犬も歩けば棒に当たる 作:政影
安定の支離滅裂回です。
「キャンプ、ですか?」
「ええ、そうよ」
CiRCLEでの練習が終わり片付けをしている時に、湊さんから発せられた言葉は意外なものでした。
「『FUTURE WORLD FES.』への出場権を賭けたコンテストまであまり時間は無いと思いますが」
「そうね。でも集中して毎日長時間練習している分、あなた達も疲労が溜まっているんじゃない?」
「……そうかも知れませんね」
反射的にここ数か月酷使し続けた右腕を見てしまいます。
確かに怪我でもして本番に支障をきたしてしまっては目も当てられません。
「それに一泊二日の短いものだから」
「まあそれなら……でもキャンプの経験者は?」
「あ、アタシならちょっと分かるよ。ワンコも経験あるけどバイトだっけ?」
「うん、昔のバイト先からの呼び出し」
ワンコさんがいないのは痛いですが、今井さんがいれば何とかなる、かしら。
「あこはおっけーです!」
「わたしも……頑張ります」
恐らく一番疲労が溜まっているだろう宇田川さん、最近積極的になってきた白金さんも参加の意思を示しました。
たまには自然に囲まれて過ごすのも良いかも知れません。
「初心者歓迎なところで探すから問題ないわ」
自信満々に言う湊さん、小型犬みたいでちょっと可愛いですね。
「……で、一体どういう状況でしょうか?」
「……さあ?」
キャンプ当日、始発で最寄駅まで向かいそこからバスに乗りました、けれど。
「テメェ、アフロなんて略しやがったなぁ!」
「アフグロよりマシだろ、オラァ!」
「パスパレは千聖様でもってるんや!」
「ハァ? 麻弥さんディスったらケツドラムやぞ!」
「今、友希那の悪口言ったよね? よね?」
「アイエエエ!? リサ!? リサナンデ!?」
女性のみの車内は罵声が飛び交っています。
というか今井さん、知らない人の頸動脈にヘアピンを突き立てようとしないでください。
……これが大ガールズバンド戦国時代の到来でしょうか?
「りんりん、怖いよ~」
「わたしも……」
あまりの恐怖に抱きしめあう白金さんと宇田川さん。
流石にこれ以上は教育上よろしくありませんね。
パンッ!
柏手を一つ打ちます。
車内が水を打ったようになりました。
「車内ではお静かに」
なるべく凄みを感じさせる笑顔、伊達に風紀委員をやってはいないのでこれくらいは造作もありません。
「紗夜、やるわね」
「湊さんは今井さんを抑えてください」
「どうどう」
「友希那どいて! そいつ△せない!」
Roseliaの中で一番狂暴なのは今井さんなのでは?
まあ、私も日菜の事を馬鹿にされたら、それ相応の落とし前はつけますけど。
バスに揺られること数十分、着いたのは山の中腹の山小屋でした。
着替えを渡され更衣室で着替えると迷彩服の集団に。
「あれ?」
「湊さん、本当にキャンプに申し込みましたか?」
「ええ、これよ」
プリントアウトしたものを見ると。
「『初心者歓迎♪ お試しブートキャンプ』?」
「ブートキャンプは新兵訓練プログラム……普通のキャンプとは別物」
「りんりん詳しい~」
白金さんの言葉にクラクラしてきました。
「ごめんなさい」
「アタシも確認しなくてゴメン」
頭を下げる湊さんと今井さん。
果たしてこれからどうなることやら……。
「訓練教官のブラックドッグだ。話しかけられた時以外は口を開くな。口で糞垂れる前と後に“Ma'am”と言え。分かったか、蛆虫ども!」
「貴様ら雌豚どもが俺の訓練に生き残れたら――各人が星四となる。イベントに祈りを捧げる死の司祭だ」
「その日までは蛆虫だ! 地球上で最下等の生命体だ。貴様らは人間ではない。星二の糞をかき集めた値打ちしかない! 」
「俺は厳しいが公平だ、人種差別は許さん。ボッチ、ヘタレ、ヒス、根暗、厨二病を、俺は見下さん。すべて――平等に価値が“ない”!」
黒いガスマスクとアーマーを付けた教官の罵声の嵐に身がすくみます。
というか昔の戦争映画のようで頭が痛くなってきました。
湊さんにいたっては顔面蒼白です。
……宇田川さんは何故か瞳を輝かせていましたが。
「ふざけるな! 大声出せ! コンボ切れたか!」
その後も参加者に向かって怒鳴り散らします。
返事が小さいと何度も復唱させられ、反抗的な態度を取った大柄な女性は瞬く間に組み伏せられました。
私達の傍を通りかかった教官は、いきなり白金さんの豊満な胸を鷲掴みにしました。
「お前はどこ出身だ?」
「んっ……マム、東京です、マム!」
「まるでそびえ立つプリンだ。東京出身には腐女子と百合豚しかいない。腐女子には見えんから百合豚だ!」
「マム、イエス、マム!」
「正直なのは感心だ。気に入った。家に来て姉をフ○ックしていい」
白金さんあんなに顔を真っ赤にして。
なおも感触を楽しむかのように揉みしだく、なんて羨ま……破廉恥な!
