犬も歩けば棒に当たる   作:政影

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本編2-3:七歩の才

「ワンコちゃん、良い物あげようか?」

 

「良い物?」

 

 いつもの面々での昼食時、日菜ちゃんからそんな言葉を掛けられる。

 そちらの方を見ればチケットらしきもの数枚をヒラヒラとさせている。

 ……嫌な予感しかしない。

 

「今度のPastel*Palettesのライブなんだけど、Roseliaのみんなでどうかな?」

 

「そういうのは友希那さんに聞いて」

 

 リーダーが目の間にいるのに余計な波風は立てないでほしい。

 

「ええっと……その……」

 

「私は別に商業バンドの全てを否定するつもりはないわ」

 

 お父様の過去の件は一応折り合いが付いているようでなにより。

 

「そう言えばこの前の合同ライブはヒナ達パスパレは不参加だったね」

 

「事務所の許可がねー」

 

 リサさんの言う合同ライブとは本来はRoseliaとAfterglowとの対バンだったもの。

 それが、どこからか噂を聞きつけたPoppin'Partyやらハロー、ハッピーワールド!やらGlitter*GreenやらCHiSPAやらが加わって凄く大掛かりなものに。

 ポピパの急成長やグリグリの完成度も凄かったが、一番印象的だったのはハロハピのミッシェル……ガールズバンドの深淵を垣間見た気がした。

 パスパレは事務所の許可が下りずに断念した模様。

 

「麻弥さんのドラム聞きそこないましたね」

 

「ジブンの音、是非聞いてもらいたいです」

 

 好きか嫌いか位しか判断できないけど。

 

「アタシも千聖のベース生で聞きたいな」

 

 流石空気の読めるリサさんの援護射撃。

 

「そうね……Roseliaにとってもいい刺激が貰えるかもしれないわね」

 

「それじゃあ!」

 

「その前に本心を言いなさい。大方想像は付くけど直接聞きたいわ」

 

「あはは、流石に言わなきゃだめか」

 

 友希那さんの言葉に微笑を浮かべる日菜ちゃん。

 

「……おねーちゃんに私のステージを観てほしいから」

 

「結構、Roselia全員で参加させてもらうわ」

 

 回答がお気に召したようで友希那さんの口元には笑みが浮かぶ。

 反対する気は微塵もないけど、紗夜さんをどうやって説得しようか悩む。

 そもそも日菜ちゃんが直接誘っても断らないような気がするが……。

 

 

 

 

「はぁ……日菜ったら湊さん達まで巻き込むなんて」

 

「出来ればRoselia全員で行きたいのだけれど」

 

「紗夜、お願い!」

 

 練習後、友希那さん&リサさんのストレートな誘いに頭を抱える紗夜さん、ちょっと可愛い。

 

「アイドルのライブって興奮するね、りんりん!」

 

「うん……人混みはちょっと不安だけど」

 

「日菜ちゃんに周りに人が少ない場所をお願いしてみますか」

 

 これで後は紗夜さんだけか。

 多分大丈夫だとは思うけど駄目押しをしておこう。

 

「紗夜さん前に言いましたよね『何かあったら力になってあげてください』って」

 

「ええ、まあ……」

 

「そういうわけでお互い責任を取りましょうか」

 

「はあ……仕方ありませんね」

 

 言葉とは裏腹に表情は晴れやか。

 

「ところでアイドルのライブって何を準備すればいいのかしら?」

 

 友希那さん、割と興味津々な模様。

 

「いつもライブする方だからねー」

 

「パスパレ専用のサイリウム……今、注文しました」

 

「じゃあ私と燐子さんで法被でも作りますか」

 

「振り付けとか掛け声も覚えないといけませんね」

 

「りんりんの家で練習ですね!」

 

「Roseliaの名にかけて半端な応援はしないわよ」

 

 ……どんどん大事になっている感が。

 ノリと演奏技術に定評のあるRoseliaスタイル。

 

 

 

 

「ライブ凄かったですね!」

 

「……ええ、そうね」

 

 興奮さめやらない私の言葉に歯切れの悪い返事を返す友希那さん、他のメンバーもちょっと雰囲気が暗い。

 まあ、まさかのスーツを着た偉そうな人に囲まれた関係者席……とても立っての応援はできない雰囲気。

 法被姿の六人組は浮いてるってレベルじゃなかった。

 背中の刺繍も深夜のノリでつい……ね。

 

『エゴサーチ・アンド・デストロイ』

『武士道覚悟完了』

『スマイル鉄仮面』

『大鑑巨砲主義』

『日菜は私の妹』

『パステルシャウト』

 

