犬も歩けば棒に当たる   作:政影

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困った時の伏兵頼みです。


本編1-2:二階から目薬

 始業式の後、全員の自己紹介が終わると早速席替えが行われた。

 

「縁があるわね」

 

「そうですね」

 

 彼女が廊下側最後列で私がその一つ前の席、日焼けしないので地味に嬉しい。

 

「……この席なら授業中に他のことをしても大丈夫そうね」

 

 不穏な発言を聞いた気がするが聞かなかったことにしよう。

 

 

「へー、友希那ここの席なんだ。あ、ワンコもいる」

 

 廊下側の窓が開いて少し派手な見た目の少女──今井リサ──が身を乗り出す。ああ、やっぱり。

 

「リサ……ワンコって何?」

 

「この子の愛称なんだ」

 

 そう言うとリサさんは私の頭を撫でる。撫でたくなるオーラが出ているとか。

 

「ふーん、お手」

 

「はい」

 

「お座り」

 

「座ってます」

 

「ちんち「友希那、それ駄目!」」

 

 語源はどうあれ湊さんの危ない発言をリサさんが防いだ。

 

「リサさんお久しぶり」

 

「おひさー、この前のテニス部の助っ人ありがとね」

 

「数合わせレベルだけどね」

 

 病人続出で急遽助っ人に呼ばれたものの、相手がミスするまでひたすらボールを返していた記憶しかない。

 

 

「そういえば湊さんとは幼馴染だっけ?」

 

「あー、前に話したね。これでも昔は天使のような「リサうるさい」……悪い子じゃないんで仲良くしてくれたら嬉しいな」

 

 なんだろうこの幼馴染というより保護者のような……。

 

 

「ワンコちゃん、見っけ!」

 

「うぐっ」

 

 いきなり後ろから覆い被さってきたのは氷川日菜……私の天敵だ。

 

「何か用ですか、氷川さん?」

 

「ちょっとー『日菜ちゃん』って呼んでって言ってるでしょ?」

 

 首に回された腕が段々締まってくる。やっぱり苦手だ。

 

「はいはい、日菜ちゃん、日菜ちゃん、首が折れる前に離してね」

 

「それで、よろしい」

 

 満足したようでスッと体が離れる。

 

「昨日、商店街でおねーちゃんが大型犬を連れた子に、お姫様抱っこされたんだけど知らない?」

 

「…………羽沢珈琲店のお客様送迎サービスなら」

 

 昨日の辛そうな表情を思い出して咄嗟に誤魔化す。というかやはり姉妹か。

 

「ふーん、まあいっか。おねーちゃんがお世話になりました」

 

 勢いよくお辞儀するその姿に呆気にとられる。全く行動が読めない。

 それで用が済んだのか氷川──日菜ちゃんは帰って行った。

 

 

「あ、ワンコ先輩進級おめでとうございます」

 

「そっちこそ入学おめでとう」

 

 入れ替わりに話しかけてきたのはバイト絡みで少し付き合いのあるAfterglowの面々。

 わざわざ二年生の階まで来るとは義理堅い。

 

「入学祝のケーキ美味しかったです」

 

「いや少し手伝っただけだし」

 

 なぜか過大評価され気味で面映ゆい。

 今度ライブをやるということでチケットを貰ってしまった。

 

 

 

「人気者ね」

 

「湊さん、顔が怖いんですけど」

 

「そんなことは無いわ」

 

「……次のショートホームルームで今日は終わりですけど、『友希那』さんはどうします?」

 

「!? そ、そうね、今日はライブまで時間があるから一度家に帰るわ……『ユキ』も会いたがってるからワンコも来なさい」

 

 そういえばリサさんの話だとかなり歌が上手いとか。

 昨日今日の印象だと、猫が大好きな少し天邪鬼なお嬢さんにしか見えない。

 

「今失礼なことを考えていなかったかしら?」

 

「いえ、ぜんぜん、これっぽっちも」

 

 

 

「さあ、上がって」

 

「お邪魔します」

 

 家の方は外出中ということでケージに入れられていたユキを友希那さんが抱き上げて二階に向かう。

 友希那さんの部屋はすっきりとしたレイアウトで、部屋の一角に置かれた音響機器や譜面等が目立つくらい。

 

「ベッドにでも座って頂戴」

 

「それでは失礼して」

 

