犬も歩けば棒に当たる 作:政影
本編2これにて終了です。
「湊さん」
「はい」
教壇に立つ教師に呼ばれ、後ろの席の友希那さんが立ち上がる。
月~木曜日に行われた中間テストが金曜日に一斉に返却……先生方お疲れ様。
「よく頑張りましたね」
「ありがとうございます」
お、中々の好感触の模様。
表情を盗み見ると平静を装っているものの、口元は喜びを隠しきれていない。
昼休みが楽しみだ。
「今日は随分賑やかね」
「うん、確かに」
いつものメンバーに加えAfterglowの面々、そしてA組の瀬田薫さんまで来ている。
「かのシェイクスピア曰く、――期待はあらゆる苦悩のもと」
「なるほど、みんな友希那さんのテストの点が気になってる、と」
「つまりそういうことさ」
「……まあいいわ、好きに見て頂戴」
机の上に広げられる解答用紙……すべて平均点を超えている!
「友希那さん、おめでとう」
「やったね、友希那!」
「おめでとうございます!」
「かのシェイクスピア曰く、――運命とは、最もふさわしい場所へと、貴方の魂を運ぶのだ」
喜ぶ私とリサさんと麻弥さんと薫さん。
「蘭、残念だったね」
「別に……平気だし」
ガッカリ気味のAfterglow。
「おねーちゃん、駄目だったよ」
残念そうに電話している日菜ちゃん……相手は紗夜さんか。
「そもそもなんで友希那さんが平均点以上だとがっかりするの?」
過半数が残念がるとかよく分からない事態。
「あたしは日菜さんから『平均点を取れないとワンコ先輩が湊家から追い出される』って聞きました」
「え、あたしはリサちーに『平均点を取れないとワンコちゃんが湊家からバーン!』って聞いたよ」
「アタシは友希那から『平均点を取れないとワンコの湊家での居場所が無くなる』って聞いたかな」
「私は『平均点を取れないとワンコの湊家での立場が無い』と言っただけよ」
何この伝言ゲーム、とりあえず蘭ちゃんは責められない、日菜ちゃんはアウト。
野良犬になった時の引き取り手がいることは喜ぼう。
「……友希那さん、これからもお世話になる」
「ええ、そのつもりよ」
まあ野良犬になる気は微塵も無いけど。
「ワンコちゃんは何点だったの?」
「……満点は取れなかった」
「じゃあ私の七連勝だね♪」
入学以来定期テストだと一回も日菜ちゃんに勝ててない……。
常時満点相手とか勘弁。
「じゃあ何かお願いでも聞いてもらおうかな?」
「いやいやそんな約束してないし、先日お願い聞いたばかりだし」
いきなり何を言い出すんだ、この天才にして天災にして甜菜……最後のは特に関係ないか。
「まあまあ、ショッピングモールで買い物に付き合ってくれればいいだけだから」
「……明日の土曜の夕方なら」
Roseliaの練習(私は見学だけど)の後は予定が無かったはず。
「私も行くわ」
「あたしも今回のテストはそこそこ出来たのでいいですよね?」
友希那さんと蘭ちゃんも妙な気迫、買いたいものでもあるのかな?
「だそうで」
「別にいいよー」
あっさり許可する日菜ちゃん、相変わらず真意が読めない。
とりあえず三人に飲み物の一杯でも御馳走すればいいかな?
「帰宅早々で悪いが、ワンコくんの事についていいかな」
「はい」
「?」
「にゃん?」
帰宅後リビングで友希那さんとユキと寛いでいると、真剣な表情のお父様からそう告げられた。
ダイニングに移動し居住まいを正す。
友希那さんもお母様も同席している。
「申し訳ないが念の為に興信所に身辺調査をしてもらった。この通りだ」
頭を下げる、お父様。
「お父さん!」
「頭を上げてください。こちらこそお手間を掛けて申し訳ございません」
こちらも頭を下げる。
軽く数十万は掛かっているだろう。
「本名『犬神一子(いぬがみいちこ)』、約十年前の火災により記憶喪失、天涯孤独となり施設を転々とする……君の申告以上の情報は出てこなかった」
「……でしょうね。私もそれなりに時間とお金を掛けましたが、不自然なほどに情報は集まりませんでした」
そもそも犬神一子の名前すら辛うじて役所の記録に残っていたくらいだ。
一体何者だ、昔の私。
流石にここまで不審人物だと大事な友希那さんの傍に置いておくのはまずいだろう。
次の言葉が何であれ恨みはしない。
「そこで提案だが……養女にならないか?」
「ふえぇ!?」
やば、変な声出た。
「いやいや、流石にどこの馬の骨ともわからない人間を」
「こう見えても過去の苦い経験から人を見る目には自信があってね。君なら大丈夫だと思った」
そう言うと、お父様は私の美徳を指折り数え始める……友希那さんの前だと凄く恥ずかしい。
「あなた素敵だわ」
「お父さん愛してる」
「ちょ、お二人さん!?」
どこまでお人好しなんですか、湊家の人々!