 燐子さん指導の下、細部まで拘った珠玉の法被。

 ……裏方の私はお揃いの衣装を着ることが無いので密かに嬉しかったり。

 

 

「Roseliaの方ですね。パスパレがお会いしたいということで会議室の方でお待ちいただけますか?」

 

「ええ、分かりました」

 

 日菜ちゃんが手を回してくれたのかな。

 さっきまでステージ上で輝いていた彼女達にすぐ会えるなんてちょっと不思議な感覚、二名ほど毎日会ってるけど。

 

 

 

 

「こちらでお待ちください」

 

「ありがとうございます」

 

 スタッフさんに案内されてたどり着いた会議室は割と広めで、椅子や机が端に並んでいた。

 とりあえず椅子に座りパスパレを待つ。

 

「……軽く反省会でもやりましょう」

 

「そうですね」

 

 突然の友希那さんの発言に紗夜さんが同意する。

 キリッとしたRoseliaモード(命名:私)に入ったらしい。

 

「あこ、最初はあなたよ」

 

「は、はい。悔しいですけど今はまだまやさんのドラムの方が上だと思いました」

 

「そうね。パスパレに入る前は、スタジオミュージシャンとして一線で活躍してきた彼女の演奏技術は恐るべきものね」

 

「でも必ず追い抜いてみせます!」

 

「ええ、期待しているわ」

 

 あー、さっきの暗い雰囲気はパスパレと比較してのことだったか。

 一人だけはしゃいでいたようでばつが悪い。

 その後もリサさん、燐子さん、紗夜さん、友希那さんと反省会は続く。

 やはりみんな演奏技術が気になるようだ。

 

「最後に一人だけ純粋に楽しんでいたワンコ、何か意見はある?」

 

 微妙に言葉にトゲが。

 今まで見聞きしてきたものを思い浮かべ慎重に言葉を選ぶ。

 

「…………今日はRoseliaが今までやったライブの最大動員人数の十倍以上、今のままだと全員は満足させられない、かな?」

 

「っ! ……続けなさい」

 

 メンバー(主に友希那さんと紗夜さん)からの視線がちょっと痛い。

 今まで苦言を呈する機会なんて無かったししょうがない。

 

「さっきちょっと回ってきたけど、席によってはかなり遠いし見えづらい。それでもライブ中パスパレは可能な限り全員を見てた。楽しませようとしてた」

 

 私の言葉に驚きの表情を浮かべる面々。

 多分、間違ってない、自信を持って続けろと自分に言い聞かせる。

 

「プロのパスパレはお客さんを満足させるのが大前提だけど、アマだからといって私達のRoseliaが満足させられないのは嫌……かな」

 

「ワンコさん……」

 

「『演奏技術だけのバンド』なんて絶対に……絶対に言われてほしくない」

 

 話していて段々感情が昂っていくのを感じる。

 ああ……私ってみんな、Roseliaのことがこんなに好きだったんだ。

 

 

「もういいわ……ありがとう」

 

 椅子から立ち上がり私の横へ来ると優しく頭を撫でてくれる友希那さん。

 

「驚いたわ。あなたがそこまで見ていたなんて」

 

「……伝説のバンドマンにしっかり見て来いって言われたので」

 

「!? そんな人が知り合いにいるの?」

 

「……友希那さんのお父様」

 

 私の言葉に複雑な表情を浮かべる友希那さん。

 過去のいざこざがなくても男親と娘って会話しないイメージ。

 

「あこたちもお話聞きたいよね」

 

「うん……」

 

「アタシも友希那のお父さんと音楽の話をするのは久しぶりかな」

 

「有意義なお話が聞けそうですね」

 

「なんであなた達、聞く気満々なの!?」

 

 顔を赤くして慌てる友希那さん可愛い。

 

「まあまあ、減るもんじゃないですし」

 

「私のイメージが損なわれるわよ!」

 

『え!?』

 

「……何よあなた達、その反応は」

 

『…………』

 

 思わず目を逸らす私達、正直友希那さんの最近のイメージって……。

 

「ワンコさん」「ワンコ」

 

 紗夜さんとリサさんに促される。

 もうなるようになれだ。

 

「友希那さん、ガールズバンドでお泊り会は必須」

 

「えっ?」

 

 突然の話題転換に呆気にとられた表情になる友希那さん。

 ここで畳み掛けるよ。

 

「Afterglowでもポピパでもやるとか言ってたし……馴れ合いじゃない真の絆は絶対必要」

 