 ベッドに腰を下ろすと包まれるような座り心地……これ、絶対高級なやつだ。

 そんな私に床に降ろされたユキがとてとてと近寄ってきて膝に飛び乗る。

 顎の下を撫でるとゴロゴロと喉を鳴らしてくれる。

 

「ちょっと着替えてくるわね」

 

「にゃーん」

 

 そう言うと友希那さんは着替えを持って部屋を出る。

 バイトまで時間もあるしたっぷりユキでも可愛がるか。

 

 

「ん?」

 

 

 視線を感じてカーテンを全開にするも見えたのは隣の家のベランダ……誰もいない。

 気を取り直して可愛がろう。

 

 

『きゃあっ!』

 

 

 下の階から友希那さんの悲鳴が聞こえたかと思ったら、階段を駆け上がる音、そして下着姿の彼女が抱きついてきた。

 咄嗟のことにユキが潰れないように上に上げたら抱きつかれた勢いでベッドに押し倒される。

 

「どうしたの?」

 

「何か……黒いものが……」

 

「ちょっと待ってて。あと鍵閉めてね」

 

 半泣きの友希那さんに制服の上着を脱いで掛けてやりユキを預けると、鞄から気休めに折り畳み傘を取り出し階下へ向かう。

 

 慎重に一階に下りて耳を澄ますと複数の羽音、扉が半開きになっている部屋から聞こえてくる。

 隙間から覗き込むと暗闇に蝙蝠が……三匹。

 部屋に入ると同時に扉を閉め灯りを付け、窓に駆け寄り全開にする。

 後は部屋のものに被害が出ないように折り畳み傘で慎重に蝙蝠を誘導する。

 三匹とも外に追い出して窓を閉めた頃にはかなり時間が経っていた。

 

 

 

「……ワンコ、大丈夫?」

 

「にゃー」

 

 待ちきれずに下りてきた友希那さん(とユキ)が扉越しに問いかけてきた。

 

「今終わったのでそっち行きますね」

 

 扉を開けると先程と同様に下着姿の上に制服を羽織った格好……服着てよ!

 

 

「ただいま……え?」

 

 最悪のタイミングで家主が帰ってきた模様。

 あ、顔面パンチの流れだ、友希那さんは硬直してるので助けは無い。

 とりあえず左目だけは守らないと。

 

「シャー!」

 

「「「ユキ!?」」」

 

 あわやというタイミングでユキが間に入り男性を威嚇する。

 その行動に友希那さんも我に返りユキの前に出て両手を広げて庇ってくれる。

 

 

「……事情を説明してもらえるかな。それと友希那は早く服を着なさい」

 

 Wユキの行動に冷静さを取り戻した男性は頭を抱えながら声を絞り出すように言った。

 

 

「本当にすまなかった」

 

「全く、お父さんは早とちりなんだから」

 

 今までの経緯と通風孔かどこかが破損して蝙蝠が入ってきたので修繕を勧めたら土下座しそうな勢いで謝られてしまった。

 

「いえ、流石にあの状況は他に判断しようがないですよ」

 

 今日のMVPのユキを撫でながら苦笑する。

 

「友希那さん、時間は大丈夫ですか?」

 

「そうね、ワンコもバイトだったかしら」

 

「はい、では途中まで一緒に行きましょうか」

 

「お詫びといっては何だが車で送ろうか?」

 

「……ワンコはどっちがいい?」

 

「お言葉に甘えた方がいいかと。お互い疲れましたし」

 

「それもそうね」

 

 目と目があい思わず笑ってしまう。全く、散々で愉快な一日だ。

 

 

 

「それでは頑張ってください」

 

「気を付けてな」

 

「……はい」

 

 ライブハウス前で友希那さんを降ろす。この親子も何かしらの問題を抱えてるのか。

 まあ部外者の出る幕は無い筈。

 

「御察しの通り、今友希那とは微妙な状態でね」

 

「はあ」

 

「こんなことを言える義理ではないかもしれないが、出来れば傍にいてあげてほしい」

 

「まあ……好きな人の傍にいたいと思うのは当然のことですので」

 

「うん、頼むよ。あと何か困ったことがあったらここに連絡するといい」

 

 

 

○登録『湊父』

 

 

 

 

「ワンコ先輩、お疲れですね」

 