「身元がしっかりしていた方が就職や結婚にも支障が無いだろ? 何より法的にも君を守ることが出来る」
「お父様……」
その言葉に思わず目頭が熱くなる。
親族不在で何度バイトの面接で落とされたことか。
「今すぐにとは言わないが、今年のうちには決めてほしい」
「はい……必ず」
何年経ってもしっくりこなかった犬神姓を捨てることに躊躇いは無い。
そう思ったが何故か胸が痛んだ。
「これで私もお姉さんね」
……友希那さんが嬉しそうなのはなにより。
ちなみにその後の夕飯は友希那さんのテスト赤点回避と私の家族(仮)祝いということで豪勢なものになった。
お赤飯とかいつぶりだろう。
「……今日はここまでね」
友希那さんの合図で練習が終わる。
すかさずタオルと飲み物を配る。
「どうだったかしら?」
「うん、着実に良くなってる」
パスパレ見学時の反省点を踏まえ、お客さんへのアピールを考えた動きを意識する。
気付きの切っ掛けさえあれば瞬く間にレベルアップするRoseliaは凄い。
それだけ普段から技術の研鑽に余念が無いのだろう。
一応気になった個所をメモした譜面を渡し片付けを手伝う。
「ワンコはこのまま行くの?」
「うん、友希那さんは一度お帰り?」
「そうよ。それじゃあ現地で」
友希那さん達と別れ、一人でショッピングモールへ向かう。
営業している店舗は映画館、雑貨屋、ファッション系諸々。
商店街にお世話になっている身としては少々気になる、一応棲み分けは出来ているっぽいが。
「あれ、ワンコちゃん?」
「彩さん、こんにちは」
パスパレのまんまるお山、もといピンク担当に声を掛けられた。
「彩さんはお一人?」
「日菜ちゃんに急に呼び出されたんだ」
……この流れは。
「あ、日菜ちゃんからメッセ『行けなくなったんで代わりにワンコちゃんに奢ってもらって』だって……えっ!?」
その言葉に瞬時に周囲を見回すが日菜ちゃんは見つけられず、てっきり何処からか見ていると思ったが。
「うん、事情は分かった。後二人来たらショッピングしよ?」
「……そうだね」
微笑を浮かべる彩さん、振り回されるのにも慣れてそうだ。
エントランス付近の壁にもたれてしばらく時間でも潰すか。
「この前はごめんね。パイとか服とか」
「割と楽しかった。あとライブも興奮した」
「えへへ、そう言ってもらえると嬉しいな」
「次は自分でチケット買って見に行きたい。彩さん達のライブにはそれだけの価値がある」
「面と向かって言われると恥ずかしいな」
「恥ずかしがる彩さんも可愛い」
「もうっ!」
ちょっと本音がダダ漏れだったかも。
アイドルになる以前から面識のあった他の四人とは違って、純粋な意味での初応援アイドルって彩さんだしね。
去年までの私だったらアイドルに興味を持つなんて無かっただろう。
「ワンコ先輩♪」
「おっと」
突然抱き着いてきたのは……香澄ちゃんか。
相変わらず元気いっぱいだ。
「ちょっと香澄!」
「あ、蘭ちゃんも抱きつく?」
「え、あ、その……」
「あなた達騒がしいわよ」
蘭ちゃんに続いて友希那さんも到着……ん?
「二人ともいつもより綺麗?」
「「!?」」
化粧に気合が入っているような。
「別に普通よ」「いつも通りです」
相変わらず息ピッタリな二人。
「へぇ~」
彩さんは訳知り顔だ。
「日菜ちゃんがドタキャンしたので代打の彩さん」
「いぇい♪」
「みなさんでショッピングですか? いいなぁ」
「戸山さんもどうかしら?」
「え、いいんですか。やったぁ」
私から離れると友希那さんの手を取って喜ぶ香澄ちゃん。
香澄ちゃんには割と甘いよね、友希那さん。
髪型が猫耳を連想させるから、という噂も。
「蘭ちゃん、大丈夫?」
「だ、大丈夫です!」
少しふくれっ面だった蘭ちゃんの顔を下から覗き込む。
今度は赤くなった。
「じゃあ色々と回ろうか」
「ワンコ、見つけたわ!」
声のした方を見上げれば――飛び降りた!?
三階から吹き抜けを飛び降りたと思ったら着地、そして側転からの目の前停止、ピース。
ニンジャ?
「あー、こころん♪」
「香澄! 奇遇ね」
香澄ちゃんと熱い抱擁を交わす弦巻こころちゃん。
……今の超人的挙動に誰か突っ込んでくれないの?