「まあ……そうね」

 

「ならここはリーダーである友希那さんの家から始めるのが筋だと思う」

 

「…………一理あるわね」

 

「それに、仲間にご両親を紹介するなんて最高の信頼の証」

 

「そうなの?」

 

 友希那さんの問い掛けに他の四人は全力で頷く。

 安心の団結力。

 

「そこで良好な関係を築ければwin-win」

 

「具体的には?」

 

「友希那さんが良いメンバーに囲まれているのが分かればご両親も安心するし、私達も大人の力が必要になった時には頼れる」

 

「……はぁ、ワンコが言いたいことは分かった。お泊り会も父さんに話を聞くのも許可するわ」

 

「ありがとう♪」

 

「ただし私の小さいころの話を聞くのは絶対駄目よ……恥ずかしいから」

 

 私がしたのは鍵の掛かっていない扉を叩いて呼びかけただけ。

 だって外ではみんなが待っているから。

 

 

 

 

 コン、コン、コン。

 

 

 ドアをノックする音が聞こえみんな一斉に立ち上がる。

 

「どうぞ」

 

「失礼します」

 

 入ってきたのは私が今まで唯一面識のなかった人物。

 

「まんまるお山に彩りを! 丸山彩でーす!」

 

『………………』

 

 うん、眼前でコレをやられると反応に困る。

 

「Roseliaの湊友希那です。本日はお招きいただき、ありがとうございました」

 

 流石我らがリーダー、何事も無かったように返した。

 彩さんに続いて他のパスパレメンバーも登場。

 

「あ、おねーちゃん」

 

「日菜、お疲れ様。勉強になったわ」

 

「えへへ、褒められちゃった♪」

 

「良かったですね、ヒナさん。あ、ワンコ師匠、私の演奏はどうでしたか?」

 

「ナイスブシドー」

 

「ありがとうございます!」

 

「それ褒め言葉なんですか!?」

 

「麻弥さんお疲れ様。新たな一面に惚れ直した」

 

「フヘッ!?」

 

「……お久しぶりね、ワンコちゃん」

 

「お疲れ様です、千聖さん。って、ここでも頭撫でてきますか」

 

「当然でしょ、うふふ」

 

 もし尻尾があったら股の間に挟んでそうな圧力。

 ライブの後で気が立っているのか。

 

 

 

「日菜ちゃん、ありがとう」

 

「えへへ、調整した甲斐があったかな」

 

 満面の笑みを浮かべる日菜ちゃん。

 ……パスパレに入って人間的に成長したようでなにより。

 

「後、みんなにプレゼントがあるんだ」

 

 そう言うと布が掛けられたワゴンがRoseliaとパスパレの前に運ばれてきた。

 

「せーので布を取るよ」

 

「あ、うん」

 

 麻弥さんと彩さんの顔に微かに緊張が走るのを察知した。

 何か仕掛けてくる。

 

「「せーの」」

 

 布を取るとそこには……パイ投げ用のパイ?

 

「一度やってみたかった「遅い」」

 

 日菜ちゃんが私に向かってパイを投げるよりも早く、紗夜さんのパイが日菜ちゃんの顔面に命中していた。

 流石紗夜さん、いい読みと反応だ。

 

 

「師匠御覚悟!」

 

「うん」

 

 イヴちゃんの正確なパイを勢いを殺さないように片手で受けつつ、半円を描くようにしてお返しする。

 我流無刀取り、なんちゃって。

 

 

「友希那ちゃん、あなたとは決着を付けたいと思っていたわ」

 

「そうね、白鷺さん。どちらがワンコの真の飼い主か教えてあげるわ」

 

 不穏な会話をしつつパイを投げあう御二人だが、悲しいことに届いていなかったり見当違いな方向へ飛んで行ったり。

 

 

「いくよ、あこ」

 

「オーケー、リサ姉」

 

 リサさん&あこちゃんのダンス部コンビは麻弥さん&彩さん組のパイを華麗なステップで躱し、隙を見てパイ返しをする。

 

 

「……」

 

 燐子さんは無言でパイの飛び交う中パイを配っている。

 周りが良く見えていて即座に自分の役割を判断できるのは心強い。

 

 

 

 

「はい、終了」

 

「うん、るん♪ ってきたよ」

 

 パイを全て投げ終わったところで終了。

 最後の方は乱戦になり全員仲良くパイ塗れだ。

 私も意識の範囲外から飛んできた彩さんの山なりパイの直撃を顔面に受けた。

 もはや笑うしかない。

 

