッドゾーンに入っている。

 

「これは一高も気合を入れてくるな……。津久葉に負けてるから、十文字も挽回しようと考えてるだろうし。というか、師族会議の通達で『十師族の威厳を見せろ』みたいな話が、十文字家には回ってきていた筈だ」

「まぁ、向こうの事情は関係ない。こっちも勝たなきゃいけない理由がある」

 

ㅤおれは立ち上がり、試合場所――今回は草原フィールドである――に歩き出す。一条と吉祥寺も、慌てたように続く。後ろで理澄が、気楽そうに手を振っていたのが見えた。コイツは競技が出終わったから、他人事なのだろう。

ㅤ決められたルートを移動し、モノリス近くで待機する。そして、ポジションの最終確認をした。遊撃は一条で、ディフェンスが吉祥寺。オフェンスはおれだ。

 

「……絶対に勝つ」

 

ㅤ開始のブザーが鳴る前、おれは口の中でそう呟く。

 

ㅤ――数秒後、ブザーの音が会場中に鳴り響いた。

 

ㅤ試合開始だ。始まった瞬間、おれと一条は自己加速術式で走り出す。障害物が無いことが分かっているから、脳内処理の限界を超えたスピードだ。

ㅤ周りの様子など、何も見えない。それはつまり、向こうも変数定義が非常に困難だということ。しかし、事象改変を知覚し、おれ達は術式をキャンセルした。

 

「障壁魔法!」

 

ㅤ一高モノリスを守る十文字が、遠くから障壁を生成したのだ。このままだと、これ以上は進めない。

ㅤおれは「精霊の眼(エレメンタル・サイト)」を使い、地中の座標を定義する。そして、移動系魔法「エクスプローダー」を行使。特定の地点から、等距離で円形の範囲を吹き飛ばした。クレーターが出来たことによって、「地面に垂直な壁を生成」という定義が破綻。魔法は維持できなくなる。

ㅤ先へ進もうとした時、ドライアイス弾がこちらに飛んできた。それを、一条が「偏倚解放」で吹き飛ばす。

 

「津久葉! 先に行け! ここは俺が片付ける!」

「了解! 頼むぞ!」

 

ㅤ一条は地面の下を精密に照準する能力は持たないが、発散系統は得意だ。障壁と地面の間ギリギリを狙い、発散系魔法を使えば大丈夫だろう。それに、一高選手側が使う魔法も、彼の領域干渉で押し潰せる。心配することは、全く無かった。

ㅤもう一度、自己加速術式を使い、モノリスに向かって駆け抜ける。多分、相手もおれを邪魔したいだろうが、一条が使ってくる「空気弾(エア・ブリット)」を避けるのに精一杯の筈。特に障害もなく、離脱は可能だった。

ㅤモノリス前には、十文字が仁王立ちしていた。先手必勝とばかりに、「スパーク」を放つ。しかし、それは防がれてしまった。おまけに、普通の障壁魔法ではなく、「ファランクス」だ。

 

「……随分、過大評価されたものだ」

「アイス・ピラーズ・ブレイクでお前は、俺を倒した。『ファランクス』で不足はあるまい!」

 

ㅤ地中からの「エクスプローダー」を試みたが、あえなく失敗。干渉力が先程の比では無い。理澄でも、これを破れるかは怪しい。

ㅤとりあえず、半球シールド型の「ファランクス」からの領域干渉が届かない場所から、一回り大きい半球状の範囲を「精霊の眼(エレメンタル・サイト)」で指定。そこに「酸素空洞(オキシゲン・チェンバー)」を発動し、高濃度の酸素の膜で障壁周りを覆った。

 

「……!」

 

ㅤ彼は確実に焦っている。このままだと、酸素中毒になるのは目に見えているからだ。しかし、「ファランクス」を解除する訳にはいかない。かといって、空気まで遮断してしまうと途中で酸欠に陥る。これが実戦ならば、「攻撃型ファランクス」を使えば良い話なのだが――

 

「――がふっ!」

 

ㅤ急に、おれは見えない壁に突き飛ばされた。不意打ちによって、地面を無様に転がる。これは、まさか……。

 

「攻撃型ファランクス!? レギュレーション違反だろ! クソ野郎!」

「この『ファランクス』は防御型魔法に分類されている! 決して、違反ではない!」

 

ㅤそんな言い分、詭弁だ。十師族だから、許されているんだ。おかしいだろ、こんなの。

 

「俺は十師族の一員! こんな所で、負ける訳にはいかないのだ!」

「うるさい! 数字が付くのが、そんなに偉いか! 十師族の直系は、そんな立派なものかよ! それなら、何で――!?」

 

ㅤ――おれは、それになれないんだ。その言葉は、無理に飲み込んだ。

ㅤゆっくりと立ち上がる。先程の重たい攻撃によって、身体はとても痛い。本当は立ちたくない。だけど、ここでは終われないのだ。

 

ㅤ手首のCADに手を伸ばす。向こうは、最後の悪あがきと思っているだろうか。CADから起動式を読み込む。遮音フィールドを自分の周りに生成した後、振動魔法で作った嫌な音――あの、黒板を引っ掻くような音だ――を、大音量で周りにばら撒いた。

ㅤ今、観客達は、パニックかもしれない。しかし、そんなこと知るものか。「ファランクス」は物質非透過。音と光は、そのまま通す。

ㅤ勿論、それだけではない。マルチキャストで、精神干渉魔法「マンドレイク」を重ねている。想子フィールドは作っていても、想子が生む音は防げない。こちらは前方150°の範囲が元から決まっているので、多分バレない筈だ。十文字の方も、音が生んだ不快さを恐怖と勘違いするだろう。

 

ㅤ睨んだ通り、彼の「ファランクス」は途切れた。そこを狙い、おれは「スパーク」を送り込む。為すすべなく、彼は地に伏した。

ㅤ一拍置いて、終了のブザーが鳴る。一条は宣言通り、倒しておいてくれたらしい。もしかしたら、吉祥寺かもしれないが。

 

「……おれの勝ちだ!」

 

ㅤ拳を大きく振り上げ、空に向けて叫んだ。太陽の光が眩しくて、思わず目を細める。

 

ㅤこの夏は、きっと忘れられない。





ㅤ九校戦の総合優勝は、三高に決定。お兄様になんか勝てないので、かなり苦労した。やっぱり、さすおに。一高を簡単に倒せそうに書くのは嫌だったから、ものすごく人格者な面を強調したので、「オリ主サイドの性格クソ過ぎじゃない……?」って思ってしまった。
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