「薫の言ってた通りね! あたしも一緒に回るわ!」
助けを求めるように香澄ちゃん以外の三人を見るも目を逸らされた。
「うん、じゃあ他のお客さんに迷惑を掛けないように静かにね」
「分かったわ!」
これは前途多難だ。
○アクセサリーショップ
「へー、猫耳ヘアバンドとかあるんだ。友希那先輩、どうですか?」
「私には似合わないわよ」
「怖気づいたんですか?」
「私付けてみる」
「じゃあ私も」
「あたしも付けるわ!」
「……しょうがないわね」
何故か猫耳少女六人組が誕生していた。
「地球の未来にご奉仕するわよ!」
……取りあえず全員買う事になった。
最初から出費が激しいが、貴重な画像が手に入ったので良しとする。
私のガラケーでは解像度がいまいちなので、友希那さんのスマホで撮影し他の面々にも送っておく。
スマホが欲しくなってきた。
○本屋
「こころちゃんはどんな本を読むの?」
「絵本よ! 楽しい気分になれるでしょっ?」
「絵本か……読んだことが無いからお勧めを教えてほしい」
「じゃあ、これとこれとこれね!」
「うっ、結構高い」
「それなら今度貸してあげるわ!」
「うん、ありがとう」
そう言えば前は懐具合の関係で図書館によく通ってたけど、絵本コーナーに入ったことは無かった。
今度行ってみるか。
「湊さんもその音楽雑誌、読んでいるんですね」
「ええ、必要な情報が揃っているわ」
「分かります」
「わ~、このスイーツ美味しそう♪」
「そうですね♪」
「今度一緒に食べに行こうか?」
「はい、是非!」
○服屋
「ワンコ先輩には次こそロック系を着てもらいます!」
「燐子とあこはゴスロリ系を推していたわ」
「ガーリー系の方が似合うと思うな~」
「動きやすい方がいいわ!」
私よりも自分の服を選んでね。
「う~ん、ワンコ先輩って何を着てもそこそこ似合いますよね?」
「それだ」「それね」「そうね」「そうね!」
香澄ちゃんの言葉に息ピッタリの反応。
見ていて飽きないね。
結局全系統の服を試着する羽目に。
○映画館
「あ、友希那先輩、今度『子猫ねこねこ』やりますよ!」
「そ、そのようね。気が向いたら見に行くわ」
「……湊さん、猫好きなのバレバレですよ」
「本人的に譲れない一線があるっぽい」
「麻弥ちゃんなんて語りだしたら止まらないのに」
「まあ、友希那は猫が好きなのね! 美咲達にも教えてあげなくちゃ!」
……ユキと遊んでいる時の蕩けきった顔はお見せできない。
○通路
「ちょっと待って」
微かに聞こえる泣き声の方へ駆け出す。
通路の陰で泣いている少女……山吹紗南ちゃん。
「紗南ちゃん、どうしたの?」
腰を落とし優しく話しかける。
「ひっく……ワンコお姉ちゃん?」
「うん、ワンコお姉ちゃんだよ」
安心させるように抱きしめる。
「迷子に……なっちゃった……」
「そっか、お姉ちゃんは一緒に来てる?」
「うん」
「じゃあ迎えに来てもらうね」
なら話は早い。
そこに他の面々も追いついてきた。
「ワンコ先輩、あれ、さーなん?」
「香澄ちゃん、沙綾ちゃんに連絡して」
「は、はい!」
後は引き渡しておしまい。
今のうちに涙を拭いておこう。
……うん、笑った顔の方が断然いい。
「美竹さん、泣き声聞こえてた? 私は全然気づかなかったわ」
「いいえ。よくこの雑踏の中聞き取れましたね」
「本当ね。これで音感さえあれば……」
「無いんですか?」
「本人曰く『音楽とは無縁の人生』だったらしく、良いか悪いかの判断しかできないそうよ」
「それは……勿体無いですね」
後ろで盛大にため息をつかれているが気にしないでおこう。
○フードコート
「結構歩いたね~」
彩さんの言葉に全員が頷く。
紗南ちゃんを沙綾ちゃんに引き渡した後、食事時ということでフードコートで夕飯を取ることに。
一応飲み物分だけは私の奢り。
「こうして皆さんの顔を見ると……また合同ライブしたいです!」
「次はパスパレも参加するよ、香澄ちゃん!」
「はい!」
「まあ、それは素敵な考えね! 友希那も蘭も参加よね!」
「完璧な音楽を見せるわ」
「いつも通りやる」
何かいいよね、互いにライバルとして認め合ってるのって。
「そう言えば、ワンコの『中』にいる子はいつお目覚めかしら?」
突然の発言。
覗き込んでくるこころちゃんから目を逸らせない。
意味の分からない質問だと答えようとも言葉が出てこない。
嫌な汗が頬を伝う。
「……こころん、何言ってるの?」
「香澄には見えないかしら? 幼稚園児位の女の子!」
激しい頭痛に襲われる。
意識が飛びそうになる。