「シャワー室使えるようにしておいたから」

 

「この後仕事の打ち合わせがありますので先に使いますね」

 

『お疲れ様でした』

 

 そそくさと立ち去るパスパレのメンバー達。

 改めてアイドルって多忙なんだと感じる。

 

「結局、日菜達は何がしたかったの?」

 

「てっきり私を誘うためにRoselia全員を招待したのかと思いましたが、パイ投げの方が本命だったのかも知れませんね」

 

「……ワンコさんが指摘したRoseliaの問題点を、気付かせるためだったのかも」

 

「今度みんなで問い詰めますか、紗夜さん家でお泊り会をする時にでも」

 

「はいっ!?」

 

「そうね。ちゃんと全員の家に泊まらないと不公平よね」

 

 友希那さん、悪い顔だ。

 全員道連れにする気満々。

 

 

 

「Roseliaさん、シャワー室空きました」

 

「はーい」

 

 さて、とりあえずパイでも洗い流しますか。

 

 

 

「やられたわね」

 

「ええ」

 

 シャワー自体は問題なかったが、用意された着替えが肩丸出しのフワフワなパスパレ衣装。

 当然普通のブラだと肩紐が出るためブラも用意されていた。

 私だけ火傷を隠すためのインナー付き……気配りのベクトルがおかしい。

 

『汚れた服はクリーニング発送済みだから、その衣装で帰ってね by日菜』

 

「パイ投げで最後だと思って油断した」

 

「うちの愚妹が申し訳ありません」

 

 紗夜さん眉間に皺が。

 

「りんりんどうかな? 聖天使あこ姫」

 

「……あこちゃん、かわいい」

 

 あこちゃんもう着てるし、ポーズ取ってるし。

 

「うーん、この衣装だと友希那はツーサイドアップで、紗夜と燐子は両サイド三つ編みかな~」

 

 リサさんも何かのスイッチ入ってるし。

 今のうちに迎えをお願いしておくか。

 

 

 

「裏口に迎えの車が来たので行こう」

 

「ええ、分かったわ」

 

 友希那さんの言葉に全員の表情が引き締まる。

 車に乗りこむまで無様な姿は見せられない。

 まあ、衣装のせいで「凛々しい」というより「可愛い」だが。

 

 

 

「お迎えありがとうございます」

 

「ワンコくん、ましてや友希那の為ならお安い御用さ」

 

 当然お願いしたのは友希那さんのお父様。

 黒のハイエ□スワゴンはスモークもばっちりで覗かれる心配も少ない。

 タクシーだと二台必要になるし、外から丸見えだし。

 

「お父、父さん!?」

 

「友希那、随分可愛い格好だな」

 

「ん~~~」

 

「湊さん早く乗ってください……恥ずかしいですし」

 

 赤面している友希那さんを車内に押し込む紗夜さん、同じく顔は真っ赤だ。

 

「お久しぶりです」

 

「……失礼します」

 

「漆黒の車体、カッコイイ!」

 

 流石はハイエ□スワゴン、Roselia全員乗っても広々快適空間。

 

「それにしても……友希那のバンドがアイドル系だったなんてね」

 

「こ、これは違うの! ちょっと、ワンコもリサも笑っていないで説明しなさいよ!」

 

 車内に響き渡る黒き咆哮。

 ここまで日菜ちゃんが見越していたならなんたる慧眼。

 認識を新たにしないと。

 

 

 

 

○後日談

 

 

「水が奏でる音色のように……Roseliaの湊友希那です♪ 改良の余地ありね」

 

 うん、見なかったことにしよう。

 パスパレの衣装を着て鏡に向かって、決めポーズと決め台詞を考えている友希那さんなんて見てはいない。

 きっと私の白昼夢、狂い咲いた私の願望の欠片。




彩さんドッキリ回になる筈が何故かこのような話になりました。
次のこころ回?で本編2は終了です。

※Roseliaのパスパレ衣装画像は毒田版漫画二巻の後書きでご確認ください。

感想、評価、誤字報告などありましたらよろしくお願いします。


<備考>

ワンコ:ノリと勢いとちょっとの計算で畳みかけるブシドー。

丸山彩:全てを彩るブシドー。

氷川日菜:るるるんブシドー。

白鷺千聖:頂点を見据えたブシドー。

大和麻弥:縁の下のブシドー。

若宮イヴ:イヴシドー。

番外編2で扱ってほしいバンドは?

  • Roselia
  • Afterglow
  • Poppin'Party
  • Pastel*Palettes
  • ハロー、ハッピーワールド!
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