犬も歩けば棒に当たる 作:政影
「にゃーん(また夢かしら)」
私の発した言葉は猫の鳴き声となって見慣れた私の部屋に響いた。
自分の手を見ると肉球が付いていて爪が出し入れ出来る……まあ猫の手ね。
首を捻れば白い毛並み、まるでユキね。
「夢は抑圧された潜在的な願望」という説もあるけど、まさか猫になる夢を見るとは思わなかったわ。
どうせならサーバルキャットやスナネコを撫でてみたかったけど、具現化するだけの情報量が足りなかったのかしら?
「にゃん?(もしかして、友希那おねえちゃん?)」
トコトコと白い毛並みの猫が近づいてくる。
まあ普通に考えれば。
「にゃん(そうよ。あなたはユキね)」
「にゃにゃ!(うん、おねえちゃん猫になれたんだ!)」
どうやら猫同士意思の疎通は出来るようね。
ユキは嬉しくてたまらないようで私の鼻に鼻をくっ付けてきた。
鼻チュー……まあ普通の挨拶ね。
「にゃ?(何か不便な事は無いかしら?)」
「にゃん(ううん、いつも楽しいよ。……ちょっと撫で過ぎな時もあるけど)」
「にゃー(善処するわ)」
頬を摺り寄せてくるユキ。
飼い主として、姉として、嫌われていなかったことに安堵する。
……まあ夢だけどね。
尻尾同士を巻きつけ合うなんて人間の身体では出来ない行為に少し興奮した。
「にゃあ?(さてこれからどうしようかしら?)」
遊び疲れたユキはベッドの下で寝てしまったので暇になった。
このまま寝てしまえば夢から覚めてしまいそうで勿体無いわね。
コンコンコン!
「失礼します」
「にゃあ(あら、紗夜じゃない)」
「こんにちは、ユキさん」
どうやら私の事をユキと間違えているようね。
猫に造詣が深い私からすれば猫になり切るなんて造作もないことよ。
「ワンコさんに聞いたのですがユキさんは猫が出来ているという事で……撫でてもよろしいですか?」
「にゃん(構わないわ)」
真剣な顔をして何事かと思えば……紗夜のそういう所、嫌いじゃないわ。
私はカーペットの上に正座をしている紗夜の膝の上に乗る。
ふふっ、不思議な感じだわ。
「それでは失礼します」
モフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフ
モフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフ
モフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフ
モフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフ
モフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフ
情け容赦なく全身を弄られた。
逃げようとしても抑え込まれる。
一気呵成、阿鼻叫喚のモフリタイム。
「ふうっ、やはりふわふわした動物は最高ですね!」
「…………にゃ、にゃあ(そ、それは……良かったわ、ね)」
艶々した笑顔の紗夜とぐったりした私。
何回か意識が飛びかけたわ。
あの紗夜がこんなになるなんて……本当に私の夢なのかしら?
「こんにちわ~、モカちゃんで~す」
「にゃあ(ゆきにゃよ)」
私の疑問にはお構いなく紗夜が出ていくと新たな訪問者が。
次にやって来たのは青葉さんのようね。
「え~と……それでは失礼して」
私を優しく抱っこする青葉さん。
捉えどころのない印象に反して抱っこの仕方は完璧。
伊達ににゃーんちゃんがプリントされた服を着ていない、というわけね。
「おー、可愛いですねー」
「にゃあ(ありがとう)」
紗夜とは違い安心して身を任せられそうね。
と、思ったら。
ポタ……ポタ……
「にゃ?(あら?)」
何かが当たる感触に上を見ると青葉さんの目から涙が。
「蘭……置いてっちゃやだよ……」
「にゃ、にゃ!?(どうしたの!?)」
普段の飄々とした彼女からは想像できない悲しげな表情。
「もう一緒に……歩いていけない……のかな」
幼馴染同士気の置けない関係であろう美竹さんとの間に何が……。
いつも私を見守ってくれていたリサだったら何て言うのかしら?