「弦巻さん、その話はやめて」
「あら、友希那には分かるのね?」
限界だった。
止めようと伸ばされた手を振り払って駆け出す。
ショッピングモールから飛び出して我武者羅に走る。
今どこを走っているのかすら分からない。
気付いたら最初に友希那さんと行った公園に着いていた。
「げほっ、げほっ」
少し冷静になって水飲み場で喉を潤そうとしたら、逆に酸っぱいものが込み上げてきてぶちまけた。
仕方がないのでベンチで横になる。
混乱した頭で先程のこころちゃんの言葉を整理しようとするも、全然考えがまとまらない。
「にゃー」
しばらくして仰向けに寝ている私の上に黒猫が乗ってきた。
もみもみしても母猫じゃないから母乳は出ないよ。
「これからどうしようかなぁ」
「にゃ」
黒猫を撫でながら呟く。
頭の中がぐしゃぐしゃのまま湊家には帰りたくない。
「友希那さんも何か知ってる感じだったし」
「そうね。少しはね」
「えっ」
いつの間にかベンチの横に友希那さんが立っており、息を整えていた。
「横、座るわよ」
「うん」
黒猫を抱え私も座りなおす。
「取りあえず、手を繋ぎなさい。次に逃げられたら負う体力は無いわ」
右手を差し出すと左手で握りしめてくれた。
「最初に謝っておくわ。一子ちゃんの事を黙っていてごめんなさい」
「…………」
「私の考えでは……間違っていたらごめんなさい、ワンコは二重人格」
友希那さんの言葉に心臓が掴まれたような衝撃。
「一子ちゃんの意識が表出したのは私の知る限り三回。全てワンコが寝てからよ」
「なるほど……」
確かにそれなら私が知りようもない。
友希那さんならつまらない嘘をつく事も無いだろうし。
「本当はもっと落ち着いてから話そうと思ったのだけれど……」
「気を使わせちゃってごめん」
「それにワンコの布団で一緒に寝たのも、一子ちゃんに頼まれたからだわ」
「……なんて羨ましい。ちなみに幼稚園児というのは本当?」
「多分そんな感じだったかしら。次は映像を残しておくわ」
記憶を無くす前の私、というか記憶喪失というのが間違いで、一子という人格からワンコという人格に切り替わっただけ?
「どんな感じの子?」
「そうね。臆病で純真で今にも消えてしまいそうな子だったわ」
危険な人格でなくてなにより。
「最後に……ワンコという人格が消えても一子を大事にしてくれる?」
「消えるなんて言わないで!」
我ながら卑怯な質問、だけどその返答に勇気が湧く。
「ありがとう。ワンコは消えない」
衝動のままに友希那さんの唇を奪う。
すぐに離すと今度は友希那さんからしてくる。
付き合いきれなくなったのか、黒猫はいつの間にか姿を消していた。
「やっと見つけたわ! まあ、友希那が一番乗りだったのね!」
「こころちゃん……」
こころちゃんの次の言葉が怖くて、友希那さんと繋いだ手に思わず力が入ったら握り返してくれた。
「もう一人のワンコに急に話しかけてごめんなさいね。でもみんなで笑いあいたいわ!」
……百パーセント善意なのが辛い。
それでも私が返事をするしかない。
「一人ずつしか起きられないみたい。会わせてあげられなくてごめん」
「あら、そうなの! じゃあ次のお楽しみね! 全員に会えるのが今から楽しみだわ!」
サラッと爆弾発言、流石の友希那さんもこれには引き気味。
一体何人分の人格があるのか……まあ、この温もりがあるうちは消えてやるものか。
「あ、そういえば他の三人は?」
「知らないわ!」
「……発見の連絡をするの忘れていたわ」
Afterglow、パスパレ、ポピパが全員捜索に動員されているとは夢にも思わなかった。
「まあ、ワンコはみんなに愛されているのね! 次はハロハピとRoseliaも加えて鬼ごっこね!」
「うん、無事に終わる気がしない」
次からは番外編2です。
感想、評価、誤字報告などありましたらよろしくお願いします。
<備考>
戸山香澄:鳴かぬなら一緒に歌おう時鳥
美竹蘭:鳴かぬなら別にいいけど時鳥
丸山彩:鳴かぬなら努力あるのみ時鳥
湊友希那:鳴かぬなら鳴かせてみせるわ時鳥
弦巻こころ:鳴かぬなら笑えばいいわ時鳥
番外編2で扱ってほしいバンドは?
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Roselia
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Afterglow
-
Poppin'Party
-
Pastel*Palettes
-
ハロー、ハッピーワールド!