その後柔軟体操を終えた後に待っていたのは、障害物コースのランニングでした。
今井さんと宇田川さんは何とか付いていけたものの湊さんと白金さんは……。
「……」「……」
「ケツの穴を引き締めろ! 無償スターを捻り出せ! さもないと課金地獄だ!」
罵倒された挙句バケツで水を掛けられていました。
「湊さん、リタイアしませんか?」
「紗夜、不甲斐ないところを見せてごめんなさい。でもやり遂げたいの」
「わたしも……です」
「お二人がそう言うなら……頑張りましょう」
こういう意地の張り方、嫌いではありません。
私にも似たようなところがありますから。
簡単な昼食の後は銃の分解・組立と応急処置の講座がありました。
手先が器用な今井さんと白金さんは問題ありませんでしたが。
「おかしいわね。部品が一つ余ったわ」
「りんりん、部品が無いよ~!」
「今度はお前達か! お放置厨か? それともお切断厨か?」
何と言うか……教官もお疲れ様です。
銃の分解・組立は実生活で使う機会は無いと思いますが意外と面白いですね。
応急処置は次の合同体育祭で役に立つかも知れません。
次は……内臓が飛び出た時の対処法ですか。
「今日のラストは楽しい楽しいランニングだ。終わった班からママのオッパイにありつけるぞ!」
手渡された荷物は十数キロ位、普段背負っているギターに比べれば少々重たいけれど何とかなるでしょう。
問題は……。
「……結構重たいわね」
「……はい」
不味いかも知れませんね。
リタイアするという選択肢は無いわけでして。
「今井さん、宇田川さん、お二人にお願いが」
「私が友希那の分を手伝って」
「あこがりんりんの分ですね!」
「ええ、話が早くて助かります」
湊さんの半分を今井さんにお願いして、白金さんの半分を私、四分の一を宇田川さんにお任せしました。
後は状況に応じて再配分しましょうか。
「貴様の班でラストだ! 熊の餌にならずに完走とはフルコンボものだな!」
「マム、ありがとうございます、マム!」
「よし、飯は自分たちで作れ! キャンプの醍醐味だ!」
どうやらラストの班には食事は用意されていないみたいです。
「う~ん、この材料だとカレーでいいかな?」
「そうね。リサのカレーは絶品だわ」
「リサ姉のカレー楽しみ~」
「カレーは飲み物……」
カレーと聞いた途端元気になる皆さん。
まあカレーが嫌いな人はいないと思いますが。
「私も手伝いますね。……私の分は人参抜きでお願いします」
湊さんの言うとおり今井さんのカレーはとても美味しかったです。
玉ねぎの炒める時間がポイントだとか……今度試してみましょう。
余ったカレーを他の班におすそ分けしているあたり、今井さんのコミュ力は侮れません。
食後の片付けを終えるとシャワータイムでした。
一日でかなり土と埃にまみれたので嬉しい限りです。
着替えのジャージと一緒に筋肉痛緩和のスプレーが置いてありましたので、ありがたく使わせていただきました。
「紗夜も外に出てみない?」
「はい?」
宿泊所で横になっていると湊さんに呼ばれました。
既に外には他のメンバーもいて空を見上げています。
「…………綺麗」
見上げれば満天の星、圧倒されて月並みな感想しか出てきません。
「……これが星の鼓動、でしょうか」
「そうですね……ギターがあったら掻き鳴らしてしまいそうです。これも湊さんが間違えたおかげですね」
「ふふっ、紗夜からそんな軽口が聞けるようになるなんて思わなかったわ」
湊さんの言葉に自分の変化を改めて実感しました。
下を向いてばかりいたあの頃、今では…………。
「雨……ですね」
「えっ?」
いつの間にか流していた涙を白金さんがハンカチで拭ってくれました。
ちょっと恥ずかしい、です。
「紗夜さん、カンキワマリですね!」
「おや~、紗夜も意外と乙女かな~」
「今井さんだけには言われたくありません!」
二日目は一日目の逆で荷物を持って中腹へ戻り、昼食後に送迎バスで駅へと向かいました。
流石にその日は個人練習のみで翌日の月曜日放課後に全体練習です。
スタジオの扉を開けると先客が二人いました。
「……お二人は何を」
「……制裁」「制裁され中」
白金さんが背後からワンコさんの胸を揉んでいます。
「公衆の面前で……酷い」
「ちょっとバイトに気合が入りすぎて。揉むには申し訳ない大きさですが、気が済むまでどうぞ」
やっぱりブラックドッグ教官はワンコさんでしたか。
白金さんが嫌がっていなかった時点で何となく想像はついていましたが。
「宇田川さんが来たら止めてください。教育に悪いので」
「はい」「うん」
「おまたせ~」
次の瞬間、残りの三名が入ってきました……普段とは違い機敏な動作で離れる白金さん。
「ワンコ先輩、聞いて! 聞いて! 一昨日と昨日のキャンプでブラックドッグ教官って超カッコイイ人がいたの!」
「ぶっ」「ぶはっ」
湊さんと今井さんが吹き出します。
宇田川さんだけが正体に気付いていないようですね。
「へー、そうなんだ」
「次があったら蛆虫から卒業したいな!」
「うん、きっと大丈夫」
今日も変わらず賑やかなRoselia。
だけど今まで以上の演奏が出来そうな気がします。
だってあの時感じた星の鼓動が、私の胸の中でまだ収まってくれないのだから。
感想、評価、誤字報告などありましたらよろしくお願いします。
次は本編3です。
アンケートにご回答をお願いします。
<備考>
氷川紗夜:雨女返上かと思いきや。
湊友希那:ワンコのブックマークから申し込んだのが事の発端。
今井リサ:胃袋の支配者。
白金燐子:公衆の面前で揉まれて新しい扉が。
宇田川あこ:カッコイイの幅が広い。
ワンコ:仕事中は全力。
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