スリスリ
もっとも今の私にできるのは頭を擦りつける事ぐらい。
「……慰めてくれるのー?」
「にゃー(当然でしょ)」
「うん……モカちゃんもう少し頑張れそう」
……先輩として何かしてあげないとね。
「やあ、子猫ちゃん」
「にゃあ(今は正真正銘子猫よ)」
今度は瀬田さんか……正直よく分からない人ね。
「ああ……何という美猫なんだ、儚い!」
「にゃーん?(ありがとう、でいいのよね?)」
「避けることができないものは、抱擁してしまわなければならない。つまり……そういうことさ」
「にゃん!(にゃーんちゃんの可愛さから逃げることが出来ないのならば抱っこするしかない。つまりそういうことね!)」
抱き方も優雅、流石は羽丘のトップスターなだけあるわね。
「……はぁ、ちーちゃんとももっと仲良くできればいいのに」
私の顎の下を撫でながら呟くその表情は酷く苦しげだった。
ちーちゃんって確か白鷺さんの事だったかしら?
それにしても猫相手だとみんな本音をさらけ出すわね。
「花園たえです」
「にゃあ(湊ゆきにゃよ)」
「好きなものはポピパ、香澄、兎、香澄、肉、香澄」
……戸山さんの事を三回言ったわね。
「最近香澄が構ってくれないんだ」
首根っこを掴まれ持ち上げられる。
母猫が子猫を運ぶ時と同じ状態なので体から力が抜け動けなくなる。
「兎って寂しいからって死なないけど、餌を貰えないと死んじゃうんだよ?」
「…………」
目と目が近づく……ハイライトの消えた目で見つめないで欲しいわね。
リサなら確実にお漏らしよ。
「ふふっ、あなたのご主人様はそんな事無さそうで良かったね?」
「…………」
誰か助けて。
「日菜でーす!」
「…………」
先程の恐怖体験で力を使い果たしたので、寝そべったまま尻尾を少しだけ振って挨拶をする。
姉に続いて妹まで激しいスキンシップは勘弁してほしいわね。
「ありゃー、お疲れだね~」
そう言うと優しく撫でてくる。
これなら一安心ね。
「あれ……これっておねーちゃんの匂い」
クンカクンカクンカクンカクンカクンカクンカクンカクンカクンカクンカクンカクンカクンカ
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クンカクンカクンカクンカクンカクンカクンカクンカクンカクンカクンカクンカクンカクンカ
情け容赦なく全身の匂いを嗅がれた。
猫の身体とはいえ大事な部分までは嗅がないでほしい。
ワンコにも嗅がれたことは無いのに……。
「るんっときたよ~♪」
「……にゃあ(もうやだこの姉妹)」
死と隣り合わせの野良猫に比べたら飼い猫は恵まれていると思っていたけれど、大いに認識を改める必要があるわね。
「にゃ~(あ~よく寝ちゃった)」
「……にゃあ(……おはようユキ)」
「にゃ、にゃ!(おねえちゃんがゲッソリしてる!)」
「にゃあ(いい経験になったわ。これから立派な姉を目指すからもう寝かせて)」
「にゃー(それじゃあ寝る前におトイレ行こう)」
「にゃ!?(にゃ!?)」
「にゃん、にゃん(大丈夫だよ、お母さんの代わりに私がお尻を舐めて出やすくするから)」
「にゃあ!(遠慮するわ!)」
「にゃ(おまかせ、だよ)」
「はっ! 元に戻ってる。良かった……本当に良かった」
目を覚ますと見慣れた私の部屋、手を見るとちゃんと人間の手だ。
……お尻に手を当てて確認、大丈夫漏らしてはいない。
ユキもケージの中で大人しく寝ている。
ワンコも私の横で寝息を立てている。
この前のお泊り会といい変な夢を見ることが増えた気がするわね。
とりあえず美竹さん、白鷺さん、戸山さんには後で連絡を取ろう。
頭がおかしいと思われるかもしれないが、何となく行動した方が精神衛生上良い気がするわ。
氷川姉妹に関しては……ふれあえる動物園のペアチケットでもプレゼントしようかしら?
それと絶対にユキと二人っきりにはさせないわ。
感想、評価、誤字報告などありましたらよろしくお願いします。
アンケートにご回答をお願いします。
<備考>
湊友希那:新たな扉を開きかける。
ユキ:皮つまみマッサージが好き。
氷川紗夜:ギターのやべーやつ、このままだと警察沙汰。
青葉モカ:ギターのふつーのやつ、このままだとヤンデレ化。
瀬田薫:ギターのふつーのやつ、このままだとドM化。
花園たえ:ギターのやべーやつ、このままだと警察沙汰。
氷川日菜:ギターのやべーやつ、このままだと週刊誌沙汰。
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