「ああ、あこちゃんいらっしゃい」

 

 一連の騒動にぐったりしながらコンビニで品出しをしていると、闇の波動がアレな少女──宇田川あこ──が来店。

 そして一緒に入ってきたのは昨日会った神話博士。

 

「……こんばんは」

 

「こんばんは、燐子さん」

 

「あれー、二人とも知り合いなの?」

 

「昨日ちょっと閉鎖空間でバトってね」

 

「……戦友……だよ」

 

「へー、りんりんの戦友認定なんて流石ワンコ先輩」

 

 また謎の評価が、というか名前呼びでも特に嫌な顔はされないか。

 

 

 

「あ、昨日の」

 

 新たな来店者は紗夜さんだった。

 

「いらっしゃいませ、紗夜ちゃん」

 

「……『ちゃん』付けとは唐突ですね」

 

「妹さんの方には強要されたのでつい……紗夜さんの方がいいですか」

 

「そうですね、出来ればそちらの方が。色々と日菜に問いただしましたが、いつもご迷惑をおかけしているようで申し訳ございません」

 

 律儀に頭を下げてくる彼女。恐らく日菜ちゃんが昨日の件を聞こうとして逆に白状させられた流れか。

 

「ちなみに毎回絡んでくる理由は」

 

「『何回も負けてるのに毎回手を抜かずに全力で向かってくるところにるん♪ ってきた!』だそうです」

 

「……酷い」「頭きた!」

 

 何故か話に加わっている、りんあこコンビは怒り心頭の模様。

 

「代わりに怒ってくれてありがとう。多分、彼女的には褒め言葉のつもりだと思う」

 

 二人の頭に手を置き軽くなだめる。 

 

「薄々感じてましたけど、彼女からしてみれば退屈でしょうがないんでしょうね。事実、羽丘の二年でまともに張り合える生徒なんていませんし」

 

「私も……双子の姉なのに何一つ敵わなくて……」

 

「いやいや、別に紗夜さんを責めているわけでは」

 

「それでも姉として妹の事は何とかしなくてはいけないのに、向き合えず逃げてしまって……」

 

「姉妹だからって、向き合わなきゃいけないんですか?」

 

「…………」

 

 一向に紗夜さんの表情は晴れない。

 流石にこれ以上言葉を重ねても駄目か、昨日会ったばかりの人間の言葉なんて。

 

「……学校で見る……紗夜さんは……いつも真面目で、一生懸命で……私の……憧れです……」

 

 燐子さんが紗夜さんの手を取ると優しく包み込む。

 

「自分を……卑下しないで……ください」

 

「白金さん……」

 

「あ、あこも妹だから分かるんですけど、お姉ちゃんは特別なんです! そこにいるだけで嬉しいんです!」

 

 あこちゃんもその小さな手を重ねる。

 

「まあ紗夜さん次第ですが……諦めずに追いかけてもいいし、逆に全力で逃げてもいいんじゃないですか? 傷心旅行なら喜んで付き合いますよ、一泊二日の温泉旅行」

 

 ちょっとおどけながらも私も手を重ねる。

 

「あこも行きたい!」

 

「わたしも……」

 

「……その時は旅館の手配をしますね」

 

 三者三様、正解かどうかは分からないけど、各々の思いを言葉にしてみたらしっくりした気がする。

 まあ私の発言が一番後ろ向きっぽいけどね。負け犬上等、命あっての物種。

 

 

 

「それにしても同じクラスの白金さんとの初めての会話が、コンビニとは予想していませんでした」

 

「わたしも……です……」

 

「へー、りんりんと紗夜さん同じクラスなんだ。背負ってるのってギターケースですよね?」

 

「ええ、自主練の帰りです」

 

「……今度一緒にライブ見に行きませんか、超カッコイイ友希那の!」




感想、評価、誤字報告などありましたらよろしくお願いします。


<備考>

ワンコ:授業は真面目に受ける。

湊友希那:授業中は作詞・作曲に励む。

今井リサ:授業はそこそこ真面目に受け、たまに幼馴染の事を考える。

氷川日菜:授業中も姉の事を考えている。

氷川紗夜:授業は真面目に受ける。

番外編2で扱ってほしいバンドは?

  • Roselia
  • Afterglow
  • Poppin'Party
  • Pastel*Palettes
  • ハロー、ハッピーワールド!
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